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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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ゴブリン討伐。ズバッと解決編⑨

「おらっ! いい加減あきらめろ」


 上段から剣を叩きつける。


 アリベルトは大鎌を、ぐいっと突き出してきた。


 くそっ。


 大鎌など戦闘向きではないはずなのに、いざ相手をしてみると厄介極まりない。槍のように長く重量のある大鎌は、押し合いになると力負けしてしまうし、大きく湾曲した刀身は、打ち合いをすると、滑りやすかった。


 正確に刃筋が通っていれば、そうそう滑ることもないが、アリベルトは刃が交わる瞬間に、スーっと後ろに引きつつ、横にスライドしてくるので、入射角やタイミングを見誤ると、あっさりと刃の軌道を逸されてしまう。


 大鎌の峰の上を、音もなく刃が滑っていく。そしてその次に起こる結果など、簡単に想像がついた。


 ちっ。


 つまりは身体を相手に晒してしまうって訳だ。


「嫌です、イヤです、いやです。私も体験したいのです。初体験済みのサティアさんには分からないでしょう、甘い蜜を吸えなかった、私の気持ちなど。ああ、いまは貴方のその余裕が憎らしい」


 アリベルトはぶんぶかと、大味に振り回してくる。


 素人が見ると、大雑把な動きに感じられるだろうが、正確にこちらの首筋に狙いをつけて、切っ先が迫ってくる。


 初撃は身体を半回転させて、剣で打ち返し、次撃がくる前に半歩ほど下がり、左側から喰らいつこうとする二撃目は、大鎌の峰に剣の腹を当てて受け流した。最後の一撃は、身体をくの字に曲げて避ける。


 さらなる追撃がくる前に、いったん大きく飛び退いて、アリベルトとの距離を取った。


 たくっ。なんて硬さだ。


 あいつの大鎌は傷ひとつ無いというのに、こちらの剣だけが一方的に削り取られて、刀身は刃こぼれだらけでガタガタになっている。これではもう使い物にならない。


「王女様の双丘から蜜をちゅーちゅー吸っておきながら、何故ゆえに、私の断罪を受け入れないのですか。……まさか──俺は下流域の秘窟を探検しただけなのさ──こう私に自慢したいのですか!」


