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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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28/29

その後

 シャルウィルの中心街にはまったく無かった公園も、南地区へと赴けば、その公園の多さに驚かされる。


 南地区一帯に点在している公園の中には、造成された丘が存在していて、見晴らし台と呼ぶほど高くはないが、近辺の民家の屋根が低いこともあり、街の外の平原、さらにはその先の国境線となる、川まで見渡すことができた。


 いちおうは国境を意識したのであろう、それらの公園は、丘の高さも園内の広さも、規模は同じぐらいに造られていて、公園の位置関係も、視界を遮らない配置となっていた。

 つまり丘の上でなにかしらの方法を用いれば、地区全域で合図を送り合うことができる。


 俺は丘の上に設置された、周囲を見渡せるベンチへと腰掛けた。


 注意深く観察しなければ、公園など景観に溶け込んでおり、それほど物々しい気配は感じられない。


 それもそのはず、あの川向こうにあるのはセアランド王国。交易が盛んな国のひとつでもあり、歴史的にみても、友好関係を築いてきた国でもある。

 この街に城壁がなく、要塞めいていないのも、そういった大人の配慮なのだろう。


 依頼をこなしてからの5日間、ずっと待機状態だったので、シャルウィルの街を見て回っていた。これはそんな中で見つけた、小さな発見だった。


「あー。やっとギルドからの呼び出しがあったな。ピアが明日は朝から来いって言ってたっけ」


 帰還して直ぐに報酬が貰えると思っていたが、そうではなかった。

 追い出されるようにギルドを後にして、それからの5日間は暇をもて遊ぶ、この有様だ。


 報酬は金塊50キロだったので、用意するのに手間取っていたのだろう……と、思うことにしている。


「どっちにしろ、明日になれば分かるか」


 空を見上げる。


 時刻は正午を過ぎたあたりか。周囲に人影はない、ほかの公園の利用頻度はそこそこにあったが、この公園は中央区と南地区の境界線付近にあり、なによりもギルドからほど近いためか、利用する人は皆無といっていい。


「ギルドのグラウンドから、爆音が響くのがいけないんだろうな」


 しかし今は人が居ないほうが、都合がよくて助かる。


「この時間帯なら使っていないと思うが、どうだろうか」


 マジックバッグから、目的の物を引っ張り出す。案の定、手で掴むことができた。


 ずるずると鞄から取り出したのは、見た目はただのロングソード。華美な装飾など一切無く、唯一あるのが、柄の上、ガードの中央部分にはめ込まれた、白色の魔光石だった。


 普段から淡く発光している魔光石は、今は暗く灰色がかっている。


「……気絶してるのか? おい! 起きろエミル。ちょっと聞きたいことがあるんだよ」


 ガチャガチャと上下に振ってみる。


「ん、んあ? おおサティアか。助けにきた……訳ねーわな。なんだ裏切り者」


「まだ根に持ってんのか? しかたがないだろう。ロマーナ姫を助けるためには、あの魔女に身売りする以外に方法が無かったんだからよ」


「身売りっつーのは自分を売ることだ。人を売り飛ばすんじゃない!」


「わかった。なら貸し出したんだ」


「おいコラァ! 俺は人間だ。物じゃないぞ」


 姿かたちが剣なんだから、物だろうが。


「半年間なんだから我慢してくれよ。それよりも気絶してるなんて、ユリから毎日なにされてるんだ?」


 俺の質問になにかを思い出したのか、カタカタと刀身が震えだした。


「魔法による火あぶり、水責め、電気ショック、なんでもごされだ。補助魔法やエンチャントなんかも掛けられた。なんでも耐性や伝導性なんかを調べてるんだとさ」


「そうか。それはすまなかった」


「そん中でも魔力を送り込まれるのが、苦しいのなんのって、人の魔力は不純物が多くて不味いったらありゃしない。そもそも魔素しか受けつけないって言っても、あの女は聞きやしねーし」


