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テンプーレ  作者: ポメヨーク
7/27

パーティー結成

「それでは、今後の流れなんですが、要点だけ言ってきますね」


 ピアは小躍りするほど喜んでいる。それもそのはず、俺と専属契約を結んだからだ。

 なぜ契約したかというと、理由は至極(しごく)簡単だった。テンプレ現象にうとい俺に、今後発生しうるイベントに対して、その都度(つど)適切なアドバイスをする。との条件を提示してきたからだ。

 それでも俺は迷っていた。なにせ情報提供するのが──こいつ、だからだ。だが、ピアは追い打ちをかけるように、ぼそりと言った。


 彼女曰く、この先もくだらないテンプレが目白押し。なのだそうだ。それはギルド内ではもちろん、外に出ても、しばしば起こりうるらしい、それを極力回避できるように、立ち回ってくれるとか。


 彼女がしつこかったのもあり、つい契約してしまった。そんな俺に、ピアは歯を見せて笑う、勝ち誇った顔で。つまりは俺がピアの脅しに屈してしまった……そんなふうに彼女は認識しているだろう。が、もちろん人生そんなに甘くないぞ。

 俺は今後回避できそうもない面倒事に遭遇したら、迷わずテンプレの渦中へと、この女を放り込み、俺だけが幸せの道へと進んでいく。そのための保険だ。


 しかしながら、彼女からはあまり期待はするなと言われた。俺もそう思う。

 何故かって? 隣にテンプレ大好き君がいるのが、大きな原因だからだ。

 

「あの、まだ諦めてないんですか? 私は契約解消しませんからね」


「ああ大丈夫だ。それよりも説明を続けてくれ」


 こくりとうなずき、ピアは話を続けた。


「先ほど少しだけ触れた、等級プレートの件なんですが、ギルドが貸与しなくなった理由、サティアさんには分かりますか?」

 

「いや、わからん」


 もっと言えば、興味もなかったが。


「幅を利かせる冒険者が鬱陶しかったのもありますが、新人いびりをした高ランク者が、新人冒険者に敗北したのが原因ですね」


「新人いびりかよ。そんなもん黙認すんな」


「そうですね、おっしゃる通りです。しかし新人いびりはテンプレ……今でも伝統として脈絡と受け継がれています」


 ピアはあからさまに視線を逸らし、早口で言いきった。


「そんなもん廃れさせろよ」


 ぼやくように言ってみたが。


「知りませんよ。私には関係ありませんから」


 ピアに冷たくあしらわれた。


「まあいいさ。だけど組織の仕組みを変えるほどのことか? 弱い奴のランクを落として、終わりにすればいいだけのようなきもするが」


「まあそうなんですが、そうもいかなかったんですよね。なにせ依頼主に目撃されちゃったもんですから、高い金払って雇った高ランク冒険者が、新人冒険者に敗れるなんて、ランク付けの基準がおかしいんじゃないかと、怒鳴り込んで来まして、ほんとあの時は大変でしたよ」


「かぎりなく真っ当な意見だと思うがな」


「いえそうじゃなくて、片田舎のギルドの失態が、世界に波及してしまった事ですよ。危うく取り潰しになるところでしたもん」


 呆れを通り越して、うんざりしてくる。


「まっ、そういう事ですから、一目瞭然(いちもくりょうぜん)の等級プレートは廃止になったんですよ。ですが等級自体をなくしたわけではありません、こちらで記録はつけております。ですから昇格したときはヨイショしますし、お馬鹿なあなたが忘れてしまった場合でも、お聞きくだされば、嘲笑って教えてあげますからね」


 いちいち突っ張っていないと、話せれないのだろうか? それとも冒険者に恨みでもあるのか? そんなことをぼんやりと考えていたら、ピアはあとを続けてきた。


「本日記入したサティアさんの申請書を、ギルド本部へと郵送し、承認されると許可証が発行されます──通称ギルパスと呼ばれるものなんですが、それが届くまでの数ヶ月間は、仮証で活動してもらいます。そしてこの数ヶ月間が、サティアさんの評価期間にもなりますので」


 また聞き慣れない単語がでてきたな。ピアも分かっているのだろう、斜めに構えて、俺をうかがっている。


「ギルパスってのはなんだ?」


「冒険者ギルド員の証明書です。首からぶら下げるプレート仕様になっています。このプレートには個人情報が彫られていまして、道ばたでくたばっている者が冒険者であれば、プレートを見るだけで所属が判るようになっております。依頼途中で仲間が死亡した場合は、必ずプレートだけは持ち帰ってもらいます。でないと死亡手続きができませんので」


