2章 8話-嘘か真か-
休日を過ごす仁に新たな出会いと再会が……。
それらがもたらすものとは。
連日休みだとあんな戦いを繰り広げているのが嘘のように思えてくる。平穏だと言われているこの大地もゆっくりと彼らの侵食を受けている。上級ネメシス。あんな奴らがこの中に紛れこんでいたとして……誰が気づけるのだろう。
仁:「……。」
この中に潜んでいるかもしれない奴らの影。きっと……誰にも知られず、普通にこの世界で生活しているのだ。人間として溶け込んで。
仁:「そんなことが……許される筈も無い……。」
通りでギター弾いている青年がいた。風と共にメロディーが流れる。しかし、なんとなく疑問も生まれつつあるのも確かだ。どうして彼らは人類より圧倒的な優位な生命体だというのに人に擬態出来るのかということ。もし、人類を滅ぼすことが目的ならば……この星の全てを奪うつもりなら……どうして力で全てを解決しようとしないのだろうか。自分の家族を奪った時のように。
仁:「……。」
自問自答を繰り返すが答えは出ない。そもそも人間の都合で、此方側の思考で答えを考えようとしている時点で無理な話かもしれない。結局、彼らと対話をしなければその理由などわかる筈も無い。そんな風な考えに辿りつく。だけど、今更。憎しみに憎しみが募った今のこの状況。彼らも此方の言葉に耳を傾けることは可能なのだろうか。これは戦争だ。人類同士ではなくもっと大きな規模の……。
仁:「これから対話なんて……可能なのか?」
完全に自分の身の内の復讐心が消えたワケじゃない。だけど……どうしてなのだろう。とても不安なのだ。何故だかよくわからないが、もっともの凄く大きなことが起きそうな気がする。今は嵐の前の静けさなのではないのかと、そう思うのだ。大きく頭を振るって考えを改める。こんなことを考えていても仕方が無い。今は自分にやれるべきことをしなければ。リラックスして、また明日から戦えるように。そう思って、周囲を見渡すといつの間にか周囲には人の影が。この公園は自然が豊かで……なかなかに癒される。ふ、と視界に1人の女性が目に入る。おそろしく美しい女性だ。白衣姿の綺麗な黒髪を風に靡かせ風景を眺めている。その全てがとてもじゃないけど、見たことがない程に美しい。一瞬で魅了されて、彼女の方をじっと見つめてしまっていた。
???:「……あまり異性をそういった目で見ない方がいいわ。」
仁:「あぁ……いえ、すみません。」
???:「女性はそういった視線に敏感なの。気をつけなさい。」
そう言い残すと彼女はその場からすっと立ち上がり、何処かへと去っていってしまった。驚く程の美貌の持ち主だった。まるで幻かのように消えた彼女。名残惜しそうに後姿を見るまでもなく一瞬にして姿を消していた。一体、彼女は何者だったのだろうか。男なら誰でも彼女とお近づきになりたいとは思うのではないだろうか。しかし、そんな下心に警戒されてしまったようだ。
仁:「……!?」
そんな気の抜けたひと時の出来事だったが、ある人物を目撃して思わず凍りついた。あの男だ……あの時、あの施設にいた上級ネメシスの男。あの男に違いない。見間違える筈も無い。その男は人混みに紛れるようにわざと人の多い場所へ向おうと歩いている。ああいう風にして人の世界に溶け込み、生活しているのだろう。
仁:「……いや、これはチャンスか?」
なんとなくだが、絶好のチャンスのように思えた。今、あの男は人混みの中に溶け込もうとしている。掴まえて話をするチャンスなのではないだろうか。
仁:「……あれだけの知性があった個体だ。おそらく、大勢の前でネメシス体にはならないだろう。これなら……話すことも出来るかもしれない。」
そう思って咄嗟に後を追うことにする。彼は少し挙動が普通の人間よりおかしいだけで、特に違和感なく人混みの中にうまく溶け込んでいる。しかし、周囲を確認する癖があるらしく、すぐに彼を見つけることが出来る。彼に気づかれないように尾行していると、不意に彼の姿を見失ってしまう。
仁:「……何処へ行った?」
なんとなくだが、人気の無いビルとビルの間に身体を滑り込ませる。そこには……彼が此方を睨みつけるように此方に向かって仁王立ちしていた。
仁:「……ッ!?」
彼を見て驚愕した。彼は人質を用意していた。まだ、幼い子供だ。その子は口を塞がれ涙を流している。汚いやり方に怒りが沸き起こってくる。
上級ネメシス:「そうだ……動かない方がいい。お互いこの場は上手くやり過ごそう。」
仁:「汚いマネを……!」
上級ネメシス:「フン……お前たちがよく言う。元々はお前たちから始めたことではないか。何を偉そうなことを。」
その言葉に怒りが鎮まっていく。今……ヤツらはなんと言った。元々は此方側から始めたと言ったのだろうか。
仁:「待て……話がしたい!」
上級ネメシス:「話……だと?」
ピクリと動きを止めて彼は此方をじっと見つめている。よし、少しだけでも話が出来そうだ。ヤツらが何を考えて行動しているのか、少しでも何か手がかりが手に入るかもしれない。そんな情報を得て自分に何が出来るというのかわからないが。
仁:「どうして、お前たちは人間の姿をして生活している?」
上級ネメシス:「敵側のお前たちが俺たちを理解するつもりか?何の為に?それとも……上層部のヤツらから命令されただけか?どちらにせよ、話すことは出来ない。敵を信用して身内の話をベラベラと喋る愚かなヤツが居るか?」
仁:「……信用しろとは言わない。ただ、一思いにやろうと思えばお前たちは俺たちを蹂躙出来た筈だ。それをどうしてしなかった?何故、人間に溶け込んで生活する必要がある。」
その言葉に少しだけ考えている様子の彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
上級ネメシス:「そうだ、面白いことを1つだけお前に話してやるよ。」
まるで思いついたかのような感じで彼は再び口を開いた。
上級ネメシス:「お前が使っているウェポンアーマーシステム。それはお前たち人間が開発したものではない。」
仁:「な……に?」
思わず頭が真っ白になる。出鱈目なことを。そうか、滅茶苦茶なことを吹き込んで此方を混乱させるつもりか。
上級ネメシス:「そのシステムが……お前たちだけのモノだとは思わない方がいい。」
仁:「そんな出鱈目なことを信用しろというのか!」
上級ネメシス:「フ……信用するもしないもお前の勝手だが……俺は、嘘は吐かん主義だ。まぁ……敵の言葉を信用出来ないと言われてしまえばそれまでのことだが。」
仁:「……。」
困惑している一瞬の隙を突かれた。上級ネメシスの人間体は子供を此方に向かって投げ飛ばした。咄嗟に子供をしっかりと受け止める。だが、そのおかげで彼はこの場から姿を消してしまっていた。彼の言葉が頭から離れず、その日の午後は全く心が休まらなかった……。
上級ネメシスから衝撃の事実を語られる。
ウェポンアーマーシステムに秘められた謎とは……。