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24話 『分析』


「はよせんか!ここから出るぞ!やつが…くる!」


「わっ…わかってるよ!今やって…わぁっ!」



イノチは急いでキーボードを叩くと、目の前の壁が消えて再び通路へと飛び出した。



「グォォォォォ!」



横を見れば大きな地響きを上げ、触手で壁や地面を叩き割りながらこちらに向かってきている『ウィングヘッド』の姿がある。


あきらかに怒っているように見えるのは気のせいだろうか。



「またこれかよ!」


「お主がくしゃみなんかするからであろうが!」



イノチは来た通路を戻る形で走り出した。



「くそ!なんとかこの状況を打破しないと…ハァハァ…俺の体力がもたないよ!!」


「確かに…隠れてもすぐに見つかってばかりだからな。」



イノチの胸元からひょこっと顔を出して、ウォタはそうつぶやいた。



「今のは俺が悪いにしても…ハァハァ…他の時は見つかった理由がわからんないよな…うまく隠れたと思っても…ハァハァ…すぐに見つかっちまう…これじゃ、ウォタの呪いを解く暇がない!!」


「…」



その言葉に対して、ウォタは何かを考えているのか、無言で何も答えない。


『ウィングヘッド』との鬼ごっこが始まって以来、これまで何度か隠れてやり過ごそうとした。

そして、状況を打破するためにウォタの呪いを解除しようと試みたのだが、なぜだがすぐに見つかってしまい、失敗に終わる。


穴を掘っても、岩に擬態しても、通路を偽装しても…

何をやってもことごとく見つけられてしまうのだ。



(なんでだ…ウォタの魔力を追っているわけじゃないなら…)



そんなことを考えていると、後ろから触手がイノチめがけて叩き下された。



「わわわわ!」



とっさに横に転がってかわしたイノチの真横で、床が叩き割られ、石が飛び散る。


体制を立て直し、再び走り出しながらイノチはウォタへ問いかけた。



「ウォタ!なに考え事なんかしてんだよ!何か…いい策はないのか?!」


「いやな、いい策は思いつかんが…お主の魔力、もしかするとあいつに覚えられたのかもしれんな。」


「はぁ!?何言ってんだ!」


「しかし、それならばことごとく見つかる理由にも説明がつくだろ?」


「確かにそうだけどよぉ〜ハァハァ…嘘だろぉ〜なんだよ、魔力を覚えるって!」


「生き物の魔力には流れというものがある。それらは性格と一緒で個性があるからのぉ。奴は我の魔力を見失ったかわりに、お主の魔力の流れを覚えて追いかけてきとるんだろう。」



イノチは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。


なんでこうなったのか…

言い始めたらキリがないが、ウォタやエレナたちに戦いは任せ、自分は戦うことを避けてきたツケでもあるのだ。


たしかに『ウィングヘッド』は強敵ではあるが、逃げることしかできない自分に少し腹が立ち始める。



(冷静に…考えろ。)



