その後
シャルウィルの中心街にはまったく無かった公園も、南地区へと赴けば、その公園の多さに驚かされる。
南地区一帯に点在している公園の中には、造成された丘が存在していて、見晴らし台と呼ぶほど高くはないが、近辺の民家の屋根が低いこともあり、街の外の平原、さらにはその先の国境線となる、川まで見渡すことができた。
いちおうは国境を意識したのであろう、それらの公園は、丘の高さも園内の広さも、規模は同じぐらいに造られていて、公園の位置関係も、視界を遮らない配置となっていた。
つまり丘の上でなにかしらの方法を用いれば、地区全域で合図を送り合うことができる。
俺は丘の上に設置された、周囲を見渡せるベンチへと腰掛けた。
注意深く観察しなければ、公園など景観に溶け込んでおり、それほど物々しい気配は感じられない。
それもそのはず、あの川向こうにあるのはセアランド王国。交易が盛んな国のひとつでもあり、歴史的にみても、友好関係を築いてきた国でもある。
この街に城壁がなく、要塞めいていないのも、そういった大人の配慮なのだろう。
依頼をこなしてからの5日間、ずっと待機状態だったので、シャルウィルの街を見て回っていた。これはそんな中で見つけた、小さな発見だった。
「あー。やっとギルドからの呼び出しがあったな。ピアが明日は朝から来いって言ってたっけ」
帰還して直ぐに報酬が貰えると思っていたが、そうではなかった。
追い出されるようにギルドを後にして、それからの5日間は暇をもて遊ぶ、この有様だ。
報酬は金塊50キロだったので、用意するのに手間取っていたのだろう……と、思うことにしている。
「どっちにしろ、明日になれば分かるか」
空を見上げる。
時刻は正午を過ぎたあたりか。周囲に人影はない、ほかの公園の利用頻度はそこそこにあったが、この公園は中央区と南地区の境界線付近にあり、なによりもギルドからほど近いためか、利用する人は皆無といっていい。
「ギルドのグラウンドから、爆音が響くのがいけないんだろうな」
しかし今は人が居ないほうが、都合がよくて助かる。
「この時間帯なら使っていないと思うが、どうだろうか」
マジックバッグから、目的の物を引っ張り出す。案の定、手で掴むことができた。
ずるずると鞄から取り出したのは、見た目はただのロングソード。華美な装飾など一切無く、唯一あるのが、柄の上、ガードの中央部分にはめ込まれた、白色の魔光石だった。
普段から淡く発光している魔光石は、今は暗く灰色がかっている。
「……気絶してるのか? おい! 起きろエミル。ちょっと聞きたいことがあるんだよ」
ガチャガチャと上下に振ってみる。
「ん、んあ? おおサティアか。助けにきた……訳ねーわな。なんだ裏切り者」
「まだ根に持ってんのか? しかたがないだろう。ロマーナ姫を助けるためには、あの魔女に身売りする以外に方法が無かったんだからよ」
「身売りっつーのは自分を売ることだ。人を売り飛ばすんじゃない!」
「わかった。なら貸し出したんだ」
「おいコラァ! 俺は人間だ。物じゃないぞ」
姿かたちが剣なんだから、物だろうが。
「半年間なんだから我慢してくれよ。それよりも気絶してるなんて、ユリから毎日なにされてるんだ?」
俺の質問になにかを思い出したのか、カタカタと刀身が震えだした。
「魔法による火あぶり、水責め、電気ショック、なんでもごされだ。補助魔法やエンチャントなんかも掛けられた。なんでも耐性や伝導性なんかを調べてるんだとさ」
「そうか。それはすまなかった」
「そん中でも魔力を送り込まれるのが、苦しいのなんのって、人の魔力は不純物が多くて不味いったらありゃしない。そもそも魔素しか受けつけないって言っても、あの女は聞きやしねーし」
「だから魔女なんだよ。それよりもいつものおちゃらけはどこいったよ」
「うるせぇ。こんな毎日じゃあ、酔いも覚めるってもんだ」
酔った状態ってのも不思議ではあるが、剣がぺらぺら喋ってるのは、もっと不可思議ではある。だからこそ人がいない場所を選ばなきゃならないんだが。
「なあ。このあいだお前の仲間に会ったぞ」
「バカ言え、俺に仲間なんていねぇーよ」
「やっぱり戦うことしか脳のない、脳筋単細胞には、昔のことなんて覚えていられないか」
「……聞きたいことってのは、それかよ。どこでそんな悪口を覚えてきた」
なんだ、ちゃんと聞こえてたんじゃねーか。
「王冠が言っていた。本人は支配者と名乗っていたっけか、そいつに覚えはないか?」
剣についた魔光石が明滅する。これは思考を巡らせてるのだろうか?
