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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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16/29

ゴブリン討伐。休憩中

「私はもう動けませんので、ここで休憩を入れますが、いいですよね? て言うか断るなんてこと、あなたにはできませんもんね」


 ピアは息も切れてりゃ、頭もプッツンしている。ようはかなりのご立腹だ。

 現状では何も触れないで、そっとしておくほうが、俺にとって最良の選択肢だった。


 もちろん俺だって何もせず、放置していたわけじゃない。あのあとも気の利いた言葉を贈ったのに、罵声を浴びせられるわ、蹴飛ばされるわ、もう散々だった。きわめつけは護符石を5個もふんだくられた。


 一番美味しそうなゴブリンも譲ったのに、それすら食べ残しをして、俺が始末する羽目になるし。


 それについては褒美みたいなもんだったが。


 要するに、ピアのご機嫌取りに失敗したのだ。なんだかグニャグニャと掴みどころの無い壁が目の前にあるようで、思うように事を運ぶことができなかった。


 魔物よりも、ピアのほうが手強いと感じてしまったほどだ。俺にとってはこういった人種が、一番の天敵なのかもしれない。


「むしろ激しい戦闘のあとには休息は必要だ。疲れを残したまま、次の戦闘に入るのは危険だからな。どんなに小さな歪でも、時として大きな事態を引き起こしてしまう場合もある。今は安全なようだからピアの意見に賛成だ。一息入れよう」


 褒め称えるように言ってみたが、やっぱり効果はなかった。


 怒った顔を向けてくる。


「私が戦闘に参加するのはイレギュラーですよ。忘れちゃいました?」


 どうやら発言がずれているようだった。


「そうだったな。ならこれは謝礼だ」


 俺はポケットから銀貨1枚を取り出した。指で弾いて、ピアへと渡してやる。


「あれれ? 1枚だけですか?」


 くいくいと眉を上下させ、さらに要求する仕草を見せてくる。なんだかゴブリンが目の前にいるような気になってきた。


「ポケットにあるのは、これで全部だ」


 俺は銀貨4枚を追加で渡してやった。


「数も多かったし、しかたありませんね。今回の戦闘はサービスとしておきましょう」


 1匹も倒せずに、逃げ回っていたのを戦闘と呼ぶには無理があると思うが、指摘するのはやめよう。


「でも、まさかいきなり裏切られるとは、思いませんでしたよ」


 ピアは呼吸するように不満を漏らすと、柱を背もたれにして、ずるずると腰を下ろした。俺も彼女の横へと座り込む。


「べつに裏切った覚えはないんだがな。後回しにしただけだ」


 それにピアの格闘戦能力が、実際どれくらいあるのかを確認したかったのもある。

 はっきりと彼女の攻撃力は皆無だったが、敵の攻撃を躱しきったことを、どう捉えるかは、人によって評価は別れるところだろう。


 そして俺は、あれだけの俊敏性があれば、多少は目を離しても大丈夫だろうと判断した。

 もちろん今後はわざと敵を通すような真似はしない、俺はちゃんと護るつもりでいる。


「次やったら、全員まとめて、魔法でふっ飛ばしますよ?」


 魔法の発動が遅いので、状況によってはそうはならんだろうと思ったが、ピアの眼は本気だった。


「わかったわかった、大丈夫だ。今後は敵は通さん。心配すんな」


 俺は手を振り、適当に相づちを打って話を終わらせた。


 鞄から砥石を取り出して、刃先の上を滑らせる。簡易的なものなので、すぐに鈍ってしまうが、やらないよりはマシだ。


「剣、折れちゃいましたね。予備武器はないんですか?」


「いっぱいあるぞ。でも今日はこの一本で戦うと決めてるから、研いでんだよ」


「なんでそんなことするんですか? あるなら入れ替えたほうが、安定して戦えると思うんですけど、わざわざ危険な橋を渡る意味なんてないですよ」


 ぱちくりと目を瞬かせて、ピアが不服そうな声で疑問を口にだした。手にはしっかりとノートを持っている。


「ドラゴンを狩りに行くわけじゃないだろ? ゴブリンの駆除なら、このまま続行しても問題ない。それにこっちのほうが面白くなりそうだし」


「……特殊な性癖があって危険っと」


 ばっさりと、俺の人間性を結論づけてくれた。なんだか泣けてくる。


「うるせぇ。人型モンスターなら、肉弾戦でも俺は倒せるんだよ」


「言われてみれば、最後は剣なんてほっぽりだして、素手でボッコボコにしてましたね──何かしらの精神疾患があり、30時間のメンタルヘルスケア必須。受診拒否の場合、危険度ランクBへと格上げとし、依頼受注に制限を課すこととする」


