いきなり追放
「いきなりだがサティア」
朝一番に父上──グラクソ = ペルガメントに呼び出された。急いで執務室へと赴き入室すると、すでに弟のカルバンの姿もあった。
そして俺は挨拶をする間もなく、開口一番に言い渡された言葉が。
「お前をペルガメント家より追放する」
これだった。
「なっ! なにをいきなり、追放とはどういう事ですか? 俺がなにをしたというんですか、父上!」
朝食も食べていない空きっ腹に、これだ。だからか動揺よりも怒りのほうが大きかったのは、事実。
「理由か?」
父上はぎらりと目を光らせると、大仰な動きで、背中を椅子の背もたれに預けた。父上の隣では、カルバンが困惑した様子で見守っている。
「それはテンプレだからだ」
「…………はっ?」
耳をついた単語が理解できずに、俺は言葉を失った。
「テンプレだよテンプレ。つまりだ、ここ数年貴族の間で流行っているんだよ、出来の悪い長男を追放して、次男を次期当主に据え置くとな。当然、私も貴族として、その流行りに乗っかろうと思ってな」
「そんな理由で……いや理由も意味もなく、俺は追放されるんですか」
「理由が欲しいのならいくらでもくれてやるぞ、例えば……そうだな、頭が悪いだとか、足が臭いとか、屁と一緒に実まで出した不届き者だからなどと、あとからいくらでも付け足せるからな、適当に考えといてやろう」
「テンプレ、流行り……ここ最近、他家で長男が追放されていたのは、それが理由だったのですね」
震える身体を抑えて、なんとか質問を返した。
「そういうことだ。貴族はつねに最先端をいく、だからこそ王家や貴族が世の中を動かす事ができる、それ故に、時流に乗れないのは貴族として恥ずべきことなのだ」
言われている意味が、さっぱり分からなかった。それこそ頭の悪い俺には理解の前に、殺意しか芽生えてこない。
「知っているか? 今では貴族を真似て、平民の間でも流行っているのだよ。その好例が冒険者だ、使えない仲間を追放して、上流階級気分を味わっているそうだ」
はっはっ、と上機嫌に笑う父上を見て、どうにもならない事を悟った。そして俺は、最後に疑問を投げかけた、いや俺にとってはただの確認に過ぎなかったが。
「先週ハクヴィニウス子爵家当主が、長男に惨殺されたのは、追放となにか関係があるのですか?」
「ん? あれか……あれは追放された長男で、たしか名前がイングヴァルだったか。そいつが運よく成り上がる事に成功して、ざまあ展開を果たしたのさ──ふっ。ハクヴィニウス子爵も運が悪かったな」
「運が悪かったとは、どうしてですか?」
横にいるカルバンが質問をした。
「今までなんの苦労もしてこなかった貴族の息子が、いきなりほっぽり出されて生きていけると思うか? ふつうはその辺でのたれ死ぬものさ、今回おこった事件は例外中の例外、だから奴は運が悪かった。そういう事だ」
「……そうですか」
カルバンが聞くんじゃなかったと、後悔の色を見せた。
「だがそれもテンプレというもの、あ奴も王道的な死に方ができて、幸せだったかもな」
父上の意味不明な言論には構わずに、俺は執務机の前まで詰め寄った。
「父上。不肖の息子として、最後の頼みがあります」
「追放の取り消しも、命乞いも許さんぞ」
そんなもん、はなっから望んでいない。俺が渇望しているのは──ただひとつ。
「うおらぁー死ねや、クソ親父がっ!」
俺は机の上を滑るように乗り越えて、目の前にいるクソ親父の顔面に、拳をめり込ませた。
「ごっぷぅほっ!──いきなり何をするかっ! がはっ」
椅子ごと床に倒れ込んだところを、かかとで何度も蹴りつける。
「おらっ! くたばれつったんだよ。クソ親父っ! これはてめぇの好きなテンプレざまあ展開だ、この野郎っ」
「ちょっ、はやいはやい──ごふっ、やっやめんか! こんなものざまあ展開でもなんでもないわ。お前はテンプレ道も知らんのかっ!」
「うるせぇ知るかボケ! ンなくだらねーこと、騎士道みたくかたってんじゃねぇぞ、タコがっ!」
怒声を上げながらも、俺は殴るのをやめなかった。クソ親父の息も絶え絶えになったころ、横からカルバンが口を挟んできた。
「兄さん。ちょっといいかい?」
「止めるなカルバン、それともなにか、お前はこんな横暴を許せと言うのかっ!」
「いや、兄さんの言い分は全面的に支持はするよ、ただ……」
「おおそうか、それで?」
俺はクソ親父の頭をかち割ろうと、椅子を使って殴打を続けながら聞いた。こいつからはもう、悲鳴すら聞こえてこなかったが。
「ここまでしでかした以上、兄さんには出てってもらうことになるけど、いいよね? 家に居られても、問題になるだけだしさ」
「おう分かってる、しっかりと朝食を食べて、旅の準備をしたら出ていくさ、心配するな」
「それを聞いて安心したよ、兄さんが指名手配されないように、追放された後に、賊に侵入されて殺された。って話で処理できるように善処はするけど、期待はしないでね」
「ああそれは助かる、うまくいかなくとも時間稼ぎにはなるからな、カルバン面倒をかけるが、よろしく頼む」
「まあ努力はするよ、いろいろとね……」
それだけ言うと、カルバンは部屋から出ていった。
俺は弟を見送ってから、部屋の中にあったクソ親父の剣を引き抜くと、そのまま胸に突き立てた。一度だけ大きく身体を揺らしたのを最後に、それっきり動かなくなる。
衝動的に殺ってしまったが、後悔はしていない。なにせ今までお家のために、クソ親父の言いつけはなんでも守り、実行してきた。にもかかわらず、くそくだらない理屈での追放宣言。怒り、失意、絶望。
もう俺はどうでもよくなっていた。
「へっ、ざまあねぇなクソ親父、だがこれもあんたの好きな王道ってやつだろ? まあ運が悪かったと思うか、幸福と感じるかは、あんた次第だかな」
それだけ吐き捨てると、足早に私室へと向かった。着替えを済まして、何食わぬ顔で朝食をとり、旅支度を済ますと、早々と屋敷をあとにする。もちろん馬を一頭もらっていくのも忘れなかった。
「隣国のセアランド王国にでも行ってみるか、このテンプ王国に残る意味はないからな」
俺は南へと、セアランド王国まで続く街道へと向かった。




