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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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13/29

ゴブリン討伐。後編①

「みーつけた」


 アリベルトがゴブリンの背後に立って、声をかける。と同時に、大鎌の刃を首元にすえた。


「ぎゃあああああああああ」


 あいつの背中越しなので、ゴブリンがどんな表情をしているのかは、見えなかったが、聞こえてきた悲鳴からして、想像に難くない。


「……追いかけ回して、追いつめて。とことんビビらせてから、突然背後に立って、刃を突きつけて声をかけると、ゴブリンもこんな悲鳴を上げるんだな」


「私は生まれてはじめて、ゴブリンが可哀想だと思いましたよ」


 俺達の会話をよそに、アリベルトは大鎌を引いた。


「ああああごぶぅぅぼぼぼ──っ」


 悲鳴からそのまま断末魔へと変わる。


 ゴブリンは首を刈り取られて血煙をあげると、泣き別れた胴体は、すとんと両膝をつき、そのまま地に伏した。首は器用に刃の腹の部分にのせられている。


「ゴブリンも赤い血なんだよな。なんか俺、しんみりしてきたぞ」


「私はあの人の血がなに色なのかが、気になりますが」


 ピアと見あって会話をしていると、アリベルトはくるりとふり返り、ゴブリンの首をのせたまま、大鎌を突きだしてきた。


「見てください。今日一番のビックリ顔をいただきました」


 お気に入りの玩具を自慢する子供のような瞳で、アリベルトは笑っている。ピアは即座に顔を逸した、俺も返す言葉がない。


「おや? どうしたのですか」


「どうしたもこうしたも……なぁ」


「いえ、なにも言わなくても分かります。悔しいのですね」


「いや全然」


 どこをどうとらえたら悔しいになるのかは、分からなかったが、その疑問はアリベルトが答えてくれた。


「第1回戦のゴブリン打ち上げ勝負は、私が僅差で遅れを取りました。もちろん私は悔しくありませんでしたが」


「歯ぎしりするほど、悔しがってませんでした?」


 ピアは顔をそむけたまま、疑問を口にした。


「ひゃあっ」


 返事のかわりに、アリベルトはピアの眼前に、ゴブリンの首がのった大鎌を突き出した。

 驚いたピアは派手に尻餅をついて、腰をさすっている。さすりながら、ぎろりとアリベルトを睨みつけたが。


「きゃあ」


 今度はころころと器用に刃の上で首を転がしはじめた。たまらずにピアは俺の後ろへと身を隠し、抗議の声を上げているが、アリベルトは何事もなく話を続けた。


「男の真剣勝負に口を挟んではいけません。バチが当たりますよ」


「そりゃあ、お前のことだ」


 無駄だと思いつつも叫んでみたが、やはり聞く耳がないのか、平然と話を続けてきた。


「2回戦のゴブリンとのかくれんぼ、これは私の圧勝ですからね。サティアさんが悔しがるのも、無理はありません」

 

「俺はそんな遊びをしている覚えは、ないんだがな」


 俺が指摘をすると、アリベルトはため息まじりに、かぶりを振った。


「嫉妬心を強がりで隠しても、勝利の女神は高笑いしか返してくれませんよ」


「そんな女神は、こっちから願い下げだ」


 きっぱりと告げたところで、背後から、おそるおそる出てきたピアが、発言は強気なのだが、思いっきりおよび腰の姿勢で、訴えでてきた。


「そんなのはどうでもいいですから、早くその気持ち悪い首を、ポイして下さいよ」


 ため息ひとつ漏らして、アリベルトは大鎌を強く振った。刃の上にのっていた頭部は、手近な壁に激突すると、ぐちゃりと嫌な音をたてて弾け飛ぶ。


 とっさにピアの腕を引っ張って、懐に頭を押し込むようにして、周囲に飛散した肉片が、身体に付着しないように庇ってやった。


「あ、ありがとうございます……」


 俺は背中にかかったが、こういった事には馴れているし、どのみち、ここまでの道中で汚れているので、気にはしなかったが。


「……あの、大丈夫ですか?」


「ん? ああ大丈夫だ。こんなの馴れたもんだ」


「肉片をあびるのが馴れてるって、嫌な人生を送ってきたんですね」


「うぐっ。否定はせんが、庇ってもらった人間の吐く言葉ではないな」


 しらを切るように、ピアはそっぽを向いた。まあ素直に感謝の言葉が言えたのは、評価してやろう。


 それよりもだ!