 ちゃんと受診してもらいますからね。と、にこやかに言ってくるが、その笑顔には、しっかりと恨みの念が刻まれている。


「俺への仕返しは、それで気がすんだか?」


 ピアはノートをひろげ、尖った笑顔を向けてくるものの、帳面には何も書かれてなかったので、聞いてみた。


「そうですね。今回はこのぐらいにしときましょう」


 さっとノートをしまうと、今度は鞄からポーションを取り出した。しかしポーションの色味を見て、俺は眉をひそめる。


 その瓶の中の液体は薄茶色をしていたからだ。こんな色のポーションなど、見たことがない。もしかして期限切れではなかろうか?


「それってポーションか?」


 ちびちびと飲んでいる、ピアに聞いてみた。


「そうですよ。ポーション知らないんですか?」


「ポーションなら知ってるぞ。だが茶色いポーションなど見たことない。それ腐ってんじゃないのか?」


「失礼ですね! 腐ってませんよ。これは焦がしザラメ味のポーションです。今はポーションといっても、いろいろなフレーバーがあるんですよ。数年前に発売されて、お貴族様の間でも流行してるんですけどね」


 ピアは睨みつけるように、こちらを凝視してくる。どうやら俺の腐ってる発言に、反感を抱いたようだ。


「それは悪かったな。俺は5年前から国外にいたから知らなかった。それで、そのポーションは効果あるのか?」


「そりゃあ回復量は落ちますが、フレーバー付きポーションは体力魔力ともに小回復する仕様になってますし、なんと言っても、この焦がしザラメはほんのり甘いので、ホッとできて心も落ち着くんです。その……えっと。甘さという付加価値が付いているぶん、こちらのほうがお得です」


 回復量が落ちてる時点で、ポーションとしての役目を果たしていないような気もするが、本人が納得しているのなら、多くは言うまい。


「そうか、今はポーションにも味がついてるのか」


「品薄になるほど人気なんですよ」


 それだけ言うと、ピアは残り少なくなった液体をひと息に飲み干して、空になった瓶は鞄にしまった。よく見てみると、彼女の鞄はマジックバックではない。


「それ普通の鞄だな。マジックバックは持ってないのか?」


「私はただの職員ですよ。持ってるわけないじゃないですか」


「安いのなら金貨1枚で買えるだろ。あったほうが便利じゃないか?」


「あのですね、私は商人でも冒険者でもない、ただの一般人ですよ。普通の人はそんな大金払ってまで買いませんって、冒険者になりたがる人ってのは、なんでこんなにも感覚がおかしいんですかね」


 不貞腐れたように頬を膨らませて、ピアは黙ってしまった。そこまで怒らなくてもいいと思うのだが、それとも冒険者に偏見でもあるのだろうか?


「すまなかった。俺が不用意だった」


 なんか謝ってばっかだな。ピアが落ち着くまで無言でいよう。




「聞いてもいいですか?」


 数分間の沈黙に耐えられなかったのか、ピアが質問を投げかけてきた。しかしこちらは見ずに、彼女は地面を見ている。


「なにを?」


「サティアさんって、お貴族様ですよね? それなのになんで戦えるんですか、騎士団か騎士軍にでも所属していたんですか?」


「俺は騎士軍に編入された傭兵団にいた。だから建前では騎士軍になるんだろうけども、そこで戦い方を学んだ。まあ、学んだと言っても我流になるが」


 騎士団は王都の守備隊で、騎士軍は国軍になる。そして傭兵団は使い捨ての駒だった。


「なるほどね、強さの理由が分かりました。なんで冒険者になろうと思ったんですか?」


 俺は話を聞きに行っただけであって、無理矢理冒険者にしたのはピアなんだが、忘れてるのか?


