ゴブリン討伐。ズバッと解決編③
「あれ? おかしいな。ストックはあったはずなんだが」
マジックバッグから治癒薬を取り出そうと、ごそごそとまさぐっているのだが、いっこうに掴み取ることがてきない。
この鞄は一般的なマジックバッグと違って、容量を拡張してあるのではなくて、魔女の拠点へと直通となっている。そんな特殊な鞄だが、通常品と同じで、欲しい物を念じれば、お目当ての物品を掴むことができる。
しかし治癒薬を収納してある箱の中は、空っぽだ。
「体力と魔力ポーションはあるな。治癒薬の箱だけが、なにも無い」
ポーション類は緊急時に備えて、すぐに取り出せるように整理してあるはずだが、それが無いとなると……。
「ん?」
コツンと指先になにかが触れた。この形は治癒薬だ。
「あったあった。ユリにはあまり使うなって言われてるけど、これで……?」
俺が手に取った瓶に、1枚の張り紙が紐でくくり付けてあった。
『治癒ポーションは身体に悪いので、全て売却したから。そんな身体に悪いポーションでも、私のお財布には優しかったわ。ちなみに瓶はカラ容器を集めたもので、中身は井戸水です。結構いけるわよ』
「くそっ、あいつ。人の物を勝手に売りやがって。今度あったら売上金は返してもらうからな」
無いものはしかたがない。耐えられないわけじゃないので、このまま行くか。
「あの、怪我したんですか? ゴブリンに手傷を負わされたようには、見えなかったんですけど」
「戦地で負った傷だ。それがどこからともなく飛んできた飛び道具のおかげで、ぱっくりと開いたんだ」
「ここの遺跡のトラップは危険ですね。これからは慎重に行きましょう」
そんなこと言っても、無かったことにはならないんだぞ。
「でも、言ってくれればよかったのに、そしたら私が治癒魔法で、チョチョイと治してあげましたよ」
反省しろとは言わんが、それでも事実を言えば、気にして落ち込む人間だと思っていたが、見込み違いだったか。
「なんだ、人のこと心配する奴と思っていたが、そうじゃなかったか。変な気を使って損したわ」
「…………そういう奴ですから。ほら服脱ぎなさいよ」
から元気だったか。
ピアは感情を隠すのが上手いが、さらけだす時にも、ためらいが無いな。
「いや、俺は大丈夫だ」
「子供じゃないんだから、恥ずかしがらずに脱ぎなさいよ」
「ばか。子供じゃないから、恥ずかしいんだろ」
俺は上着と鎖帷子を脱がされ、シャツのボタンを外された。ピアの慣れた手つきに、驚かされる。
そして下着をめくられた──その時。
「うぐっ」
開けた扉をすぐさま閉めるように、力まかせに下着を下ろされた。
「なんだよ、そこまでして恥ずかしくなったのか?」
「いえ、そうじゃなくて……身体、傷だらけですね」
次はそろそろと下着をめくると、ピアは気に病んだ声を漏らした。
「死線はなんども超えてきたからな。8割がた魔女のせいだが」
「災の魔女。どんな人か気になってきましたよ」
「好奇心は持たないほうがいい。魔女の異名は伊達ではないぞ」
それでもユリのおかげで強くなれたのも、事実だがな。
「ふーん、そうですか。それにしても銀の針金で傷口を縫ってるんですね。なんでです?」
「そっちのほうが化膿しないし、治りも早いんだとよ。取るときも針金を切るだけで、簡単なんだとさ」
「魔女さんは、治癒魔法は使えなかったんですか?」
「いや緊急時は魔法で治してたぞ。ただ魔法やポーションなど、魔法的治療は人間本来の自己治癒力を狂わせることになって、危険なんだと」
それに治し方が雑だから、摘んでひねったような傷痕が残るし、俺的には外科的施術のほうが嬉しかった。
「危険なんですかっ! そんなの冒険者にとって致命的じゃないですか。私……知りませんでした」
「狂うといっても誤差みたいなもんだ、深刻な問題にはならない。他の冒険者がどうだか知らんが、俺みたいに、ぎりぎりのラインで戦わざる負えない者にとっては、その小さな誤差が、致命的な結果をもたらすって意味だ」
ほっとした様子で、ピアは吐息を漏らした。
