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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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ゴブリン討伐。ズバッと解決編①

 ──ずっん…………どすん……どすん、どすん──。


 足音の発生源が、確実にこちらに接近しつつある。


「なんか大きい奴がこっちに来てますよ。どうするんですか?」


 ピアが小声で問いかけてきたが、俺は人差し指を立てて、静かにするように促した。


 今は魔素の操作はしていない。神殿のいたるところに開けられている開口部から、魔素が流入していて、濃度が正常値に戻りつつあった。


 それでも領域が発生する気配はない。どうやら完全に機能を失ったようだ。


 不明瞭だった周囲の情報が、魔素を媒介にして、鮮明に浮かび上がってくる。


 ジャイアントゴブリンと呼ばれる大型種が1匹、先頭を歩いていて、そいつに付き従うように、無数のゴブリンが後ろに控えている。


(アリベルトも、こっちに向かってきているようだな)


 1階の入り組んだ造りとは違い、このフロアの大部分が、ひとつの空間としてあけられていた。


 だからどこの階段から上がっても同じなようで、まだかなり遠くにいるようだが、左奥のほうから、アリベルトがゆっくりと移動しているのを感知できた。


 ただ気になるのは、あいつの周りにもゴブリンがいることだ。戦闘しているわけではない。気配からして、どうにも一緒に移動しているようだった。


 はっきりと嫌な予感がするが、現時点では、どうにもならないので無視していよう。


「とりあえず、そっちの柱の陰にでも隠れるか。おいピア……」


 こそこそする必要も無いが、ピアがいるので、ひとまず様子見でもしようかと声をかけたが、振り向いた先に彼女はいなかった。


「はやくっ! こっちこっち。何してるんですか、見つかっちゃいますよ」


 あいつは速攻でこそこそとしていた。

 柱の裏に隠れて、怯えた様子で手招きしている。


「そういやあ、敵に対して敏感だったな。そこまで脅威ではないんだが、索敵能力が高いと、恐怖も倍加するのかねぇ」


「ぶつぶつとひとり言いってる場合じゃないですよ。はやくこっち来なさいって!」


「そんなに焦るなよ。さっきよりも多いが、所詮はゴブリンだ。パッパッと斬り裂いてやるよ」


 剣を引き抜いて、アピールしてみたが、無駄だった。


「折れた剣を後生大事に使っている貧乏剣士が、何いってんですかっ! 馬鹿いってないで隠れなさいよ。私まで見つかっちゃうじゃないですかっ」


 無能から貧乏に変わった。ランクアップと思えばいいのだろうか?


「それで、隠れてどうするんだよ?」


 彼女の横に移動して、質問してみた。


「それはもちろん、やり過ごすんですよ。これは戦略的、知らんぷりです」


 戦略って付ければ、なんでもいいって思ってるだろ。


「あのなあ。俺達がここにきた目的って、なんだったのか忘れちまったか?」


「害虫駆除ですよ。忘れるわけ無いじゃないですか」


「だったら、どう行動するべきかは、分かってるよな」


「なるほど。毒餌を撒くんですね」


 なにがなるほどだ! まるっきり分かってないじゃないか。


「そうと決まれば、さっそくギルドまで取りに行ってきます。これぐらいだったら手伝っても、たぶん規則違反にはなりませんし、なんなら取りに行っている間に全滅させても、私はいっこうに構いませんよ」


「むあてぇい!」


 その場から逃げようとした、ピアの襟首を猫づかみでとっ捕まえる。


「俺が前で戦うから、お前は後ろで見ていろ。だいたいそれも仕事だろうが」


「そんな甘言いって、私を油断させようたって、そうはいきませんよ。あなたには前科があるんですからね」


「前科ってなんだよ」


「また横流しして、私に戦わせようと画策してるんでしょ? もうその手にはのりませんよ」


 正確には頑張れって、言っただけなんだけどな。


 しかしそうか。この際だから、ピアの武器の性能を見てみたいな。カード型の飛び道具など俺は知らなくって、ちょっとショックだったし、それこそ使い勝手がよければ、数枚仕込んでいてもいいだろう。


