表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプーレ  作者: ポメヨーク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/29

ゴブリン討伐。後編③

「グギャギャギャギャッ」


 前方から3匹、右から2匹、迫ってきている。距離が短いのは正面だが、右からくる奴らのほうが速度が速い。


 フェイントのつもりか、それとも偶然か、なんであれ、どうとでも対処できるので、俺は視線を左へと移した。


 左側には剣を片手に、まるで逃げ道をつくっているかのように距離を開けて、待ち構えているゴブリンが2匹いる。そして俺の後ろからは、棍棒を持ったゴブリンが1匹、こっそりと忍び寄ってきていたりもする。


「ざっと残り20匹。かまいたちで殺しすぎちまったか、もう少し手加減すればよかったかもな」


 残りのゴブリンは、遠巻きに俺を囲んで、出方を伺っている。


「はあっ! とぅおぁ! ひぃやぁ!」


「そう言えば、ピアが3匹受け持っていたっけ」


 ピアがあまりにもうるさかったので、槍を持った奴を1匹、ナイフを投げつけて始末してやった。

 なので今は3匹と交戦中なのだが、どんな戦い方をしているかは、見ないようにしてあげている。


 もっとも観戦したところで、なんの糧にもならんしな。


「オッゲェエッ、エッ、ヴエェェェェ」


 おっと、右足で背中を踏んづけている、ゴブリンを忘れていた。顔面が赤紫色に染まっているので、そろそろ窒息死するかもしれない。


 このまま踏み潰すか、剣で刺し殺すか──はたまた殺してしまうよりも、もっと別の使い道があるかもしれないと、悩んでいたんだっけ。


「どうすっかな……使い道なんてねーか」


「ヴィィィィィィィッ」


 右足で片足立ちをして、全体重をゴブリンへと押しつけた。


 ゴブリンの背中の上で、ぐりっと半回転して、後ろを向く。その時に、ボキボキと骨が折れる音が聞こえてきたが、気にはしない。


「よう」


「──ゲゲッ」


 俺の真後ろまで、そっと近づいてきていたゴブリンと、目が合う。


 そいつはちょうど、棍棒を振り上げたところだった。

 そして、その姿勢のまま固まっている。


「そこまできたんだったら、最後まで振り下ろさんかいっ! このヘタレがあ」


 俺は無駄に回し蹴りなどをして、棍棒を振り上げたままのゴブリンを、蹴り飛ばした。


 その際に、足もとから間延びした悲鳴が聞こえてきたりもしたが、その声もすぐに途絶えた。残念だが逝去してしまったのだろう。


「ギッギッギッ」


 声がしたほうを振り向くと、最初に走り込んできていた5匹が、目前にまで迫ってきている。周りにいるゴブリン共も、包囲網を縮めるように、一斉に攻め寄ってきた。


「なんつーか期待どおりの単純明快さだな。それがゴブリンか」


 正面からの3匹よりも、右側の2匹のほうが10秒ほど速い。


 とりあえず足もとの邪魔なものを砂を蹴るように、後ろへと弾く。


「呆けた状態でも戦えるってのは、戦いとは呼ばんよな。戦闘ってのは──」


「ギャア、ギャア、ギイヤァァァ!」


「ほわぁ、ちゅおわ、へぇやぁ!」


「…………」


 俺はゴブリンでも対応できる速度で、正面の3匹へと接近した。

 案のじょう、ゴブリン共は3匹同時に跳び上がり、棍棒を振り下ろしてくる。


 その間に、右側のゴブリンは迂回して、俺の真後ろへと、位置取りを変えてきた。


「おらぁ! いっぺんに襲ってきても、まとめて斬り捨てられるだけなんだよ。よく覚えとけっ!」


 斬り裂くと同時に横へと吹き飛ばすため、入射角を微妙に変えながら、ゴブリンの腹部めがけて、強引に剣を振り抜いた。


「シッ、シャア、キシィヤァ」


「ひえぇぇ、ほえぇぇ、ほわっちゃあ!」


 空中での姿勢制御など、こいつたちにはできるはずもなく、俺の斬撃があっさりとゴブリンの腹部を切り裂いて、臓物を撒き散らしながら、3匹とも仲よく場外へと、すっ飛んでいく。