「切れた針金を取ってから、魔法をかけてくれよ」
鞄からハサミを取り出して渡した。
「言われなくても、分かってますよ」
ぱちぱちと切断して取り除いていく。背中の切り傷なので見えないが、ピアは手際よく、あっという間に針金を引き抜いた。
「キュア」
背中に温かみを感じる。ユリの治癒魔法は、治るときも若干の痛みを感じたが、ピアの魔法にはそれが無く、ただ心地よい。
「上手いな。治癒士の職業か、それに近いものでも授かったのか?」
「恩恵の儀は受けてませんよ。私には必要ありませんから」
素っ気なく答えられてしまった。
「いつも怪我して帰ってくる人がいましたから、そのおかげで回復魔法が上達したんです」
なるほどね。手慣れているわけだ。
ゴブリンを斬り伏せても、大量の血溜まりを見ても動じないのは、見慣れていたんだな。考えてもみれば、ギルド職員なら重症者など、いくらも見てきただろう。
敵を倒せれなかったのは、やはり覚悟がなかったんだな。
「あぁ〜。あったけぇー」
「セクハラ」
「なんで?」
「なんとなくです。それよりも質問なんですが、なんで私の投げたカードは、サティアさんにばかり当たったんですかね?」
「ああそれは、こいつなら何をしても死なないだろう。て安心感があったから、無意識下で、狙いを俺に切り替えてたんだろうな」
「なるほど。もの凄く納得しました」
「納得するなっ!」
ん? まずいな。ゴブリン共がきた。
「ピア。手早く終わらせてくれ」
「なにいってんですかっ。回復魔法はゆっくりじっくりかけないと、傷痕が残るんです。それについでだから、他の縫ってある傷口も治してあげますよ。もう戦地にいるわけじゃないんだし、少しの誤差ぐらい大丈夫でしょ?」
まったく。お人好しと言えるほどの、優しい心の持ち主だな。だからこそ魔物を死へと追いやったのがショックで、魔力暴走までいっちまったんだろうな。
「敵が来てる。それも今までよりも格段に強い奴らが」
「えぇっ!? そんな。分かりました。最速で終わらせます──はあっ」
──ばっちぃぃん!
回復魔法を固めたものといえばいいのだろうか? とにかく固めた魔力を背中に叩き込まれた。
「これが1番、手っ取り早いんですよ。ほら上手くいきました。しっかり傷は塞がりましたよ、凹んだような傷跡は残りましたけど」
やさしい、やさしい、こいつは優しい。これは優しさの変異種だ。よし! 飲み込めた。
「ああ、サンキュ」
俺はすぐに服を着直し、装備を整えた。
「替えの服はないんですか。気持ち悪くないです?」
「慣れてる問題ない」
奥から走り込んでくる足音が聞こえてきた。魔素を通して確認してみると、全てのゴブリンが薄い金属板の胸当てを着用し、剣を掲げていた。
「10匹のゴブリンソルジャー……か? 全員お揃いの胸当てを装備してるなんて、見たこと無いな。それと強化魔法か」
ゴブリンの装備など、倒した相手から奪うので統一性はない。それにあの強化魔法……。
「ゴブリンソルジャーじゃないですかっ。それになんか強そうですよ」
目視できる距離にまで狭まった時、後ろにいるピアが、悲鳴を上げた。
「おう、よくわかったな。強そうに見えるのは、奴らに強化魔法がかけられているからだ」
ゴブリン達の身体は、赤色のオーラに包まれている、あの特徴は腕力強化だろう。つーか、単発でかけてるので、それ以外の効果はない。俺からしたら捨て身の攻撃だ。
「強化魔法までかかってるんですかっ!?」
「取り乱すな。底の知れた魔物に、いくら身体強化を図ったところで、たかが知れている」
「ゴブリンソルジャーだけでも私には脅威ですって。それに強化されてるなら、奥にはメイジがいる証拠じゃないですか」
「いや。それ以上に厄介な奴がいる」
「この奥に、メイジの上位種がいるってことですかっ!? そんなのあなた1人では、さすがに荷が重いですよ。今こそ戦略的撤退を進言します。早くお家に帰って、戸締まりしましょう」
気が動転している為か、後半なに言ってるか分からない。──ええい。服を引っ張るな!
