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世界で唯一人工魔石を造れる少女と、魔導具師見習い少女の物作りな日々!【原初の因子継承師カナタは約束を違えない】  作者: 緋色の雨


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18/22

領主様に目を付けられた 6

「――という訳で、冒険者に試用してもらう魔導具を作るわよ!」

「ふわぁ……おはよう、シェリル、朝から元気だねぇ……」


 寝ぼけ眼を擦りながら起き上がると、ぶかぶかのワイシャツに下着という姿のシェリルが仁王立ちをしていた。ブラに覆われた胸部装甲の自己主張がいつもより激しい。

 まさかの着痩せするタイプだった。


「……もげればいいのに」


 掛け布団の中に潜り込んで二度寝を決め込む。


「ちょ、カナタ!? 物騒なこと言って二度寝しようとしないでっ」


 掛け布団をバサリと奪われた。続けて、ベッドのスプリングが大きく軋んだ。目を開ければ、私に跨がるようにシェリルがベッドに飛び乗っていた。


「もぅ……こんなに朝早くからなんなのよ」

「だから、新しい魔導具だよ。最近は納品用の魔導具ばっかりだったけど、これからは色々な魔導具を作れるでしょ? だから、なにか新しい魔導具を考えるわよ!」

「それ、私も考える要員に入ってるの?」

「当たり前じゃない! 私に色々教えてくれるんでしょ?」

「まぁ……そうなんだけど」


 シェリルを見上げる。

 彼女はだぼっとしたワイシャツに下着という姿でベッドに眠る私に跨がっている。しかも、そこで言い放ったのが『私に色々教えてくれるんでしょ?』というセリフ。


 私は手を伸ばし、シェリルの背中を抱き込んだ。そのまま体重を掛けて彼女を引き寄せ、ベッドに引きずり倒す。そのまま彼女を抱き枕のように抱きしめた。


「カ、カナタ!?」

「一時間経ったら起こしてね」

「は? え、ちょっと、カナタ!?」

「まずは、私の睡眠を妨げるとどうなるか教えてあげる。一時間経つまえに起こしたら今日は魔導具作りに協力しないから」

「えぇぇえぇぇ……っ」


 私はシェリルを抱き枕にして二度寝を満喫した。



「ふわぁ……よく寝た」


 一時間きっかり熟睡した私はとても気持ちの良い朝を迎えた。


「シェリルは中々に使い心地の良い抱き枕だね、また頼もうかな」

「うぅ……もう絶対に、寝起きのカナタには近付かないから」


 なぜかちょっぴり恨みがましそうな上目遣いで睨まれた。


「眠っていたい人を起こしていいのは、二度寝に巻き込まれる覚悟がある人だけなんだよ?」

「そんなの聞いたことないわよ。というか、私が言ってるのは……」

「言ってるのは?」

「な、なんでもないっ」


 顔を覗き込むとぷいっと逸らされてしまった。


「と、とにかく、二度寝に付き合ったんだから、魔導具作りに付き合ってくれるわよね?」

「もちろん、そのつもりだよ」


 私はベッドから降り立ち、魔術を使って産みだした水で顔を洗った。それからいつものように三人で朝食を採り、あらためてシェリルの工房へと足を運んだ。


「さっそくだけど、カナタは冒険者達に作るならどんな魔導具がいいと思う?」

「昨日、色々と意見を聞いたよね。たしか……」


 冒険者から聞いた意見を思い返す。


「ルシアさんには防暑の魔導具化した服、だったわね。他には、森の中で休憩するのが楽になる魔導具とか、戦闘で不足を補う魔導具、だったかしら」


 記憶を探る私を他所に、シェリルがスラスラと答えた。


「そうそう、そうだったね。アルビノって大変なんだよね」

「そうなの? あたしはよく知らないんだけど」


 シェリルが首を傾げる。

 彼女も色白な分、普通よりは日焼けしやすいはずなんだけど……自覚はないらしい。


「普通の人なら日焼け程度の日光で火傷するそうだよ。あと、冒険者として困るのは、強い光に弱いと言うことだね。閃光の魔術なんかを喰らうと失明しかねないよ」

「それは、怖いわね……っ」


 シェリルが自分の身体を掻き抱いて身を震わせる。そして、自身を掻き抱く彼女の腕は、その豊かな胸を押し上げている。

 私的には、無意識にそれをしてしまう彼女の方が怖い。


「カナタ、どうかした?」

「格差社会に戦慄してるだけ」

「……ん?」

「なんでもないよ。ひとまず、思いつくものから上げていこうか。森の中での休憩を楽にするというなら、索敵系の魔導具とか、たき火の魔導具系かな?」

「索敵の魔術を魔導具で再現するにはかなり高価な魔石がいるし、たき火の魔導具は既にあるわよね? もしかして、人工魔石を導入するの?」

