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63話 幕間 〜接触〜


その街道には、早朝からでも多くの人々が行き交っている。


私もその中の一人だ。


ときおり、砂埃を巻き上げながら、商人たちの馬車が人々の横を通り過ぎていく。


『クニヌシの森』はすでに抜け、小高い丘から見下ろす眼下には、朝もやのかかる荘厳な山の姿と、その麓に腰を据える街が映し出されている。


『イセ』の街。

『アソカ・ルデラ山』の麓に広がる大きな街。


あそこに彼がいるのだ。

そうつぶやくと、私は再び歩み始めた。



城門を抜け、街の中へと足を進める。

それと同時に目に入るのは、真っ直ぐと伸びる中央通り。


宿屋や食堂、その他様々な商店が軒を連ね、その通りは多くの人で賑わっているようだ。


観光街『イセ』とはよく言ったもので、朝からでも活気に満ち溢れている。


そのまま中央通りを歩いていけば、たくさんの人々の喧騒が聞こえてくる。


呼び込みをする者、外に並べられたテーブルで食事をする者、店前で商談する者などなど。


それらの雰囲気と、鼻を刺激するいろんな朝餉の料理の香りを楽しみつつ、中央通りの終わりで、T字路にぶつかった。


一度足を止め、正面を見上げれば『美風呂亭びぶろてい』という看板のかかる、かなり煌びやかな宿屋が立ち誇っている。


赤と黒を基調としたデザインに、屋根から見下ろす金のシャチホコ…


こ…これはなかなかのセンス…


周りの建物との調和など一切考えていないそのデザイン性に、建てた者のセンスを疑った。


その建物を一瞥した私は再び歩き出し、T字路を左へと進んでいく。


こちらの方向に進めば『アソカ・ルデラ山』の山道へとたどり着くのだが、今回の目的は山登りではない。


私の目的は、山道への入り口を過ぎた先にあるのだ。


山道の入り口を通り過ぎる際、鉱山士たちが準備を行なっているのがうかがえた。


これから鉱石の採掘へと向かうのだろう。


道具を馬車へ積み込む者や、地図のようなものを広げ、数人で話し合っている者たちなど、皆楽しげに話している。


先ほどの中央通りといい、この街は平和だと感じる。


彼らを横目に見送り、しばらく通りを歩いていく。



…しかし、上の方々も暇を持て余し過ぎではないだろうか。


前回の開催からそう時間は経っていないのに、またランク戦をやろうだなんて。


他にやることはないのか、なんて言ったら怒られるどころじゃ済まないのはわかっているが…


そのお陰で、計画を前倒しにしなくてはならなくなってしまったんだから、少しくらい文句を言ってもバチは当たらないはずだ。



上への愚痴や今後の計画を考えながら歩いていたら、いつの間にか目的の場所が視界に映る。


立派な門構えと、高い柵に囲まれた広い庭の先にある大きな館。


街の少し外れにある彼の館。

ここが今回の目的の場所だ。


しかし…まだ朝は早い。

今すぐ訪ねてもいいのだが、最初の心証は良くしておきたいのも正直なところ。


さて、どうするか。


なんて考えていると、勝手口と思われるドアからメイドが一人、姿を現した。


彼女はすぐ横の倉庫へ入っていき、少しすると薪をいくつか持って出てきた。


推測するに、朝食の準備をしているのだろう。


そのメイドの様子をジィッと見つめていると、彼女はこちらに気がついたようだ。


薪を勝手口の横に置き、トトトッと駆け寄ってきて私に声をかけてきた。



「どちら様でしょう。なにか…御用でしょうか?」



訝しげに問いかけてきたメイドに、私は少し考えて口を開いた。



「ここの主人に話があって参った次第です。しかし、まだ朝も早く…こんな時間に伺うのも失礼かと悩んでいたところでした。」


「…話というのはどのような件で…」


「それは…できれば主人に会って直接話したいのです。"ウンエイ"と名乗っているとお伝えいただければ、主人もすぐお分かりになるかと…」



その言葉を聞いたメイドは、「少々お待ちを」と一言だけ言い残して、勝手口の中へと戻って行った。


その後ろ姿を見ながら、私は思いにふける。


たった1週間程度で、ここまで手にしたプレイヤーは今まで見たことがない。


大きな館とメイドに加え、ガチャでもURキャラやSRの武器まで…


少なくとも3年はかかるレベルだ。


そもそも、館とメイドは設定された入手アイテムでもなんでもないから、余計に驚いてしまう。


それは、彼が自力で手に入れた結果なのだから。


そんなところも含めて、モニター越しに見ていた彼が実際はどんな人物なのか、想像するだけでワクワクしてくる。


こっそりと管理者画面を小さく立ち上げ、対象オブジェクト欄にある項目の中から、彼の館を選択する。



【点在対象確認】

クラン名:ガチャガチャガチャ

所属プレイヤー:イノチ『78』、ミコト『71』

獲得キャラ:エレナ(R)、フレデリカ(UR)、ゼン(SUR)、ウォタ(SUR)



これを見ただけで惚れ惚れしてしまう。

過去に、ここまで高レアリティを揃えたプレイヤーはいなかった。


それに、どうやらあの少女とクランを設立したようだ。


チュートリアルガチャで、スーパーウルトラレアのファイアードラゴンを引いたあの子と…


『クラン』のネーミングセンスは疑わしいが、彼らのこれからを想像しただけで、背中がゾクゾクして身震いしてしまう。



バンっ!


突然、遠くに見える勝手口が音をたて、勢いよく開いた。


パンを加えたまま、驚いた表情を浮かべてこっちを見てくる彼を見て、私は苦笑する。


さて、ここからが本番だ。

彼らにとっても…私にとっても…

これにて第一章は終了です。

『アクセルオンライン』という世界の真実。

その一部までは分かりましたが、これから先、イノチたちはどうなっていくのでしょう。


そして『ランク戦』とはいったい…


第二章も引き続きご拝読のほど、よろしくお願いします!

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