 ピアは人さし指を立てて、ギルドをアピールするように、付け足してきた。


「ほかにも他国への入出国手続きが簡略化されます。プレートを見せるだけで、通れるようになるんですよ、これは凄いですよね。まあ凄いと言えば馬鹿どももなんですけどね、なにせ自分達は顔パスだって、いきり喜んでいますから」


 ほかにもいろいろと特典を言ってきたが、仮証の期間中は他国に行くのはおろか、自国内でもシャルウィル支部以外で、依頼を受けることはできないみたいだ。

 つまるところ、数ヶ月間はこの街に釘付けとなる。


「評価期間ってのは、なんだ?」


「新規登録された方のランクを決定するための期間です、私がサティアさんに同行して、冒険者としての資質を見極めます。資質と言いましても、単純な強さや、機転が利くお利口さんなのかとか、あとは素行や達成した依頼の難易度など、それらを総合してランクを決定します。と言っても、チェックシートに記入していくだけですけど」


「つまり、最初っから高ランク冒険者にもなれると?」


「はいそうです。新規登録者の方が弱いとは限りませんからね。その人に相応しいランク付をして、それに見合った依頼をこなしていただきたいですから、決して、新人に敗れた、いきり勘違い野郎のせいではないですよ」


 にっこり笑って、ピアは話を締めくくった。冒険者を貶めるときは、やけにいきいきと快活になるのは、やめてもらいたいが、それが彼女なのだろうと、割り切るしかないな。


「……そうか。とにかく俺からの質問は終わりだ」


 ──と、話し終えたところで、タイミングよく、用紙に書き込んでいたアリベルトの手が止まった。顔を上げて、威勢よく声を上げる。


「ピアさん、書き終わりました。これでお願いします」


「はい、分かりました」


 ピアは書類を受け取ると、ほとんど見ることもなく、俺の申請書と一緒にファイルに綴じた。


「サティアさん、冒険者パーティーの名前とは、そのチームに所属する人達の特色を、色濃く反映したものなのです。いわば二つ名のようなもの、私は人生最高の名前を思いつくことができました。……いえ、人生そのものと呼んでも、過言ではありません。もちろん我々のです」


 俺に向けてくる瞳は真剣そのものだ。気のせいか、涙ぐんですら見える。


「どんなパーティー名にしたんだよ?」


 俺が聞くと、嬉しそうにアリベルトが答えてくれた。


「テンプレ満喫クラブです」


「不採用だ!」


「そうは言いましても、サティアさんがリーダーですと、この名称がぴったしなんですよ。もう1つ、最後まで迷った候補があるのですが、そちらにすると、私がリーダーになってしまいますので」


 珍しくうろたえた様子で、アリベルトは肩を揺すってきた。


「いちおうは聞いておくが、どんな名前だったんだ?」


「それはもちろん、ゴットファイター7人の使徒ですよ」


 胸を張って言い切るアリベルトからは、迷いは感じられなかった。


「もちろんと言われてもな、同意できん。だいたい7人もいないだろうが」


「テンプレの味方人数の上限値は7人ですよ。それにこれだけいれば、ハーレム完成じゃないですか」


「あんたがいる時点で、不成立なんだが」


 俺の指摘に、アリベルトが肩をすくめて、やれやれと首を振った。


「ゴットファイターで登録してしまうと、私がリーダーになってしまいます。そう言いましたね? ですから、ハーレム要員をかこった時点で、サティアさんは追放の道を辿ることになるのです。未来が分かっていては、パーティーを組む意味がありますまい」


「言ってくれるじゃねーか!」


 追放という単語に過剰反応してしまったが、よくよく考えてみたら、そっちのほうが俺にとっては都合が良いのかもしれない。適当に仲間を募って、早々にパーティーを抜けて、ひとりになればいいのか……

 自分の考えが顔に出ていたのか、即座にアリベルトが釘を刺してきた。


「それにもう申請書は出してしまったので、取り消しはできませんよ」


「面倒くさいので、これで受理します」


 俺が口をはさむ前に、ピアが割り込んできた。


「そんな名前が通るのかよ」


「サティアさんの気持ちも分かりますよ。私だって呼び出しするときは、この名前を叫ばなきゃいけませんから、ですが、パーティー名はよほど卑猥な言葉が入っていなければ、問題なく通りますので、まあ、なくても問題ありませんが」