「まあ確かに、頼みたいことは、ひとつあるんだけどよ」


「ほら! やっぱり。自分の仕事を押し付けるんだもん。私は職員ですから、なにを言われても戦いませんよーだ」


 俺は鞄に手を突っ込み、ごそごそと金貨袋を引っ張り出した。そこから1枚だけ取り出して、ピアには見えないように手で握りしめる。


 やる事はいつもと同じだが、たまには趣向を凝らした前ふりを入れてもいいかもしれない。その程度の思いつきだった。


「まさかあめ玉なんかで、私を釣れると思ってます? 見くびらないで下さいよ」


 ピアのことはいったん無視して、俺は金貨を握りしめたまま、天を仰いだ。


「雨季の大雨で、肥沃な土壌は下流域へと堆積し、黒い沃土は秋の豊穣を約束した」


「いきなりなんですか? 収穫祭は半年以上、先ですよ」


 領地の収穫祭で、司祭が捧げていた祈りが、たしかこんな感じだった。うろ覚えだったが、だいたいあっていたようだ。


「えーっと……ドラゴンだったかなんだったか、いや魔物だ魔物。あれ? 人だったかな? とにかく天地が狂い、豊穣神も地上から去ってしまい、豊かな実りも得られなくなってしまった……だっけか?」


 うろ覚えだったので、だんだんとおかしくなってきた。しかしなにをしようとしてるのか理解できたようで、ピアは瞳を輝かせて、恵みを受け取るように、両手を差し出してくる。