「てか、なんで数匹だけ殺して、残りの大多数は逃がすんだよ。あとで処理するのが面倒だろ」


 壁面にくっきりと付着した、ゴブリンのシミを名残惜しそうに見ているアリベルトに、俺は食ってかかる。


「なぜと申されましても、魔法が狙った場所に放てませんし、それに……」


 魔法が真っ直ぐ飛ばないのは、神殿内部の魔素が荒れ狂っているのが原因だと思う。たとえ天候が悪く大気の状態が不安定だったとしても、魔素の流れは一定の状態を保っている。そんな魔素も、魔法を行使した時や、マジックアイテムを発動した瞬間に、魔力に反応し状態を変化させている。


 普通の人間には魔素の流れは見えないし、感じることもないので、今のこの現象は理解できないのだろう。見えている俺でも、完全に理解しているわけではないが。


 だが嵐のような魔素の流れも、終息の兆しをみせている。じきに魔法も思いどおり放てるだろうが、この魔素の嵐で、神殿内にため込まれていた魔素は外部へと放出された。それに加え、神殿内への魔素の流入も止めているので、魔素濃度が低下している現状では、やはり思ったとおりに魔法は行使できんだろうな。


 なによりもこの環境下では、魔力回復量も無いにひとしい、魔法を使ったアリベルトなら、そのへんの異変に気づいてもおかしくはないのだが、そんな素振りはみせない。


 そんな態度を不思議に思っているのだが、いつになく深刻な顔をしているので、もしかしたら、その事について指摘してくるかもしれない。


「それに? なんだよ早く言えよ」


 もったいぶるように、アリベルトは言葉を区切ったまま黙っているので、俺は急かすように話しを促した。するとこいつは──きらめく笑顔で答えてくれた。


「もちろん最後のしめは、鬼ごっこだからですよ」


 深読みした俺が馬鹿だった。


「お前はいったい、何しにここに来たんだ?」


「はっはっはっ。安心してください。たちの悪いいじめっ子と違って、私は仲間はずれにはしませんよ。槍はちゃんと3本、用意しております」


「なあ頼む、俺と会話をしてくれ」


 途方もない徒労感に襲われて、つい懇願してしまったが、すぐに不可解な発言に気がついた。


「ちょっと待て。鬼ごっこに、ンな物騒なもん使う場面など、ないはずだが」


「ルールを知らないのですか? タッチするときに、使うではありませんか」


「それは鬼ごっことは言わん。もっと別のなにかだっ!」


 きっぱりと否定してやったが、アリベルトは、おちょくるように言ってきやがった。


「これが本当の、リアル鬼ごっこです」


「クレームがくるので、そういうこと言うのは、やめて下さい」


 青ざめた顔で、ピアが発言の撤回を求めたが、こいつは聞く耳がないようだ。勢いよく首を横にふっている。

 それには構わずに、話題を戻すため、話をふった。


「それで、これからどうするんだ? 先輩冒険者としての意見を聞きたいんだが」


 おおかた神殿の1階部分は探索し終えている。神殿には地下に続く階段はなく、上へと続く階段が数か所あるだけだった。

 

