タクシー運転手の怖い話
『幽霊の話が聞きたい?』
『タクシー運転手は怖い話を沢山しってるだろ?』って?
まぁいいよ。怖い話ね。あるよ。とびっきりのが。
先週、大雨が降ったでしょ?その日にね。ずぶ濡れの若い女の子を乗せたんだよ。
白いワンピース。裸足。肌の見える所はアザと血だらけ。
普段俺は『そういう子』を乗せないんだけどなんか娘に似ててね。可哀想になっちゃって。
目的地も告げずに下を向いてボソボソ喋ってるから話を聞いてさ。ほんじゃあとりあえず知り合いの医者の家に送ろかってなったのよ。
走行中はずーっと無言でさぁ。気まずかったなぁ。
そしたら突然
「悪人幽霊」を知ってるか?って言ってきたの。都市伝説ってやつかな?って思ったね。
その子が言うにはこの辺にゃ『悪いやつを崖から突き落とす幽霊』がいるんだとよ。
知らず知らず崖まで運ばれ落とす……ゾーッとしたね。ここだけの話だよ?俺もタクシーの運転手やるまで散々悪いことしてきたからね。それでハッとなったのよ。で、俺は叫んだね。
「お代はいらねぇ!早く降りてくれ!」ってね。
…
…
…『怖くない』?『よくあるタクシーの怪談』?
なんかお客さん。俺たち噛み合ってない気がするね。『幽霊の話』が聞きたいんだろ?立派に怖い話だろうよ。
『待てよ?その医者の家ってのはどこだい?』って?教えられないよ。プライベートな事だもの。
こらこら!運転席に乗り込んで来るな!おいっ!ハンドルに触るな!馬鹿野郎!ハハハッ!驚いてるね!そうだよ。俺をぶん殴ろうとしても無駄だよ。さぁて。
「目的地に到着しました」
俺は男が崖から海に落ちていくのを笑いながら見ていた。お前みたいな悪人は尖った岩の串刺しになれ。
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「……私が悪い子だからお父さんは殴るんだって。私が悪いの。だから私は『悪人幽霊』に殺して貰おうと思ったの」
「お嬢ちゃんみたいないい子がそんな事言うなよ」
「私を殺してくれる?おじさんが『悪人幽霊』だよね?」
「……えっ?俺は悪人幽霊って呼ばれてんのかい?そりゃあ悪人を殺すけどよ。ああ!何か話が噛み合わないと思った……ハッ!いつの間にかもう病院だ。お代はいらねぇ!早く降りてくれ!ごめんごめん。大きな声だして。怪我を治してきてもらいなよ。闇医者だが腕は確かだよ。⚪⚪の紹介って言えばタダで診て貰える」
「私を殺してくれないの?やだよぉ。逃げてもお父さんは追っかけて来て私を殴るんだよぉ」
「お父さんは追ってこないよ」
「何でそんな事言えるの!?」
「悪人幽霊が殺すから」
少女は嬉しいような悲しいような何とも言えない表情をした。