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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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ゴブリン討伐。前編

 俺達は古代遺跡を根城にした、ゴブリン共の討伐に来ている。遺跡はシャルウィルから西に向かった、低木林が広がる地域に存在していた。まずは問題の遺跡と、その周辺地理の確認のため、全景が見渡せる高台へと登っていた。


 岩石で建造された古代遺跡は、それなりの面積を有していて、中心部には三角柱に尖塔をくっつけた様な、不思議な形の巨石が居座っている。それが人工物なのか、天然の岩なのかは、ここからでは遠くて判然としない。


「それではサティアさん。今回の依頼の概要を説明します」


 眼下に広がる風景を眺めていたら、後ろからピアが声をかけてきた。

 彼女はいつもの制服ではなくて、やたらとポケットの付いたベストを着用していて、下もカーゴパンツとポケットが多い。そして頭にはどこぞの探検家が被っていそうな、丸い帽子をのっけている。


 付け加えるのなら、ハイキングに行くような格好にも、見えなくもない。


「概要って言われてもな、ゴブリンを退治するだけだろ」


「いちおう説明する事になっているんですっ、それにあなたはまだ評価期間中の、ぴよこなんですからね。忘れないでください」


 子供を叱りつけるように、指を一本立てて話してくるが、俺よりも背が低いので、いまいち迫力に欠ける。


「依頼の目的は巣の壊滅です。ですから、あまりにもゴブリンに逃げられると依頼失敗になりますので、注意してください」


「どれくらい逃亡を許すと、失敗になるんだ?」


 俺の質問に、慌ててカバンから書類を取り出すと、何食わぬ顔でピアは読み上げた。


「ギルマスからの指示ですと、半分逃がしてしまうと失敗になります。それとゴブリンの群れを統率している、でっかいゴブリンだけは殺しとけ。でないとギルドの面子にかかわる……だそうです」


「ギルドの面子はどうでもいいが、ようは殲滅すればいいんだよな。それでいて群れのリーダーは確実に抹殺しろと?」


「そういう事です。それで肝心なことを2点ほど、お伝えします」


 ピアは急に真剣な目つきになると、静かに告げてきた。


「私はサティアさんの能力を確認して、ランクを決定するのが仕事です。いくら同行するとはいえ、戦闘には参加しませんし、助言も致しません。依頼の達成が困難だと思われた場合は、撤退することも視野に入れてください。むしろそういった状況判断も評価対象に入っています」


「分かった。まあ奴ら相手に窮地に陥ることはない、それよりも心配なのは、逃亡されることだな」


 その自信の根拠は、どこから出てくるのか分かりませんが。と、一言だけ嫌味を言うと、彼女はさっきと同じ、真面目な口調に戻る。


「そして、こちらのほうがより重要なんですが」


 ピアの意気に押され、俺は静かにうなずいた。彼女は続ける。


「流れ弾が当たらないように、私のことは守ってくださいね」


「そんなもん、自分で対処しろ」


 つくづく感心しては、損をさせる女だな。


「いいじゃないですかっ! 高評価を得たいなら、それぐらいするべきですよ」


「だいたいお前は武器すら持ってないじゃないか、守ってもらうこと前提で来たのかよ」


 ピアは短剣どころか、ナイフすら携行していない。カバンの中に、なにか入っているのかもしれないが、武器類はしまったりはしないだろう。つまり手ぶらで来ている。


「ふっふっ、武器を持っていない? 私の武器は特殊なんですよ」


 不敵に笑いながら、ピアはベストのポケットから、指で挟んで取り出したのは、1枚のトランプだった。


「やっぱ遊びにきたんじゃねーか」


「違いますよ! よく見てください」


 眼前にまで突き出されたトランプをよく見ると、フチの部分が、鋭利に研がれていて片刃のようになっている。飛び道具の一種と思われるが、あまり実用的ではないところを見ると、たぶん見た目だけで選んだのだろう。


「これは必撃の女番長と恐れられている、アダマンタイト級冒険者と同じ武器ですよ。扱いは難しいですが、マスターすれば変則的な攻撃で敵を翻弄できますし、薄くて見えにくいので、奇襲攻撃だって得意なんです」