「ギィィィィィィィィ」


 間髪入れずに背後から叫び声が聞こえる。


 後回しにした奴のうち1匹は、爪を立てて飛び込んできた。

 もう1匹は棍棒を片手に、かがみ込むほど姿勢を低く保ちながら、突撃してくる。


「遅いわっ!」


「ィィィィィィィィ──ップッべ」


 振り向きざまに、飛びかかってきた奴の首を刎ね飛ばす。


「シャア、ギャア、ギッヒィィィ」


「あんっ、どぅっ、ひょえぇぇぇっ!」


「邪魔だっ!」


 そして俺のひざを狙って、棍棒をフルスイングしてきた奴には、靴底をお見舞いしてやった。


「プッギョッ」


 ゴブリンとは体格差があるので、斬りつけるよりも、蹴りをいれるほうが楽だったりもする。


「ゲッハァァァァ!」


「ひいっ、ひいっ、ふうぅぅぅぅぅ!」


「ギャッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ」


 残りのゴブリン共が、耳障りな鳴き声を唱和させて、全方位から押し寄せてくる。


「緊迫感なんて、かけらもないが──」


 俺は周囲を見渡した。


 狂ったように絶叫して、立ち向かってくるゴブリン共を見ていると、ちょっとした高揚感は与えてくれる。


「嫌いじゃないぜ、この雰囲気」


 つい先月までは、戦いの中に身を置いていた。それがもう随分と昔のように感じちまう。


 それになによりも、対人戦でないところがいい。やはり魔物や魔獣のほうが、気兼ねなく剣を振るえる。


「そりゃあ対人戦のほうが、緊張感が生まれるのは、確かなんだが……」


 いつしか俺は、相手の向こう側まで見るようになってしまい、剣筋が鈍るようになっていた。


 もっとも相手が人間だった場合でも、置かれた状況によっては、容赦なく斬りつけるが。


「戦争に虚しさを覚えて、戦うことに嫌気がさしていたと思っていたが、戦い自体は好きなんだろうな」


 迫りくる敵を前にして、自分の本性と向き合ったような気がした。


「ギィィィス」


 剣を持った奴らが、斬りかかってくる。


 俺は好きな物は最後に食べるタイプなので、そいつは無視して、手近な素手のゴブリンへと、一足飛びで詰め寄った。


「ギョッへ?!」


「まぬけがっ」


 声も動作もぼさっとしたゴブリンを、突き殺す。


「ギスッ、ギャス、ガア!」


「よっ、ほっ、はあぁぁ!」


「ガアアアッ!」


 両サイドから、棍棒を振り上げたゴブリンが突進してくる。


 俺は左側のゴブリンへと向きなおり、振り上げた両腕もろとも、そいつの首を刎ね飛ばした。


 悲鳴を上げることもなく、血飛沫とともに、地面へと崩れる。


「ガアァァギャアァァ!」


 魔力風の流れからして、もう1匹のゴブリンは俺の背後へと詰め寄り、棍棒を振り下ろそうとしていた。


 横薙ぎに振り抜いた剣を、くるりと手の内側で逆手に持ち替え、身体を半身ほどよじって、後ろへと突き出す。

 