 そして今は、一番奥にある階段前へときていた。というよりも、アリベルトがゴブリンを追いかけ回していたら、ここへとたどり着いただけなのだが。


「やはり領域の核を破壊しておくのがよいでしょう。精霊術は神像をもちいて儀式をおこなっていますので、それを破壊すれば、完全に消滅させられるはずです」


「あの屋上の尖塔を破壊しようってのか? あれはちょっとやそっとじゃ崩すことはできないと思うが。それこそ魔法を使わないと、吹き飛ばすのは無理だと思うぞ」


 領域が機能不全をおこしているので、そもそも必要ないとも思うんだが。

 しかし、アリベルトの意見は違うようだった。


「あれは神殿全体に領域の効力を効かせる、ただの装置だと思われます。それとは別に、魔力的な何かを発生させている神像が、どこかに安置されているはずです。それを破壊するのです」


 やはりあの尖塔に魔素が集まっているのは、分かっていたようだ。膨大な魔素が集積され、紫色に染まる擬似魔力へと変換されていたので、それを感知したのだろう。


「でもよ、ゴブリンを退治するのに、領域を無力化する必要ってあるか? このまま攻め込んじまえばいいんじゃないか」


「よく考えてみてください。ゴブリン討伐に、3度も失敗しているのですよ。なにかしらからくりがあるとは思いませんか? やはりここは慎重にいくべきです」


 言われてみればそうかもしれない。なんとなくアリベルトの意見に押されて、口ごもってしまった。


「それになによりも……」


 アリベルトは手のひらを見つめている。どこか思いつめたように目を細めると、凍えるような吐息を微かに吐いた。そして言葉を続けた。


「魔法が使えないと、面白さ半減ですからね」


「ほざいてることと、お前の表情が一致してねーぞ。ついうっかり本音がでちまったかあ!?」


 胸ぐらをつかみ上げて、がくがくと揺らしてみたが、こいつは笑い飛ばすだけで、動じた様子もない。


「どうやって探すんですか? この神殿、かなり複雑に入り組んでますけど。ゴブリンもいますし、それを探すのに手間取ってると、包囲されちゃいますよ」


 相当深刻な様子で、ピアが話題に入ってきた。


「私は探索魔法が使えますので、問題ありません」


「そんな都合のいい魔法って、ありましたっけ?」


「つーか、この環境下で大丈夫か? うまく発動しないかもしれんぞ」


 仮に魔法を行使できたとしても、かなり燃費が悪いだろうし、精度もそこまで期待できんだろう。

 そんなことを考えていたら、アリベルトからは、思いもよらない言葉が返ってきた。


「魔法と言いましたが、実は魔力を使わない、特殊スキルなのです」


「ほーう、どんなものか興味があるな。やってみろよ。それとも俺の前では見せれないスキルか?」


「いいええ、そんなことはありません。私は仲間に対して、自分のことを秘匿したりはいたしません。聞かれればなんでも答えますよ」


 ちくりと嫌味をいうように言ってくるが、それは己にも当てはまっていることを、分かっているのだろうか?


 ……いや、こいつの笑顔からして、それ以前の問題だな。


「それでは失礼して」


 アリベルトはふところに手を入れる仕草をすると、アイテムボックスから2本の金属棒を取り出した。金属の棒は直角に曲がっていて、短いほうは持ち手なのだろう、木製のハンドルが付いている。長いほうの先端には、小さな球体がひっついていた。


「…………」


「…………」


 なんだ? このゴキブリの触角のような、棒っきれは? 