「ああ、あいつか。お前からしたら雑魚だったろ。それでどうした、とどめは刺したんだろうな?」
「破壊した。でもよかったのか?」
「それでいい。あの能力は危険だ。あんな奴はいないほうが世のためなんだよ」
「んで、そいつからは裏切り者と罵られたぞ」
エミルが鼻で笑う。
「裏切ったのは向こうなんだけどな、だから俺達が派遣されたんだ。だけどナディアは壊さずに地面に埋めたんだよ。こっちのほうが屈辱的だろうってよ」
ナディアってのはエミルのパートナーで、ふたりは俺の祖先にあたるんだが、こんなのがうちの家系の最初の人物と思うと……。
「サティア。お前いままでとんと聞いてこなかったのに、今日は根掘り葉掘り聞いてくるじゃねーか。どんな心境の変化だ? ええ、おい。裏切り者!」
裏切り者を強調しやがって。
「人間とか魔族ってのはどういう事だ? 魔力のある無しに関係があるような言いぶりだったが」
「そのまんまだ。お前みたいな魔力のない奴が人間で、魔力のある奴が魔族だ」
「当時はふたつの種族がいたってことか?」
「違うさ。もともとは同じ人間だ。人体実験の末に、人類がようやくにして獲得したのが魔力であり、魔法だった」
「人体実験までしてたのか、なんでそこまでする必要があるんだよ」
「お前なぁ。魔物や魔獣があつかう、わけのわからん魔法なんぞに、人間が太刀打ちできると思ってんのか?」
俺はすくっと立ち上がり、空に向かって斬撃を飛ばそうと、柄を強く握りしめた。
「まてまてまてっ。はやまるなベイビー。いいから落ち着け、そして座れ」
言われたとおり、また腰を下ろす。
「確かにお前のような逸材ってのは、いつの時代にもいたさ。俺の時代にだっていた。だけどそいつらだけじゃ種の保存まではできんだろ」
「まあ、それはそうだが」
「いいか。俺たちの時代、人類の生存圏は魔物によって脅かされていた。人間が生存競争に勝つには、奴らが使う魔法が必要不可欠だったんだよ」
「それで人体実験か」
「そうだ。それで生まれたのが魔力持ちの人間。魔法をあつかう、魔族ってわけだ」
「魔族と呼ぶ理由はなんだよ」
エミルが一瞬、言葉をためらった。
「魔法を行使するようになってから、人類は急速に生存域を広げていってな、魔獣すらも駆逐し始める頃には、人類の基盤は出来上がっていたんだ。んで、その後に起こることはなんだと思う?」
「人間同士の戦争か」
「そういうことだ」
「それでどうなったんだよ」
「そんなもん俺達が負けて、魔族が勝ったさ。ちなみに魔族ってのは蔑称だ。魔力を手にして狂犬的になった奴らのな」
「なんとも皮肉なはなしだな。人体実験までして手に入れた力を、平和ではなくて支配するために使うなんてよ」
「力を手に入れたら使いたくなるのが人間だ。支配することに支配されていた、あの王冠野郎だってそうだ。あん時の権力者や能力者は、だいたいが狂ってた」
「戦争だろ。止めることは出来なかったのか?」
「んーなんだ。ただの一般人からしたら、支配者層が変わったに過ぎなかったさ。それに魔力を手に入れた奴らが全員、野心を抱いたわけじゃねーしよ」
そうだったのか。
「……あれ? 魔法ってみんな使えるよな。そん時の支配階級の奴らってのは、そんな簡単に負けちまったのか?」
「遺伝するようになったのは、かなりあとの時代からだ。当初は一世一代の大勝負なんて言われてた」
「なんだよ。その博打みたいな言いかたは」
「博打なんだよ。魔力に適合しない奴は死に、適合した奴だけが栄光を手にする」
「どうやって魔力を得ていたんだ?」
「知らん」
「どうして知らねーんだよ! お前は当時の生き証人だろうがっ」
思わず叫んでしまった。周囲に人がいなくて、ほんと助かる。
「俺は科学者じゃない。ただの一般兵士だ。まあ噂だと、魔石から魔力を抽出して、それを人体に打ち込んでいた。そんな話だったな」