「だから魔女なんだよ。それよりもいつものおちゃらけはどこいったよ」


「うるせぇ。こんな毎日じゃあ、酔いも覚めるってもんだ」


 酔った状態ってのも不思議ではあるが、剣がぺらぺら喋ってるのは、もっと不可思議ではある。だからこそ人がいない場所を選ばなきゃならないんだが。


「なあ。このあいだお前の仲間に会ったぞ」


「バカ言え、俺に仲間なんていねぇーよ」


「やっぱり戦うことしか脳のない、脳筋単細胞には、昔のことなんて覚えていられないか」


「……聞きたいことってのは、それかよ。どこでそんな悪口を覚えてきた」


 なんだ、ちゃんと聞こえてたんじゃねーか。


「王冠が言っていた。本人は支配者と名乗っていたっけか、そいつに覚えはないか?」


 剣についた魔光石が明滅する。これは思考を巡らせてるのだろうか?


「ああ、あいつか。お前からしたら雑魚だったろ。それでどうした、とどめは刺したんだろうな?」


「破壊した。でもよかったのか?」


「それでいい。あの能力は危険だ。あんな奴はいないほうが世のためなんだよ」


「んで、そいつからは裏切り者と罵られたぞ」


 エミルが鼻で笑う。


「裏切ったのは向こうなんだけどな、だから俺達が派遣されたんだ。だけどナディアは壊さずに地面に埋めたんだよ。こっちのほうが屈辱的だろうってよ」


 ナディアってのはエミルのパートナーで、ふたりは俺の祖先にあたるんだが、こんなのがうちの家系の最初の人物と思うと……。


「サティア。お前いままでとんと聞いてこなかったのに、今日は根掘り葉掘り聞いてくるじゃねーか。どんな心境の変化だ? ええ、おい。裏切り者!」


 裏切り者を強調しやがって。


「人間とか魔族ってのはどういう事だ? 魔力のある無しに関係があるような言いぶりだったが」


「そのまんまだ。お前みたいな魔力のない奴が人間で、魔力のある奴が魔族だ」


「当時はふたつの種族がいたってことか?」


「違うさ。もともとは同じ人間だ。人体実験の末に、人類がようやくにして獲得したのが魔力であり、魔法だった」


「人体実験までしてたのか、なんでそこまでする必要があるんだよ」


「お前なぁ。魔物や魔獣があつかう、わけのわからん魔法なんぞに、人間が太刀打ちできると思ってんのか?」 


 俺はすくっと立ち上がり、空に向かって斬撃を飛ばそうと、柄を強く握りしめた。


「まてまてまてっ。はやまるなベイビー。いいから落ち着け、そして座れ」


 言われたとおり、また腰を下ろす。


「確かにお前のような逸材ってのは、いつの時代にもいたさ。俺の時代にだっていた。だけどそいつらだけじゃ種の保存まではできんだろ」


「まあ、それはそうだが」


「いいか。俺たちの時代、人類の生存圏は魔物によって脅かされていた。人間が生存競争に勝つには、奴らが使う魔法が必要不可欠だったんだよ」


「それで人体実験か」


「そうだ。それで生まれたのが魔力持ちの人間。魔法をあつかう、魔族ってわけだ」


「魔族と呼ぶ理由はなんだよ」


 エミルが一瞬、言葉をためらった。


「魔法を行使するようになってから、人類は急速に生存域を広げていってな、魔獣すらも駆逐し始める頃には、人類の基盤は出来上がっていたんだ。んで、その後に起こることはなんだと思う?」


