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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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ゴブリン討伐休憩中③

 スマホとパソコンで文章の表示に差異がある場合、途中の文章が読みにくくなってるかも知れません

「つまりだ。ギルドの運営は、支部長であるギルドマスターに権限があって、あのイカれた男が好き勝手できるってことで、間違いないか?」


 俺は真顔で問いかけたが、ピアはくもった表情を見せている。


「ずいぶんと聞こえの悪い言い方ですね。ギルドには、本部から通達された大まかな要綱がありまして、それを守ったうえで、細かな規準や規則、それに規律なんかの制定権が、ギルマスにはあるってことですよ」


 意味合い的には、変わらんと思うが。


「ですから国によって、特色は大きく異なりますし、その国の地方でも変わってきます。これはテンプ王国内においてもそうですしね」


「それだと他所の支部で依頼を受けるときは面倒だな」


「大丈夫ですよ。ギルパスを見せれば所属が分かりますので、他支部所属の冒険者が依頼を受ける場合は、その都度、重要な部分は説明することになってます」


 なんかピアの説明を聞いていると、ギルドの受付にいるみたいだ。


「確かにそうか。本部から一方的に縛られると、動きが固くなるもんな。柔軟性を保つには、個別で決めたほうがいいってわけか」


「さすがはお利口なぴよこです。地域で文化や風習に習慣も違いますから、その土地にあった方法で、柔軟に対応しなければなりません。そういった能力がギルドマスターには必要ですし、求められているのです」


 久しぶりにぴよこと聞いたきがする。


「じゃあ。あいつがやってる、テンプレごっこはなんだ?」


 少し意地悪な気もするが、鋭く切り込んでみた。


「……あれは本人曰く、息抜きだそうです」


「ほーん。その頻度はどれくらいなんだ?」


「そういえば、日課になってたかな〜」


「毎日がパラダイスじゃねーかっ! まあいいさ。それよりも、さっきの評価の話を聞かせてくれよ」


 しどろもどろになって、動きが悪くなったピアを横目に、俺は話を促した。


「えっと、サティアさんが言ったように、どこの支部でも専門の査定員を養成しています。なかには高ランク冒険者に依頼して、評価を済ましてしまうギルドもありますが」


「そうだよな。普通は行かないよな」


「念のため言っときますが、冒険者に依頼するのは、田舎にあるような、小さな支部だけですからね」


「そうか。それでシャルウィル支部では、一般職員が査定業務まで担っているのは、なんでだ?」


 ずりずりと、背中を深く柱に沈み込ませて、ピアは天井を見上げた。


「ギルマスが、ギルド職員になりたてだった頃。魔物のスタンピードで、街が壊滅したそうです」


 ぽつりぽつりと話しだしてくれたピアに、補足を入れるように、俺も言葉をつなげていった。


「今でこそ落ち着いてきてはいるが、300年ほど続いた、人類の混迷期の余波だとかで、ほんの2、30年ぐらい前までは、頻発していたみたいだな」


 戦闘訓練だけじゃなく、座学のほうも家庭教師から学んでいたので、こっち方面については、それなりに講釈はたれられる。


「そうですね。社会情勢不安から、魔物の間引きが疎かになっていましたし、それに伴って冒険者の質も低下してました。そこに魔物の繁殖期が重なって、世界規模で荒れてましたからね。それにしてもお利口さんですね。カンペでも用意しているんですか?」


 なめんなよ!? 腐っても元貴族だぞ。


「えーそれでですね。当時のギルマスに、魔物と戦う力は無かったそうです。しかし戦う術がなくとも、住民の避難誘導ぐらいなら出来るだろうと、思っていたそうですが、現実はそれすらも叶わずに、悔しい思いをしたらしいんです」


 俺の冷たい視線を、無理やりに気づかないふりをして、ピアはあとを続けた。


「そんな経緯があるものですから──たとえ一般職員でも、街の守り手になるべく、最低限の戦闘訓練は受けるべきだ──これがギルマスの考え方であり、ギルドの運営方針になったのです。その一環として、私達が査定業務をしているんです」