 ダマスカス鋼を薄く引き延ばして作った、特注品です。と、胸を張って自慢げに話すピアに、白い目を向けて、告げてやる。


「マスターできたのか?」


「……自分の指は切らなくなりました」


「投げられないとかっていう、オチじゃないだろうな」


「失礼ですね! ちゃんと投げれますよ。私の場合は、限りなく命中率が低いだけですから」


「それじゃあ意味ねーだろうがっ」


 ピアに詰め寄っていくと、すっーと手で遮られた。横からアリベルトが割って入る。

 アリベルトも普段の神官服ではなくて、黒や灰色を基調とした、シックな旅装に着替えていた。冒険者というよりも旅行者に見える、こいつはカバンすら持っていないが。

 そしてアリベルトが手にしている武器は、飾りっ気のない大鎌だった。神官と思い込んでいたが、どうやら俺の見当違いだったようだ。


「それよりもサティアさん、お聞きしたいことがあるのです。とても重要なことなので、正直に答えてください」


「あんだよ」


「魔法が使えないとおっしゃていましたが、先日での戦闘訓練で、貴方は魔法チックなことをしておりました。あれはいったい何だったのでしょうか?」


 俺が魔操術を行使していた時には、いなかったはずなのに、何故かアリベルトは知っている。

 俺が戸惑っていると、なにかを思い出したかのように、わざとらしく手を打ち鳴らして、聞いてきた。


「あの場にいなかった私が、何故知っているのか、疑問に思っているご様子ですね」


「まあ、そういうことだ。まるで見ていたような言いぶりだしな、どういう事だ?」


 ふうと、吐息を漏らして、アリベルトは悩ましげにかぶりを振ると、すーっとピアへと指をさし、はっきりと告げた。


「裏切り者です」


「ほう」


「ちょっと、なに言ってんですかっ! 私はなにも話してませんよ」


 アリベルトに食ってかかったが、すぐに俺へと向きなおり、無罪を訴えでる。まあ、俺も本気にしたわけじゃないが。


「冗談はさておき、ピアさんに持っていてもらった人形、あれは私が作った魔道具なのです。サティアさんの闘いは、人形を通して見ておりました」


「冗談じゃ済ませれないので、とりあえずそこになおってもらってもいいですかね? ひん曲がった根性を、少しでも矯正しようと思いますので」


 ピアは指に挟んだカードをちらつかせながら、アリベルトに詰め寄っていく、にっこりと殺意の笑顔で。


「いいから落ち着け」


 彼女の額を押さえつけて、脇へと押しやってから、俺はアリベルトへと疑わしげな視線を送りつつ、質問を投げた。


「お前は神官であり、冒険者であり、さらには魔道具技師までしてたのか?」


「私は手広くやっていたので、正確には錬金術師です。魔道具技師というのは、錬金術のいち分野にすぎませんので」


「なんか胡散臭いですね」


 ピアがうろんな目付きでぼやく、俺も同感だったので、深くうなずいてやった。


「そのようなことはありません。私は幼少の頃、隣村のミラクルボーイと呼ばれておりました。どうやらその過去を話すときがきたようですね」


「どこの村かは知らんが、興味ない」


 俺は適当に手を振って、話を遮った。


「それで話は戻るのですが、サティアさんのミラクルアタックは、魔法だったのですか?」


「勝手に変なネーミングをつけるな」


「ならばなんと呼べばよいのですか? そもそも魔法なのでしょうか?」


 ずいっと寄ってきて、アリベルトはしつこく聞いてくる。どうやら引かないつもりらしい。


「……知らん」


 俺の返答に、アリベルトは悲しげな表情などを浮かべると、ポケットから取り出したハンカチで、目頭を押さえた。もちろん涙などでてはいない。


「仲間に隠し事などいけないと思います。今後の作戦にも影響がでますし、ここで全てを打ち明けるべきではないでしょうか」


「嘘つきのお前が言っても、説得力はないぞ」


 冷たくあしらうと、目元を押さえたまま、こいつはピアへと向き直り、聞いたもんだ。