「言いかた、言いかた! それだと俺が、いかがわしい男みたいじゃないかっ。そもそも趣旨も変わってるしよ」


「ならばお聞かせ下さい。どこの国の、なんという王女様と、どんなシチュエーションでイチャコラしたのですか!」


「いや〜。どこの誰だろうな? 俺にも分からんかな。ははは」


 笑って誤魔化そうとしたが、ピアが自慢げに言葉を投げた。


「ふふーん。私は知ってますよーだ」


 アリベルトの目が大きく見開かれて、ピアを見詰めた。


「なんと、最近知りあったばかりの、崖っぷち受付嬢なんかには話して、友人である私には秘密にするなんて、貴方はなんと薄情者なんですか」


 お前も同じ日に知り合ったがな。


「んだとコラァー! もういっぺん言ってみろっ。切り刻んでやるー」


 ピアが怒声を上げたが、自業自得なので、俺は無視をした。


「なにをしておるかー。早くその男に斬りかかれ! 布地1枚でもあると、私の魔力は透過できんのだ。腕でも足でもいい、肌を露出させよ」


 さっきから近づこうとはしているが、俺達の激しい攻防に恐れをなしてか、奴はずっと遠巻きから機を伺っている。


「……うるさい豚ですね。これからが大事なところなんですから、静かにしててもらいたいものです」


 アリベルトは奴に聞こえないように、小声で吐き捨てた。


「おうおう。支配されてるんじゃなかったのか?」


「サティアさん、私は見損ないましたよ。自慢ばなしばかりでなく、私の状態異常まで疑うとは、やはり決着をつけなければならないようですね」


 いやいやしながら言うなよ。


「お前の場合、ナチュラルに異常状態だからよ、一周回って、いまは正常になるんじゃないか?」


「言い訳など聞きたくありません」


 アリベルトは大鎌を真正面に構え、そのまま大きく振り上げた。


 今までのような小技ではなく、真っ向から、力技で押し切るようだ。つまりは一撃必殺ってやつか。


 認めざるを得ないが、アリベルトは強い。


 このままでは埒があかない。むしろ時間をかければ、俺のほうが不利になるだろう。


 刀身もあいつの大技を受け切るだけの、耐久力は残っていない。受け流すにしても不安は残るし、避け続けるにも限度がある。


 さて、どうしたものか。


「これを防ぐことができたのなら、私は素直に負けを認めましょう。そして第2形態へと進化を果たします」


「変態から変質者に存在退化でもしようものなら、そりゃあ俺も負けた気にもなるが……」


「まさかBボタンを押して、進化の邪魔をするというのですか? 友達であるサティアさんにしかできない秘技ですが、それは卑怯というもの」


「悪い、話についていけんわ」


 しかしそうか。言いたくは無いが、これなら効果がありそうだ。


「おいアリベルト。これ以上邪魔をするなら、俺にだって考えがあるんだぞ」


「なんでしょうか?」


 アリベルトは大鎌を掲げたまま、油断なく、こちらを睨み据えている。


「俺の邪魔をするなら──絶交するぞ!」


「……ぜっ!!」


 アリベルトは事切れたように大鎌を地面へと落とした。表情は驚愕に満ちていて、身震いもしている。


 効果てきめんだったな。


「あーあ。言っちゃいましたね」


 ピアが頭の後ろで腕を組んで、のん気に告げてくる。


「まあ、大人げない自覚はあるが、こうするしか無いだろう。それによ、ほれ。大人しくなっただろ? あいつに戦意はない、おふざけもここまでだ」


「いえ、そうではなくってですね」


 ピアは少し困った様子で、アリベルトに指を向けた。


「……あれえ?」


 驚愕から一転、あいつはなにかを勝ち取ったような、喜びの顔を浮かべている。


「いま……絶交と言いましたね。私は聞きました、絶交と。間違いなく、正確に、確実に、そしてサティアさんは確信を持って、この私に向けて絶交と仰りました。そう絶交と」


「えっ……あー。うん、言った」


「絶交。それはつまり、私達はもともと絶交する間柄であったと、お友達同士であったと、サティアさんはお認めになった訳です──言質は取りましたよ! もう言い換えっこ無しです。嘘ついたらテンプレ100本あーそぶ。契約完了」


「あっ!」


 しまった。そこまで深く考えてなかった。


 こちらの事などお構い無しに、アリベルトは指を組み、天に向かって、祈りを捧げ始めた。


「メルフィス神よ。大親友である私達をお守りくださり、ありがとうございます。これからはこの祝福を糧に生きてまいります」


「あは。なんかグレードアップしましたよ」


「嬉しそうに言うなっ!」


「なにをしておるかっ! 早く戦闘不能にせよ。唯一まともなのが、戦うことだけだろうがあ。さっさと終わらせい」


 遠くからゴブリンキングが、まくし立ててくるが、誰も取り合わない。


「あいつって、精神支配が成功してると思ってるんですかね?」


 ……あの様子だと、思い込みたいんだろうな。なんにしろ、ピアの疑問に答える者はいなかった。


「ところでサティアさん。初期設定は同じ村出身の、幼馴染みで大親友と決まりましたが、追加設定はいくつまで可能でしょうか?」


「だれがそこまで認めた! 俺の人生に、意味不明な脚色をつけるな」


 ついでに迷惑だ! これは内心で叫んでおいた。


「話を盛るなど、誰でもすることですよ。お認めになってくれないとなると、私も邪神に取り憑かれて、また対決することになりますが」


 スチャッと大鎌を構え、首をぐりっと曲げると、アリベルトは幽霊のような、絶望しきった顔で近づいてくる。怖い。


「そもそも俺は、追放されたとはいえ貴族だぞ。どこの村か知らんが、話を盛るにしても無理があるんだよ」


「ならばサティアさんは、自分を貴族と勘違いした、クソ村長のバカ息子の設定でいきましょう。それならば貴族っぽさも演出できますし、頭の足りない可哀想な役も兼任できます。ガサツで横暴で頭の悪い親友を、健気に支える私は、まさしく主人公」


「言ってくれるねぇー」


 ぴきりと、こめかみ辺りが脈動する。


「この低能があ! なにが役だぁ。お前など、支配され、使役され、朽ちていく。それが魔族の生まれた意味であり、役目なのだ。わかるかぁ? 使い終われば、産業廃棄物ほどの価値も生み出さない、ゴミ以下の劣等種であるのだぞ。分かったのなら、早く私の命に従え」


