ゴブリン討伐。ズバッと解決編⑥
「あとはあなただけです。ほかのお仲間みたく、風船になって爆ぜるか、星になって煌めくか、もしくはなんの面白みもなく、ふたつに割れるか、今ここで決めなさい」
「うぐっ……ぐずっ」
「いきなりあなたが燃やすから、こうなったんでしょ。なんの為にテイムの真似事したんですか」
「つーか、ゴブリンも泣くんだな」
あのあとお荷物になるからと、アリベルトが穴の中を焼き払ったせいで、ゴブリンが反乱を起こした。もともと従ってもいなかったが。
そして数匹だけ残して、討伐は完了した。
生かしたゴブリンに、扉を開けさせようとしたのだが、あんな事をしたんだ、素直にいうことは聞かんわな。
なのでアリベルトは1匹ずつ拷問……交渉を持ちかけたが、失敗。
あいつの言うように、膨らんだり、飛んでいったり、分割されたりと、まあ色々としてくれたおかげで、最後の1匹になってしまった。
「もちろん、この扉を開けてさえしていただけたのなら、あの大空を飛ぶ怪鳥のように、あなたの自由は保証しましょう。どうです? 悪い話ではないでしょう」
アリベルトはゴブリンの肩に手を掛けて、話を持ちかけた。
「どこかで見たような、クソみたいな展開ですね」
「ほっとけ!」
「それとも解剖いってみますか?」
アリベルトは調子のいい声で、ぐっと親指を立てた。
「飲み屋に行くような感覚で話すの、やめてもらえませんか」
ピアは真顔でつっこみを入れているが、いつも通り、アリベルトは聞いた素振りもみせない。
「その大鎌だと解剖は無理だろ、このナイフを貸してやるよ」
俺はポケットから、小さなナイフを取り出して、渡してやる。
「これはありがとうございます。非常に助かります」
「いやいやいや。そんなペンを貸すようなのりで、話を進めないで下さいよ」
ピアが仰天したように驚くと、慌てて止めに入ってきた。
「ゲヘゲヘゲヘ」
俺達のやり取りを聞いて、媚を売るような笑い方で、ゴブリンは近寄ってきた。精神が壊れかけたのかもしれない。
「それでいいのですよ。さあ開けなさい」
「ガフッ」
ゴブリンはピアの前で、Vサインを作った。
「なんか腹立ちますね」
「我慢しろ」
そのまま、とことこと扉の前まで歩き、作ったVサインで、人面の両眼を指で突いた。
ぎいゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
飛び跳ねるんじゃないかと思えるぐらいの勢いで、扉に付いた顔は、絶叫を上げた。
そして、ゆっくりと扉は開いていく。
「なんですか、このクソみたいな仕掛けは、反吐がでますね」
「くそくそ言わない。いちおう女だろ」
俺の指摘に毒づくと、ピアはふてくされたように、そっぽを向いた。
「そうであります、クソなんてとんでもない。なんと素晴らしいロック機構ではありませんか。プッシュで解錠、自動で開くうえ、魔法防御まで備えている堅牢さ、このようなおもしろグッズ、ぜひとも教会の正面玄関にも採用していただきたいものです」
「あなただって、おもしろグッズって言ってる時点で、扉として認めてないですよね」
それよか開けかたを知られた時点で、防犯力ゼロだけどな。
「ガフゥガフゥ」
ゴブリンが煌めく瞳をアリベルトに向けて、服の裾を引っ張った。
「そうでしたね、もうあなたは自由です。素速く大空へと飛び立ちなさい。でないと鬼に捕まりますよ」
ぎらりと魔導人形達の目が光る。
「ギョヘェェェェ!」
一転してゴブリンは青ざめた顔になり、一目散に逃げていく。
そのままアリベルト人形達は、逃げたゴブリンを追いかけていった。
「これまたどこかで見た光景ですね」
「うるせぇ」
俺はゴブリンは追いかけていない。
「そのまま残党狩りをしてきなさい。ただし私達の分も残すのですよ」
アリベルトは伸びやかな声で、人形に指示をとばしてくれる。
「残さなくていいですから、そのまま全滅させなさいよ」
「しかし締めは大事かと」
「締めるんなら、この先の奴をきっちりと締めなさい」
「ですが鬼ごっこは大勢でやるから楽しいのですよ。よってたかって多数の鬼から追いかけられる、あのスリルはたまりません」
「追いかけられるって、そっちですか? あなたの場合は追いかけるほうでしょうが」
「そうですね。ですがリアル鬼ごっこでは、追うも追われるも楽しいですよ。とはいえ死霊術師が入ると、泥試合になってしまいますが」
またくだらんことを、よくもまあピアも飽きずに指摘できるもんだ。あいつの言うことがどこまで本気か……分からんだろうに。
「ほら行くぞ」
俺は扉の先に視線を向けた。
そこは無駄に広い通路だった。両脇には、背中合わせに人面が彫られた円柱の柱が、ずらりと並び、道標のように奥の扉まで続いている。
「奥にも扉がありますね」
「見た感じ、普通の扉だな」
数十メートル先にあっても、よく見える大きな扉。そこには取っ手らしき物も、ちゃんと取り付けてあるのが確認できた。
