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33話 ふぁいといっぱつ!


ミコトはアイテムボックスから出したそれを、イノチへと手渡した。


『気つけ薬』とわかりやすく書かれたアイテムを受け取ったイノチは、訝しげな表情を浮かべながらそれを眺めている。



「『ふぁいとー!いっぱーつ!酷使した精神力にこれ一本』て、説明書きには書いてあるよ。」


「どこかで聞いたことのあるキャッチフレーズだが…こんなアイテムがあったとは…」


「うん、この前のガチャの時に手に入ってたみたい。イノチくんの体調…それで治るってことだよね。」


「だといいけど…」


「まぁ、ものは試しだ。イノチ、飲んでみろ!」



ウォタがニカっと笑みをこぼす。



「な〜んか他人事みたいに言うけどさ。ウォタ、お前にとっては他人事じゃないんだぞ、まったく…っうぅ!!」



イノチはそう言いながら、『気つけ薬』のフタを開けた。

その瞬間、激烈な臭いがあたりに漂い始める。



「「「「臭ぁぁぁぁっ!!!」」」」



その臭いにイノチ以外の全員が一定の距離を取ると、鼻を押さえて苦情を言い始めたのだ。



「BOSS!臭いわよ!」


「鼻がひん曲がりそうですわ!!」


「臭いぞお主!!」


「イノヒきゅん…くはい…」


「おっ…俺が臭いみたいに言うなよ!…っうぅ、臭え…」



鼻を押さえながら、『気つけ薬』の瓶を指で摘んで距離をとるイノチに、皆、早く飲めとジェスチャーで伝える。


涙目になりながら、なんでこんな目にといった表情のまま、イノチは瓶を口にすると、一気に飲み干したのだ。


その瞬間、イノチはゴロゴロと地面をのたうち回る。



「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!まっじぃ!!おぇーーーー!!おぇーーーーー!!」


「ご愁傷様…」


「BOSS、がんばれ…ですわ。」


「えんがちょ、だの!」


「イノヒきゅん、がんはっへ!」



イノチの様子を各々見守っていると、落ち着きを取り戻したイノチが肩で息をしながら口を開いた。



「ハァハァ…なんだこりゃ…うっぷ…まだ気持ち悪りぃ…」


「どんな味だったの?BOSS。」


「確かに気になります、ですわ。」


「…聞きたいか…?」



元気になるはずが、なぜかげっそりとしているイノチを見て、一同は息を飲む。


イノチは深呼吸して息を整える。



「聞いて驚け…今俺の口の中はトイレと腐った卵、それに厩舎の臭いが蔓延している…」


「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」」



その言葉に、絶句する一同。

イノチは涙目になりながらも、その反応に笑みをこぼして、息を吐きかける仕草をする。


引き気味のエレナたちを見て、ため息をつくイノチ。



「…はぁ…てか、遊んでる場合じゃないっての。しかし、効果は本物みたいだな。体も頭も軽くなったよ。これでウォタの解呪もできそうだ!」


「そっ…それは良かったのぉ。なら、さっそく…」


「そうだな…じゃあ、俺の目の前に来てくれ。」


「…離れたままできんのかのぉ。」


「お前…解いてやんねぇぞ、マジで…」



青筋を立てるイノチを見て、しぶしぶと側によるウォタ。

口臭に耐えれないといった表情を浮かべているウォタに対して、イノチはわざと息を吐きかけ、面白そうに話しかけている。



「なんか…不安だわ…」


「ほんとですわ…」


「まぁまぁ…でほ、よかっはね。解呪できほうへ。」


(あんたが一番悪意あるわ…)


(ミコトって…意外と黒いですわ。)



