1章 2話-新たな役者-
1人の時間をゆっくりと過ごす神崎柊一のもと1人の女性が現れる。
東雲美沙との時間は彼に何をもたらしてくれるのだろうか。
一方、進藤仁のもとにも新たな資格者、デバイサーが赴任する。
夏だというのにかなり空気が冷たい。目の前の異形の前に立つ女の姿。緊張感というものだろうか。空気が張りつめているような感覚。左手首に装着したデバイス装填システムを愛おしそうに撫でる姿。
???:「おいで……アスタロト。」
左手首にデバイスを装填すると身体が光に包まれ、あっという間に彼女はウェポンアーマーを装着した。目の前の異形たちが後退する。そして正義は執行された。あっという間にほんの数秒の出来事。
???:「……さよなら。」
兵装を解除すると、彼女は彼らにその言葉を贈った。
近々、大学のサークルで飲み会があるらしい。こんな状況だというのに此処は呑気なものだ。本州はほとんど壊滅状態。青森付近で激しい交戦状態にあるらしい。人類とネメシスの激しい攻防戦だ。合衆国連合も既に兵力は乏しく、此方側に支援出来るものは資金くらいしかないということらしい。本州が攻め込まれてこの北の大地にまでネメシスがやってくれば、日本政府は完全にお手上げ状態になる。こんな状況でも社会は真面だと思わせておきたいのかもしれない。平和だったあの時を作り上げ、偽りの世界で外の現実から目を背けさせる。有効な手段かもしれないが中に居る人たちは不安にならないのだろうか。この平穏がつくられたものだとしても……。
柊一:「そうまでしても……平穏が欲しいのか……あるいは……。」
太陽に向かって手を伸ばす。とても心地良い陽気。外の世界で戦争が起きているなんて全く微塵も……これほどだって感じはしない。情報すら規制されている徹底ぶりだ。
柊一:「……。」
誰も答えはしない。たった1人、孤独を味わう。気持ちが良い。肌で自然を感じられて。生きていると実感する。こんな単純なことだけで……例え造られた平穏だとしても感謝しなくてはいけないのかもしれない。
美沙:「……また、サボり?」
深いため息と共に隣に座る女性。相席を許可したつもりなんてない。
柊一:「……君もしつこいな。」
美沙:「あなたもね。」
どうして彼女は執着するように此方に近づいてくるのか。無関心というものが嫌ではないのだろうか。正直なところ、彼女とはなんの接点も無い。
美沙:「今はいいかもしれないけど……その内、単位足りなくなくなるよ?」
柊一:「大丈夫だ……そうならないようにちゃんと計算してある。」
視線を合わせることなく答える。彼女だって、かなり講義に出席しないことがある。教授や大学の学務課の人は何も言わない。噂によれば特別待遇だとか。彼女が何をしようが此方としては一切興味が無い。ただ、こうして1人の時間を邪魔されるのが納得いかないだけだ。彼女は人と関わることが好きなのだろう。
美沙:「心配しているの。あなたを見ていると、なんか落ち着かなくて。」
少しだけ不安げな表情な声色。過去に何かあったのだろうか。
柊一:「その心配なら無用だ。他の誰かにかけてあげるといい。」
自然と人差し指の第二関節あたりに蝶がとまる。羽休めだろうか。ムッとした表情で此方を見る彼女。その視線を受け流して蝶をそっと逃がす。ひらひらと陽の光を浴びて白い羽が煌びやかに舞う。
柊一:「……いつまで居るつもりだ?」
美沙:「私、諦めが悪い性格なの。」
思わずその言葉に溜息を吐く。どうしてここまで頑なに此方に関わるのか。
柊一:「……良い性格だな。なかなかお目にかかれない。」
美沙:「そうでしょ。」
柊一:「冗談も通じないのか、君というヤツは……。」
頭を抱えそうになるが堪える。どうやら諦めることはしないらしい。理由も教えてはくれないときたものだ。こんな変わり者と関わったのは初めてだ。どう対応して良いかもわからない。本当に……困ったものだ。
全てのネメシスを討伐する。ウェポンアーマーを解除して、周囲を見渡す。他に誰の姿も無い。異常もなし、作戦は終了した。本部へ戻り、白崎さんから呼び出される。そこには自分と歳が近そうな女性が立っていた。
仁:「白崎さん……彼女は?」
純一:「紹介する。彼女は、今日から行動を共にする第二の正式なウェポンアーマーシステムの正式適合者。東雲美沙くんだ。」
美沙:「ウェポンアーマー“アスタロト”のデバイサーです。以後お見知りおきを。」
女性……こんな華奢な彼女が資格の持ち主だというのか。怪訝そうな此方の表情に気づいたのか目の前の彼女は少し不機嫌そうだ。
仁:「……よろしく。」
手を差し出すが彼女は握手を拒んだ。
美沙:「よろしくお願いします。」
純一:「おい、仲良くやってくれ。ウェポンアーマーがいかに強力な兵器であるとしても、たった一機でこの戦況を全て覆すことなど不可能だ。」
白崎さんはああ言っていたが、ウェポンアーマーの資格者など自分1人でいい。ネメシスを全て駆逐するのは……自分の仕事だからだ。
美沙:「自分だけが正義の主人公気取りとは……選ばれた人間はあなただけでは無いということを理解した方がいいわ。」
どうやら……相性は最悪。彼女も相当一筋縄ではいかない性格の持ち主のようだ。
純一:「そこまでだ。互いに選ばれた者同士、力を合わせて作戦を遂行しろ。話は以上だ。」
こうして、初の顔合わせを済ませたのだった。上手くやっていけるか先行き不安ではある。だが、デバイサーは自分だけで十分だ。ネメシスを全て消すのは自分の役目なのだ。
新たなデバイサーは東雲美沙であった。
互いに反発し合う2人はこれから上手くやっていけるのだろうか。