「そんな祝詞なんてどうでもいいですよ。ほらほら。最後は人々の新たなる実りとならん。ですよ」


 収穫祭の日は、教会関係者が街を練り歩き、神への感謝と翌年の豊作を願って、集まった人々に、収穫物を配っていく祭事だった。


 それは必ずしも作物だけではなくて、相手によっては金品だったりもする。


「俺は司祭ではないから、対価は要求するぞ」


「えっ!? そうなんですか」


 ピアは、おもいっきり渋い顔を見せてくれた。


「ピアの持っている、武器の性能を見てみたい。そのカードにどれだけの殺傷能力があるのか、興味がある」


「おもった通り、私も戦わせようとしてるじゃないですか」


「安心しろ。さっきも言ったが敵は通さん。後衛職として、後ろからちょこちょこっと、投げてくれればいいさ」


「あなた達はルールという意味をご存知ですか? 物は壊すわ人は使うわ。冒険者だからって、なんでもかんでも許されるわけじゃ……」


 俺は無言のまま、ぺかぺかと黄金色に輝く硬貨を、ピアに見せつけた。


「しかたありませんね。ちゃんと秘密にできるのなら、私の力の片鱗を見せつけてあげましょう」


 秘密にしたいのは、お前の方だろうと思ったが、無駄口はやめた。

 なんにしろ彼女は、犬がお手をするように、素早く手のひらを合わせてくる。


「前々から思ってたけど、お前って、お金にがめついな」


 俺の一言で、すぐに不機嫌な表情になると、ぎちぎちと俺の手を握り締めてきた。


「うるさいです。シャルウィルの大火で、住んでたアパートが焼け落ちちゃって、今は何かと物入りなんです」


 言うことだけ言ったら、さっと俺の手から金貨を奪い、ピアは鞄の奥に金貨を押し込んだ。


 ──どす、どす、どす。


 ゴブリンよりも重く粘ついた魔力風が、足元から流れ込んでくる。


「やっとおでましみたいだぞ」


 奥の方から、のそのそと歩いてきたジャイアントゴブリンは、先ほど殲滅したゴブリンの死骸の前で、足を止めた。


「げっ。ジャイアントゴブリンじゃないですか、あんな異常種がいるなんて聞いてませんよ」


 ピアは両手で口元を押さえて、悲鳴じみた声を上げた。


 ジャイアントゴブリンの身長は、3メートルはあろうかという巨体で、身体の肉付きは……ちょっとデブっとした体型だった。


「オラッ! コノヤクタタズドモガァ。アッサリシンデンジャネーヨ」


 あの大型種は、ゴブリンの死骸を蹴り飛ばしたり、踏みつけたりして、うっぷんを晴らしている。その後ろで見ているゴブリン共は、恐怖のあまり震え上がっていた。


「あいつだけは先に倒してくださいよ。そしたら私も本気の実力で、後方支援してあげれますよ。うん」


 そんなもん関係なく、いつでも実力をだせるようにしといてくれよ。

 カタカタと震えて、今にも逃げ出しそうなピアに、冷たい眼差しで見据えているのだが、以心伝心は無理だった。


「へいへい、わーたよ」


 目標はここから差し渡し、4、50メートルといったところか。本気で投げれば届かないこともないが、柱に隠れながらだと、少しばかり難しい。


 懐から投げナイフを取り出して、俺は魔素を流し込んだ。螺旋状に彫られた紋様に、すーっと光が走り、刃先まで光が到達すると、ナイフ全体が淡い燐光に包まれる。


「魔素の量は、これくらいで十分だな」


 効果としては付与魔法や補助魔法に似ているが、自然界に満ちている魔素と、体内で生成される魔力とでは、根本的に物質としての性質も純度も違うからなのか、その特性は大きく異なっている。


 俺が物品に魔素を流し込んでも、魔素そのものは物に定着したりしないので、するりと抜け落ちてしまう。だから魔素が抜けないよう保持する為には、魔術文字が必要になってくる。


 このナイフの紋様は、ユリに彫り込んでもらったんだが、これは魔素を溜め込み、魔法的な現象を引き起こす為の文字だそうだが、なんて書いてあるのか、どんな意味があるのか、俺にはさっぱり分からない。そもそも文字にも見えないし。


 ただ分かることと言えば──


 金を取ったくせして、人を魔法の実験台に付き合わせるわ、物騒な魔獣と戦わせるわ、とにかく酷い目にあわされたってことだ。

 ナイフを持って瞳を閉じると、走馬灯のように思い出すので、しっかりと前だけを見据えていよう。


「ほいっと」


 目標に向けてナイフを投げた。


 送り込んだ魔素の量で、強化力も効果時間も変わってくる。このナイフには硬質化の効果を与えてあった。


 そして大きな特徴として、淡く光っている間は、魔素そのものの特性を持つことだった。つまりは投げたあとに、魔操術で軌道を自在に操ることができる。そのうえ魔素に包まれているせいか、認識力も低下するようで、相手の懐に潜り込みやすい。


 ──さらには。


「ほら、いってこい」


 魔素を操り突風を起こす。


 俺が生み出した魔素の追い風にのせて、ナイフの速度と飛距離を伸ばすこともできる。


「オマエラァァァ。シンニュウシャヲ、イマスグココヘツレデ──ゴッペエッ」


 狙い違わず、ジャイアントゴブリンの頭部を吹き飛ばしてやった。頭を失ったゴブリン大型種は派手に転倒して、そのまま血の海へと沈んだ。


 ナイフは速度を落として柱に突き刺した。あそこならゴブリンの手も届かないだろう。


「ほら、倒したぞ。次はピアの番だ」

 