「だとしてもだ。知識が無さすぎだろ。そんな重大な出来事だったら、普通は嫌でも情報が入ってくるもんだろうが」
魔光石の光が高速で明滅する。
「なら聞くが、先代の国王の名前はなんだ?」
……ふむ。
「確かに興味のないことは、覚えていられないな。うん」
「いや、お前。先代の名前ぐらいは覚えとけよ」
「うるせぇ。……エミルはどうして剣の姿に変わったんだ。王冠だの剣だのは、魔力とはまた別の話だよな」
「ん。ナディアが飯を奢ってくれるって言うから、酔いつぶれるまで酒を飲んでな。んで翌朝、目が覚めたらこうなってた──ぐすん」
「分かった。話したくないんなら、俺も無理には聞かねえよ」
「それは助かる。俺も昔語りは嫌いでね」
たく。こいつは。
「なあ、それよりもよ。このままばっくれちまおうぜ。その鞄さえ捨てちまえば、あの女も追っかけて来れなくなるだろ?」
「無駄だ。ユリだったら地の果てまでも追いかけて来るぞ」
「そこは任せろ。俺だって時折は表の世界に出ては、世界中を旅してたんだ。隠れ家のひとつやふたつ持ってんだぜ」
「前回流通したのが600年前だったか? そこが残ってればいいな」
「流通いうなやっ!」
魔光石が赤く明滅した。これは初めて見る現象だな。
「なあ頼むぜサティア。俺を早くシャバに出してくれ。あそこは地獄だ、このままじゃ本当に死んじまうよ」
「なら最後に、古代人が使ってた精霊術ってのはなんだ?」
「精霊術? う~ん。精霊術か」
ちかちかと魔光石が、ゆっくりと明滅している。
「俺の時代では聞いたことないな。おおかた時の為政者の都合で作られた言葉が定着したんだろうよ。歴史なんてそんなもんだ。それこそ人間と魔族、魔法が使える使えないで混沌とした時代もあったわけだし、魔女狩りや人間狩りがいい例だ。サティア、お前聞いたことないだろ?」
「それは聞いたことはないな」
家庭教師から受けた座学でも、そんな歴史は聞かされていない。
「よし、話しは終わったな。そんな物騒な鞄はとっとと捨てて、新しい冒険に行こうぜ」
「だれも行くとは言っていないだろ」
するとその時、バッと、鞄から白い腕が伸びてきて、剣の柄をつかんだ。
「ひっ!」
エミルの短い悲鳴が聞こえたが、俺は気にせずに、そっと握っていた柄を放した。
「イヤだ、イヤだ、イヤだぁぁぁぁ!」
エミルはずるずると鞄の中に引きずり込まれて、消えていった。
ユリの空間魔法で作った鞄ならではの芸当だ。彼女だけが一方的に干渉することができる。
「あと5ヶ月の辛抱だ。エミル頑張れよ」
とりあえずエールだけは送っておいた。本人には聞こえてはいないだろうが。
そして翌日。
俺はギルドの中のいつもの席に座った。ピアと対面するように。
ピアの服装は普段の制服ではなくて、遺跡に向かったときと同じ、探検家の格好をしている。そこは不思議ではあるが、ピアの様子を伺うに、あまり刺激しないほうがいいだろう。
「えっーと」
ピアはカウンターの上に頬杖をついて、冷淡な目でこちらを見ている。左の人差し指で、銅貨1枚をごりごりと前後に転がしながら。
「その銅貨は?」
返事はない。かわりにびたんと銅貨をカウンターの上に押さえつけた。
「いやー。嬉しいですね」
アルベルトは俺の横に座っている。なにやら嬉しそうに、鮮やかに発光する石で作られたペンダントを手にしていた。それはいったん無視して、ピアへと視線を戻す。
「今回の報酬はどうなったのかなーって。……まだ早かったか?」
無言のまま、ピンっと銅貨を指で弾いて、こちらに滑らしてきた。
「……。コーヒーでも奢ってくれるのか? たんないけど」
「今回の報酬ですよ」
素っ気なく答えてきた。
「まったく足りないんじゃないのか?」
