第十二話 ダンジョン探索 その2
「そっちに行ったぞっ!」
「了解っ!」
信也の声にこたえて、バールを振るう。
鉄の塊が、ぐしゃっと小鬼の頭骨を砕く感触が手に伝わる。
そのまま降りぬいて、背後から迫る小鬼を威嚇する。
俺のバールから逃れようと後退ったところに、遠方から放たれた鉄の塊が小鬼の頭を貫き、その場に倒れる。
「ふぅ、信也ご苦労さん。」
「いや、兄弟も中々やるようになったな。」
「まぁ、コレだけやっていればな。」
俺達はそんな会話をしながら、小鬼……ゴブリン達が消滅するのを待つ。
それ程待つこともなく、ゴブリンたちは光の粒子となって消え、後には魔石と呼ばれる小さな石が残される。
そして、稀に魔石以外のモノが残る時もある……それが「ドロップ品」だ。
当初、俺がたてた「ゴブリンやコボルトから装備品を奪って武装を強化しよう」作戦は、半分は失敗に終わっている。
というのも、ゴブリンや、コボルトの装備は、倒してしまうと、死体と一緒に光の粒子となって消えるのだ。
これは、倒す前に取り上げても一緒で、その持ち主が消滅すると同時に、装備も消滅してしまう。
唯一の例外は、「ドロップ品」として遺した場合。
この場合は、ちゃんとしたアイテムとして残るので消えてなくなる事はないが、魔物が使用していた時と仕様が変わる場合が多く、魔物が使用している時は、魔法もバンバン打ってきて「すげえ武器だ」と思ったのが、ドロップした時はただの鉄の剣になっていたりすることも多々ある。
そして、武具などのドロップ品は大抵がレアドロップなので、中々手に入らない。
かすみにわたした「くさないだぁー」も、名前こそふざけているが、A級のレアドロップ品だったりする。
つまり、ただ単にゴブリンを倒しても、武具が手に入るわけじゃないってことだ。
俺達が校舎を出て、探索を始めてから2週間が過ぎた。
俺達は、朝校舎を出て、夕方まで行けるところまで探索し、校舎へ戻る、という事を繰り返す、少しづつ探索範囲を拡げているところだ。
屠った魔物の数は千を超えたが武具のドロップは数えるほどしかない。
だから今の俺達の装備はこんな感じだ。
宮部かすみ ウェポンマスター
右手:ゴブリンジェネラルの長剣(打撃力アップ・耐久力減)
左手:くさないだぁー(植物特攻)
服 :セーラー服(紙・コスプレ部謹製)
宮部芽衣子 テイマー
右手:鞭(購買部購入品:特殊効果なし)
服 :ゴスロリメイド服(コスプレ部謹製)
風間信也 斥候
右手:モデルガン ワルサーP38
サブアーム:サバイバルナイフ(購買部購入品:特殊効果なし)
服 :学園公式制服
葛城美也子 ヒーラー
両手:ゴブリンシャーマンの杖(蓄積魔力増幅・必要魔力軽減)
服 :ロリータ魔女っ娘ドレス(コスプレ部謹製)
椚木彼方 ポーター
右手:バール(工作室拾い物)
サブアーム:ゴブリンナイフ(毒)
服 :レザージャケット(私物)
……うん、色々ツッコミどころが多いのは分かる。
何故購買に「鞭」が売っているのか?とか、かすみが紙製のセーラ服を着ているのか?とか……。
本人の趣味嗜好には口を挟まない、というのが最近の俺たちの間での暗黙の了解になりつつあるが……宮部姉妹には色々問題がありそうな気がする。
ま、それはいいとして、俺たちは今、重大な決断を強いられていた。
それは、校舎を出るか否かである。
現在のように、夜校舎に戻ってくるスタイルでは、これ以上探索範囲が拡げられない。
探索範囲を拡げるなら、校舎から出て野営をすることも考慮しなければならない。
しかしながら、この校舎という、安全かつ利便性の高い拠点を放棄するにはかなりの勇気が必要となる。
学園は元々、政府の避難対策のモデルケースとして作られたモノであり、校舎が一種のシェルターの役割を担っている……らしい。
これは校長室で見つけた資料で知ったことだが、ソーラ、風力、水力を使用した発電システムと、日本最大級の蓄電システム、数八個の単位で補完してあるプロパンガス、独自の浄化システムによる、上下水のリサイクルと飲料水の確保、地下倉庫に収められた非常保存食に屋上の家庭菜園などなど、校舎に閉じ込められた場合でも、300人が1年は生きていけるようになっているという。
現在、そのおかげで俺達は多少の不便さを感じる程度でストレスなく生活が出来ている。
もし、この校舎がなければ、ストレス過多でどうにかなっていたかもしれない。
その環境を捨ててまで探索する必要があるのか?……という所に行きつく。
俺達5人であれば、電気に関しては不安が残るものの、それ以外は3~4年は余裕で暮らしていけるだろう。
ここで大人しくしていて、助けが来るのを待つ、というのも一つの手かもしれない。
しかし、ここはダンジョンの中、という事は明白になった。
ダンジョンがどのようなものかは誰も知らない。
そんな中で、果たして無事にいられるのだろうか?
シェルターと言えば聞こえがいいが、万が一魔物が攻め込んで来たら逃げ場がないも同然だ。
立ち行き行かなくなる前に、脱出路を見つけるのは必然だと思う。
どちらの意見にも理があり否があるため、決め切らないのは仕方がない事だった。
「なぁ、一層の事、兄弟の収納で校舎を持ち運べばいいんじゃね?」
「アホかっ!」
思わず反射的に言ってしまったが、冷静になって考えれば、それもありかもしれない。
俺達は翌朝校舎を出ると試してみることにした。
「じゃぁ、やるぞ……「収納」」
校舎全体を包み込むイメージで、収納を発動する。
大事なのは「出来る」というイメージ……。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
みんな唖然としてしまう。
目の前に荒野が広がったから……。
「なぁ、兄弟。」
「なんだ?」
「収納……出来たのか?」
「あぁ……出来たみたいだ。」
「なぁ……兄弟の力が、一番やべぇんじゃないか?」
「いや、離れたところからでも、覗きや盗聴できるお前の能力の方がヤバイ。」
「言い方っ!」
信也と、くだらない会話をしているのは、俺自身ショックを受けていたせいだ。
まさか、校舎が丸ごと収納できるとは、普通思わないだろ?
しかも、土地に穴が開いているところを見ると、地下室迄もだ。
取りあえず、校舎を戻して、家政科室へ戻る。
うん、落ち着く時間が必要だ。
かすみが入れてくれたお茶を飲み、ほっと一息つくと……
「あー、うん、これで探索範囲が広がるね。」
美也子が棒読み口調でそう告げるのだった。
結局、その日は思い思いに寛ぐことにし、探索の続きは明日にすることにした。
次回予告!
タイトル回収回ですっ!……多分。
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