「サティアさん。これからボス戦になりますが、準備はよろしいですか?」
「あたりめぇだ! 誰に聞いてんだよ」
ここまで来て、くだらん確認を取るなよ。準備ができていないのは、俺の後ろでぶるっとしてる、ピアだけだろうが。
「ふっ、愚問でしたね。ならばリハーサル通り、爆炎の中から飛び出して、15秒間の空中飛行の後に、敵からきっかり5メートル手前で着地して、テンプレの守護剣士、赤いウィンナーサティア! と名乗りを上げて下さい。もちろんカッコいいアドリブは可です」
「いつっ! どこでっ! 誰がっ! そんなリハーサルをした!」
「今日、ここで、私が、登場シーンを披露したではありませんか。もうお忘れになったのですか?」
「うわっ。マジで殴りてぇ!」
「ウィンナーって、なんか卑猥にきこえるんですが。下ネタはやめてください」
「下ネタではありません。ちゃんとタコさんウィンナーのほうなのですから、私の友達に不名誉なレッテル貼りは、やめてもらいたいです」
「やめろっ! 友達じゃない、友達になるな」
俺は全力で否定するも、アリベルトは笑い飛ばすだけなので、どこか肩透かしを食らったように、もやもやした気持ちが、心のノイズとなって残る。
「とにかく行くぞ!」
俺は気にせずに通路を進み、奥の扉へと向かった。とりあえずピアもアリベルトも黙ってついてくる。
扉の隙間から吹き出てくる魔力風は、今までのゴブリンよりも、どろりとした屁泥のように重たいものだった。それがドア下からどろどろと俺の足元まで流れ込んできては、霧散して消えていく。
この特徴はゴブリンキングか。
魔素を通して部屋の中を探ってみたが、部屋の中には一体しかいない。そいつは座り込んでいるので、正確な体長はわからないが、多く見積もっても2.5メートルほどだろう。
さらに奥にも部屋があるのか。
扉が付いていないので探りやすくて助かるが、ふむ。そこにも無数の何かがいるな。これは……。
「どうしたんですか? びびったんですか」
ピアはぷるぷる身体を震わせながらも、茶化してくる。
「サティアさんにかぎって、そんなことはありえません。きっとここに来た記念に、扉に書くべきは、サインかそれとも落書きか、どちらにするのか迷っているのです」
真剣な顔付きで、アリベルトが答えをはさんだ。
こいつら言いたい放題いいやがって。もういい、教えてやらん。
「よし、開けるぞ」
木製の大きな扉を押し開ける。ギギギギギと、扉全体が侵入を拒むかのように歪み、軋む音を鳴らした。
城の城門とまではいかないが、それでも大きく分厚い扉なので、押すだけでも重労働だ。それにどんな仕掛けなのか分からないが、扉が少し歪むので、押す力が分散されて、なおのこと開けにくい。
こいつをこじ開けるには、複数人必要になる……。
「おいっ! アリベルト。なに後ろで見学してんだっ。お前も手伝えよ」
「そう申されましても、私の宝石に傷がつくやもしれません。リスクとリターンを考慮すると、やはり気が進みませぬ故。ここは熱い眼差しで見守るのが得策かと」
つーかそんなもん、さっさとしまっとけよ。
「傷よりも、砕ける心配をしとくんだなぁぁぁぁっ!」
俺が叫ぶと、アリベルトは一歩前に出て、俺の横に並んだ。
「ライバルである以上、私達は足を引っ張りあう関係にあります」
「んなもんっ。ライバルとは呼ばん!」
ミシリと扉が軋んで、音を立てた。
「ですが私達はライバルである前に、はじめてのお友達という、固い絆で結ばれた間柄」
「ちくしょぉぉぉ! 出会ったのが不幸の始まりだったさ」
ギギギギと少しずつ扉が開いていく。
「敵意と友情とはよく言ったものです。いがみ合っていた者同士が、共通の敵を前に、共同戦線をはるのですから、目の前の難敵を乗り越えた、その暁には、夕日の浜辺で全力疾走と洒落込みましょう」
「ぬうぉりゃぁぁぁぁぁっ!」
ばっん! と激しい音を立てて、完全に扉は開いた。
「大丈夫ですか?」
ピアが聞いてくるが、今は答える余裕はない。首を振るだけで精一杯だ。
「大丈夫そうですね」
「……なんで……そうなる」
喉の奥から声を絞り出して、抗議してみたが。
「ほら、大丈夫じゃないですか。声も出せてますし」
ピアからは、冷たい言葉が返ってくる。
「そうです。私の強化魔法とサティアさんのど根性があれば、勝てない敵はおりません。ここは我々の友情パワーの勝利なのです」
お前からは、なんの魔力も感じなかったがな。
「よっしゃあ。あとはあいつだけだ」
呼吸を整えて、即座に臨戦態勢をとる。
視界の先、広間の最奥の壁側は、広間よりも数段高くなった、見るからに玉座の間と呼べる造りとなっていた。そして玉座の間の両隣には、更に奥へと続く出入口がある。
ゴブリンキングは石造りの玉座には座らずに、その隣に、無造作に山積みにされた、骨の上に座っていた。
そもそもあの体格だと、玉座に座ることはできないか。
「あれは、椅子取りゲームの準備でしょうか?」
アリベルト、お前正気か?