「ゴブリンの上位種? そんな生易しいもんじゃない。なんたってこの先には、あいつがいる」
「あいつぅ?」
ピアは気持ちいいぐらいの、間の抜けた声を上げてくれた。
「あいつって……あいつかあぁぁ!」
愕然とした様子で、今度は叫び声へと変わった。
「悪い冗談はやめてくださいよ。いくらアリベルトさんでも、ゴブリンに強化魔法をかけるなんてこと……ありませんよね?」
ピアの口調からは、どんどんと自信が無くなっていく。
「あの無駄に緻密な魔法の構成に魔力の特徴。間違いなく、アリベルトの仕業だと断言できる。それに」
俺は振り向きざまに、服にしがみついているピアの手を払い──くそっ。
──払い除けて。ずいっと顔を近づけてから、言ってやる。
「俺は身体の自由を奪われて、あのくそくだらないテンプレ劇場の人形にされたってこと、忘れたとは言わせんぞ」
「あはは。パーティー用のとんがり帽子に、かぼちゃパンツ履かされて、伝説の勇者役をやらされてましたもんね。あのコスチュームは、たしかに伝説級でした」
「ほう、言ってくれるじゃねーか。それだと覚悟はできてるって訳だな」
「たははは。覚悟なんてそんな。それよりもだいぶ接近されちゃいましたし、そろそろ対応してくれないと、危ないと思うんですよ」
ずりずりと後退しながら、ピアは走り寄ってくる、ゴブリン共を指差した。
「たくっ、まあいいさ。ちゃっちゃと片付けてやるよ」
「あ、あの。わたしは」
「戦わなくていいぞ。そこに居てくれ。そっちの方が動きやすいし、計算もしやすい」
下手にちょろちょろされると、見失ったり、ナイフを投げた時に、当たるかも知れんからな。
「そ、そうですよね。私は大人しくしときます」
ピアが手に持っていたカードを、すーっとポケットにしまうのが見えた。
「ギルド規定など関係なく、ピアが強くなりたいと願っているなら、好きにすればいいさ、思いっきり投げてみろよ。俺からギルドに余計な事を言うつもりは無い」
静かに頷くと、またカードを取り出した。
「そうだ。護符石は装備しているか? あれは首から下げてないと、効果が現れないぞ」
「はい、大丈夫です。ちゃんと身に付けてます」
そう言って、じゃらじゃらと5個の護符石を、シャツの内側から取り出して、見せてくれた。
「全部ぶら下げてるんかい」
「当たり前じゃないですか! いちいち鞄から取り出して、身に着けてられませんよ」
ばかすか敵の攻撃を喰らうことが、前提なんだな。
「私が先に仕掛けてもいいですか?」
「そりゃあピアは後衛の遠距離攻撃タイプだからな、でも大丈夫か?」
「ええ今度こそ大丈夫です。見てて下さい」
ピアは指にカードを挟んで、構えを取った。
そして……。
「ウインドブラスト」
「魔法かーい」
ピアの指先から放たれた圧縮された空気は、地を駆ける旋風となって、ゴブリンへと猛進していく。
それは軌道を変えることもなく、ただひたすらと真っすぐに地を這っていき、たまたま正面にいた1匹のゴブリンを、運良く吹き飛ばした──そんなように見えた。少なくとも俺の目には。
