0章 0話-選ばれし者-
人類の敵、ネメシスを倒す為に悪魔は産声を上げる。
やっとだ……待ちわびた。この時を待っていた。奴らは許されない。突如として現れ、人類の平穏を奪い去った。だから戦わなければならない。あの平穏だった時を取り戻す為に……。
男は静かに歩き始めた。ゆっくりと大地を踏み締めるように一歩一歩。目の前には異形の姿、形容し難い人1人分くらいの大きさの蟲のような怪人のようなシルエット。その異形に対峙するように男は不敵な笑みを浮かべる。その手首には仰々しい機械のような腕輪のようなものが装着されていた。
男:「……不思議な感覚だ。恐怖は無い。」
顔をかざすように右の手の甲を彼らの方に向ける。左手には腕輪のような装置にはめ込むようなデバイス。彼はそれを静かに右の腕輪に装着する。電子音のようなものが辺りから鳴り響く。
男:「変身。」
斜めに装填された装置を真っすぐにさせる。すると天空からまるでレーザーのようなものが照射され、彼の身体を包み込む。気づけば、彼に機械の鎧のようなものが装着された。
指揮官:「ウェポンアーマー……完全に馴染んでいるようだな。さて……ここからが人類の叛逆だ。お前たちに……地球は渡さない。」
あっという間に異形の怪物たちは殲滅された。装置を解除すると男の姿は人間の姿へと戻る。ふぅと小さく息を吐き出すと彼は仲間のもとへと歩き出す。
男:「これがルシファーの力……俺の力だ。」
己の拳を握りしめ彼は再び歩き始めた。
世界規模で食糧難やエネルギー物資不足により世界は均衡を崩し、第三次世界大戦が勃発。そんな最中だった。世界各地に隕石が落下し、その中からネメシスという地球外生命体が出現。アメリカを筆頭に合衆国連合政府が設立された。彼らは核兵器によるネメシス殲滅を行い。世界情勢はガラリと変わってしまった。中でも日本は最後に隕石が墜落し、合衆国連合政府が核兵器を使い果たしてからネメシスが大量に出現。現在では日本がネメシスの被害を一番大きく受けていた。首都東京に隕石が墜落し、旧日本政府は壊滅。現在は新日本政府を設立し、首都を被害の少なかった北海道へと移設。そこで今までのような社会活動をなんとか続けていたのであった……。
少年は遊び疲れて帰路に着く。今日も友達とたくさん遊んだ。そして腹の虫が鳴る。もう少しで家に到着する。その時だった、もの凄い衝撃が走り少年は吹き飛ばされる。地震なのか爆発が起きたのか、全くもってわからなかった。ただ一瞬で視界が真っ白になるほどの衝撃。光に包まれるように少年は意識を失う。
少年:「……痛い……身体が……。」
まだ幼いながらも彼は身体を引き摺るようにして自分の住んでいた住居へと向かう。しかし、そこで気づいたのだ。周囲がぐちゃぐちゃになっていた。まるでジオラマを思いきりひっくり返したかのような惨状。だけど帰巣本能のようなものに任せて身体が勝手に動いた。おそらく自分の家だった場所に到着する。跡形も無く瓦礫の山のような跡地。思わず言葉を失い、その場に茫然と立ち尽くす。
少年:「あ……あぁ……!」
やっとこぼれた言葉にもならないもの。そして次の瞬間、彼は絶叫した……。
回想の世界から現実世界へ戻って来る。幼い頃の壮絶な記憶だ。右腕の手首に装着されている最新の兵装を左手で触れる。
男:「大丈夫だ、これがあれば……あんな悪夢なんてもう怖くない。」
ブルームーンの本社に戻っていた。あれからあのバケモノの相手を自分がすることになる。恐怖は無い。全てアイツらが奪ったのだから。その命をもって償ってもらうのだ。
???:「相変わらずだな。資格者、“デバイサー”に選ばれたというのに。」
彼は上官で現場を指揮する白崎さんだ。自分に戦闘訓練から現場対応までかなり叩き込んでくれた恩人だ。彼の助言と教育があったからここまでやってこられた。自分は資格者であるデバイサーになれたのだ。デバイサーとは先程装着したウェポンアーマーの資格者という意味だ。選ばれた有能な人間にしかこの兵器は装着を許されていない。強敵を撃つために悪魔の力すらも利用する。そういったかなり主張の激しい意味合いでこの兵器には悪魔の名が冠されている。そして、自分が初めて装着したこの兵器はルシファーと名前がつけられていた。
白崎:「それがお前の力だ。だが、力に溺れるな……力の使い方を間違えた者の末路はいつだってまともなことはない。進藤、お前なら……それが出来ると信じている。」
彼は此方の肩を軽く叩き、それだけ言い残すとこの場を去っていった。彼も相変わらずだ。厳しくもあり、後輩には優しい。だからここまで自分はやれてこられた。白崎さんにはかなり感謝している。
時と場所は変わり、ある男がふらふらと夜の街を歩いている。その男の身体はボロボロでかなりの重体に見える。
???:「たす……けて……バケ……モノ……。」
それだけ言い残すと彼の身体はまるで灰になるかのように崩れ落ち、姿かたちはなくなった。その場に残っているのは彼の衣服だけであった……。