「訳のわからん理由で実家から追放された」


「追放されたんですか⁉ それはそれは」


「なんで嬉しそうに言う?」


 口元に手をあてて、にんまりとピアが笑っているので、鋭く睨みつけてやった。


「いえ、なんでもありません」


 誤魔化すように、ピアは真顔へと戻った。


「さっき、国外で生活しているようなことを言ってましたけど、他国でなにしてたんですか?」


「先月ヘイト王国を攻め滅ぼしただろ。俺はその戦争に参加していた。5年前の開戦時からな」


「あれ? 軍役に就けるのは15歳からじゃなかったですか、年齢詐称してます?」


「親父が手を回したんだろうな、だから俺は13歳で兵役に就いたんだよ。そんな訳だから正式な騎士軍ではなくて、傭兵団に所属することになったんだ。偽名まで使ってな」


「でも、ここにいるってことは、なにかあったんですよね?」


 ピアは興味しんしんな顔で、俺を見てくる。


「うん。まあ、な」


「ごめんなさい、深入りしすぎました。ギルド職員として、あるまじき行為ですね。以後、気をつけます」


 ぺこりと頭を下げて謝罪をしてきた。どことなく決り文句のような話し方だが、ビシッとしたピアの姿は、洗練された職員に見える。


「いや、べつに秘密って訳じゃないんだ。なにを話せばいいのか、整理がつかなくてよ」


「なんだそんなことですか。なんでもいいから、もったいぶらずに話してくださいよ」


 ころっと態度を変えてすり寄ってくる、この姿こそ、ピアには相応しいと思う。


「一言でいえば、戦うことが嫌になったんだよ。疲れたというか、虚しくなったというか。そもそもなんのために戦っているのか、その意味すら分からなかった。俺は親父の命令で戦地に送り込まれたからな」


「戦うのが嫌になったぁ?」


 ピアは眉根を寄せ、思いっきり疑いの眼差しを向けてくる。


「さっき楽しそうにフルボッコにしてましたよね? ダウンした奴を無理やり立たせて、また殴ってましたし、にわかには信じられませんよ。だって私は、我が目を疑ってませんもん」


 ピアの目には、そんなふうに見えていたのか。なんだか複雑な気持ちだ。


「戦争と魔物の討伐を同一視しないでくれ。この両者はまったくの別物だ」


 もう少し、戦地の状況がどんなに悲惨だったのか、そのへんも交えて話したほうが、いいかもしれないな。


「そうですね。あれは駆除というよりも、虐待でした──はい。続きをどうぞ」


 俺が戦地で目の当たりにしたことを語るまえに、先手を打ってきた。ピアは手振りで先を促してくる。


 まあいいか。あの時に感じていた、自分の感情や思いなどは脇に置いておこう。戦場がいったいどんな場所なのか、経験したことのないピアには分からんだろうし。


「ヘイト王国の主要都市を占領して、戦争も終局を迎えた。あとは残すところ王都攻略戦だけとなったんだが、それが4ヶ月前だな」


「詳しくは知らないんですけど、なんか酷い戦いだったんですよね」


「ああ市街地戦闘のことか。あれは酷かった」


 カンカンと、折れた剣で地面を叩く。反響音が重なるたびに、記憶も重なり変わっていく。


「功を急ぎすぎたんだよ。馬鹿な将官たちが、もともとの作戦行動を破棄して、強行突入に踏み切ったんだ。結果、混戦状態へと陥ってしまい、味方にかなりの犠牲が出た。だが俺にとっては幸運だった」