「……結構まともな人間だったんだな。はっきりと明言するのは、はばかられるが」


「まあ、そういうことです。裏にある訓練場も、今のギルマスが整備したんですよ。一般開放もされてますので、誰でも使用できますしね」


「それなのに、ピアはゴブリン相手にも苦戦するんだな」


 俺の一言に、ムッと眉を曲げて、ピアは頬を膨らました。


「私は後衛職だって、言ったじゃないですかっ! これだから冒険者ってのは、自分本位な人間ばかりで困るんですよ」


 今のは失言だったかもしれんが、もうちっと感情の抑制に、努めてもらいたいもんだ。


「いくら専属とはいえよ、別の人に同行してもらったほうが、よかったんじゃないか?」


「そんなの無理ですって。こんな危険がともなう依頼なんて、代わってくれる人なんていないですよ。それに私にとっても、青天の霹靂だったんですから」


「そうなの?」


「これから冒険者になろうとしている、実績の無い人が、いきなり高ランクの依頼を、請け負えるわけ無いじゃないですか」


「言われてみればそうだな。ほんらい俺が受注できた依頼ってのは、どんな内容なんだ?」


「近場で雑草むしったり。そこらにいる、群れからはぐれた魔物を狩るぐらいですよ」


 迷うことなく、ピアは答えてくれた。


「それにパーティーを組むにしても、ミスリルランクの人が、新人冒険者と組むなんてありえませんよ。よくて鉄級クラスですね」


 ミスリルは上から3番目の、上位冒険者だって言っていたな。あいつの実力からしたら、納得はできるか。


「この依頼を達成したら、俺もミスリルランクになれるのか?」


「はあ? まだそんなおめでたいことを夢みていたんですか? ちゃんと現実を見てくださいよ」


「どういう意味だよ」


「まっ。帰れば分かりますよ」


 ぷいっと、そっぽを向かれてしまった。


「もしかして、ピアって冒険者のことを、毛嫌いしてるのか?」


「もしかしなくても嫌いですが」


 ぎろりと睨みつけて、即答してきた。


「なんで?」


「なんでって、そんなの冒険者なんて」



 忠       汚      普   

 告 頭   見 い バ 強  通

 を が   栄 臭 カ 欲  に

 聞 悪   っ い   で  キ

 か い 意 張 厚   意 逃モ

 な   地 り か ゴ 地 げい

 い   悪   ま ミ 汚 足

 ナ  自    し く い だ

 ル  信    い そ   け

 シ  過    の 野   は

 ス  剰    三 郎   速

 ト  だ    拍     い

    し    子


 なんだ? この罵倒の雨は。

 他人が見たら、絶対に俺がいじめられているように映るだろうな。


「そ、そうか。そんなに嫌っているんなら、別の職に就くってのも、ありだと思うぞ。これだとなんでギルド職員になったのかも、謎だしな」


 給金がいいから辞めないのだろうか? そんな疑問を浮かべていたら、ピアはぼそりとつぶやいた。


「──でも、優しかった」


 ピアは両膝を胸の前まで引き寄せて、抱え込むように脚を抱き締めると、顔半分を膝の間に沈み込ませた。


「…………」


 なに、この空気? 重いんだけど。


「とりあえず研ぎ終わったし、片付けちゃおうかな」


 どこか居心地の悪い空気にさらされて、いたたまれない気持ちから逃れようと、言葉を発しながら、手を動かしていた。


 片付けと言っても、剣を収め、砥石を鞄に仕舞うだけであり、すぐに終わってしまい、時間が逆戻りでもしたかのように、またもとの位置へと戻ってきた。


 話の着地点が、分からなくなってしまったんだが、俺はどうすればいいんだ?


 膝を抱えて、地面を見ているピアに、内心問いかけてみたが。


「…………」


 返事はない。あたりまえか。


「──いたんですよ」


 絶望しかけた時に、ピアのかすれた声が聞こえてきた。


「ん?」


「私にもね、いたんですよ。幼馴染が」


 過去形ってことは、今はいないんだよな。


「どこかに引っ越したのか?」


 そうあってほしいと、これ以上は、重い話にならないでもらいたいと、祈るように聞いてみたが、叶わなかった。


「帰還しませんでした」


 ピアは軽く首を振って、力なく答えてくれた。


「……冒険者だったのか」


 こくりとうなずき、ピアは言葉を続けた。


「私達はシャルウィルの街で生まれ育ちました。田舎すぎず都会すぎず、程よく発展した、この街で。私には丁度いい住みやすさだったんですが」


「彼にとっては違ったと」


「成長するには物足りなくて、かといって、のんびり暮らすには騒がしい。こんな街で生きてたって、平凡な人生で終わっちまう、だから俺は冒険者として成り上がってやる。小さな町にでも、俺の銅像が建つぐらいにな──あの人はそんなことを言ってました」