現在地は未だに45階層だ。

追い回されている状態で、上にも下にも階層を移動することは難しそうだ。


そもそも、この階層は迷宮のように入り組んでいて、未だに階層の出口は見つかっていないし…


できればミコトたちと合流したいが、彼女たちがこの階層に来るまでには、まだ時間がかかるはず…


助けは期待できない。


そして、ダンジョンボスである『ウィングヘッド』は目の前に…いや、真後ろにいる。


奴は自分の魔力に惹きつけられていると仮定するならば、このままではジリ貧だ。


活路を見出さなくては…


イノチはそう考えて、決意した。



「ウォタ…勝てるかわかんないけど…ハァハァ…やるしかないみたいだ。」


「むぅ…やはりそうなるか。すまん、我のせいで…」


「気にすんなよ!『超上級』に挑もうって決めたのは俺なんだし、ウォタのせいじゃないさ!」


「…」


「…ハァハァ…お前は戦えないけどさ、考えることはできるだろ!?知恵を貸してくれ!!」



ウォタもその言葉に決意を固める。

弱々しくも力強い視線をイノチへ向ける。



「よかろう!!二人で…奴を倒そうじゃないか!!」


「おうよ!!」



そう返してイノチは振り向くと、急ブレーキをかけた。

『ウィングヘッド』もそれに応じたように足を止めて、触手を宙に漂わせる。


両者の睨み合いと沈黙が少しの間続き、イノチがそれを破って『ウィングヘッド』へと駆け出した。


もちろん、駆け出すと同時に右手に魔力を込めて『ハンドコントローラー』を発動し、地面へと触れておく。


そして、『ウィングヘッド』から目を離すことなく、キーボードに指を走らせてコードを『書換』えていく。


ちなみに余談であるが、前述した「Dual Lazy(デュアルレイジー:二刀の怠け者)」の二つ名は伊達ではない。


キーボードは見ないで打てるのは当たり前だし、一度見たコードは基本的には全て暗記していて、2回目からはコードを直接見る必要は、イノチにはないのだ。


もともと仕事中は、右手でプログラミング作業をしながら、左手でスマホを扱っていて、その意識は常にスマホに向いている。


もう一度言う。

彼の意識は、PCではなくソシャゲに向いているのだ。


これがイノチが「Dual Lazy(デュアルレイジー:二刀の怠け者)」と呼ばれている所以、である。


ただの怠け者ってことだけど…



「イノチ!触手がくるぞ!左へ飛べ!!」



その言葉に反応して、イノチは左へと大きく飛んだ。

イノチが今までいた場所に無数の触手が叩き込まれて地割れを起こす。


転がり込んだイノチは、体勢を立て直してキーボードを打ち込んでいく。



「次は右に飛べ!着地後にそのまま後ろに回り込め!!」



再び、ウォタに言われた通りに触手をかわして、そのまま『ウィングヘッド』の後ろに回り込むと、キーボードのエンターキーを撃ち込んだ。


ゴゴゴォンッと大きな音を上げて、『ウィングヘッド』の右足の下が盛り上がる。


足元が突然隆起し、バランスを崩して大きな音とともに左側へと倒れ込む『ウィングヘッド』。



「いまだ!!……!?」



その様子を見ながら目に魔力を集中させ、『解析』を試みたイノチは、表示された『ウィングヘッド』の情報を確認して驚いた。



【名 前】ウィングヘッド

【種族名】ドラゴン

【属 性】風

【タイプ】朽ちたもの

【備 考】竜種の成れの果て

【加 護】なし

【スキル】風系魔法(全級)

【ウィークポイント】氷系魔法 ※魔に属するため聖系魔法も有効



ここまではウォタの時と一緒だった。

しかし、この後の情報は初めて見るものだ。


【パターン】

触手、レイ・ウィング(風魔法)を使用。

触手で攻撃する際、先に頭部の羽が震える。風魔法『レイ・ウィング』は魔力消費が大きく、一度打つと魔力の回復に時間がかかる。魔力が溜まると頭部の4つの羽が一斉に震える。魔力感知に長けており、房に隠れたドラゴンの頭がソナーの役割をしている。


【特記】

目が悪く動きは遅い。


【分析】

『ウィングヘッド』は、生物が発する微量の魔力に自分の魔力波を当てることで、相手の位置を感知します。その魔力波を吸収、もしくは自分の魔力の放出をゼロにすることで、感知の網をくぐり抜けることが可能です。

また、聖系魔法も有効です。



「こっ…こんなの、前は見れなかったけど…『分析』…?」



イノチは疑問に思いつつも、内容を見てあることを思いつき、ハッとした。



「魔力波…そうだ!ウォタ、あいつを見ててくれ!!」


「何をするんだ!?」


「あいつから身を隠せる方法を見つけたんだ!!」

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