「ギョッペェ」


 狙い違わず、切先がゴブリンの胸を貫いた。即座に身体を反転させて、剣をえぐるように引き抜く。


 手から抜け落ちた棍棒が、カランっと音を立てて地面に転がり、ゴブリンはゆっくりとした動作で、後ろへと倒れた。


「ギイャアッハァァァ」


「ひいぃぃやあぁぁ、あたるうぅぅぅ、かすったっ!」


「そろそろか」


 斬るたびに引っかかりが強くなる。強引な使い方をしたせいもあり、思ったよりも早く寿命がきてしまった。


「変なタイミングで折れても困るし、ここいらで折っちまうか」


「シャアァァァァァァ!」


 ふたたび剣を持った奴らが襲ってきた。


 ピアの息も上がってきていることだし、あとでゆっくり楽しむなんて考えは捨てて、もう始末しておこう。


 一応は敵の動向を観察しておいた。


 2匹は剣の柄を両手で握り、似たような構えをして、こちらに走り込んできている。大振りできるだけの距離はあけているので、その程度の知能はあるようだ。


 手にしている武器は、剣としては小ぶりなのだが、奴らの基準でいったら大剣になるのだろう。だからかゴブリンの挙動は、あきらかに不安定だった。


「短剣にしとけばいいものを、欲張りすぎなんだよ」


 俺は地面を強く蹴り上げ、奴らでは反応できない速度で、一気に駆け抜けた。


「はあっ」


 まずは通り抜けざまに、左側にいるゴブリンの腹部を薙ぎ払う。


 ──ドッチュリ。


 俺が剣を撫でつける瞬間まで気づかなかったようで、斬り裂かれてからようやく、絶望的な表情へと変わっていった。


「ゲエェェェェッ」


 両断するつもりで振り切ったのだが、胴体を半分ほど引きちぎる程度にとどまった。

 それでも致命傷にはかわりない。ゴブリンはしばらくもがき苦しんだあと、絶息した。


「いけると思ったんだが、無理だったか。俺も鈍ったな」


 刀身をへし折るつもりで、力まかせに両断しにかかったが、どちらも叶わなかった。どうやら剣の損傷具合を、見誤っていたようだ。


 だが刀身は欠けて、刃のなかば辺りには、修復し難いほどの亀裂が生じている。


「さてと」


 俺は敵から数メートル離れたところで立ち止まり、くるりと振り返った。

 もう1匹のゴブリンは、剣を構えたまま、地面に飛び散った仲間を呆然と見ている。


「おい、どうした? お前も曲がりなりにも剣士なら、斬りかかってこいよ」


「グギギ」


 ゴブリンは俺を睨みつけるも、表情は苦悶に満ちている。しかしこの状況下でも逃げなかったのは、称賛してやってもいいかもしれない、そのつもりで引導を渡してやろう。


「ヒッヤッハー」


「ひぃっやっふうぅぅぅ」


 俺は対峙しているゴブリンへと、にじり寄っていった。奴は恐れをなしたのか、俺が歩を進めるたび、じりじりと後退していく。


 ──と、その時。


「ギャアッ!」


 横からゴブリンが飛び込んでくる。


「おっ。ちょうどいい、頭かりるぞ」


 襲ってきたゴブリンの頭頂部めがけて、剣の腹を叩きつけた。


 ──ゴガキンッ!


「プッベェ」


 剣は半ばほどで折れて、折れた先は宙を舞い、金属音特有のかん高い音を響かせて、どこかへ転がっていった。


 襲ってきた奴は、頭蓋骨が陥没して、大の字に倒れ伏し、ピクピクと痙攣している。


「ケッケッケッ。オレタ、オレタ」


「なんだ、それぐらいなら喋れるのか」


 相対しているゴブリンが、喜びに満ちた笑いを浮かべている。すぐに勝てる気になるところが、なんとも調子のいい魔物だな。

 今はこんな奴を称賛してしまった、自分を叱ってやりたい気分だ。


「ギャアッハァァァッ!」


 剣を大きく上段に構えて、突っ込んでくるもんだから、顔面が隙だらけになっている。まるで突いてくださいと言っているようだったので、死なない程度に刺突してやった。


「ギョッヘェェェ」


 折れてギザギザになった部分が、顔面にめり込んだ。それがさぞかし痛かったのだろう、顔を押さえて、のたうち回っている。


「だあぁぁぁとけっ」


 短剣のように短くなった刀身を、胴体めがけて叩きつけ、沈黙させてやった。


「あとはお前たちだけだな」


 残り少なくなったゴブリン共を睨めあげ、言葉を投げつけた。返事をするかのように、ごくりと生唾を飲む音が聞こえてくる。


 こいつ達から感じられる、ぴりっとした緊張感。この先も、まともな戦闘は期待できそうにないが、初めての仕事で、この引き締まった空気を吸えるとは思わなかった。


 なんだかんだと、ここに来てよかったのかもしれない。

 