「ウインドブラストにしては、規模も効果範囲も狭いな。こんなんだったけか?」
威力に物足りなさを感じるのは、無意味に余波の大きい、ユリの魔法を見慣れてしまった弊害かもしれない。
「ごちゃごちゃ言ってないで、敵の態勢が崩れた今こそ、斬り込みに行くチャンスじゃないですかっ! 早く行きなさいよ」
「態勢が崩れたって、言ってもなあー」
1匹は倒したが、他のゴブリンは動じることもなく、走り込んでくる。
「肝心なのは3つ先の柱よりも、こちら側に侵入させないって事ですからね。ほら作戦も決まったんですから、キャンキャン噛みついてきなさい」
「単純明快な作戦ありがとよ」
俺も駆け出して、ゴブリンへと詰め寄って行く。ゴブリンは不規則に並んでいるだけで陣形は無い。
狙うは、中央付近のゴブリンからでいいだろう。
俺が速度を上げた、ほぼ同じタイミングで、左サイドの3匹が、俺との距離を取り出した。
「なんかこっちに来そうな気配ですよ。分身の術で、食い止めてください!」
「できるかっ!」
一気に速度を引き上げ、狙っていた奴の顔面に向けて、飛び蹴りで襲いかかる。
「ブッペェ」
蹴り飛ばした勢いのまま、靴底に張り付いたゴブリンの顔面ごと着地して、頭部を破壊してやった。
「まずは1匹」
素早くゴブリンが手にしていた剣を奪い取り、横薙ぎに、力強く剣を振り抜く。
パッキィィン。
振り抜いた瞬間に、刀身が砕け散ったが、かまいたちは飛ばすことができた。
「粗悪品もいいとこだな」
広範囲に広がった旋風に、3匹のゴブリンは切り刻まれ、地面へと散らばっていった。
「ナイスです。けど次からは、グロさ控えめでお願いします」
まったく、注文の多いやつだ。
「ギィヤァ」
近くにいた奴が、大振りで剣を振り下ろしてくる。渾身の一撃というやつだ。
「おっと」
半歩ほど後ろにさがり、相手の斬撃を躱す。大きく弧を描いた刀身は、そのまま地面を叩きつけ、火花を散らした。
「ギィィ」
火花を散らせられるほどの腕力は手に入れたようだが、身体がその力についていけていない。ゴブリンは地面を打ちつけた衝撃で、身体を痺れさせている。
「つまんねぇ奴だな」
今度は1歩前へと踏み込むと、ゴブリンの両目を狙って、刃を打ちつけた。
「ギヤァァァァァ」
激しく後方へと転がっていき、動かなくなる。
「残り半分か」
残りのゴブリンへと向きなおり、ぐっと下半身に力を込めた──その時だった。
シュッ!
鋭く空を切る音が、微かに聞こえてきた。
「くっ」
肺から空気を吐き出して、倒れ込むように身をかがめる。その直後に、小さな影が頭上を通り過ぎていった。さらに一呼吸遅れて、後ろからピアの大声が響く。
「危ないですよ! しゃがんでください」
遅いわっ! 投げる前に合図しろ。
「ギヤァ」
カードはゴブリンの眉間に深々と刺さったが、決定打にはならなかった。
当たり前か。鋭く切れ味はいいが、やはり重さが足りない。
「まだまだあぁぁぁ!」
ピアがゴブリンに向けて、指を弾いた。
指先から瞬間的に生じた、小さな魔力火は、瞬時にカードへと到達すると、チリリと火花を散らす。
ずどおぉぉぉんっ!