 どこか思い出に浸るように、ピアは微かに笑った。


「なんで冒険者なんだ? 選択肢なんて、他にいくらでもあるだろう」


「手っ取り早いからですよ。腕っぷしひとつで有名になれますからね。そんなだから、お貴族様からは平民版の騎士物語って、揶揄されるんですけどね」


 興味がなかったから、講義のときは聞き流していたが、そんなことも言っていたっけ。


「あの人が冒険者になるって言った時に、私はやりたいこともなかったので、ギルド職員の試験を受けたんですよ。それが職員になったきっかけです」


 ピアは頭を上げて、漠然と天井を見上げた。


「お互い15歳で若かったんです。だからなにも知らなくて……今でも若いですよ」


 しっかりと余計な補足を入れてくる、ピアの抜群の安定感が、今だけは頼もしく感じる。


「それであの人も息巻いていて、新人にとって一番危険な半年目と言われている時期に、消息を絶ってしまいました」


「半年ってことは、評価期間が終わって、わりと早い時期だよな? それなのに気が大きくなっちまうんだな」


「当時の運営方法は、今と違っていて登録するだけでしたし、依頼受注も掲示板から本人が選んでいました。ランク制限はありましたが、臨時パーティーを組めば、身の丈に合わない依頼も、請け負うことができましたし、抜け道というか、ゆるい部分はありましたね」


「現状では、緊急依頼など特別な事情が無い限り、臨時パーティーは禁止になってたんだっけ。だから彼は無茶をし過ぎちまったのか」


「……無知でしたから」


 ピアはまた下を向いてしまい、丸みのあるショートヘアーに隠れた顔には、はっきりと陰りが見えた。

 もうこの話はやめたくなってきたんだが。だいたい冒険者嫌いの理由も、よく分からんし。


「それにもう区切りはつきましたから、大丈夫ですよ」


「区切り?」


 なんの事かと聞いてみたら、なんてことは無い。事務的な話だった。


「帰還せずに5年が経つと、死亡認定されて、ギルド員資格が抹消されるんです。パーティー人数が増えた時のためにも、大事なところは忘れないで下さいよ」


「そうだったな。……本当に大丈夫か?」


 うつむき膝の上に顔を埋めては、落ち込むピアの横顔を視界の端に捉え、聞いてみた。

                          

「大丈夫です。私なりに決別もしましたから」


 右手で髪を握りしめて、ピアは力強く答えてくれた。


「そうか。まあどこに向かったか知らんが、その場所の調査依頼がこれば、俺は受けてやってもいいぞ」


 俺の言葉を聞いて、膝の上でごろんと顔を向けてきたピアが、じっとこちらを見てくる。


「なんだよ」


「いえ、なんでもありません」


 ピアは軽く鼻で笑い飛ばすと、いつもの調子で言ってきた。


「そういうのを余計なお節介って言うんですよ。でも、考えておきましょう」


「ああそうかい。まったく、人がせっかく親切心で言ってやってんのによ」


 俺の愚痴をよそに、ピアはすくっと立ち上がると、服についた砂埃を払う。


「休憩はもう十分です。そろそろ行きましょうか」


 ピアの幼さの残る造作に、普段から見せる子供っぽい仕草。どうやっても歳上に感じられないのだが、視界に映る彼女の微笑みは、ずいぶんと大人っぽく見えた。


「ほら行きますよ。どうしたんです? びびったんですか?」


(……領域が消失した)


 魔素の嵐が収まり、薄っすらと歪んでモヤのようになっていた空間が、正常に戻った。


「領域が消失した」


「えっ。そうなんですか? どうして分かるんですか」


 きょとんと疑問符を浮かべているが、あきらかにピアの表情は明るく見えた。


 遥か上方から、何かが崩れ落ちる音が聞こえてくる。恐らく屋上に建っていた尖塔が崩壊したのだろう。


「な、なななんですかっ! 何が起きてるんですか」


 ピアのことなどお構いなしに、もの凄い鳴動が、神殿全体を走り抜けていく。

 明り取りとして設えてある、四角い穴から外を見てみると、地上に降り注ぐ隕石のように、岩石が落ちていくのが見えた。


 アルベルトが神像の破壊に成功したのか、それとも自然消滅したのか、なんとなく後者な気もするが。


 これで少しはピアも動けるようには……なって欲しいな。


 ──ずっん……──


 淡い期待を胸に抱いていたら、奥の方から、それなりに重量のある重い足音が、微かに響いたのを、俺は聞き逃さなかった。


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