「間近で見ていたピアさんは、不思議に思わなかったのですか? どのような原理で魔法を斬っていたのかと」


「どうと聞かれても、根性でもって、斬っていたんじゃないですかね」


 何が起きたのか分かっていない、彼女らしい答えではあるな。


「あれは斬ってなどいませんよ。刃先が触れる前から分離していましたので、根性ではなくて、ミラクルパワーです。でなければ、もっと別のなにか……」


 ふたり同時に、俺の方に視線を固定する。とくにこの男は、物乞いのような瞳でもって、訴えかけてくる。


「……分かった。魔法でないことは言っておく、だがこれ以上は喋らん。説明する義理もないしな」


「今はまだ話せれない、という訳ですか。言われてみれば、私も焦り過ぎていたようですね」


 アリベルトは、よく分からない納得の仕方をしてくれる。ハンカチをポケットにしまい、さらりと続けてきた。


「出合い、仲間となり、でもどこか心を通わせる事ができない。こんなちぐはぐな状態でパーティーを維持できるのか? 不安が懐疑心を呼び、簡単な依頼ですら、達成困難に陥ってしまう」


「簡単ではありませんけど」


 ピアが真顔で口を挟むも、アリベルトは気にもせずにあとを続けた。


「ですが戦いの中、お互いを理解し合い、絆を深めあっていく。しかしそんな二人に迫りくるピンチ。難局打開にはあの技しかないと、今まで隠してきた能力を解放して、見事に強敵を倒して依頼達成」


「そろそろ仕事に取り掛かりたいんだが、早く終わってくれねーと、強制的に終わらせるぞ?」


 俺は剣の柄に手をかけて、構えを取った。片目でちらりと一瞥すると、アリベルトは早口で締めくくった。


「実力隠して俺TUEEEE! このパターンを私は失念しておりました。貴方のマジカルパワーは祝勝会の酒場で、赤裸々に語ってもらいましょう」


 これもテンプレですね。そう言って喜ぶアリベルトからは、邪気が感じられない。だからこそ妙に腹が立つ。


「どうどう。やめなさいって」


 指を鳴らして近寄っていく俺を、正面から両手で身体を押さえ込み、ピアがなだめてくる。


「ところで、どう攻め込むつもりですかっ!」


 押し合いをしているせいか、彼女は声を張り上げて、聞いてきた。俺も疲れてきたので、とりあえずやめにした。


「できる限り逃さないようにしたいから、外堀から静かに斬り込んでいく」


「早朝ですからね、外に出て見張りについているゴブリンの数も少ないですし、それが正攻法でしょう」


 ピアは感心した様子でうなずくと、ノートを取り出して、なにやら書き付けている。それを横目に、アリベルトが話しかけてきた。


「サティアさん、私のことをお忘れですか?」


「忘れたいとは思っているぞ」


 はっきりと言ってやったが、聞いた素振りも見せない。


「私は神官ですよ、支援魔法ならお任せください。ゴブリン達を逃さぬように、結界を張ります」


「そういやぁ、そうだったな」


「でもどうやって張るんですか? 遺跡の敷地は広大ですよ、それに門を塞ぐように張ったとしても、城壁の崩れ落ちた部分もありますし」


「もちろん、遺跡を取り囲む様に張ります。まあ見ててください、幼少の頃から、結界を張るのだけは得意でしたから」


 アリベルトは胸を張って自慢げに話すと、すぐさま大鎌を地面へと突き立て、遺跡へと向き直る。

 大きく息を吸い込み、ばっと広げた両手を、高く掲げた──その瞬間。


 一気に魔法の構成が編み上げられた。


 規模も相当なもので、遺跡の外周よりも、さらに数百メートル外側に、編み上げられた結界魔法が、大地に刻まれていく。

 アリベルトが高らかに叫んだ。


「虫かごおぉぉぉっ!」


 呪文──かどうかは分からないが、とにかくアリベルトが声を発したと同時に、魔法が発動した。

 瞬時にそそり立った光の壁が、躊躇うことなく遺跡周辺の低木林をなぎ倒し、加えて周辺部に点在する、巨石やら何やらを破壊しまくって、遺跡を包囲した。


 外にいるゴブリン達も異変に気づき、騒ぎ始めているが、結界の強度からして、脱出は不可能だろう。

 