「人間同士の戦争か」


「そういうことだ」


「それでどうなったんだよ」


「そんなもん俺達が負けて、魔族が勝ったさ。ちなみに魔族ってのは蔑称だ。魔力を手にして狂犬的になった奴らのな」


「なんとも皮肉なはなしだな。人体実験までして手に入れた力を、平和ではなくて支配するために使うなんてよ」


「力を手に入れたら使いたくなるのが人間だ。支配することに支配されていた、あの王冠野郎だってそうだ。あん時の権力者や能力者は、だいたいが狂ってた」


「戦争だろ。止めることは出来なかったのか?」


「んーなんだ。ただの一般人からしたら、支配者層が変わったに過ぎなかったさ。それに魔力を手に入れた奴らが全員、野心を抱いたわけじゃねーしよ」


 そうだったのか。


「……あれ? 魔法ってみんな使えるよな。そん時の支配階級の奴らってのは、そんな簡単に負けちまったのか?」


「遺伝するようになったのは、かなりあとの時代からだ。当初は一世一代の大勝負なんて言われてた」


「なんだよ。その博打みたいな言いかたは」


「博打なんだよ。魔力に適合しない奴は死に、適合した奴だけが栄光を手にする」


「どうやって魔力を得ていたんだ?」


「知らん」


「どうして知らねーんだよ! お前は当時の生き証人だろうがっ」


 思わず叫んでしまった。周囲に人がいなくて、ほんと助かる。


「俺は科学者じゃない。ただの一般兵士だ。まあ噂だと、魔石から魔力を抽出して、それを人体に打ち込んでいた。そんな話だったな」


「だとしてもだ。知識が無さすぎだろ。そんな重大な出来事だったら、普通は嫌でも情報が入ってくるもんだろうが」


 魔光石の光が高速で明滅する。


「なら聞くが、先代の国王の名前はなんだ?」


 ……ふむ。


「確かに興味のないことは、覚えていられないな。うん」


「いや、お前。先代の名前ぐらいは覚えとけよ」


「うるせぇ。……エミルはどうして剣の姿に変わったんだ。王冠だの剣だのは、魔力とはまた別の話だよな」


「ん。ナディアが飯を奢ってくれるって言うから、酔いつぶれるまで酒を飲んでな。んで翌朝、目が覚めたらこうなってた──ぐすん」


「分かった。話したくないんなら、俺も無理には聞かねえよ」


「それは助かる。俺も昔語りは嫌いでね」


 たく。こいつは。


「なあ、それよりもよ。このままばっくれちまおうぜ。その鞄さえ捨てちまえば、あの女も追っかけて来れなくなるだろ?」


「無駄だ。ユリだったら地の果てまでも追いかけて来るぞ」


「そこは任せろ。俺だって時折は表の世界に出ては、世界中を旅してたんだ。隠れ家のひとつやふたつ持ってんだぜ」


「前回流通したのが600年前だったか? そこが残ってればいいな」


「流通いうなやっ!」


 魔光石が赤く明滅した。これは初めて見る現象だな。


「なあ頼むぜサティア。俺を早くシャバに出してくれ。あそこは地獄だ、このままじゃ本当に死んじまうよ」


「なら最後に、古代人が使ってた精霊術ってのはなんだ?」


「精霊術? う~ん。精霊術か」


 ちかちかと魔光石が、ゆっくりと明滅している。


「俺の時代では聞いたことないな。おおかた時の為政者の都合で作られた言葉が定着したんだろうよ。歴史なんてそんなもんだ。それこそ人間と魔族、魔法が使える使えないで混沌とした時代もあったわけだし、魔女狩りや人間狩りがいい例だ。サティア、お前聞いたことないだろ?」


「それは聞いたことはないな」


 家庭教師から受けた座学でも、そんな歴史は聞かされていない。


「よし、話しは終わったな。そんな物騒な鞄はとっとと捨てて、新しい冒険に行こうぜ」


「だれも行くとは言っていないだろ」


 するとその時、バッと、鞄から白い腕が伸びてきて、剣の柄をつかんだ。


「ひっ!」


 エミルの短い悲鳴が聞こえたが、俺は気にせずに、そっと握っていた柄を放した。


「イヤだ、イヤだ、イヤだぁぁぁぁ!」


 エミルはずるずると鞄の中に引きずり込まれて、消えていった。

 ユリの空間魔法で作った鞄ならではの芸当だ。彼女だけが一方的に干渉することができる。


「あと5ヶ月の辛抱だ。エミル頑張れよ」


 とりあえずエールだけは送っておいた。本人には聞こえてはいないだろうが。




 そして翌日。


 俺はギルドの中のいつもの席に座った。ピアと対面するように。


 ピアの服装は普段の制服ではなくて、遺跡に向かったときと同じ、探検家の格好をしている。そこは不思議ではあるが、ピアの様子を伺うに、あまり刺激しないほうがいいだろう。


