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22話 忘れてた!



「そんなことが…」



エレナは驚きを隠せなかった。

高飛車で自信家なフレデリカに、そんな過去があったなんて知らなかったからだ。



「そのあとは…どうなったの?」



少し震えた声でミコトが続きを促すと、フレデリカは再び口を開いた。



「わたくしが気がついた時には全てが終わっていたのですわ。皆殺され、里は壊滅状態…その『ドラゴンヘッド』もどうなったかわからない…」


「そのミヤとかいう竜種は?」


「それも…わかりませんですわ。」


「…そう。」



エレナもミコトもそれ以上口にできなかった。



「叩きつけられた衝撃で記憶も曖昧だったわたくしは、里の中を彷徨いました…そこで見つけたのは無惨に殺された同胞たちの姿ですわ。カルロスと父さまの遺骸は跡形もななっていました。そして、兄と叔父であるサムスは…元の形がわからないほどに…」



フレデリカもそこまで話すと口をつぐむ。

その顔には悲しみよりも悔しさが強く滲み出ていた。


そんなフレデリカを見て、ミコトは自分を恥じた。

相手の気持ちを知らずに、一時の感情で友を罵り、傷つけてしまったことに。


エレナは悔しかった。

共に戦う仲間が、これほどまでにつらい過去を抱えていたとは知らずにいたことに。




一同に沈黙が訪れる。




しかし、それを破ったのはフレデリカであった。



「ミコト…ゼン様のことは謝りますわ。わたくしとしたことが、あなたやエレナがいるのに周りが見えていなかった…」



その言葉にミコトは驚く。



「エレナも…奴の恐ろしさを知るわたくしが一番に止めるべきでしたのに…」



エレナも突然の謝罪に驚いていると、先にミコトが口を開いた。



「そっ…そんなことない。私こそ言い過ぎてごめんなさい。私がちゃんと指示できてれば結果は…違ったと思う。」


「あたしこそ…もっと敵のことを見極める力をつけるべきだと思い知らされたわ。」


「フフフ…そう言ってもらえると少しは気が楽になりますわ。ただ、ゼン様が大丈夫というのは、本気で思っています…あの方はいずれウォタ様を追い抜くと言われている緒方ですから。だから、ミコト…気を悪くしないで欲しいですわ。」


