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21話 フレデリカと竜種⑥


一本の黒い波動の柱が立ち上る。


それは誰の目にも、不吉の予兆として映っていた。


憎悪、憎しみ、怨嗟、悲しみ。

それらの全てを天に撃ち込んだかのように、それは高く高く登っていく。



「なんだ…あれは…」



黒い柱に、驚きを隠せないサムスの傍らで、ロベルトはそれをかわすように飛ぶ竜の姿を確認する。


そして、その竜は大きく向きを変えると、一直線にこちらに向かって来たのだ。


一際大きな体と、妖艶に光る紫の鱗。

崇敬たる存在を知らしめんとばかりに、その翼を大きく羽ばたかせている。



「りゅっ…竜種さま…!?」



目の前に降り立つ存在に、ロベルトは思わずこぼす。



「ほほう…まだこれほどおったのか。」



驚きの声を上げるロベルトをよそに、紫の竜種はニヤリと笑みをこぼした。



「竜種さま!父さまは…?!父はどうしたのでしょうか!!」



耐え切れずフレデリカが大きく叫ぶ。

その言葉を聞いた竜種ミヤは、笑いながら答えた。



「お前の父か?あれはよく頑張っていたな。しかし、ちょっと足りなかったようだ…ククク」


「そっ…それはどういう意味でしょうか!?」


「おい…フレデリカ。いい加減にしないか!お前はさっきからいったい何を…」



竜種に対して礼もわきまえず、必死で問いかける妹に、ロベルトは声をかけるが、それを遮るようにミヤが言葉を綴る。



「死んだよ…お前の父は。あの異形に力及ばすな。」


「なっ…!!」


「え?」



信じられないといった表情を浮かべ、口をパクパクさせているフレデリカの横で、二人の話が理解できずにいるロベルト。



「竜種さま…父が死んだとは…いったいどういうことでしょう。」


「…お前が奴の息子か。なるほど潜在的な力はあやつより高いな…よし決めたぞ。お前…この里を守ってみろ。」



ロベルトの質問など気にすることなく、ミヤは何かを決めたように再び笑った。


そして、大きく咆哮を上げる。



「ククク…もうすぐあの異形がここに来るぞ。お前の父は敵わなかったが、お前はどうかな?ここにいる皆を守り切れるといいな!」


「いったい何をおっしゃっているのですか!お答えくださ…」


「グオォォォォォォォォォ!!」



先ほど聞こえたものと同じ咆哮があたりに響き渡る。

空気がビリビリと振動するほどに、鋭く強烈な咆哮だった。


ロベルトは声がした方向へと顔を向ける。

フレデリカやカルロス、サムスたちも同様にそちらを見ている。


その瞬間、遠くで黒い光が輝いたかと思えば、漆黒の魔法がまっすぐこちらに向かって放たれた。


ロベルトには、それはミヤに向けて放たれたように思えた。

しかし、ミヤはフワッと飛び上がると、それをいとも簡単にその魔法をかわしてしまう。


行き場を失った魔法は、そのままロベルトたちの横をかすめ、里の者たちが集まる場所の近くへと着弾した。



「「「キャァァァァ!!!」」」


「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」



爆音が轟き、多くの叫び声が飛び交う様はまさに阿鼻叫喚。


驚きに言葉が出ないロベルトやフレデリカをよそに、最初に口を開いたのは衛兵隊長のサムスだった。



「皆、焦るな!動ける者は負傷した者を手伝え!女子供を優先して南門から離脱させよ!救護兵は皆の誘導を!それ以外は私の元に集まれ!」



その指示に、冷静を取り戻した衛兵隊たち動き出す。



「ロベルト!お前は私を手伝え…カルロス、フレデリカ!お前たちは皆と共に逃げろ!」


「父さん!嫌だよ!俺も戦う!!」



バキッ



父へと駆け寄ったカルロスは、突然の衝撃とともに後方へと跳ね飛ばされる。その左頬は赤く染まっていた。



「フレデリカ…息子を頼む。」


「わかりました…ですわ。」



放心状態のカルロスを立ち上がらせてフレデリカは南門へと向かう。その横を衛兵隊たちが通り過ぎてていく。


歯を食いしばるフレデリカ。

自分の力が足りないことが悔しい。

父を亡き者にされたのに、その仇敵に仇なすことができないことが悔しかった。


後方から再びあの咆哮が聞こえる。


サムスが陣形を指示し、ロベルトにも話しかけている声が遠くに聞こえている。



「カルロス…大丈夫?」


「あぁ、すまない…俺も君に同じことをしたんだって、今気づいた。」


「気にすることないですわ…」



本心でない言葉で、フレデリカはカルロスを慰めた。



避難する皆の一番後方を、早足で進むフレデリカたちは、南門へとたどり着く。


しかし、なぜか皆、立ち止まっており前へ進む気配がない。

それどころか、どよめきが起こり始め、先頭の方で誰かが叫ぶ声が聞こえる。


見れば衛兵の一人が、紫の竜種ミヤに訴えかけている。



「竜種さま!これはいったい…!なぜ我らの歩みを阻むのですか!」


「お前たちは誇り高き竜種の末裔であろうが!なぜ逃げる必要があるのだ!我は逃げは望まん…戦うのだよ。」


「ここには女子供や年寄りしかおりませぬ!戦えない者たちばかりなのです!」


「そうか…戦えぬか…」



ミヤはそう言って目をつむり、ため息をついた。



「つまらん者たちだ。せっかく我ら竜種の血を継いておるのに…お前たちは力を弄ぶだけか?そんなつまらん種族は生きておっても仕方ないなぁ。」



笑いながらそう告げるミヤを見て、フレデリカは理解した。


あの竜種は自分たちで遊んでいるのだと…

あの異形と戦わせ、それを見て面白がっているのだ。


そう理解すると同時に、フレデリカの中に沸々と怒りが込み上げてきた。


もちろん、身勝手な行為で父を死なせたあの忌々しい紫の竜種に対してだ。


しかし、フレデリカが怒りに任せて竜種のところへ向かおうとした矢先、後ろから大きな咆哮が轟いた。


振り返れば、あの異形が地響きとともに向かって来ているのが見える。


房から伸びた触手には、何名かの遺骸が吊るされたまま。



「にっ…兄さまぁぁぁぁ!!」



その一つを見てフレデリカは絶叫した。

兄ロベルトの変わり果てた姿がそこにあったからだ。


フレデリカが思わず駆け寄ろうとした瞬間、異形が黒い魔法陣を発動させる。


そして、フレデリカ目掛けて、再び黒い魔法を放ったのだ。


黒い雷のようなものが幾重にも走り、バチチチッと音を立てて真っ直ぐに駆け抜けるそれがフレデリカに当たると思われた直前。



「フレデリカァァァァ!!!」



カルロスがフレデリカを突き飛ばした。


その瞬間、走馬灯のようにフレデリカの周りの全てがスローモーションとなる。


何も聞こえない…


ふと、カルロスの顔が視界に映る。


カルロスは涙を浮かべながら、口で何かを呟いていた。

口の動きだけで、フレデリカそれを読み取る。



「い・き・の・び・ろ」



カルロスは涙目でニコリと笑った。


次の瞬間、魔法がカルロスに着弾し、大爆発が起こる。

その衝撃でフレデリカは吹き飛ばされ、近くの崩れた建物の壁に叩きつけられる。


ブラックアウト…


フレデリカは気を失った。

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