「ギイィィィィ、シャアァァァァァッ」


「うおりやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「オオー、スゲー」


「ヨケター」


 後ろから、ピアの気合の入った雄叫びが響いた。どうやら彼女の必殺技が炸裂したようだ。

 残念なことに、俺は見逃してしまったが。


「なあピア。さっきからずっと台無しなんだよ。いいか? この局面で雰囲気まで取ったら、何が残ると思う……」


 今まで聞こえないふりをして、締め出していたが、俺の忍耐力もここで限界をむかえた。いやいやながら彼女に視線を向ける。


 ──ピアは、ぴょんぴょん、ゴロゴロ、ぐるぐる、多彩な動きで敵の攻撃を躱していた。


「おおー。意外と回避率……いや回避力か? は高いんだな。それだったらあと30分は舞っていられるよな」


「う、うるさいですよ。今は忙しいんです。それよりも余裕ができたんなら、助けてくださいよ」


「さっき、ひぃっやっふうぅぅぅ。って楽しんでなかったか?」


「どんな思考回路してるんですか⁉ いい加減にしないと、怒りますよ!」


 ちょくちょく怒ってたような気もするが、まあいいだろう。


「だいたいどこかの誰かが、投げたナイフを回収しないもんだから、無手だったゴブリンが、ゴブリンギャングへとクラスチェンジしたんですよ! ですから、この私のピンチは誰かさんが作ったも同然です。ですのでどこの誰とは言いませんが、早く責任を取るべきだと思いませんか?」


 わざわざ匿名にしてくれて、ありがとよ。


「わかった、わかった。ちょっと待て」


 ピアの周辺にありったけの魔素を集めてやる。


「なんでもいいから魔法を放て。今なら素早く撃てる」


「何いってんですか! こんな状況で──ひぃや。使えないですよ」


「大丈夫だ。俺がアシストしてやる」


 魔法の構成を崩すだけじゃなく、逆に手助けすることもできる。俺にとって魔法など、積み木を組み上げるようなものだ。


 俺は魔法が使えないので、完成させることはできないが、それでも魔素を媒介にして、相手の魔法に干渉することができてしまう。


 極端なことを言えば、ピアは最後の1ピースをはめるだけで、魔法を発動することができる。


「アシストって、そんなことできるわけないじゃないですかっ」


「いいから集中しろ。そうすれば分かるはずだ」


「えっーと……なんかできるような気がしました!」


「だろ?」


 ピアが瞳を輝かせて言ってきた。


 彼女が編み上げたのはエアバーストだった。自分を中心に、圧縮した空気を衝撃波として叩きつける中級魔法。

 だが逃げに徹するため、すぐに構成を破棄した。


 必死に避けながら、ピアは徐々に距離を取り始める。

 俺も喋りながら、襲ってくるゴブリンを適当に叩き伏せていく。


「いきますっ! 私のとっておき」


 ほどよく距離を取ったところで、ピアが叫んだ。


「おう! やってみろ」


 しかしなにを血迷ったのか、ピアは首にぶら下がっている転移石を握りしめた。魔力の収束のしかたも、魔法の発動の為の、それではない。


 まさか、おまえ!


「それでは──」


 転移石に魔力が収束していくのが、はっきりと見えた。


「させるかあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺は叫ぶと同時に、ピアの魔力が収束するよりも速く、転移石に干渉して、その石の核を圧潰した。


「ひと足お先に、アディオス。サティアさん──あれ? 砕けちゃいましたよ」


 本来マジックアイテムを破壊するには、段階を踏むのだが、今回は力尽くで破壊した。そのせいか身体に強い負荷がかかってしまい、少し頭が痛い。


「いま妨害しませんでした?」


「そんな事はしていないぞ」


「でも、させるかあぁぁぁって、叫んでましたよね?」


 なんとも耳ざとい女だな。

 あんなにも切羽詰まった状態だったのに、周囲の状況を聞き分けていようとは思ってもみなかった。


 なにか無いか、もっともらしい言い訳──もとい、説得力のある言葉は。


 ──そうだ!


「なに言ってる。こういう時こそ、レベルアップのチャンスだぞ。邪魔するわけないだろう」


「うるさいっ。黙れ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