「えっーと」


 ピアはカウンターの上に頬杖をついて、冷淡な目でこちらを見ている。左の人差し指で、銅貨1枚をごりごりと前後に転がしながら。


「その銅貨は?」


 返事はない。かわりにびたんと銅貨をカウンターの上に押さえつけた。


「いやー。嬉しいですね」


 アルベルトは俺の横に座っている。なにやら嬉しそうに、鮮やかに発光する石で作られたペンダントを手にしていた。それはいったん無視して、ピアへと視線を戻す。


「今回の報酬はどうなったのかなーって。……まだ早かったか?」


 無言のまま、ピンっと銅貨を指で弾いて、こちらに滑らしてきた。


「……。コーヒーでも奢ってくれるのか? たんないけど」


「今回の報酬ですよ」


 素っ気なく答えてきた。


「まったく足りないんじゃないのか?」


「ふたりとも清々しいほど遺跡を破壊してくれましたからね。報酬は賠償金に充てました」


「でも、ピアだって」


「はあ?」


「いや、なんでもない。続けてくれ」


 ピアの気迫に押され、俺は身を引いた。


「それでも少し足りなかったので、あなたの馬を売りました。それで残った残金が、その銅貨1枚ってわけです」


「俺の馬を売ったのか!?」


「売りましたよ。それがなにか?」


「……いや。手間をかけさせたな」


 どうりでギルドに併設された馬小屋に、俺の馬がいなかったわけだ。


「言っておきますけど、国と交渉して、かな~り、賠償金は減額してもらってますからね。本来なら借金漬けですよ。もっと感謝しなさいよ」


「分かった感謝する。ところでアリベルトが持っているペンダントはなんだ?」


「減額する条件に、あなた達のような問題児は、ギルドで飼い殺しにしろと言われましてね。それであなた方に授与されることになったんです」


 ぱちぱちぱちと乾いた声で、ピアが小さな拍手を送ってくると、アリベルトと同じペンダントを手渡してきた。


「それはオーロラ石のペンダントです。ギルド認定の要注意人物に贈られるランク──いえ称号です」


「げっ! なんだよそれ」


「おめでとうございます。ギルド創設以来、初めての快挙ですよ。今まで制度はありましたが、その前に暗殺するなり、追放するなりで解決してましたからね。私も現物を見るのは初めてです」


 この発光する石は目立つ。目立つが故に、要注意人物に持たせるのだとか。理由は簡単で、どこの国に行っても、衛兵がひと目見れば、そいつが注意すべき人間だと分かるからだ。

 唯一の救いは、まだ認知度が低いことだそうだが、それも時間の問題らしい。


「これからどうなるんだ?」


「どうもありませんよ。ランクが決まったので評価期間も終了しましたし、これからはおひとりで依頼もこなせれますよ。ただし依頼受注に制限はかかってますが」


「ランクってなんになるんだよ」


「ないです」


 ピアはあっさりと言いきってきた。


「ランク外のクソ野郎ってことですよ。でも安心してください。ランクもないから年会費も発生しません。なにかやらかせば実費請求となります。先に断っておきますけど、逃げると、冒険者ギルドから追っ手が差し向けられますよ。意味は分かりますね」


「飼い殺しってのは、そういうことか」


「仕事が無くなるわけじゃないんだから、幸せだと思いなさいよ。私なんかあなた方の永久専属人にされたんですよ。生きるも死ぬも一緒だなんて……。うっ、うっう」


 俺達が冒険者登録を抹消したら、解雇だそうだ。だからって、そこまで落ち込まなくてもいいだろうに。


「サティアさんとおそろいのネックレス。これをテンプレ満喫クラブのシンボルにしましょう」


 ペンダントを掲げながら、屈託のない笑顔でアリベルトが話しかけてくる。


「そんな不名誉なものをシンボルにしないでくださいっ!」


 がたんと大きな音を立てて、ピアが立ち上がった。しかしまったく聞き耳のないアリベルトの様子に、頭を押さえて座り直す。


「他国に移住するのはあり?」


「できますよ。でも門前払いされるでしょうね。そもそも私もついて行くことになるので、やめなさい!」


 ぴきぴきとした、血管が浮かび上がった笑顔で言わないで。


「この状況から抜け出すには、どうすればいい」


「大きな功績を挙げて、ランクインすることです。せめて最低ランクの銅級にでもなって下さい──その為にも」


 ピアは机の引き出しから、薄いファイルを取り出した。


「依頼をこなしなさいな」


「依頼書か? ずいぶん薄いな。もっと分厚くなかったか」


「制限がかかってるって言ったでしょ。市街地やその周辺、文化財や鉱山などの貴重な資源のある場所の依頼は、ギルマスが必要と認めない限りは、基本的に禁止です」


 それって詰んでない?