 呆けたピアに向きなおり、先を促してやる。


「……なんだ、雑魚でしたか」


 はっはんと鼻で笑い、ピアはゴブリン共を見下しはじめた。別人かってほどの豹変っぷりだな。


「ギャハハハハ。ザーコ、ザーコ」


 虫の死骸に群がるアリのように、ゴブリン共がジャイアントゴブリンを取り囲み、死骸を蹴り飛ばしたり、身体にのってぴょんぴょん踏みつけたりと、騒ぎ出した。


「ゴブリン社会も、人間と大差ないですね」


「そうだな」


「さてと、不本意ですが私の実力を見せてあげましょう。邪魔になるので、雑魚は後ろに下がってなさい」


 ピアはベストのポケットから、クラブの9のカードを取り出すと、構えを取った。


「はあっ!」


 ピアは大振りな動きでカードを投げた。


 指先から弾かれたように飛んでいったカードは、滑るように滑翔していくと、すぐ近くの柱に弾き返されて、ピアの後ろにいる俺の頬を掠め、地面へと突き刺さった。


「なんで前に投げてるのに、後ろに飛ぶんだよ」


「だって、柱に弾かれちゃったんですもん」


 カードを拾って、しゅんと落ち込んだピアへと返してやる。


「つーか。ここから届くのか?」


 俺の指摘を受けて、ピアはじっとゴブリン共を見詰めた。


「サティアさんのナイフが届いたので、いけると思ったんですが、なんか無理っぽい気がします」


 まあそうだろうな。


「柱に隠れながら前進しますので、サティアさんは堂々と歩いて行って下さいよ」


「敵の注意を引きつけろってか。まあいいだろう」


 俺は隠れることもなく、ゴブリン共に迫っていった。


 だがジャイアントゴブリンの死骸に夢中になっているせいか、半分ほど進んでも、奴らは俺の接近に気付く気配すら見せない。


「なんかここまでくると、屋敷で過ごしてた時の疎外感を思い出すな」


 まさかゴブリンから精神攻撃を受けるとは、思ってもみなかった。


 さらに前進して、10メートルほどの距離で立ち止まった。

 後ろの柱に隠れているピアも配置についたようだ。狙いをさだめている姿が、魔素を通してはっきりと見える。


「おい。いつまで遊んでいる」


 俺が声を張り上げると、びくりと肩を跳ね上げて、全員がこちらに振り向いた。


「グギャ」


 ゴブリン共は見覚えのない俺の顔を確認すると、首を傾げた。そしてお互いを見つめ合ったあとに。


「ギャハハハハハ」


 腹を抱えて大爆笑してくれた。


 折れた剣を持った人間が、ひとり現れても、脅威にはならないのだろう。こいつ達の笑いからは蔑む感情しか、伝わってこない。


「いいねぇー。その笑いをすぐに別の笑いに変えてやるよ」


 奴らとの距離など、あって無いようなもの。後ろに敵を通さない為にも、一瞬で間合いを詰めて、斬り伏せていくことにしよう。


 俺が一步を踏み出すのと同時に。


 ──とすっ。


 背中に軽い衝撃を受けた。


 何が起きたのかは、ずきずきと脈打つ痛みで瞬時に理解できた。ぶすりと何かが背中に刺さったのだ。


「くそっ。なんか背中に刺さった」


 すぐに背中に手をまわし、引き抜いて確認してみると、それは見覚えのある、クラブの9だった。


「…………」


 鎖帷子を着用しているが、うまい具合に隙間を突いたようだ。自然と全身がわなないて、手の中のカードが、めきりと音を立てて歪んだ。

 しかし薄くて軽いのに、驚くべき頑強さだ。本気で握ったのだが、少し曲げるだけで精一杯だった。


「わーい。初めて命中しました! やったぁ~」


 文句のひとつでも言ってやろうと思った時に、後ろからピアの歓声が聞こえてきた。


 そして前からは。


「ギャハハハ。バーカ、バーカ」


「コント、コント。マヌケナヤツラ」


 正面にいる2匹のゴブリンが、俺に指を向けて、ゲラゲラと笑い飛ばしてくれた。他のゴブリン共も、つられて笑っている。


「お前とお前。俺を指さして笑ったな。お前らは地獄を見せてから、始末してやるぜ」


「ギョッヘェェェェ!」


 俺の熱い気持ちが伝わったようで、奴らは一目散に逃げていった。残りのゴブリンも、ぴくりとも動けずに固まっている。


 ひとまずゴブリンは放っといても大丈夫だろう。くるりと振り返り、はしゃいでいるピアへと笑顔を向けてやる。途端にピアの動きも止まった。


「なあピア。初めてってどういうことだ? 命中率が低いだけじゃなかったのか?」


 初撃を柱に当てていたので、期待はしていなかったが、これは予想以上にたちが悪い。


 よたよたとフラつきながら近寄っていくと、ピアはずりずりと後退りした。


「あっ。いや、普段は訓練での動かない的なんですが、初めての実戦で、しかも動く標的に当たったのは、初めてってことなんですけど」


 俺は一歩足を前に出しただけなので、ほぼ動いていなかったがな。いや、そんな事はどうでもいいか。


「へえぇぇぇー。なるほどなぁ。つーことは、標的は俺だったってことか?」


「それは違いますけど……」


「なら、ハズレだっ!」


 俺は全力で、カードを地面に叩きつけてやった。

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