「それはあれだな、俺と本気の勝負がしたいってことだな?」


「いいええ。痛いのはごめんです。それにいまは、いかに私を正気に戻すかの、友情活劇ではありませんか。お忘れになったのですか?」


「抹殺するの間違いじゃないか?」


 俺は突き殺してやろうと、構えを取った。


「なにをやっておるかっ。このグズ共があ! お前達には誇りの欠片もないのか」


 お前達って、一括りにしやがって。


「無論サティアさんがお望みであれば、分岐ルートである、馬車救出大作戦へと、ルート変更してもよろしいですよ。今なら間に合います」


「へっへ。覚悟は出来てるってわけだな」


 俺はすり足で前へとでた。アリベルトの大鎌の間合いの外側、ぎりぎりで止まる。


 アリベルトは無言だ。無言のまま、にっこり笑って、大鎌を片手で振り上げると、戦闘態勢を取った。


「やはりお前達は糸くずであったか。ホコリに自尊心を問うても、せんないことであったな!」


「俺も覚悟はできた。安心しろ。しっかりと眠らせてやる」


「ならば私は生存ルートを勝ち取ると、宣言しましょう。親友の為にも、私はここで敗れるわけにはいきません。どうでしょう? このやり取りは隠し要素っぽくて、興奮してきませんでしょうか」


 一点の曇りのない瞳で言いやがって。お前は支配されている設定だったんだろうが。……いかんいかん。設定なんて単語を、俺が使ってどうする。飲まれるな。


「国王である私を無視するでないわっ。それともゴミクズに礼儀を求めることに、無理があったかのう? どうしたっ。答えられぬのかっ。ゴミがぁ」


「うるせぇ! 黙ってろ」


 ゴブリンキングの周囲の魔素を完全に消す前に、奴の核である、王冠の魔光石に魔素の粒子を種子のように固めたものを、事前に仕込んでおいた。


 奴の発言にヒントを得たやり方ではあるが、これならば奴の能力を封じつつ、一方的に破壊することができる。


 俺は素早く魔素の種を溶かし、魔光石の核全体へと侵食、浸透させて満たしたところで、連鎖自壊へと導いていく。


 そして俺が核へと干渉し、破壊しようとした、その瞬間。


「今は大事な商談中です。あとにして下さい」


 アリベルトは大鎌を投げつけていた。


 大鎌はゴブリンキングの首を吹き飛ばすと、大きく弧を描き、アリベルトの手元へと戻っていく。


「ぎいやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 壮絶な断末魔を上げて、ゴブリンは地面へと伏した。

 王冠もばきりと音を立てて、粉々に砕け散っていく。


「…………」


 やっちまった。


 いや、目的は達成したのだが、衝動的に倒すとなると、どうにもきまりが悪い。アリベルトも同じ気持ちなのか、なんとも気まずい表情のまま、硬直している。


「あれ? 終わっちゃいました?」


 ピアの拍子抜けした声が、妙に耳に残る。


「なんか奴には悪いことしたな。ついカッとなっちまってよ。俺だって、もうちっと盛り上げてやろうとは思ってたんだぜ。邪魔がなければな」


「私だって衝動殺人など、起こすつもりはなかったのです。ちょっとあっちに行ってて下さいと、軽く押しただけなのです。感覚的には」


「こうなっちまったら仕方ない。帰るか」


「なにを申されますか。山もなく谷もなく終わってしまうなど、メルフィス神に申し訳が立ちません。これでしたら、私がひとりで探索していた時のほうが、よっぽど山も谷もありましたよ。全カットされてしまいましたが」


 やっかみか?


