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20話 フレデリカと竜種⑤


「グオォォォォォォォォォ!!」



遠くで何かの咆哮が聞こえる。

今まで聞いたことのない声が森に響き渡る。


まるでそれは悲しみと怨嗟を含んだ叫び声のようだった。



「なんだ…!?今のは…!」



サムスと別れた後、北門を抜け、街道を進みながらフレデリカたちの捜索をしていたゼルス。


彼は足を止め、声のした方へと振り返った。

そして、すぐさまその方向へと走り出す。



(とてつもなく嫌な感じだ…胸騒ぎがする…)



ゼルスはその足を早めた。



「フッ…フレデリカ!なんだよあれ!」


「わっ…わたくしがわかるはずないですわ!!」



森の中から現れた異形のモンスターに、二人は驚きを隠せない。



(これが…さっきの黒き竜種さまだというのです?)



ミヤの言葉から推測すれば、目の前にいるのは黒き竜種ということになる。


しかし、フレデリカはそれが信じられなかった。



体の大きさは確かに同じくらいだ。

しかし、その体表は鳥の羽毛のようなもので覆われていて、黒くきれいに輝いていた鱗はどこにも見当たらない。


体と思われる場所には、なんだかよくわからない房のようなものがあり、それがキバのついた大きな口を想像させる。


そして、頭?の部分にある特徴的な羽…

一見、コウモリの翼にも見えるその大小4枚の羽は、独立的に羽ばたき、キチキチと音を立てているのだ。



「さて、まずはお前らとだな。やって見せてくれ。」



フレデリカたちの後ろで、ミヤは近くにあった大きめの岩に飛び移ると、楽しげにそうこぼした。



「グオォォォォォォォォォ!!」


「…ひどい声ですわ…カルロス!?」


「なっ…なんだ!?」



その咆哮に耳を塞ぎつつ、フレデリカはカルロスに指示を出す。



「あんたは里へ行って父さまたちにこの事を…!」


「何言ってんだ!!お前一人であんなの相手に何ができんだよ!?」


「冷静に考えた役割分担ですわ!」



総合的な強さではフレデリカの方が強い。

しかし、カルロスはフレデリカよりも断然に足が速かった。

フレデリカはそれを瞬時に判断し、カルロスへ伝えたのだが…



「グオォォォォォォォォォ!!」



二人がやりとりしてる間に、異形のモンスターが謎の房から触手を伸ばして襲いかかってきた。


真上から叩きつけられる触手を、とっさに横にかわすフレデリカとカルロス。



「くっ…早いっ!カルロス!急いで…あっ…!」



カルロスへの指示に気を取られ、フレデリカは足元にあった石で足を滑らせてしまった。


好機と言わんばかりに、倒れ込んだフレデリカへ無数の触手が襲いかかる。



「しまった…!」


「フレデリカ!!」



カルロスの声が響き渡る。

フレデリカは襲いかかってくる触手を見て目をつむった。


しかし、万事休すと思われたその瞬間、フレデリカの目の前で触手が断ち切られ、異形のモンスターが叫び声を上げる。


その声にフレデリカがゆっくりと目を開ければ、目の前には親しんだ大きな背中が見えたのだ。



「父さま!!」


「大丈夫か…フレデリカ。」



歓喜の声をあげるフレデリカには顔を向けずに、真っ直ぐと異形を見つめるゼルスの姿がそこにはあった。



「ゼルス叔父さん!」


「カルロスも無事だな…よかった。二人ともお仕置きは後だ…後ろに下がりなさい。」


「ほう…」



フレデリカたちを自分の後ろに下げ、異形を睨む男を見て、ミヤは予想外だという顔をしていた。



「簡単に状況を…」


「後ろの竜種ミヤさまが"成体の儀"を終えたようです。目の前の異形も元は黒い竜種さまでした…」


「嫌な予感はこれだったか…」



ゼルスは小さくため息をつく。



「父さま…」


「心配するな、フレデリカ。あの竜種さまは私が止める。お前たちは里へ戻りなさい。」


「でっ…でも!!」


「言った通りにするんだ!カルロス!フレデリカを連れて行け!!」



カルロスはそれを聞いてフレデリカを抱え上げる。

