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16話 フレデリカと竜種①


茫然と座り込んだままのミコトに、エレナが声をかける。



「ミコト…聞こえてる?ミコトって…!」


「…レナさ……ちの……だ…。」


「え…?」



あまりの声の小ささに聞き返すエレナに対して、ミコトは突然声を荒げて言い放った。



「エレナさんたちのせいだよ!!」


「…っ!?」



その言葉をエレナは予想していなかった。


彼女が何のことを言っているのか、突然過ぎて理解できないでいるエレナに、ミコトは追い討ちをかけるように言葉を綴った。



「ゼンちゃんは逃げようって言ってたじゃない!!それなのに、エレナさんもフレデリカさんも先走って!!挙句にやられちゃってこんな状況なっちゃった!!ゼンちゃんが…ゼンちゃんがやられちゃったら…!!」



悲憤の涙を浮かべ、声を荒げるミコトに対し、エレナは言い返すことはできなかった。


なぜならミコトの言うとおり、この状況は自分たちが原因だと理解しているから。


高揚する気持ちと、勝てるという曖昧な自信から、安易に『ウィングヘッド』に挑んでしまったのは、自分とフレデリカの高慢さの結果だった。



「下に行く道って言ったけど、どこにそんなものがあるの?!39階層までは全部一本道だったじゃない!!早くいかないとゼンちゃんが…ゼンちゃんが…うぅぅ…」



そこまで言うと、うつむき肩を震わせるミコトに、エレナはどう声をかけていいかわからない。


ミコトへの引け目、慢心への後悔、ゼンへの…


考えれば考えるほどに、自責の念が心を支配していくのだ。


エレナがミコトを見つめていると、気を失っていたフレデリカが目を覚ます。



「う…うぅ…」


「フレデリカ…!!気づいたの!?」


「え…えぇ…。うぐっ…やつは…『ドラゴンヘッド』は…」



痛む体を震わせながら、必死に問いかけてくるフレデリカ。


しかし、体中はボロボロなくせに、開けた片目の瞳には、まだ強い意志が燃えているのがわかった。



「…あんたがやられて、一度退いたのよ。」


「そう…ですか…」



フレデリカはギリッと歯を鳴らし、悔しげな表情を浮かべる。


ゼンはいない…

自分たちをかばって囮になった…


それをフレデリカに告げるべきかどうか、エレナが少し悩んでいると、ミコトが口を開いた。



「ゼンちゃんがみんなを守って…犠牲になったんだよ…」


「ミコト…まだやられたとは限らないわ。」


「そうだけど、やられちゃったかもしれないじゃない!!」



ミコトは、怒りを込めた視線をエレナでなく、フレデリカへと送りつける。

しかし、フレデリカはあまり気にした様子はなく、静かに話し出す。



「ゼン様なら大丈夫ですわ。」


「なんでフレデリカさんにそんなことわかるの!?」


「ゼン様は竜種ですもの…負けるはずがないのですわ…」



そう話しながら、フレデリカはエレナに支えられて起き上がった。



「…さっきのモンスターは『ウィングヘッド』、別の名を『ドラゴンヘッド』と言いますわ。やつらは竜種の成り損ないで、竜種の幼生の成れの果て。」


「竜種の…成れの果て…?」


「そう言えばさっきも…なんであんたがそんなこと知ってんの?」


「…」



問いかけられたフレデリカは、少し口ごもったが、何かを思い返して再び口を開く。



「わたくしの種族である『ドラゴニュート』は、竜人と呼ばれる竜種の末裔…なのですわ。」





ジパン国では、崇高な存在と崇められる竜種。


はるか昔にこの地に降り立った彼らは、吉兆でありわざわいの兆しとされ、人は皆、彼らを"神の使い"と崇め恐れてきた。


ドラゴニュートはその末裔である。


その昔、ある竜種が人と交わり生まれた種族で、その詳細を知るものは多くない。


