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15話 覚悟と後悔


何度も叩きつけられるフレデリカを見て、ゼンは焦りを感じる。



「だから退けと言ったのだ!ミコト、岩の影に隠れていろ!」



ゼンはミコトを残して、再び『ウィングヘッド』の元へと駆け出した。


そして、自身のツメに炎を纏うと、フレデリカを掴んでいた触手目掛けて斬撃を放つ。



「ギャアァァァァオォォォォォ!!!」



炎を纏う斬撃に触手が焼き切られ、『ウィングヘッド』が悲鳴を上げた。


エレナはその好機を逃さず、横たわるフレデリカを回収して、ゼンの後ろに回り込む。



「こいつ…いったいなんなのよ。」


「こいつは、別の名を『ドラゴンヘッド』と言う。簡単に言えば、我らと同じ竜種だ。」


「はぁ!?竜種ですって!?」


「あぁ…正確には竜種になれなかったものだがな。しかし、強さは我らと同等だ。フレデリカも知っていたはずだが、どうして…」


「なんでそんなやつがダンジョンのボスなのよ!」


「そんなこと、私にはわからん!」



明らかに焦りを見せるゼンに違和感を感じつつ、エレナはもう一度、『ウィングヘッド』の体に引っかかる白い布に目を向ける。



「やつの体に、BOSSの装備の一部が引っかかってるのよ…」


「なに…!?」



よく観察すると、確かに房から伸びる触手の根元に、白い布が引っかかっているのがわかる。



「あれがイノチのものだという確証はあるのか?」


「毎日着てるから、わかるのよ。あれはBOSSの装備よ。」



不安気な表情を浮かべ、『ウィングヘッド』を見るエレナ。


ゼンは小さく舌打ちすると、『ウィングヘッド』を睨みつけて威嚇した。


『ウィングヘッド』も、突然ゼンが現れたことに驚いたのか、様子を見るように無数の触手を揺らめかせている。



「…いったん引くぞ、よいな。私が仕掛けるから、お前はミコトを回収して、上の階層まで戻れ。」



ゼンの言葉にエレナは無言でうなずく。



「では…いくぞ!!」



ゼンはそう言うと、口を開いて魔法陣を発動させる。


大きな魔法陣が赤い輝くと、そこから真っ赤な炎の渦が『ウィングヘッド』目掛けて放たれた。


『ウィングヘッド』もそれに応じるように緑色の魔法陣を発動し、先ほどと同じ魔法を放つ。


再び強大な魔法がぶつかり合い、大きな衝撃波が波紋のように広がっていく。


エレナはフレデリカを担いだまま、ミコトが隠れていた岩場に到達。



「ミコト!いったん退くわ!!ついてきて!」


「えっ…!ゼンちゃんは…!?」



エレナの突然の提案に困惑するミコト。

そんなミコトに、エレナは諭すように強い口調で告げる。



「このままだと全滅する!ゼンが時間を稼いでくれてるの!!ゼンを信じて…今は逃げるのよ!!」


「でっ…でも!」



ミコトは躊躇するのも無理はない。

彼女の中では、ゼンは保有キャラでなく家族なのだから。


しかし、ゼンが作ってくれた限りある時間を無駄にすることはできない。

エレナは苦肉の想いで、ミコトの体を抱え上げ、出せる限りのスピードで上層階への階段を目指した。



「エッ…エレナさん!待って…!!」



ミコトの言葉には応じず、無言で駆け抜けるエレナ。


赤い輝きの横で、それをチラリと一瞥したゼンは、『ウィングヘッド』へ視線を戻して口を開く。



「貴様の狙いは私だろう…?いいさ、かかってこい!!消し炭にしてくれる!!」


「グオォォォォォォォォォ!!」



その挑発に、怒りの如く咆哮を上げる『ウィングヘッド』。


互いに放つ魔法に力を上乗せする。


比べ物にならないほど高威力の魔法がぶつかり合い、それらが起こした衝撃波は、辺りの岩や壁を砕き、吹き飛ばしていく。


赤と緑の威力は互角。

ゼンと『ウィングヘッド』の中心で、轟音を上げながら押し合いを続けている。