「それはダウジングというやつでは?」


 なにかが終わったような、引きつった笑顔で、ピアが聞き返した。


「さすがはピアさん、ご慧眼ですね。このアイテムを使えば、神像を探しだすことなど造作もありません」


「スキルじゃねーのかよ」


 俺の素のツッコミに、アリベルトは心外だと言いたげに、大仰な身振りで悲しさをアピールしてきたが、無視した。


「このダウジングロッドを使いこなすのに、特殊技能が必要なのですよ。なにを隠そう、私の探索者としての熟練度は達人級と豪語してもホラ吹きにはならないと、自負しております」


「……そうか、ならやってみろよ。止めはせん」


「なんで普通に信じ込んじゃうんですか! こんなのまゆつば物ですよ」


 俺は面倒くさかっただけで、信じたつもりはないんだがな。

 このままスルーして、早く先に進みたかっただけなんだよ。ピアにはもう少し、こちらの意図を汲み取ってもらいたいものだ。


(素直な人間だと思っていたほうが、建設的かもな)


 ぼんやりと、今後の彼女との接し方を考えていたら、わなわなと肩を震わせて、驚愕の眼差しをピアに向けている、アリベルトの姿が目に映った。

 

「まゆつば物ではありません! ダウジング理論の提唱者である、私の曽祖父は2回も金鉱を発見する夢をみたのですよ」


「夢オチかよ。絶望的なまでに望みのない話だな」


「なにをおしゃいます! 曽祖父が遺した金鉱の地図を巡って、親族が血みどろの争いをおこし、地元の新聞記事を賑わせたのですよ。それを夢オチと愚弄するなどと、どうやら私はこの場で探索魔法の有用性を証明して、一族の名誉を回復しないといけないようですね」


「お家騒動の末の流血事件に、名誉回復もなにもないだろうが! 記事にもなってんだろ、だったらもう手遅れだ」


「夢に見たことを地図に書き残すなんて、しかもそれを奪い合う一族。やっぱり変人になるには、それなりの血統があったんですね」


 こちらの声など届いていないようで、アリベルトは、ぐっとこぶしを握り、遠くを見つめた。そして噛みしめるように、ひとり語らいだ。


「我が曽祖父の遺言。不可能と思うからできないんだ。可能と思えばなんだって叶えられるはずだピョン。この言葉を胸に、私は前に進みたいと思います」


「おう。最後の言葉が、すべてを台無しにしているぞ」


 やはりまったく取り合わずに、アリベルトはスチャッと両手にダウジングロッドを構えてから、俺のほうに振り向いた。


「おふた方はそちらの階段からお上がりください。私は戻った先の階段から、二階へと上がります」


 腹のそこから清々しさを覚えるほどの笑顔を見せて、あまつさえ、白い歯をキラリと輝かせると、アリベルトは自信たっぷりに言ってきた。


「それではいって参ります。海と空の境界線。あの夢の大海原に眠るという、女神の雫ポッチャリッチは探し出してみせます。夢とロマンの狩人の誇りにかけて」


 お前はどこに何しに行くつもりなんだ。と思ったが、指摘するのはやめた。

 アリベルトはそのまますたすたと、きた道を戻っていった。通路の先へと消えていく背中に向けて、ピアが咆哮を上げた。


「そのまま帰ってくんなっ!」


 彼女の声が、神殿内に不用心に反響するのを聞いていたら、ふっと、あいつの言葉が頭をよぎった。


「もしかして、ピンチを作りたかったのか?」


 いまだに興奮した状態で、中指を立てて通路の先に罵声を飛ばしているピアには、俺の問いかけは聞こえなかったようだ。

 しかたがないので、彼女が落ち着くまで話しかけるのはやめて、放っておこう。


「確かに結構な数が集結しているな。第2陣といったところか」


 俺は階段の上に目を向けて、ゴブリンから発せられる魔力を感知していた。


 生体から自然放出される魔力は、周囲の魔素と混ざり合い、わずかな風を生み出している。これは自然の風とは違う特性をもっていて、俺は勝手に魔力風と名付けていた。


 その魔力風には、独特の肌触りや色味がついていて、なかには刺激臭をともなうこともある。ゴブリンであれば、ねっとりと肌にへばりつく、不快な魔力風が特徴的だ。


 魔素を媒介にして階上から流れ込んでくる、この流れを辿っていくと、敵の数や居場所が分かる。それだけではなく、地形や建物内部の広さに構造なども把握できるが、魔素が通り抜けられない密閉された場所や、人為的に魔素を遮断された空間などは探ることができない。