「じゃあどうするんだよ。言っておくが、俺はお前と戦うつもりはないぜ」


「おーい。早く魔石を回収して、帰りますよー」


 ぶんぶんと手を振って、ピアが呼んでいる。アリベルトはじっとその姿を見詰めてから、しれっと提案してきた。


「しかたありません。アレを使いますか」


「……あれってピアのことか? 怒らせるとあとが怖いぞ。俺は面倒事はごめんだね。なにをするか知らんが、やるならひとりでやってくれ」


「まあ見てて下さい。サティアさんは話を合わせていただければ結構です」


 いちいち俺を巻き込むなって、言ってんだよ。


「どうして最後のお片付けになると、手が止まるんですか。必要な物だけ回収して、早く帰りますよ。私は帰ってからが、忙しくなるんですからね。こちらの業務のことにも気を配ってくださいってば」


 とてとてと近寄ってくると、ピアは不機嫌そうに言ってきた。


「お黙りなさい! 山どころか丘すらない、板胸レーズンお嬢さん」


 ぴしゃりとアリベルトが言い放つ。


「──ぐふっ。な、なんでいきなり口撃してくるんですか。お黙りなさいも、丁寧にお嬢さん呼ばわりされるのも、ものすごーく腹立ちますし、私がなにかしたんですかね?」


 一瞬、理解できなかったのか、数秒おいてから、ピアがダメージを受けた。


「つまり全部ってわけだ」


 キッと睨みつけてくると、ピアはアリベルトへと、視線を戻した。


「あんたら喧嘩売ってるんですか。言っておきますが、女神の顔も1度までですよ」


 それは少ないんじゃないか?


「なにを申すかと思えば、そのような戯言。どの神話どの女神を持ち出そうとも、いずれもが巨乳ですよ。貧乳も度が過ぎれば、くぼ地と同じ、女神を名乗るなどおこがましい限りです」


「ぐえぇー」


 負けてるじゃねーか。


「それに私は知っております。この旅行の前日に起きた真実を」


「やっぱ旅行と思ってたんかい!」


「あの心優しいポーション売りのお婆さん。こともあろうにピアさんは、ご自身の身体的特徴を生かし、13歳と年齢詐称して、子供料金でポーションを買い付けていたのを、私はしかと見ておりました。これが女神を名乗る者がする行為ですか!」


 びしりと指を突きつけて、アリベルトが言い切った。


「うふふふっ。どうやらそんなに私と戦争がしたいんですね」


「否定しないのかよ」


 俺が指摘したら、ぱちりと静電気が弾けた。


「いいですよね。いいんですよね。そっちが先に仕掛けてきたんですもんね」


 ピアの周囲に発生したつむじ風が、しゅるしゅると嬉しそうに舞い出した。


「どうですか、そこそこに話の起伏が生まれましたよ」


「こんな終わりかたでいいのか?」


「なにも無いよりは、ましというものです」


「そうかなぁー?」


 ピアの魔法を少しだけ減衰させようと、意識を向けたところで、アリベルトが口を出してきた。


「邪魔をしないほうがよろしいかと、やはり溜め込んだものは出し切らないと、遺恨を残してしまいます」


「お前が言うな!」


 だんだんと風の勢いが増してきて、つむじ風は暴風へと変わりつつある、屋内に帯電した静電気も、バチバチとけたたましい音を立て始めた。


 アリベルトはいそいそと、ひげメガネと大鎌をアイテムボックスへと収納している。俺も剣を納めて、留め具でしっかりと固定した。


「お前、バフをかけたよな」


「ふっ。ご存じでしたか」


「見えてたわっ。余計なことしやがって、外ならまだしも、ここは屋内だぞ」


 俺達が倒したアンデッドや回収し損ねたドロップ品が、風に煽られて浮かび上がった。


 ピアを中心に、それらが縦横無尽に宙を舞っている。だが決してピアに近づくことはない。


 アンデッド達の身体を縫うように、稲光が走り抜けていった。いくつかは床まで落ちてきて、焦げ跡を残す。ようやくピアの魔法が発動するようだ


 俺は自分の無事よりも、アリベルトが怪我のひとつでもしないかと、祈りを込めていた。無駄だとは思うが。


「おい。アリベルト」


「はい。なんでしょうか」


「顔の皮膚がただれろ!」


「骨が見えるほど感電してください」


「こおぉぉぉぉの、とんちき共があぁぁぁぁぁっ!」


 稲妻の隙間に映ったピアの表情は、悲しさと恥ずかしさを包み隠すような、怒りの形相だった。


 なんにしろ、ピアの放った力任せのサンダーストームは、遺跡を内側から崩壊させると、魔石花火で打ち崩した、周囲の残骸もろとも、大空へと巻き上げて、綺麗さっぱり何処かへ吹き飛ばしてくれた。

 メインヒロインと聖女キャラは、初期の段階で作ってあったので、そこまでは走り抜けようかと、思っていたりいなかったり。

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