「うん、私もゼンちゃんを信じるね。」



ミコトが笑顔を向ける傍らで、フレデリカの言葉に疑問を感じたエレナ。



「ウォタを超える?それってどういう意味なのよ。」


「あら?わたくし、言ってなかったかしら?」



フレデリカは首を傾げると、不思議そうにエレナたちを見ながら口を開く。



「ウォタさまは竜種の始祖。最古であり、最強の竜種ですわ。もちろん、我々ドラゴニュートの生みの親でもあります。」


「はっ?」

「へっ?」



エレナもミコトも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

フレデリカはそれを見て、おかしくて笑っている。



「いやいや!あんた!ウォタと最初に会った時、そんなこと一言も言ってなかったじゃない!」


「あの時はウォタ様が我々を生み出した竜種だなんて、わたくしも知らなかったのですわ。それに聞かされたのも最近ですわ。」



フレデリカはいつもの調子に戻ったようだ。

体はボロボロだが、あぐらをかいたまま腕を組み、ふんっと鼻を鳴らしている。


ミコトはそれがおかしくて、笑みをこぼした。

強い女性ひとだと…そう感じたのだ。


エレナも大きくため息をついて、諦めの言葉をこぼす。



「はぁ…まぁいいわ。あんたに何言っても無駄なことくらい知ってるし…だけど、ウォタが最強の竜種だなんて、あんまり信じられないわね。」


「ウォタさん、優しいですもんね。」


「威厳なんて、感じられないのに。」


「威張らないところが、ウォタさんの良いところじゃないですか?」



エレナとミコトが、ウォタをネタに話に花を咲かせていると、フレデリカが切り替えるように口を開いた。



「それよりもこれからのことを考えないとですわ…『ドラゴンヘッド』を倒さないと、このダンジョンから出ることもできないのですから。」


「たしかにそうですね。でも、できることなら先にイノチくんたちと合流をしておきたいなぁ…」


「そうなのよね。だけど、下に行く階段もあの通り…他に道があるとも思えないけど…」



エレナは親指で下への階段を指すと、ミコトと一緒に大きなため息をついて下をうつむいた。

しかし、フレデリカはそんな様子もなく、ミコトに話しかける。



「ミコト、すまないけどポーションとマジックポーションをもらえるかしら?」


「あぁ…そうだった!フレデリカさんの回復を忘れてた!」



ミコトはあたふたしながら携帯端末を操作して、ポーションとマジックポーションを一本ずつ取り出して、謝りながらフレデリカに手渡した。


フレデリカはそれを受け取り、ゆっくりと飲み始める。



「ングング…下に降りるのは問題ないですわ。わたくしの土魔法で通路は開けるですわ。」


「あっ…その手があったわね!」



ぽんっと手を打つエレナを見て、小さくため息をついたフレデリカは、飲み終えたポーションの空瓶をミコトに渡すと、今度はマジックポーションのフタをぽんっと開けた。



「え…と、土魔法…ってなにするの?」



目の前で首を傾げるミコトに対して、フレデリカはマジックポーションを一気に飲み干すと、再びその空瓶をミコトに手渡す。


そして、閉ざされた下層への入口の前に立つと、静かに目を閉じた。



「重き地を司る深淵の者よ、我の行手を開き給へ…」



そう告げたフレデリカが目の前の瓦礫に触れると、ザラザラと大きく崩れ始めていく。



「わわわわ!すごい!!」



ミコトの驚きをよそに、フレデリカは一息つくと口を開いた。



「まずはBOSSの捜索…ですわ。」



フレデリカはそう言って、開いた深淵の先を指さすのであった。



三人はフレデリカを先頭に、長い階段を降りていた。


崩れた瓦礫で埋め尽くされているため、時々、フレデリカが魔法を唱えて掘り進めていく。



「便利な魔法ですね!でも、魔力をけっこう使いそうですけど、フレデリカさん大丈夫?」


「これは錬金術では必須魔法なのですわ。だから、長い鍛錬の中で魔力の消費を抑える技術を学ぶ…これくらいのことなら、長く使っていられるのですわ。」


「へぇ〜!」



ミコトは目を輝かせながら、フレデリカの魔法を眺めている。


そんな二人にエレナが声をかける。



「ところで、『ドラゴンヘッド』について他に情報はないわけ?弱点とか特性とか。」


「そうですわね…例えばさっきのやつは『ウィングヘッド』と呼ばれますわ。属性は『風』で、もとはウィングドラゴンの幼生体だったのでしょう。他にも属性によって呼び名が変わりますですわ。」


「なら、例えば属性が『火』ならレッドドラゴンで…呼び名は『レッドヘッド』かな?」


「ミコト…そこは『ファイア』でしょ?それくらいあたしでも間違えないわ!」


「いえ、ミコトが正解ですわ。」


「はぁ!?」

「やった!」



エレナは納得できないといった顔でフレデリカを見ていた。


ちなみにフレデリカの説明によれば、『ファイア』は属性でいう『炎』である。


他にも魔法の属性は『アクア』(水)、『アイス』(氷)、『ボルト』(雷)、『アース』(土)、『ダーク』(闇)、『ライト』(光)と分類されていて、竜種もそれらの属性名が名前の頭についているのだという。


そうして三人は、あれやこれやと言いながら、先ほど戦いのあったフロアにたどり着いた。



「さてと…もう一度ここから再スタートですわ。」



その言葉にエレナとミコトは大きくうなずく。


うなずきながら、フロアを見渡していたミコトは、大きな穴が空いていることに気づき、走って近づいた。


フレデリカたちもそれに続く。



「ゼン様のお姿が見当たらないのは、この下に落ちた可能性があるということですわ。」


「…ゼンちゃん…無事でいて。」


「ミコト、大丈夫よ!あのゼンがやられるわけないわ!…ん?」



ミコトを慰めようとしたエレナは、近くにあるものが落ちていることに気がついた。


白い布切れ…



「あっ!!」



エレナは非常に大事なことを思い出したのだった。

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