(だから万能ではないんだよな)


 今は魔素濃度が低いので、おぼろげな情報しか掴めないが、それだけで必要十分だった。


「そろそろ気が済んだか?」


 ひと通り騒ぎ散らして、肩で息をしているピアに問いかけた。


「ええ、まあ疲れましたが、いいたいこと言ったら、スッキリしました」


「それはよかった。なら行くぞ」


 うえっと、うめき声を漏らすと、ピアは露骨に嫌そうな顔をした。


「なんか上から不穏な空気を、嫌なほど感じるんですけど、今までで1番大きな集団が待ち構えている気がするんですが」


 危険に対して敏感に反応する者や、勘のいい奴らは、魔力風を何かしらの気配として、感じとることができる。

 それが分かるピアは、外敵に対しての防衛本能に長けているのだろう。


「そうだな、上でゴブリン共がお待ちかねだ。俺もアリベルトのせいで、うっぷんが溜まってんだ。早く奴らを斬り刻んで、心を落ち着かせたい」


「なんですか⁉ そのリラックス方法は! ちょっと人生裏街道すぎません? せめて表通りの吹き溜まり程度には成り上がってもらわないと、専属として困るんですけども」


「ほほう。それだけ元気なら、先行偵察ができそうだな。階段を登りきる直前に、ぶん投げてやるよ」


「首根っこ掴みながら言うのは止めてくれませんか? 冗談きついですよ」


「かなり本気だが?」


「あはははは。いやーお姉さんも厳しく言い過ぎたみたいですね。世間の冷たさを教えるには早かったかな? それにですよ。私はあくまでも受付嬢なので、先行偵察は遠慮しときます」


 冷静に喋ってはいるものの、バタバタと両腕を振り回している姿は、冷静ではない。

 なんとか俺の手から逃れようと、四苦八苦しているピアに、一言だけ言ってやる。


「間違っても、邪魔だけはするなよ」

 

「しませんしません。邪魔なんてしませんよ。魔法も思ったように使えないんじゃ、邪魔のしようがないじゃないですか。私はおとなしく後ろにいますから、もう離してください」