カードが小規模な爆発をおこした。近くにいたゴブリンも巻き添えを食らって、爆炎の中へと消える。
直撃を受けたゴブリンは上半身が吹き飛んでいて、見るも無惨な状態だ、両隣にいたゴブリンも焼け焦げていて、似たような状態だった。
爆炎を免れたゴブリンもいたが、顔や腕など露出した肌に、粉々に砕け散って飛来したカードの破片に撃ち抜かれて、すでに虫の息となっている。
爆死に焼死。こっちのほうがグロいと思うのは、俺だけか?
「へえ。そんな使い方もできるのか」
「くうぅぅぅぅ。1枚銀貨5枚もするのにぃぃぃぃ」
「なら武器を変えろよ」
喜ぶのかと思ったんだが、この反応には呆れてしまう。
「バカ言わないでください。私にとっては死活問題なんです。ガッポリ儲けられる冒険者と、一緒にしないで下さい」
貧乏そうな冒険者も、いたと思うんだけどなぁ?
「そうか。だがその死活問題とやらは、もう目の前にまで来ているぞ」
「本当にこの先に、アリベルトさんがいるんですか?」
ピアは目を凝らして、薄暗い闇の中に人影を探している。
「まあ待ってろ。もうすぐだ」
俺の言葉を合図にするかのように、ぼっと、闇の中に炎が灯った。
「…………んん!?」
魔法で灯した、人工的な灯りではなく、自然由来の火の灯りが、地面から2メートルぐらいの高さで、ふよふよと浮いている。
ピアはかがり火に照らされて、薄ぼんやりと浮かぶ影がなんなのか、理解しようと努めている。
「あれって、なんですか?」
「松明だろ」
嘘はついていない。煌々と燃え盛っている炎は、松明によるものだ。
「そんなのは分かりますよ。その下で、もぞもぞ動いているのは、なんなのかって聞いているんです」
知らんほうがいいと思うが、どのみち寄ってこれば、嫌でも分かるか。
訝しげな顔付きだったピアも、全容を把握するにつれ、だんだんと顔色が青くなっていく。
「あの、あれってもしかしてゴブリンですか?」
「うむ。もしかしなくてもゴブリンだな」
ぱんぱんに腹が膨れ上がったゴブリンが、ふよふよと宙に浮いていて、こともあろうに、その口に松明が突き込まれていた。もぞもぞ動いている様に見えていたのは、手足をバタつかせているためだった。
悪趣味な松明の裏に、アリベルトの姿がちらりと見える。ピアは松明に気を取られていて、気が付いていないが。
──と、唐突に、アリベルトの宣誓でもしているかのような、高らかな声が響き渡る。
「ひとーつ、テンプレ見つけたら」
「うぇ、本当にアリベルトさんだったんですね。なにやってんですかね。あの人は」
「知らん」
しゅぼっと、あらたに松明に火が灯る。
「ふたーつ、2人でやってみよう」
「ひとりでやれっ!」
あいつのおかげで、突っ込むのが早くなった。まったく嬉しくはないが。
「そうですよ。2人だけでやってて下さいよ」
「……」
そしてまたひとつ、松明が燃え上がった。
「みいーつ、見上げた夜空に輝く4等星」
「せめて1等星にしたらどうですか」
さらにもうひとつ、松明に明かりが灯る。
「よぉーつ、良い子だけが行ける夢の国。テンプレランド」
「…………」
とうとう5個目の松明が炎を噴き上げた。それなりの光量が生まれ、あいつの姿もしっかりと視認できるようになった。
アリベルトの身体はキラキラと光を反射して、輝いている。
「いつーつ、いつでも咲かせてみせます、テンプレの華。それが!」
しゅざざざと、尋常じゃない速度で走り寄ってくる。松明もアリベルトに追従するように、近づいてきた。
はあっ! と軽快な声を上げて、アリベルトは高く飛び上がる。松明もついて行くかと思いきや、真っすぐと進み、俺達の手前でぴたりと止まった。たぶんこの中心が、あいつの着地点なのだろう。
