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8話 初心者応援キャンペーン


イノチたちは森の中で見つけた洞窟に移動し、休息を取ることにした。



「なんか地図とかないのかな…この森広すぎて、どっちへ行けばいいかわからん。」


「確かにね…木の上に上がって見渡しても、360°視界の全部が森とかあり得ないわ。」



エレナもそれには同意する。



「アイテムボックスの中になんか入ってないのか調べたいけど、開き方わかんないしさ…アリエルのやつ、いろいろと大事なことを教えてくれてないよな…」



ため息をつくイノチに対して、エレナは頬杖をついたまま問いかけた。



「アイテムボックスの中身って、頭で念じて口に出せば出てくるのよね?おんなじことをアイテムボックスを対象にやってみたら?」


「あっ…なるほど!エレナ、冴えてるね!」



喜びながら実践し始めたイノチを見て、なぜその考えにいたらないのか不思議そうに、エレナはジト目を向ける。



「…なんも出ないな。」



結果として何も出てこず、イノチが困ったように頭をかいていると、どこかでバイブレーションが鳴る音が聞こえてきた。



「…あれ?バイブの音だ…どっからだろう。」



イノチがそう言って立ち上がると、上着の胸あたりから黒い端末が落ちる。



「…なんだこれ?」



イノチが拾い上げたそれは、手のひらサイズの真っ黒な端末であった。



「携帯みたいだけど…スイッチとかあんのかな?」


「なんなの?それ…」


「あっ…おい!」



イノチがいろいろと試していると、エレナがやってきてそれを取り上げた。エレナはもの珍しそうにその物体をさまざまな角度から観察している。



「…うんともすんとも言わないじゃない。壊れてんじゃないの?」


「…わかんないけど、携帯みたいだからどっかにスイッチがあるはずなんだよなぁ。」


「…スイッチねぇ。案外、魔力を通すとかだったりしてね。」



エレナはそう言って、イノチにそれを返した。その言葉を聞いたイノチは閃いたようにエレナを肯定する。



「魔力…そうだよ!それだ!エレナって閃くの得意だな!」


「え…えぇ、まぁね…」



満面の笑みで褒めてくるイノチに、エレナは照れたようにそっぽを向く。



「さっそくやってみよう!…と言いつつ、どうすれば魔力を通せるんだ?」


「…あんた、基礎魔法は使えたんでしょ?それと同じように魔力を手に集めるようにしたらできるはずだけど…」


「手に集めるか…こうかな…?」



イノチは端末を持っている手に、魔力が集まるイメージをしてみる。するとエレナの予想とおり、その画面に『Now loading』文字が浮かび始めた。



「おっ!ついた!エレナの言うとおりだったな!」


「フフッ、感謝しなさい!」



エレナは、鼻を伸ばして自慢げに笑う。二人がそうこうしているうちに、画面が切り替わって、別の文字が浮かび上がってきた。



「ん…Z…って表示されてるな。なんかのエンブレムとかかな…?」


「あっ…なんかまた画面が変わったわね。」


「これがホーム画面だな…おっ!これ、このアイコン!アイテムボックスって書いてあるぞ!」



二人で画面を覗き込んでいると、ホーム画面が表示され、そこにはいくつかのアプリがすでにダウンロードされているようだ。


その中からイノチが『アイテムボックス』を発見する。



「さっそくボックス内を確認してみよう。」



そう言ってアイテムボックスのアプリに、イノチが指を伸ばしかけたその時、「ピロン」と何かの通知音が流れ、画面の一番上に通知メッセージが表示された。


そこには『初心者応援キャンペーン!今なら10連ガチャが1回無料!さらに高レアリティの排出率がUP!』と表示がされている。


エレナはそれを見て、ハッとする。

しかし、すでに遅かった…


頭を抱えるエレナの横では、イノチが目を星マークにして、画面を眺めている。



「…BOSS、もしかして…」



エレナが声をかけると、目を輝かせてイノチが振り向いた。



「なぁ…引いていいかな!なぁ!」


(…うっ、キモい…)



顔を寄せてくるイノチを敬遠するように、エレナはため息をついて、それに応じた。



「いいんじゃないの…?その代わり…それを引いたら地図を探して、街を目指すわよ…」



イノチは嬉しそうに目を輝かせたまま、何度も何度も縦に首を振るのであった。





二人はせっかくなので、洞窟から出てガチャを引くことにした。

洞窟の前はすこし広場になっていて、他の場所と比べて陽の光も差し込んでおり明るいためだ。



「そんじゃまあ、いっちょ引いてやりますかね!」



イノチは手を前に伸ばして、ストレッチをしながらそう呟く。


エレナはと言うと、少し離れた切り株の上に腰をおろして、イノチの様子を眺めていた。



「はぁ〜最初から気づいてたけど、うちの BOSSは変わりもんね…」



あきれたようにため息をつくエレナを尻目に、イノチは魔法の言葉を唱える。



「ガチャガチャ!」



イノチの目の前に現れたガチャウィンドウには、さっきとは違い、ノーマルガチャ、プレミアムガチャ、そして、初心者応援ガチャの3種類のアイコンが表示されている。


イノチは迷わず初心者応援ガチャをタッチした。すると、切り替わった画面には10連ガチャだけが表示されていて、『一回だけ無料』の注意書きが書かれていた。



「さぁてさてさて、応援キャンペーンなんだから頼むぜぇ!」



誰にお願いしているのかわからないが、イノチは一人でそう言うと、エレナの方に顔を向け、大きく声をかける。



「エレナァ!今から引くね!!」



エレナはそれに目は合わせず、手だけヒラヒラと振って応える。


イノチは画面に向き直ると、気を引き締め直して『10連ガチャ』のアイコンをタッチ

した。


前回と同様、画面がいったん暗転し、再び明るくなると、白髪白ひげの男が、相変わらずムキムキな上半身を見せつけるように、担いでいた大きな砂時計を反転させる。



「せめてSR…せめてSR…せめて…」



イノチは拝むように目をギュッとつむり、手をすり合わせて、祈っている。


画面では、反転した砂時計がフォーカスされて、落ちていく砂の中から輝いた光の球が飛び出してくる。


イノチはその瞬間、カッと目を見開いてその結果を確認していった。



「白……白……白……白……」



徐々に、イノチの表情が青くなっていく。



「白……白……白……金!よし!…あと2つ!!」



金が出たことで『R』は確定した。

イノチは少し落ち着きを取り戻して、残りの二つの結果を注視する。



「…残り…ひとつ目…金だ!うしっ!…最後は…」



最後のひとつをジッと見つめるイノチであったが、結果は無常にも『白』であった。


がっくりとうなだれるイノチに対して、エレナが近づいてきて労いの言葉を与える。



「今回は仕方ないんじゃない?そんなにたくさん高レアリティがでたら、そんなのもう反則でしょ?」


「…うん、まぁそうだな。エレナの言うとおりだよ。今回は諦めるわ」



イノチが気持ちを切り替えて立ち上がると、ふと、画面を見たエレナが、イノチに話しかけてきた。



「ボッ…BOSS?画面が少しおかしいわよ?」


「え?」



その言葉につられて、画面に目を向ける。すると、最後に出た白色の球の前に白髪白ひげの男性が立っており、何やら準備を始めている。


手に瓦を何枚も持ってきて、彼は白球の上に積み始めているのだ。



「こっ…これはもしや…」



驚くほどイノチにつられて、エレナもゴクリと喉を鳴らして画面を見つめる。



「…確定演出か!!?」

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