「ふたりとも清々しいほど遺跡を破壊してくれましたからね。報酬は賠償金に充てました」
「でも、ピアだって」
「はあ?」
「いや、なんでもない。続けてくれ」
ピアの気迫に押され、俺は身を引いた。
「それでも少し足りなかったので、あなたの馬を売りました。それで残った残金が、その銅貨1枚ってわけです」
「俺の馬を売ったのか!?」
「売りましたよ。それがなにか?」
「……いや。手間をかけさせたな」
どうりでギルドに併設された馬小屋に、俺の馬がいなかったわけだ。
「言っておきますけど、国と交渉して、かな~り、賠償金は減額してもらってますからね。本来なら借金漬けですよ。もっと感謝しなさいよ」
「分かった感謝する。ところでアリベルトが持っているペンダントはなんだ?」
「減額する条件に、あなた達のような問題児は、ギルドで飼い殺しにしろと言われましてね。それであなた方に授与されることになったんです」
ぱちぱちぱちと乾いた声で、ピアが小さな拍手を送ってくると、アリベルトと同じペンダントを手渡してきた。
「それはオーロラ石のペンダントです。ギルド認定の要注意人物に贈られるランク──いえ称号です」
「げっ! なんだよそれ」
「おめでとうございます。ギルド創設以来、初めての快挙ですよ。今まで制度はありましたが、その前に暗殺するなり、追放するなりで解決してましたからね。私も現物を見るのは初めてです」
この発光する石は目立つ。目立つが故に、要注意人物に持たせるのだとか。理由は簡単で、どこの国に行っても、衛兵がひと目見れば、そいつが注意すべき人間だと分かるからだ。
唯一の救いは、まだ認知度が低いことだそうだが、それも時間の問題らしい。
「これからどうなるんだ?」
「どうもありませんよ。ランクが決まったので評価期間も終了しましたし、これからはおひとりで依頼もこなせれますよ。ただし依頼受注に制限はかかってますが」
「ランクってなんになるんだよ」
「ないです」
ピアはあっさりと言いきってきた。
「ランク外のクソ野郎ってことですよ。でも安心してください。ランクもないから年会費も発生しません。なにかやらかせば実費請求となります。先に断っておきますけど、逃げると、冒険者ギルドから追っ手が差し向けられますよ。意味は分かりますね」
「飼い殺しってのは、そういうことか」
「仕事が無くなるわけじゃないんだから、幸せだと思いなさいよ。私なんかあなた方の永久専属人にされたんですよ。生きるも死ぬも一緒だなんて……。うっ、うっう」
俺達が冒険者登録を抹消したら、解雇だそうだ。だからって、そこまで落ち込まなくてもいいだろうに。
「サティアさんとおそろいのネックレス。これをテンプレ満喫クラブのシンボルにしましょう」
ペンダントを掲げながら、屈託のない笑顔でアリベルトが話しかけてくる。
「そんな不名誉なものをシンボルにしないでくださいっ!」
がたんと大きな音を立てて、ピアが立ち上がった。しかしまったく聞き耳のないアリベルトの様子に、頭を押さえて座り直す。
「他国に移住するのはあり?」
「できますよ。でも門前払いされるでしょうね。そもそも私もついて行くことになるので、やめなさい!」
ぴきぴきとした、血管が浮かび上がった笑顔で言わないで。
「この状況から抜け出すには、どうすればいい」
「大きな功績を挙げて、ランクインすることです。せめて最低ランクの銅級にでもなって下さい──その為にも」
ピアは机の引き出しから、薄いファイルを取り出した。
「依頼をこなしなさいな」
「依頼書か? ずいぶん薄いな。もっと分厚くなかったか」
「制限がかかってるって言ったでしょ。市街地やその周辺、文化財や鉱山などの貴重な資源のある場所の依頼は、ギルマスが必要と認めない限りは、基本的に禁止です」
それって詰んでない?