「依頼の選定は私に任せてください」


 アリベルトが依頼書をめくって、吟味しだした。


「これなんてどうでしょう。大草原でオーガが大暴れ、至急討伐求む」


 突き出した腕を下げ、用紙の奥から覗き込むように言ってくる


「ここでしたらクレーターを作っても、怒られませんよ」


「つくらねーよ」


「むっ。地図を見ると、大草原に小さな家がありますね。邪魔になるようでしたら吹き飛ばしましょう。大丈夫です。オーガがやったことにすれば、罪は免れられますから」


「それは依頼者の自宅ですよ」


 ピアが冷たく説明を入れる。


「なんと! しかし障害が多いほうが燃えますしね。サティアさん、これにしましょう。オーガでしたら、大事にあつかえば半日は遊んでいられますから」


「もう好きにしてくれ」


 アリベルトはにこやかに、ピアへと提出した。


「はいはい。分かりました」


 うんざりとした様子で、ピアが判子を押した。


「話しは済んだようだな」


 ギルドマスターが近寄ってきた。覇気のない印象の男だったが、今日はなにかやる気に満ちている。


「……はい。終わりました」


「では行くぞ」


 ずーんと、頭の上に重石をのせられたかのように、ピアの頭が下がる。


「おや? どこかお出かけですか」


 きょとんとした顔で、アリベルトが問いかけた。


「知ってるくせして。昨日ギルマスとなにやら企てていたじゃないですか」


「どこに行くんだよ」


「ええっと、ちょっとそこまでです」


「再研修だ」


 きっぱりとギルドマスターが答えた。


 指先を額に添えると、悩ましげに頭を振り、続ける。


「この支部に着任してからの5年間。お前の輝かしい功績のおかげで、私の名声は地に落ちた」


 ふうっとため息を吐き、ピアに視線を向けた。ピアは目を逸らしたが。


「しかしだ。今回の事件で地に落ちた名声は、今は違った意味でうなぎ登りだよ。今や王都でも私のことを知らぬ者はいない」


 はははと狂ったように笑う。


「ギルド本部に王都の執務室。私はそこで嫌というほど反吐を吐きかけられた」


 震えを抑えられないほどの、怒気のこもった声だ。なんだか可哀想になってきた。


「そんなわけで再研修を命じたのだ。もちろん私の憂さ晴らしも兼ねてのことだがね」


 今度は嬉しそうに、けらけらと笑いだす。


「どこに行くんだ?」


「北西にある魔の森です。そこの生態調査ですよ」


 だからいつもの制服じゃないのか。


「心配するな、私もついて行くんだ。負傷することはあっても、死亡することは無い。安心して突っ込んでいけ」


「怪我はあり得るんですね。それを聞けて、とっても嬉しいです」


 ピアはギルマスとは正反対の、青ざめた笑顔を見せた。


「ところでアリベルト君。新人アリゲーターの諸君たちは順調かね」


 アリベルトはにこやかに親指を立てる。そしてこの男も無言のまま、満足そうにうなずくだけだった。この一連の流れを受けて、ピアの頬は引きつりだした。


 どうでもいいが、あの連中も一枚噛んでいるのなら危険はないだろう。


「しかしどんなヘマをしてきたんだ」


「失礼ですね。仕事でのミスはしてませんよ。ただ冒険者と大喧嘩して、わらわらと衛兵さんが押しかけただけです」


 それは結構な大ごとだぞ。


「どんくらい喧嘩してきたんだよ?」


「……いっぱい」


「……そうか」


「なにをしている! もたもたしていると、森の最深部からの脱出訓練にするぞ」


「は、はい。いま行きます。だからそれだけはやめてくださいぃぃぃ」


 ピアは慌ててギルドマスターを追いかけて行った。


 なんにしろ俺の冒険者稼業が、本格的に始まった時だった。

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