フレデリカは必死に抵抗するが、カルロスはそれを離すことなく走り出した。


二人はミヤの横を通り抜けたが、ミヤの興味はすでにゼルスに移ったようで、見向きすらしない。



「父さま!カルロス…!離しなさいですわ!父さまぁぁぁ!」



フレデリカの声がこだましながら離れていく。



「…済んだかな?」


「…」



無言のゼルスに対して、竜種ミヤはニンマリと笑った。



「グオォォォォォォォォォ!!」



異形のモンスターは今まで以上に鋭い咆哮を上げ、触手を伸ばしてゼルスへと襲いかかてくる。


先ほど断ち切った触手も再生しており、その手数をさらに増やしてきた。



「尊ぶべき我らが竜種さま!13代目里長、ゼルス=アールノストが貴方さまをお止めします!!」



ゼルスはそう言うと、金色に輝く魔法陣を両手に発動した。



カルロスは北門を抜けるとそのまま南地区を目指す。

何か問題が発生した際、一番遠くの地区へ避難することと決められていたからだ。



「うぐ…父さま…」



肩に担がれたまま、力なく嗚咽するフレデリカにカルロスは語りかける。



「ゼルス叔父さんは歴代最強と言われてるんだ!負けるはずないって!」


「でも…ぐすっ…相手は竜種さまですわ…」


「自分の父親のこと、信じれないでどうすんだ!!」


「うぅ…ごめんなのですわ…」



こんな自信のないフレデリカは初めて見た。

それほど自分の父親のことが心配なのであろう。


それは仕方のないことだと、カルロスは思う。

カルロスもまた、言い表せない不安を抱えていたからだ。



「急いでみんなのところへ行こう!応援を頼むんだ…」



カルロスの言葉に、フレデリカは力なくうなずいた。



南地区、共同区内にある建物の周りには、避難してきた里の者たちが集まっていた。



「皆聞いてくれ!現在、里長ゼルスが此度の件について調査に出ている。戻るまでの間、父に代わりこのロベルトが指揮を取ることになった!」



その言葉に里の者たちは皆、耳を傾ける。



「何か必要なものがあれば、近くにいる衛兵に声かけを!女子供や年寄りには優先して物資を渡してくれ!」



皆の間にどよめきの波紋が広がる。

ロベルトは一度後ろに引き、サムスへと話しかけた。



「皆、不安が拭えないようです。」


「仕方ないさ…何が起きてるかわからない上に、里長が不在なんだ。」


「すみません…僕の力不足で…」


「そんなことはないぞ。おまえはよくやっている。だがな…お前が不安でいれば、それは皆に伝わる…だからどっしり構えておくんだ。」



サムスはロベルトの肩をポンと叩くと、代わりに里の者たちの前に立ち、衛兵たちに指示を出していく。


ロベルトはため息をつくと、北門の方へ視線を向けた。



(皆をまとめることがこんなにも難しいことだとは…父さん…ん?)



そう考えていると、遠くにカルロスの姿が見えた。

肩にはフレデリカを担いているようだ。


必死の様子でたどり着いたカルロスに向かって、ロベルトは声をかけた。



「カルロス!今までどこに行ってたんだ!フレデリカも…大丈夫かい!?」


「ハァハァ…すみません。仕置きは後で受けます…ハァハァ…それよりもお話が…」



フレデリカをおろしながらそう告げるカルロス。

すると指示を出し終え、戻ってきたサムスが自分の息子がいることに気づいて駆け寄ってきた。



「カルロス!無事か!?フレデリカも…ったく、お前はこんな時にどこへ行ってたんだ!!みんなが大変な時に!!」


「父さん…それは…その…」


「サムス叔父さん!怒るのは後で…カルロス、いったい何があったんだ?」



カルロスを叱りつけるサムスを抑止して、ロベルトは事情を話すよう促した。


すると、横にいたフレデリカが口を開く。



「…兄さま!父さまが…このままでは父さまが死んでしまうですわ!!」


「父さんが…?いったいどういう…」



その時であった。

爆音が轟き、北門付近で黒い魔法が立ち上った。


そして、大きな咆哮が里全体にこだましたのだった。

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