「なくてもいいなら、消しといてくれよ」


「いいじゃないですか、こっちのほうが笑いが取れて、それにまだマシなほうかもしれませんよ。不死鳥のように蘇る俺。って名付けた、ソロの人もいましたし」


「ソロでパーティー名を付けたんかよ、何でもありだな」


「ええ、ギルドはふところが深いのです。たとえボッチだろうと、名称は付けられます。そうして寄り添う姿勢を見せないと、孤独死するノミ野郎も出できますので」


 返す言葉がみつからず、あんぐりしていたら、アリベルトが会話に入ってきた。


「ところで、その御方は蘇ったのでしょうか?」


 なんでそんなくだらん事を、真剣に聞けるのだろうか? 俺は頭を抱えながら、ピアへと視線を戻した。


「さあ? そこまでは知らないです。なにせ帰還しなかったもので」


 ピアは適当に聞き流しながら、受け答えた。足もとの引き出しから分厚いファイルを取り出すと、カウンターの上に、どんっと落とすように置く。


「つまり我々は、歴史の一端を垣間見ることができるのですね。サティアさん行きましょう、不死鳥が蘇る場所など、かぎられています」


「なんでそんなに皮肉れるんだ?」


「待ちやがれ! アホだら神官。行方不明者の捜索よりも、己らの依頼の受注を済ませんかっ」


 ピアは怒声を上げると、立ち上がりかけたアリベルトの服を引っ張り、席へと落ち着かせた。


「むう、確かにそうですね」


「俺が受けられる依頼の難易度は、どこまでなんだ?」


「紛いなりにもミスリルランクの人がいますので、高難易度の依頼も受けられます──けど、私もついていくんですよ? 忘れないでくださいね」


 身を乗りだすほど前傾姿勢になり、ピアが念を押してくる。


「サティアさん、私が選んでもいいですか? 冒険者をやっておりましたので、依頼の見極めは得意ですよ」


 言われてみれば、なにを選べばいいのか俺には検討もつかない。軽くうなずいて、アリベルトに同意の視線を送る。

 ピアから分厚いファイルを受け取ると、アリベルトは慣れた手つきで、ぺらぺらとページをめくっていく。


「ピアさん。この依頼を受けますので、手続きをお願いします」


 アリベルトは1分ほどで決めてしまった。


「なににしたんだ?」


「まずはやはりテンプレ通り、ゴブリンの討伐からですよ。誰かの護衛依頼を受けるよりは簡単です。巣を壊滅させればいいだけですから」


「ゴブリンか、テンプレの意味は分からんが、初めての依頼を受けるには、丁度いい相手かもな」


「……これを受けるんですか?」


 何故か青い顔をして、ピアは身震いしていた。


「ゴブリンは集団で襲ってくる魔物だが、あいつら相手に後れを取ったりしないから、安心しろよ」


「いちおうゴブリンの習性は知っているんですね。そこは安心しましたが、この依頼は、そういう問題じゃないんですよ」


 よく分からずに首を傾げていると、ピアは依頼書を見せてくれた。


「巣ではなくて、古代遺跡を占拠して、すでにコロニーと化してるんですよ。推定1万5千匹とかなり大規模なものです。そのため近隣の村は3つほど、滅びました。今までに討伐も3回失敗していますし、今月中に討伐できなければ、国軍が動く予定なので、私達がわざわざ行かなくても、いいんじゃないですか?」


「だからこそですよ! 新人冒険者が偉業を成し遂げて、注目を集める。まさに正真正銘、伝統と格式のテンプレです」


 こいつのテンプレなど、どうでもよかったが、依頼書に書かれていた報酬額が魅力的だったので、断わる理由はない。金はいくらあっても、邪魔にはならないからな。


「まあ骨が折れるのは確かだが、大丈夫だろ。1日もあれば片付けられる」


「なんでそんなにあっさりと言えるんですか? 雑魚でも数がそろえば脅威ですよ。2人だけで太刀打ちできないと思いますが」


「久しぶりの冒険者活動。しかも最初からゴブリン遊びができるとは、思いませんでしたよ」


 こいつはピアの話など聞いちゃいなかった。それは俺も同じなのだが、なんにしろアリベルトは、子供の遊びを説明するかのように、笑いながら口を開いた。


「それにこれだけいれば、サティアさんにゴブリンとの正しい遊び方を、お教えできますしね」


 少年のような瞳で、俺に語りかけてくるこいつからは、責任感というものが感じられん。


「仕事として行くんだよな? 遊びに行くような言い方はやめてくれ、俺まで精神障害者と思われる」


「人の話を聞かないふたりには、何を言っても無駄ですね。まあ、いって後悔すればいいですよ」


 投げやりに言うと、ピアは書類に判子を押した。

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