「グッ…やはり力は互角か…」



ゼンがそうつぶやいたその時だった。


自分の左の視界に、触手が一本漂っていることに気づく。


そして、その触手の先端がうごめき始め、萎んで皮だけになった竜の顔が現れたのだ。



「なっ…!」



ゼンが驚いたのも束の間、その竜の顔から紫色の魔法が放たれ、ゼンの体に直撃する。



「ガッ…フッ…これ…は…」



体の一部に紫色のアザがつき、妖艶な輝きを放っている。


そして、突如として自分の魔法の出力が落ち始めたのだ。



「ちっ…力が…封じられて…グッ…」



みるみると自分の魔法の大きさが小さくなり、ぶつかり合う魔法の力の均衡が崩れ始めた。


ゼンは必死に力を絞り出すが、その努力もむなしく相手の魔法がどんどん押し込んでくるのがうかがえる。



「くそっ…これは弱体化の呪いか…このままではまずい…押し切られ…」



そう思った矢先なことだった。

視界がぼやけ、意識が朦朧とし始めてきた。必死に意識を掴み取ろうとしても、すり抜けていってしまう感覚。


おそらくは、この呪いの効果であろう。



(私はここまでか…ミコトとともに…強くなりたかったのだが…)



自分の終わりを悟るゼン。

赤い輝きは、すでに緑に飲み込まれてしまった。


目の前には『ウィングヘッド』の魔法が襲いかかってくるのが見える。



(ミコト…すま…な…い…)



ゼンは瞳を閉じると、見えない何かに意識を委ねる。


その瞬間だった。


二つの強大な魔法がぶつかり合った反動だろうか。


足元の地面が崩れ去り、落下したゼンは間一髪のところで魔法の直撃を回避する。


ゼンがいなくなった場所を駆け抜けた魔法は、エレナたちが登っていった階段の入口付近に直撃し、大きな爆発を起こしてその全てを破壊する。


天井や壁は崩れ去り、ネズミ一匹すらも倒れないほど跡形もなく…


目の前から、突然ゼンが消え失せたことを疑問に思ったのか。


何を思ったのかわからない声を上げ、誰もいなくなった広間を見ると、『ウィングヘッド』は通ってきた元の通路へと戻っていった。


体についていたイノチの装備の破片… 『魔導のローブ』の破片がひらりと舞う。


乱雑に破かれたそれは、砕かれた地面に静かに落ちた。



ゼンは暗い穴を落ちていく。


薄れゆく視界の中には、自分が落ちた穴が小さな光を放っている。



ミコトは無事に逃げ切れただろうか…



ゼンは落下しながらそう思うと、静かに目を閉じた。





「エレナさん!天井が…!!」


「やばっ!!いわね…!!!」



ミコトとフレデリカを担いだまま、エレナは崩れていく階段を駆け上がっていた。


爆発音が下から聞こえた矢先、大きな衝撃が訪れたかと思えば、階段が下から崩れ始めたのだ。


上の階層まではあと少しだが、すでに天井や周りの壁は崩れ始めている。



「こんなところで…死んでたまるかぁぁぁ!!」



エレナは力を振り絞って、一気に残りの階段を駆け抜ける。

そして、上層階に飛び出し、地面に転がると同時に、出てきた階段の入口が崩れ落ちていくのが目に入った。


まさに間一髪のタイミング。

あと一歩遅ければ、3人は崩れる岩の下敷きとなり、生き埋めになっていただろう。



「ハァハァ…間に…合った…ハァハァ…」


「ハァハァ…入口が!ゼンちゃん!!」



ミコトは肩で息をしながらも、崩れて通ることができなくなった入口へと駆け寄る。


そして、確実に戻ることができないと気付いて、ヘナヘナとそこに座り込んだ。



「ミコト…フレデリカを回復させて、下に降りる道を探しましょう。」



エレナの言葉は頭に入ってこない。

ミコトは、ただ茫然と崩れた入口を見つめていたのであった。

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