「ていっ!」
「ぎゃあっ!」
アリベルトの精神状態を疑っていたら、ピアがすねを蹴り上げて、黙らせてくれた。
「ゴブリンキング……勝てますよね?」
「キングだろうとなんだろうと、所詮はゴブリンだ。俺が負けると思うか?」
「……それは」
うわはっはっはっ。下等生物ども、その首置いていけぇぇぇ。
「うん。思いませんね。ここにきて心強く感じます」
「お前、絶対失礼な想像しただろ」
とにもかくにも、俺達はゴブリンのもとまで歩みを進めた。少し遅れて、アリベルトもついてくる。
……あれは?
ゴブリンキングの頭には、王冠がのっかっている。人ならかぶっていると表現できるが、なにせあの巨体だ、王冠も小さく見えるし、ちょこんとのっけてるようにしか見えない。
それよりも問題は、あの王冠だ。
王冠から伸びる魔力の筋が、幾重にも重なりあって、ゴブリンキングの身体を包んでいた。
すでにゴブリンキングは、あの王冠に完全に支配されている。
「なるほどな。そういうことか」
「なんですか?」
「いや、たいした事じゃない。心配しなくていい」
俺達は目標であった、ゴブリンキングと対峙した。奇しくも、ゴブリンなんぞに謁見する構図となってしまったのは、気に食わないところだが。
目の前の敵をゴブリンと思わないほうがいいか。
「よう。潰しにきたぜ」
今だに動きを見せないゴブリンに、挨拶をしてやる。
「あの、ふつうに話しかけてますけど、言葉は通じるんですか?」
異常者を見るような目で、俺を見るな。
「ふん。外が騒がしいと思っていたが、性懲りもなく、また来よったか」
骨の山に背中を預けていたが、ぐっと上体を起こして体勢を変えた。その動作だけで、小さな山が動いたようにも見える。
「ずいぶんと流ちょうに喋りますけど、どうしてなんですか? サティアさんは動じないってことは、何か知ってるんですよね?」
俺の背中に隠れて、ピアが質問してくるが、今は奴と話がしたいので、返事は返さずに、後ろに手を回し、静かにするように促したのだが。
いや、手を握るな、腕を掴むな、しがみつくな! 頼むから放してくれ。何故いつも人の動きに制限をかけるんだ、俺だって刺されでもしたら死ぬんだぞ。
「……魔族が、隠し宝物庫を嗅ぎつけたか」
じろりとアリベルトを睨みつけて、ゴブリンキングが、侮蔑とも取れる声を漏らした。
「魔族? いったいなんの話ですかね」
「ん、さあな」
俺とピアは後ろを振り向いて、宝飾品をじゃらじゃらと身に着けた、アリベルトに視線を送った。
「? どうしました。私の後ろに誰かおられましたか?」
こともあろうに、あいつは後ろを振り向いて、首を傾げやがった。
「それよりもだ」
ゴブリンの声に意識を引き戻された。
「どうして人間が、魔族と行動を共にしている」
「人間?」
「魔族?」
ばっとピアの腕を払い、俺は……俺達は、お互いを見合った。
「ひとつ言っておくが、俺が人間で、お前達が魔族だよな?」
「なにをおっしゃるのですか、清く正しく美しい心と、こよなくテンプレを愛する私こそが人間であり、おふた方が魔族、いえ悪魔ですよ」
「バカ言わないでください。あなた達の所業は、私が見届けていますよ。おとなしく魔族と認めてください」
「貴様らはどこで喧嘩をしておる」
さっきとは違う軽蔑の声が、ゴブリンから聞こえてきた気がする。