「依頼の選定は私に任せてください」
アリベルトが依頼書をめくって、吟味しだした。
「これなんてどうでしょう。大草原でオーガが大暴れ、至急討伐求む」
突き出した腕を下げ、用紙の奥から覗き込むように言ってくる
「ここでしたらクレーターを作っても、怒られませんよ」
「つくらねーよ」
「むっ。地図を見ると、大草原に小さな家がありますね。邪魔になるようでしたら吹き飛ばしましょう。大丈夫です。オーガがやったことにすれば、罪は免れられますから」
「それは依頼者の自宅ですよ」
ピアが冷たく説明を入れる。
「なんと! しかし障害が多いほうが燃えますしね。サティアさん、これにしましょう。オーガでしたら、大事にあつかえば半日は遊んでいられますから」
「もう好きにしてくれ」
アリベルトはにこやかに、ピアへと提出した。
「はいはい。分かりました」
うんざりとした様子で、ピアが判子を押した。
「話しは済んだようだな」
ギルドマスターが近寄ってきた。覇気のない印象の男だったが、今日はなにかやる気に満ちている。
「……はい。終わりました」
「では行くぞ」
ずーんと、頭の上に重石をのせられたかのように、ピアの頭が下がる。
「おや? どこかお出かけですか」
きょとんとした顔で、アリベルトが問いかけた。
「知ってるくせして。昨日ギルマスとなにやら企てていたじゃないですか」
「どこに行くんだよ」
「ええっと、ちょっとそこまでです」
「再研修だ」
きっぱりとギルドマスターが答えた。
指先を額に添えると、悩ましげに頭を振り、続ける。
「この支部に着任してからの5年間。お前の輝かしい功績のおかげで、私の名声は地に落ちた」
ふうっとため息を吐き、ピアに視線を向けた。ピアは目を逸らしたが。
「しかしだ。今回の事件で地に落ちた名声は、今は違った意味でうなぎ登りだよ。今や王都でも私のことを知らぬ者はいない」
はははと狂ったように笑う。
「ギルド本部に王都の執務室。私はそこで嫌というほど反吐を吐きかけられた」
震えを抑えられないほどの、怒気のこもった声だ。なんだか可哀想になってきた。
「そんなわけで再研修を命じたのだ。もちろん私の憂さ晴らしも兼ねてのことだがね」
今度は嬉しそうに、けらけらと笑いだす。
「どこに行くんだ?」
「北西にある魔の森です。そこの生態調査ですよ」
だからいつもの制服じゃないのか。
「心配するな、私もついて行くんだ。負傷することはあっても、死亡することは無い。安心して突っ込んでいけ」
「怪我はあり得るんですね。それを聞けて、とっても嬉しいです」
ピアはギルマスとは正反対の、青ざめた笑顔を見せた。
「ところでアリベルト君。新人アリゲーターの諸君たちは順調かね」
アリベルトはにこやかに親指を立てる。そしてこの男も無言のまま、満足そうにうなずくだけだった。この一連の流れを受けて、ピアの頬は引きつりだした。
どうでもいいが、あの連中も一枚噛んでいるのなら危険はないだろう。
「しかしどんなヘマをしてきたんだ」
「失礼ですね。仕事でのミスはしてませんよ。ただ冒険者と大喧嘩して、わらわらと衛兵さんが押しかけただけです」
それは結構な大ごとだぞ。
「どんくらい喧嘩してきたんだよ?」
「……いっぱい」
「……そうか」
「なにをしている! もたもたしていると、森の最深部からの脱出訓練にするぞ」
「は、はい。いま行きます。だからそれだけはやめてくださいぃぃぃ」
ピアは慌ててギルドマスターを追いかけて行った。
なんにしろ俺の冒険者稼業が、本格的に始まった時だった。




