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2話 あなた…何者?


"ウンエイ"と名乗る女性は、品格漂う仕草でメイに案内されたイスに腰を下ろした。


彼女はふぅっと小さく息を吐き、イノチの方をスッと見つめ、ニコリと笑う。


彼女の訪問してきた時は、いち早く何かを察知したイノチであったが、現在はその美しさに魅了され、本題を忘れかけている。


すらっとした鼻だちと透き通る白い肌。

この世のものとは思えないほどきれいに整った顔は、絶世の美女と言っていい。


そして、黄金の髪とエメラルドブルーに輝く大きな瞳。


その全てに心を奪われかけ、鼻を伸ばすイノチに気づき、横に座っていたエレナはガツンと足を踏みつけた。



「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!!痛ってぇぇぇぇ!!!!」



足を押さえて飛び上がり、苦痛の表情を浮かべるイノチをよそに、あきれながらもエレナが口火を切る。



「…で、あんた何者なわけ?」



ジロリと睨みつけるエレナに対して、その女性はすました笑みを浮かべて答える。



「私の名前は"ウンエイ"と申します。今日はイノチさまに用あって参りました。」


「答えになってないわね…あたしはあんたが"何者"かを聞いているの。」


「ですから、"ウンエイ"と申しますわ。」



その言葉に青筋を立てるエレナと、ニコリと笑っている女性。


二人の間には、まるで目に見えない火花が散っているように重たい雰囲気が漂っている。



「…痛てて。エレナ、いきなりなにすんだよ。」



そんなことはつゆ知らず、涙目になりながら足の甲をさすっているイノチ。


フレデリカとミコトも、静かに様子をうかがっているようだ。


そんな重苦しい雰囲気の中、メイが厨房から出てきて、紅茶を配り始めた。


女性はメイに小さくお礼を告げると、カップを手に取り口元に運ぶ。



「…はぁぁぁ、いい香り。鼻腔をくすぐるこの甘い香りがたまらないわ…ねぇ、これはなんという種類の茶葉かしら?」


「…『ルデラ』という品種です。『アソカ・ルデラ山』特有の涼しい気候を利用して生産される茶葉で、しっかりとした味と甘い香りが特徴です。」



全員に紅茶を配り終えたメイが、お盆を抱えたまま答えるが、少し警戒しているようにも見える。



「これ…お土産にいただけないかしら?私の住む場所にはこんな嗜好品はないのよ。少し分けていただけると嬉しいのだけれど…」



その瞬間、テーブルがバンッと叩かれた。


テーブル上のカップとソーサーたちが一瞬浮き上がり、カチャカチャと音を立て、中身を揺らしながら着地する。



(エレナ…めっちゃキレてる…浮かんだ紅茶がこぼれず着地とか、どんな衝撃だよ。)