「いずれは、かな。強い因子を持つ人工魔石はまだ出しづらいね」


 まだ冒険者から魔石を買い取っていないので、出処の誤魔化しが利きにくい。なので強力な人工魔石を導入するのはもう少し先のことになるだろう。


「となると、既存の魔石で造れる魔導具にする、ということ?」

「うん。索敵の魔導具は無理でも、索敵を補助する魔導具なら造れると思うんだよね」


 魔術で索敵をする場合、風属性で風の流れを読んだり、あるいは炎属性で熱の発生源を探したりして、その情報から魔物の存在を探り当てることで可能となる。


 だが、索敵の魔導具を作ろうとした場合、得られた情報から魔物を探り当てる作業までを魔法陣や紋様に組み込む必要があるので、どうしても高価な魔石と複雑な魔法陣が必要になる。

 けれど、周囲の熱源を表示するだけならそれほど難しいことではない。


「そっか、望遠鏡みたいなものだね」

「ん? あぁ、そうだね、そんな感じだよ」


 シェリルの感想に同意する。

 索敵の魔導具なら、敵を感知すれば勝手に警報が鳴る。だが、索敵を補助する魔導具は、誰かがそれを使って索敵をする必要がある。

 遠くを監視する役には立つが、誰かが監視しなければいけない望遠鏡と同質の道具だ。


「後は……ルシアさんのアルビノ対策ももしかしたら出来るかもしれないけど、こっちは防暑の魔導具があるから後回し、かな?」

「え、アルビノの対策まで魔導具で出来るの?」

「理論上は、ね」


 火傷なら、火属性への耐性を上げるお守りが利くだろう。また陽差しが原因なのだから、光属性の魔術で自分に降り注ぐ陽差しの強さを抑制することも可能かもしれない。

 いまのところ、理論上の話なので、要研究、だけど。


「後は、やっぱりあれだよね。特化武器」


 私は人差し指を立てて微笑んだ。

 だが、シェリルはこてりと首を傾ける。


「……特化武器は使い勝手が悪いって言ってなかった?」

「うん、たしかにそう言ったよ」


 強化系の魔導具は範囲を広げるほどに効果が弱くなる。反面、範囲を絞れば効果が上がるが、恩恵の得られる状況が限られてくる。特化系の魔導具は総じて使い勝手が悪い。

 だけど――


「その問題ならシェリルが解決したでしょ?」

「え、あたしがなにかしたって?」

「先日申請した、使い捨ての魔導具をリサイクルする術式。あれってつまり、調整された装備に、同じく調整した魔石を合わせれば魔導具化する、ってことでしょ?」

「え、えぇ、そうだけど……って、まさか!」


 私がなにをいわんとしているのか、それに気付いたシェリルが目を見張る。


「そのまさかだよ。魔石を換装して、武器の効果を切り替えるの。填める魔石によって、剣から炎が噴き出したり、剣の切れ味が上がったり。……面白そうじゃない?」

「すっごく面白そう――だけど、そんなことが実際に出来るかしら?」

「簡単ではないと思うけどね。でも、シェリルの開発した術式はそれに近いことをやってる。というか、複数の魔石を使った魔導具って知ってる?」

「ええっと……なんかアーティファクトでそういうのがあるって聞いたことがあるわ」

「アーティファクト……」


 存在は残っているけど、いまは誰も作れないってことかな?

 サラ先輩が報告は上げていたはずだけど……高度すぎて誰も再現できなかった、とかなのかな? なんにしても、資料を探すのだけでも大変そうだ。


「ねぇ、カナタ。複数の魔石を使った魔導具ってどうやって起動しているの?」


 シェリルに問われて、私はサラ先輩から聞きかじった知識を思い返す。


「ええっと……たぶんだけど、紋様を重ねてるんじゃないかな?」

「紋様を……重ねる? でもそれって、互いの効果が干渉しない?」

「すると思うわ。だから、なんらかの対策を講じる必要があると思うんだけど……」


 私の研究の詳細をサラ先輩が知らなかったように、サラ先輩の研究の詳細を私は聞いていない。訊いたら教えてくれたかもしれないけど、あのころはそんな必要もなかった。


「……あれ? ねぇカナタ、干渉するのは複数の魔石を同時に使うからだよね? どっちか片方だけの魔石を使うようにすれば、干渉は最小限に抑えられるんじゃない?」

「え、あぁ……どうなんだろう?」


 二つ分の紋様を重ねても、魔力を流すのはどちらか片方だけ。関係のない術式に魔力が流れてロスが生まれることはあっても、干渉し合うことはないはずだ。

 そして、それは、つまり――


「シェリル……また特許の取得が必要だね」


 彼女の理論を突き詰めれば、魔石を換装して効果を切り替えるタイプの魔導具が作れるはずだ。このペースで特許を取得していったらどうなることやらと、私は苦笑いを浮かべる。