くるくると回転しながら、アリベルトは落下してきて、俺の2メートルほど手前で着地した。
両腕を広げ、手首から先はかくんと下を向いている。片足立ちで立っていて、妙に前傾姿勢なので、上げた足の膝が胸にくっついている。
そして大きく一言だけ叫んだ。
「我らテンプレ満喫クラブです!」
とりあえず、かっこ悪いポーズだな。
「いろいろと言いたいこともあるんだが、なんだその格好は?」
アリベルトは身体中に宝飾品を身に着けていて、キラキラと輝きを放っていたのは、大粒の宝石だった。
「はあ、今日の私のファションがなにか?」
「なにかじゃありませんよ。アリベルトさん、そんなの身に着けてなかったじゃないですか。どうしたんですかそれ、白状しなさい」
ピアはゴブリン松明を気にしながらも詰め寄って行くが、視線は宝石に釘付けだった。
「1階を探索中に、隠し部屋を発見してしまってからというもの、私はずっと迷っておりました。どうすべきかを」
「ひとり占めしたかったんだろ」
「邪推はおやめください。いかにして単独行動に持ち込むのかを、考えていたに過ぎません」
「欲まる出しですよ」
ピアからも白い目を向けられているが、こいつは歯牙にもかけていない。
「ですから私は、それらしい事をそれっぽく、それこそ、そこそこ真実ぽっく語れば、実話であるぽっい話になるんじゃないかと、神像とはなにかを話したっぽいのです」
「つまりは嘘をついたんだな?」
「私は人生最大の過ちを犯してしまったと、悟りました」
うっとりと宝石を見詰めながら言われても、説得力はないぞ!
「お前の存在そのものが、世界の過ちなんだよ」
「それは返還してもらいますよ」
ねこばばするきか?
「なにを申すのですか。これは私が冒険の末に手に入れた財宝ですよ。探索中に獲得した物品は、全て冒険者に帰属すると、良い子の冒険者入門書にも記載されている事実です」
「それは未発見の遺跡に限ります。もしくは迷宮ですよ。この遺跡は発見者が発掘品を含めた権利を誰かに譲渡する前に、不慮の事故で死亡したため、国の管理下に置かれたんです。特殊な経緯があるにせよ、あなたがやってるのは盗掘なんですよ」
さらっと怖いこと言ったな。
「隠し部屋は未発見でしたよ。つまりは未踏区域です。すなわち私に発掘品の権利があるということです」
「そういうのを屁理屈と言うんです」
アリベルトは、やれやれといった感じで首を振った。
「ふむ。ピアさんの考えを矯正するのは、難しいようですね」
「ええそうですよ。私もギルド職員ですからね、引けません。それに出土品を持ち帰れば、あの破壊行為の言い訳にもなりますし」
本音がでたな。
「では、これでどうでしょうか?」
アリベルトはアイテムボックスから、小袋を取り出して、ピアへと渡した。
中身を確認すると、宝飾品が詰め込まれている。ピアはゆっくりと紐で口を縛ると、鞄の隠しポケットへとしまい込んだ。
「しかたありませんね。あなたの意見にも一理ありますし、賛成としときましょう。今回限りの特別措置ですからね」
「ありがとうございます。さすがはピア様。冒険者の守護神とは、貴女様で間違いありません」
「お前ら、俺という目撃者を忘れてるだろ」
「忘れてなどおりません! 私は……」
目を見開き、かたかたと全身を戦慄かせて、アリベルトは口元に手を当てた。
「今度はなんだ?」
面倒なやつだ。なにを驚いてんだ。
「私、間違っておりました。ピアさんと2人ならば問題ないと、安心しておりましたが、こんな事態になっていようとは。私は自分の不覚さを嘆いております」
なんの事かと思っていると、アリベルトは、俺の服の裾を指差した。