イノチはエレナの様子を見て焦りだす。


それに、ミコトとメイもドキドキしながら行く末を見守っているが、フレデリカだけは何事もなかったかのように紅茶を口に運んでいた。



「もっぺん聞くわよ…あんたは何者なわけ?」


「…それをあなたに教える筋合いはないのですよ。私はイノチさまとお話に来たんですから。」



プチンッと何かが切れるような音がした。


かと思えば、エレナが紅茶を飲む女性に飛びかかっていたのだ。



「エッ…エレナ!!やめ…」


「BOSSっ!止めない……」



しかし、エレナを制止しようとしたイノチの目には、驚くべき光景が映し出されていた。



「やっぱり…いい香り…」


「あ…れ…?エレナ…?」



飛びかかったはずのエレナは、女性の目の前で止まっていて、ピクリとも動かない。


というか、飛びかかった体勢のままで止まってる姿は違和感しかない。


ふと、周りの静かさに気づき、辺りを見回したイノチは再び驚いた。


フレデリカもミコトもメイも石になったように止まっているのだ。フレデリカなんか、紅茶のカップを持ったまま止まっている。



「フフフ…少し時間を止めさせてもらいました。大丈夫ですよ。危害を加えるつもりはないので。」



唖然とするイノチに対して、紅茶のカップを置くと、女性は話し始めた。



「今日はあなたに話があって来ました。そこの少女にもと考えたけど、やっぱりやめた。あなただけに話すことにしたわ。」


「はっ…話とはいったい…」



デーブルに膝をついたままミコトを指差していた女性は、ニコリと笑うとイノチに座るように促したのだった。





「…この!…って、あれぇぇぇ!!!でぇっ!!」



飛びかかったはずの女性の姿はどこにもなく、エレナの放った拳は空を切り、そのまま壁に突っ込んでしまう。



「エレナさま!大丈夫ですか?」

「エレナさん!」


「痛たたたたた…大丈夫よ。あいつはどこ行ったわけ?」



メイたちに手を上げて応えながら、頭をさするエレナはあたりを見回すが、先ほどまでいた生意気な女の姿はすでになかった。



「そっ…それが…気づいたらどこにもいなくて…」


「そうなんです…ずっと見ていたはずなんですけど…」



エレナの視界に、座ったまま考え込むイノチと、未だに紅茶をゆっくりと飲むフレデリカの姿が映る。



「BOSS…何があったの?」


「……」


「BOSS…?…BOSSってば!!」


「…え…あぁ、ごめんごめん。考え事してて…どしたの、エレナ?」


「さっきの女はどこ行ったのよ。」


「あぁ…"ウンエイ"さん?彼女ならかえ…」



その瞬間、ウンエイの言葉が蘇る。



『話がややこしくなるから、私が帰ったことはあなたも気づかなかったことにしなさいね。特にミコトちゃんには…ね。』



それを思い出したイノチは、頭を振って言葉を濁す。



「どうしたの、BOSS?」


「いや…なんでも…てか、あれ?ウンエイさん、どこ行ったんだ?!」



イノチのぎこちない態度を、訝しげに感じつつも、エレナは服をはたいて立ち上がった。



「なんだったのよ、あいつは。」


「わからないけど、警戒すべき相手、ということですわ。」


「突然きて、突然消えるなんて…ちょっと怖いですね。すみません…私がちゃんとしておけば…」


「メイさんのせいじゃないよ。まっ…まぁ、何にもなかったんだし、とりあえず朝飯の時間はこれくらいにしようか。今日もダンジョンに行ってランク上げする予定だったよな?」



イノチは切り替えて、ミコトへ視線を向ける。



「そうだね。ランク『80』まであと少しだし、今日中に達成できたらいいね。」


「だな!そんじゃ、みんな準備してエントランスに集合な!」


「ガチャの件はどうするの?」


「ランク上げが優先だからな。帰ってきて考えよう。」



イノチがそう言うと、一同は声を掛け合って食堂を後にする。


それを見送ったイノチは、一人深刻な顔をしていた。


"ウンエイ"と言う得体の知れない女性の出現に、なんとか平静を装っていたイノチだったが、何より一番気になるのは、彼女が言っていた最後の言葉…



『ランク戦が始まることは知っていますね。あなたたちには、そのランク戦で生き延びてもらいたいんです。』


『それはなぜです?』


『理由は…今は言えません。が、まずはプレイヤーランク『100』を目指しなさい。そこまで上げれば、乗り越えられるはずだから。』


『…はず?それはもしかして、あいつがいるからですか?』


『そうですね。彼は…『ゲンサイ』は強い…あなたたちのランクを100まで上げてなんとか…というところですね。』


『……』


『それと…』



ウンエイは懐から何かを取り出した。

丸い白い球に『Z』と言う文字が描かれているそれを、イノチの前に差し出す。



『これは…』


『あなたの専用武器である『ハンドコントローラー』を強化するための素材です。ランク80になれば、レアリティを上げられるのはご存知かと…』



イノチはそれを手に取りながら、ウンエイへ聞き返す。



『ひとつ質問していいですか?』



ウンエイはニコリと笑う。



『あなた…何者なんです?』



それを聞いたウンエイは一瞬ハッとしたが、すぐ口元に笑みを浮かべて口を開いた。



『…………………』

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