未だに鼻を摘んだままのミコトを見て、エレナとフレデリカは苦笑いを浮かべるのであった。





ゼンと『ウィングヘッド』の攻防は未だ決着はつかず、その戦いは激しさを増しつつあった。



「やはり相手の属性が『風』だと決め手にかけるな…」



自慢のブレスを放ちながら距離を取るゼンは、小さくつぶやいた。対する『ウィングヘッド』もダメージは受けているようだが、それらは致命的なものには至っていない。


その理由は各々の属性にあった。


バシレイアに存在する魔法などには、炎(火含む)、氷、風、土、雷、水、光、闇 の合計8種の属性が存在する。


炎、氷、風、土、雷、水は6すくみの関係性で、光と闇は2者対立関係にある。


炎は氷に強く、氷は風に強い。

逆に、炎は水に弱く、氷は炎に弱い。


要は6種のジャンケンのようなものなのだ。


であるために、関係性で隣同士ではないゼンの属性『炎』とウィングヘッドの属性『風』は、簡単に言えば常にあいこの状態なのだ。


互いに効果は薄く、致命的にはなり得ない。


もしなるとするならば、それは直接的な物理攻撃であるだろうが、『ウィングヘッド』の無数の触手がそれを阻んでいる。


しかもこの触手は再生能力が非常に高い。

切ってもすぐに生えてくることに、ゼンは苛立ち始めていたのであった。


チラリとイノチたちの方に目をやれば、どうやらウォタの解呪に取りかかっているようだ。



(ウォタが来れば余裕で奴を倒せるだろうが…フレデリカに見ておけと言った手前、そろそろイノチから貰い受けた力を披露せねばなるまい…)



ゼンはそう考えると、フレデリカに声をかける。



「フレデリカ、よく見ておれ!これがお前のBOSSに貰い受けた力だ!!」


「ゼンさま…?」



フレデリカが自分の方に振り向いたことを確認すると、ゼンは『ウィングヘッド』に啖呵を切った。



「驚き、後悔するがよい!!」



その瞬間、フレデリカの目にはあり得ない光景が映し出される。


ゼンの口から放たれ、目の前の景色を覆っていく白銀。

飛び交う小さな結晶とともに、周りの温度を下げながらその氷は『ウィングヘッド』へと向かっていく。


『ウィングヘッド』も驚いたのか、咆哮をあげて魔法を発動しようとするが時すでに遅く、得意の風魔法は発動しないまま、暴れ狂う触手もやがてその動きを止めていく。


やがで、体の半分以上が氷に閉ざされた『ウィングヘッド』は、苦しみの咆哮を上げた。



「なっ…なぜ、炎竜のゼンさまが氷魔法を…」



エレナたちも驚きの声を上げる中で、フレデリカはごくりと唾を飲み込んだ。



(ゼンさまはBOSSから力をもらったと言っていた…いったいこれは…)



驚愕の表情を浮かべるフレデリカをよそに、ゼンは少し不満気につぶやく。



「ちっ…初めてだと魔力を練るのが難しいな。全部を凍らすつもりがこれに留まるとは…まぁよい。イノチ!!今の私だけでは決め手にかける!早くその老ぼれの解呪をしてくれ!」


「あ…あぁ…!」



一部始終を見ていたイノチは、そのきれいな光景に見惚れていたのか、思い出したようにウォタの解呪を進めていく。



「小童が…図に乗りおって…イノチ、お主が試してみたかったことというのは、これのことか…」


「うん…『ウィングヘッド』の属性を聞いたときに、ふと思いついたんだよ。風は氷に弱かったなぁって。」


「なんと!お主が属性関係を把握しとるとは…思わなんだ。」


「別に知ってたわけじゃないけどね。ゼンが炎で、ウォタが水だろ?フレデリカは雷と土魔法が使えるって言ってたから、6種もしくは8種の属性があるのかなと推測しただけだよ。」



ウォタはそれを聞いてうなり声を上げた。



「少しお主を見直した…お主の言う通り、この世界には8種の属性がある。全部言えるか?」


「たぶんだけど、炎、氷、風、土、雷、水。それと光と闇かな…」


「正解だ…どこでそれを知ったのだ。」


「元いた世界…かな。」


「なんと!お主の世界にも属性が存在するのか!」


「いや、そういうわけではないんだけど…なんて言ったらいいのかな…」



キーボードを片手で叩きつつ、頭をかいて苦笑いをするイノチを見て、ウォタは興味深く告げる。



「イノチ…やはりお主おもしろいな!」

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