見た目はヒューマン(人族)とほとんど変わらないが、高度な魔法を使いこなせることと、とてつもない腕力が特徴である。


彼らはヒューマンなど他の種族とは関わることなく、人里離れた場所で静かにその営みを送っていた。


フレデリカもそのうちの一人。

彼女は里長の娘として生まれたのだ。


里とは言ったが、彼らの数はそんなに多くはなく、500名ほどの規模で、自給自足を行いながら暮らしていた。



「お兄様…ハァハァ…お兄様!!」



桜色の髪を束ね、廊下を走ってくる小さな少女。


蒼く澄んだ瞳をキラキラと輝かせるその少女は、ある部屋の前にたどり着くと、思いっきりドアを開いて中に入る。



「どうしたんだい?フレデリカ、そんなに声をあげて。」


「お兄様!今日はわたくしと狩りに行く約束でしたですわ!!」



優しそうな笑みを浮かべて、何かを書いている赤毛の男性は、フレデリカの兄、ロベルト=アールノストである。



「あぁ…そうだったね。でも、ごめんよ。今日は行けなくなってしまったんだ。」


「なんでですの!?」


「父さんの手伝いさ…」


「父さまの…?」



不満を浮かべるフレデリカに、ロベルトはニコリと微笑んだ。


そして、座っていたイスから立ち上がり、フレデリカの前に来ると、目線を合わせるようにしゃがみ込む。



「足を怪我して歩けないらしいんだ。だから、代わりに僕が今日の里長の仕事をやらないと…ごめんな、フレデリカ。」


「そんなの回復魔法ですぐ治るのですわ!どうせ、わたくしを納得させるための言い訳でしょ…父さまったら子供扱いして…」


「ハハハ…フレデリカは相変わらず鋭いなぁ…」



苦笑いを浮かべるロベルト。

フレデリカはムスッと不満をあらわにしたが、それ以上は何も言わなかった。


わかっている。

兄ロベルトは里長の息子であり、いずれは里長を継がなくてはならない。


そのために父は兄に早く仕事を覚えさせたいのだ。


そもそも、秀才な兄にはそんな必要もないと思うが…


だが、父の思いも理解しているからこそ、フレデリカはそれ以上わがままを言わない。



「明日は必ず…ね。」



そう言って頭を撫でる兄を見て、フレデリカはため息をついた。





「しかしながら、狩りには行きたいですわ…明日まで待てないですもの。さて…どうするか…」



フレデリカはあごに手を置き、考えながら里の中を歩いていく。


里での暮らしは家族単位。

ヒューマンと同じような生活体系だが、大きな建物はなく、基本は木造の建物が並んでいる。


各家庭の庭では穀物や野菜を育て、家畜を飼っており、それぞれが収穫したものを共有し合い、助け合いながら暮らしているのだ。


一見、単なる集落に見えるが、生活の中にはルールがあり、皆それを守って生きている。


そして、それらルールを作り、里を仕切のが、フレデリカの父であり、里長であるゼルス=アールノストなのだ。



「子供だけでの狩りは禁止…か。父さまも余計なルールをお決めに…この里に鹿や猪に遅れを取る者などいないと言うのに…」



フレデリカがぶつくさと言いながら歩いていると、後ろから声をかけてくる者がいる。



「フレデリカ!何やってんだよ!」


「ん?なんだ、カルロス…ですか。あんたこそ、何をやっているのです?」



振り向けば、赤紫の短髪と鋭い目つきが特徴的な少年が、いたずらな笑みを浮かべて立っていた。


彼の名は、カルロス=イーベルト。

里の衛兵を束ねる衛兵隊長サムス=イーベルトの息子であり、フレデリカの従姉弟いとこにあたる。


歳もひとつ違いでよく一緒に遊んでいる悪友みたいなものだ。


そんな彼が笑いながら、話しかけてきた。

フレデリカは、何かを察したようにニヤリと笑みを浮かべる。



「カルロス…あんた、まさか…」


「ヒヒッ…そのまさかさ!」



カルロスは笑みをさらに深めて笑うのだった。

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