「カナタがアイディアをくれたんだから、登録は二人で、だからね?」

「シェリルがそう言うなら。でもそれには、試作品の完成が必須だよ」

「試作品かぁ……最初はやっぱり武器、かしら?」

「そうだね。でも、剣はバランスとか、使い手によってだいぶ違うから今回の試作には向かないよ。無難なのは杖じゃないかな。たしか、両方のパーティーにいたよね、魔術師」


 私は昨日の自己紹介を思い返す。リズさんのパーティーにいるルシアさんと、フレッドさんのパーティーにいるアイシャさん。両方とも純粋な魔術師だったはずだ。


「じゃあ手始めに杖。切り換え式の魔導具化した杖を作ってみましょう」


 シェリルが乗り気なようなので、さっそく試作品を作ることにした。


「ちなみに、カナタはどんな効果がいいと思う?」

「むしろ、シェリルはどんな効果なら切り換え式の術式を組めるの? 単体で複雑な術式もあるし、組み合わせによっては難しいでしょう?」

「あぁ……そういう問題もあるわね。じゃあひとまず、思い付いたので作ってみるわ」


 シェリルがさっそく紙に術式を描き始める。

 それを横目に私は席を立った。


「ちょっと席を外すけど、魔石が砕けるような魔法陣はダメだからね?」


 シェリルにココンと釘を刺して、私は飲み物を取りに台所に顔を出した。そこには台所でせっせとなにかを作っているチェスターくんの姿があった。


「あれ、今日はお休み?」

「今日は仕事先の食堂が改修中なんだ。だから今日は料理のレパートリーを増やしてる」

「へぇ、チェスターくんって料理人だったんだね。それで料理が上手かったんだ」

「というか、料理面ではシェリルが役に立たないから、俺が上達した感じだな」

「あはは……」


 順序が逆だったらしい。まぁ私も料理はあんまりしないので人のことは言えない。だって、料理を作るより魔石を作っている方が楽しいんだもの。


「ところで、カナタはどうかしたのか?」

「ん、ちょっと休憩」

「そっか、なら紅茶でも淹れてやる」

「ならシェリルの分もお願い。魔術で冷やすから、よかったらチェスターくんの分も」

「冷たい飲み物か、いいな。じゃあ三人分だ」


 作りかけの料理から手を離し、チェスターくんがお湯を沸かし始める。彼は紅茶の準備をしながら、そう言えば――と口を開いた。


「例のファッション誌、見たぞ」

「あはは……知り合いに話題にされるのは恥ずかしいなぁ」


 というか、最近は知らない人にまで声を掛けられる。ちょっとした有名人の気分だが、知り合いに見られるのはなんだか恥ずかしい。


「あぁ、シェリルも身悶えしてたな。で、だ。そのファッション誌、俺の知り合いも見ていてな。今度よかったら、俺が働いてる店に顔を出してくれないか?」

「チェスターくんの働いている食堂?」

「店のおやっさんが防暑の魔導具化した服に興味を持っててな。ほら、厨房って、とんでもなく熱が籠もるだろ? だから話を聞きたいそうだ」


 室温をコントロールするような魔導具も存在するがかなり高価だし、魔力をチャージするのも一般人には一苦労だ。安価な魔導具で代用が出来るのなら助かる、といったところか。


「分かった。いまは領主様に呼ばれてたりでちょっと無理だけど、それが終わった後でよければ顔を出すよ。それで大丈夫?」

「ありがとう。おやっさんにもそう伝えておくよ」


 彼がそういって紅茶の入ったポットを差し出してくる。私はそれにちらりと視線を向けて魔法陣を展開、小さな氷が浮かぶくらいにまで紅茶を冷却した。


「相変わらず見事な腕だ。シェリルも出来れば便利なんだがなぁ」

「彼女は魔導具師だからねぇ」

「同じじゃないのか?」

「魔法陣を構築するって基礎的な部分は同じだけど、その他はだいぶ違うよ」


 魔術を自分で行使する場合は、それに必要な属性因子や効果因子が必要になる。対して魔導具師が魔導具を作る分には、それらの因子を必要としない。

 魔導具の行使には、魔石が含む因子を使用するからだ。


 なので、魔導具師は魔術師としての才能が乏しくともなれる。ただし、魔法陣や紋様を精密に刻む技術や、様々な発想力などが必要となる。

 似て異なる職業なのだ。


「へぇ、そうなのか……っと、お待たせ」


 私とシェリルの分、コップに入れた紅茶をトレイに乗せて渡してくれる。


「ありがとう、それじゃ料理の練習頑張ってね」

「ああ、昼食を楽しみにしておけ」


 片手でトレイを持った私は反対の手でヒラヒラと手を振って台所を後にした。

 

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