 ぶんぶん勢いよく頭を振って、ピアは否定してきた。


 魔法か……。

 ぱっと、手を離して解放してやる。


「魔法を発動してみてくれないか」


「ふえ?! 魔法ですか」


「ああ頼むよ」


 人にものを頼むんだ。俺も愛想笑いぐらいはするべきだな。そう思い、にっこり笑って頼んでみたのだが。


「そんな怖い顔をしなくても、いいじゃないですか。ちゃんとやりますって」


 なんとも失礼なことを言ってくれる。

 それでも試してくれるので、文句は言えないが。ピアは軽く息を吐き出してから、手のひらを上に向けた。


「……あれ? 発動はしますけど、なんか重たいですね」


 手のひらの上に、小さなつむじ風を発生させたピアが、難しい顔で答えてきた。


「どんな感じだ? 発動に抵抗を感じるか」


「抵抗があるというよりも、いつも以上に魔力を要求されますね。魔法を放つのに、坂道ダッシュしないといけないような……感じ?」


 よく分からん例えだが、まあいいだろう。


「魔力操作さえできれば問題ない。いざとなれば、力任せに放てばいいしな」


 そんな事態に陥った場合は、俺が魔素をかき集めてやればいいか。


「よし、問題は解決した。上に行くぞ」


 剣を引き抜いて、階段を上ろうとしたところ、慌ててピアが制止してきた。


「待ってくださいよ。なんか散策するように歩いていきますけど、作戦は? うえに上がってから、どう動くか決まってますか?」


「速攻で敵中央部まで斬り込んで、あとは成り行き次第だ」


「つまりはノープランなんですね」


「そうとも言えるし、間違ってるとも言えるな。戦いというのは臨機応変と、勢いでやるもんだ」


 それこそ勢いだけで言ってみたが、失敗だった。ピアは執念深く食い下がってくる。


「そのへんの議論(ツッコミ)は置いときますが、近接戦闘は苦手なんですけど」


「ギルド規定では、戦わないんだろ?」


「私だって囲まれたら、戦わざるを得ないじゃないですかっ!」


「俺の5メートル以内にいろよ。それだったら守りきれる」


「よく考えてください。速攻で仕掛けるんですよね? のろまな私は置いてけぼりですよ」


 まったく世話の焼ける奴だな。


「ちょっとまて」


 肩掛け鞄の中をまさぐって、必要な物を探しだす。これは知り合いの女魔術師からもらったマジックバッグだ。入れた物は彼女の拠点の倉庫へと転送されるよう設計されているので、正直容量は分からない

 

 普及品のバッグとは違い、どんな大きな物品でも、するりと収納できるので重宝しているのだが、いかんせん入れた物が無断使用され、消えることがある。

 持ち出された物は、最終的には戻ってくるので文句はないが、必要な時に使用できなくなるのは、なんとも不便ではある。


 彼女が言うには、普通のバッグは破れると、中身が飛び出して大惨事になるが、こちらのバッグは破れても中身が出たりはしないし、多少破れたとしても、機能を失ったりはしないから便利だと、勧められた。


 確かに便利ではあるし、使用料を要求されることもないので、助かってはいるが、俺の個人財産だけを、なかば共有財産として扱われるのは、やっぱり具合が悪い。


(……まあ、俺もうぶだったんだよな──おっ! あったあった)


 目的の物を念じれば、簡単に取り出せるようになっているのだが、彼女の整理整頓は大雑把なので、装身具などの小物類や普段使わない物は、大きな箱に無分別に入れられているので、ひっぱり出すのに苦労する。


「護符石。これを貸してやるよ」


「なんですか? この水晶みたいな石で作ったペンダントは」


「これは別名、身代わり石と言って、物理攻撃を3回まで無効化してくれる。3回防ぐと効力を失い砕け散る」


「たったの3回ですか⁉ ケチくさいですね。もっといい物をくださいよ」


 これよりも優れた装身具はあるが、借りパクされても、失くされても嫌だしな。


「文句を言うなら貸さないぞ」


「いえ、私はこれで十分ですよ」


 ピアは俺の手からひったくるようにして取ると、ペンダントを首へとかけた。なんの意味があるか分からんが、親指を立てて、にへらと笑っている。

 

「……行くぞ」


 階段を上り2階へとあがると、そこは大空洞になっていた。広い空間の中に柱が乱立していて、少々視界が悪い。

 そして、階段から30メートルほどの距離をあけて、ゴブリン達が半円状に立ち並んで、待ち構えていた。


「グギャギャギャギャ」


 俺達を指差して、ゴブリン共が間抜けな声で小馬鹿にするように笑う。たった2人だけでうえに上がってきたのが、そんなにおかしかったのだろう。逆の発想ができないところが、なんともゴブリンらしい。


 今だに大爆笑しているゴブリン共を、ぐるりと見回して。


 俺もにやりと笑い返してやった。


「グギャ⁉」


 最前列にいたゴブリン共が、悲鳴じみた声を上げて後退りした。


「ほえ? いま何やったんですか?」


「笑い返しただけだ」


「ゴブリンがビビる笑顔って、どんなんですかっ……ああ、あの笑顔か!」


 ひとりで納得するなと思った──その時。

 ピアに向かって、ちょうど矢が3本飛んできた。


 カン、カン、カン──パリーン。


 護符石が3回分の効果を発揮して、砕け散る。


「あの~。終わっちゃったんですけど」


「知らん!」


 放った矢が合図だったのだろう。ゴブリン共が大挙して押し寄せてきた。

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