「……言うだけのことはあるな」


 距離にして数十キロはあるだろう。それをいとも簡単にやってのけたのだから、俺も思わず息を呑んでいた。言葉が見つからない。

 

「私にはよく分からないまま結界が張られましたが、無駄に凄いってのは、分かりました」


 空間に描かれる魔法の構成は、魔法職を授けられた者か、職業を授けられなくとも、魔法に精通した者にだったら、知覚できると聞いている。

 ピアはよく分かっていないので、そのどちらでもないのだろう。まあ訓練しだいで、ある程度は知覚できるようになるものなので、深刻な問題でもないが。


「これはどれくらい保つんだ?」


「たとえ私が死亡しても、1週間は維持できますよ」


「ほんと、無意味に凄いですね」


 なんとなく投げやりな口調で、ピアがつぶやいた。


「なんでもいいさ。これで心置きなく攻め込んでいける」


「開戦の狼煙は、私が上げさせてもらっても、よろしいですか?」


 俺がストレッチをしていたら、どこか期待に満ちた顔つきで、アリベルトが名乗りを上げた。


「まあお前のおかげだし、別に構わんが、どんな手を使うんだ」


「私の作った魔石花火を撃ち込んで、盛大に宣戦布告したいと思います」


「花火かよ」


「威力は保証しますよ。上手く爆風にのせることができれば、ゴブリンでしたら、上空10メートルは堅いです」


 言いながら、てきぱきと準備をしだした。

 アリベルトはアイテムボックスが使えるようで、ぐにゃりと歪曲した空間の中から、必要な物を引っ張り出して、地面へと並べだした。だからカバンを持っていなかったのか、納得がいく。


「魔石ってクズ石を使うんですか? しかも亀裂が入ってますし、使い物にならないんじゃないですかね」


 ひょいと顔を覗かせて、ピアが問いかけた。

 クズ石は誰も拾わない、小さな魔石のことなのだが、それを山盛りになるほど取り出した。そして全てにヒビが入っている。


「亀裂は私が入れました、一定の衝撃が加わると、砕け散るようになっています」


「それで封入した魔法が、発動するようになっているのか」


「その通りです。その調整が一番難しかったのですよ、製造過程で暴発したり、発射しても不発だったりと、難儀しました」


 クズ石を金属製の筒の中に入れ込んで作った花火は、それなりに存在感がある。頭は空気抵抗をなくすために、丸く削られていて、下の方は火炎魔法が封入された魔石が、埋め込まれている。ここだけはクズ石ではなかった。


「あとは安定翼を取り付けて完成です」


 長さ1メートル程の花火を、いくつか作って、地面と水平の発射台へと固定した。くるりとふり向いて、アリベルトは少年のような瞳で、にっこりと告げてくる。


「どちらがより高く、ゴブリンを上空へと舞わせられるのか、勝負しましょう」


「……宣戦布告じゃなかったか?」


「宣戦同時勝負です」


 あっさりと言いなおしやがった。


 俺はいったい何しにここに来たのか、そんな疑問を抱いていたら、方向や角度を調整し終えたようで、アリベルトが魔石に魔力を流し込んだ。

 途端に魔石は赤く輝きだして、封入された魔法が発動する。筒の後端から噴き出る炎が推進力となって、発射台から射出された。


 魔石から噴き出した炎が、赤い軌跡を残して、遺跡へと飛んでいく。尋常じゃない速度に、目で追うのがやっとだった。


 花火は遺跡の正門付近の建造物に着弾すると、クズ石では考えられないほどの大爆発を引き起こした。


 ──ごごごごごっ!


 爆音とともに、何十匹と空高く吹き飛んだゴブリン共の悲鳴、さらには轟音を上げながら崩れ去る遺跡。そして──


「あああああっ! 遺跡があぁぁぁ」


 それらにも負けない、ピアの絶叫が響きわたった。

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