「幸運って……なんで?」


「一気に市街地を抜けて、王城まで辿り着くことができたからだ。犠牲になった仲間には悪いんだが、彼らは囮役として最高だった」


 犠牲になった仲間は、さして仲がよかった訳でもないが。


「単騎で乗り込んだんですかっ?」


「いや、仲間に魔術士がひとりいた。俺は彼女とふたり編成のチームだった」


「彼女ってことは、女の子だったんですね。なのに王城まで突撃したんですか……まあそうですよね、そうなりますよねぇ」


 うんうんと妙に納得しながらも、どことなく棘のある物言いだった。


「女の子は適当ではないな。なにせピアよりも歳が上だからよ、それに彼女は、魔女と呼ばれるほど強くて有名だった」


 出会った当初は、魔女という物騒な肩書きを持っていようとは、知る由も無い。だからか彼女の周りには自然と人が集まらなかった。しかしそれを見抜く洞察力がなかったとて、なんの不思議があるだろうか? 俺はまだ13歳だったのだ。


 彼女との出会いは人生の転機となったし、いろいろと知識を得ることもできたので、感謝している。しかしながらそれと同等の不幸も見舞ってきたので、魔女と呼ばれる由縁も、おおむね納得できる。当人には口が裂けても言えないが。


 そんな彼女のことは、ピアは知ってるだろうか?


「魔女ですか。魔女と呼ばれている人物は、私が知ってるだけでも5名はいるんですけども。その人の特徴はなにか無いんですか?」


 そんなにいるのか? 嫌な世の中だな。


「特徴か……そうだな。槍にまたがって空を飛ぶ、イカれた魔女だ!」


 俺の言葉に、ピアは即座に反応をしめした。


「ユリアンナ = ブラウンフィールド⁉ テンプ王国最大の大森林を、一瞬にして荒野に変えた。あの災の魔女ですか」


 ふむ、名前は間違っていない。しかし災いの魔女とは初耳だ。


「俺が聞いたのは、魔法の実験で、家の近くの雑木林を焼却してしまい、近隣住民に訴えられ多額の借金ができてしまったので、致し方なく金払いのいい傭兵団に入ったって、聞いたぞ」


「それは控えめに言っているだけですよ。あなたの周りには、クセの強い人が集まるんですね。それで王城に侵入してから、どうなったんですか?」


 確かにそうかもしれない。否定しきれないところが、なんとも歯がゆいな。


「とにかく王国の主要人物を捕縛、もしくは殺害すれば、くだらない戦争も早く終わると思って、俺は戦闘区域から離脱したんだが──」


「ちょっと待ってください。誰かからの命令を受けて行ったんじゃないんですか? サティアさんの独断専行ですか」


「ああ俺の勝手な判断だった。あの時は指揮系統も十分に機能していなくて、抜け出すには絶好のチャンスだったし……それがなにか?」


「いえ、なんでもありません」


 ピアは、どこかあきれたように返事を返してくる。


「どこまで話したっけ?」


「お城に侵入したとこですよ。それよりも、迷うことなく王城に向かいましたけど、内部の見取り図は持ってたんですか?」


「そんなもんは無い。警護の手厚い方に行けば、とりあえず重要人物には行き着くだろうと思ってよ。適当に走り抜けた」


「はっはっ。そうですか」


 間違ったことは言っていないはずなのだが、ピアのドライな瞳が心に刺さる。


「だが失敗だった。ひとたび戦闘になると、わらわらと兵士が集まってきて、どっちに行けばいいのか分からなくなってよ」


「まあ普通はそうなりますよね。まったくもって想像通りで、面白味の欠片もないんですけど。先に言っときますが、その後は警備体制が厳重になって、いったん外へと撤退した。なんて展開はやめてくださいね?」


 おっしゃる通りです。


「……そこまで成り行き任せではない。その後はなんやかんやと、ユリの魔法で一悶着片付けて、中庭を抜け、壁を飛び越え、魔法で外壁を撃ち抜いて、大穴をあけたと喜ぶ魔女に辟易としながら、壁際の小道を進んで行ったら、小さな庭園へと出た」


 ユリとは魔女の愛称なのだが、ピアは鼻で笑うだけで、なにも聞いてこない。


「そして、庭園を眺めるように造られたバルコニーから部屋へと侵入して──」


 そこで言葉を止めて、ピアへと視線を合わせた。


「そこで俺は出会ったんだ」


「誰とですか?」


「ヘイト王国の王女にして、唯一の王位継承者である、ロマーナ = レベジェント姫だ」

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