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61話 謎の男


(くそっ…こいつ、速いわ!一度グレンダガーで攻撃を防いで…)



エレナはそう考えて、2本のダガーを交差させると、男の攻撃を受ける構えをとった。


下から振り抜かれた男のダガーが、自分へ襲いかかってくるのが見える。


漆黒の刀身と赤黒に光る刀身がぶつかり合い、乾いた金属音とともに一瞬ではあるが火花を散らす。



(おっ…重いわね…!でもこのままカウンターを…!)



エレナは防御の手応えを感じ、そのまま攻撃に転じようとする。


…が、その時、何か違和感を感じたのだ。


男がニヤリと笑みをこぼす。

漆黒の刀身が押し上げられ、エレナのグレンダガーの刀身に亀裂が走った。



(なっ…何ですって…!?)



男が力を込めると、グレンダガーは2本とも真っ二つに折れてしまう。


そのまま漆黒の刃は、エレナの左腕を切り裂き、右眼をも奪い去っていった。



「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



エレナから血飛沫が上がるとともに、ミコトの叫び声が響き渡る。


イノチは目の前の出来事に愕然とした。

前に立つフレデリカの合間から、エレナが斬られ、血飛沫を上げているのが見えたのだ。


男はそのまま体を横に回転させると、エレナを蹴り飛ばして、なおもイノチに襲いかかってくる。



「エレナッ!!」


「BOSS…っ!下がってなさい!!」



フレデリカは、とっさにイノチを後ろへと弾き飛ばして、ファングソードを構えて応戦する。


ダガーを構え直した男は、右手に持ち帰ると地面を蹴って上空へと飛び跳ねた。



「なめるなっ!!」



フレデリカはそう言い放ち、宙を舞う男の体へとファングソードを突き立てるが…


男は体を捻りながら、襲いくるファングソードの軌道に黒い刀身を合わせる。


その瞬間、ファングソードの側面をその刀身が火花を散らして走っていく。



(なっ…その体勢でこれをかわす?!)



男はダガーをうまく使い、ファングソードの軌道を変えることで、フレデリカの攻撃をかわしたのだ。


そのまま、フレデリカの後ろに着地すると、男は体を回転させて、フレデリカへ蹴りを放った。



「がぁっ!」



背中から攻撃を受けたフレデリカは、耐えきれず蹴り飛ばされてしまう。



「次は…お前だ…」



口元に醜悪な笑みを浮かべ、男はイノチに向かって再び走り出した。


イノチは、持っている剣を素人ながらに構えてるが、手と足が震えていていうことを聞いてくれない。


男はもうすぐ目の前に迫っている。


震えるイノチに対して、漆黒のダガーが振り抜かれた。


1度目の右払いで、持っていた剣が弾き飛ばされ、手に強い痺れを感じる。


そんなことを気にする暇もなく、すぐに次の攻撃が飛んでくるのがわかった。


その時点で、イノチは死を覚悟した。


エレナとフレデリカが敵わない相手だ。足掻いても無駄なことは分かっている。


ミコトの顔が離れたところに見えた。


涙を浮かべ、こちらを見る顔には、悲しみと悔しさ、そしてイノチを心配する表情が浮かんでいるのだ。



(くそ…俺はここで終わりか。これがゲームなら、本当に死ぬわけじゃないから…仕方ないとか思うんだろうけど。なんだろう、悔しいというか怖いというか…この感情は後悔って言うのかな。仲間を傷つけられたこと…ミコトを守れなかったこと…全部が悔しい!!)



死を目前にすると、思考がスローモーションになるというのは聞いたことがあった。


走馬灯と言うのだろう。


目の前の全てがゆっくりと動いていく。

自分に襲いかかる漆黒の刃でさえも…


そう思い、イノチは目を閉じる。



「なんでそこで諦めるのだ!バカモノが!!」



ガキンッガキンッ!


目の前で声が聞こえたかと思えば、金属がぶつかり合う音がした。


イノチは目をゆっくりと開ける。


するとそこには、小さな青いドラゴンが尻尾を揺らして浮かんでいるのが見えたのである。



「ウォッ…ウォタ…!!」


「お主は我の主人であろう!そんな簡単に、自分の命を諦めてもらっては困るぞ!!」



距離を取る男を見つつ、ウォタはイノチに檄を飛ばした。



「…なんだ、そのチビは…」


「チビとは言うてくれるのぉ…貴様ごときに舐められるほど、落ちぶれてはおらんはずだが…」



ウォタはそう言うが、互いの力量を測り合っているようだ。両者は、睨みを効かせ合ったまま動かずにいる。


しかし、すぐにそれも終わりを告げた。



「ハァーッ…やめた、やめた!性に合わん!!」


「どっ…急にどうしたんだ、ウォタ?」


「エレナたちがやられよったから、ちょっと真剣になり過ぎた…我らしくもない。おい、そこの小童…最強の竜種である我が相手してやるからかかってこい。」



ウォタはそう言って、指をクイクイッと動かして男を挑発する。



「やはり…貴様は『竜種』だったか。この世界最強種を仲間にするとは…まぁいい、こいつはちょうどいい腕試しだ!」


「腕試しとは、我も舐められたものだ!」



向かい来る男を、ウォタはニヤリと笑いながら迎え撃つ。


漆黒のダガーから放たれる剣技を、ウォタは鋭いツメで弾き、お返しとばかりにそのツメで斬撃を繰り出していく。


イノチはその闘いに少しの間、目を奪われていたが、ハッと気づいてエレナの姿を探し始めた。


壁際に倒れ込むエレナを見つけると、こっそりと移動を始め、途中で、ミコトにはフレデリカの元へ行ってもらうよう合図する。



「エレナっ!」


「BOSS…よかった…無事で…」


「待ってろ!今、ポーションで…!!」



倒れ込んだエレナを抱き上げ、アイテムボックスから取り出した2本のポーションを左腕と右目にかけていく。


左腕の傷はみるみると塞がっていったが、右眼だけは…



「ふぅ…助かったわね。」


「エレナ…右眼が…」


「ああ、これ…仕方ないわよ。表面の傷は治っても、このポーションじゃ、眼の機能までは治せないもの…」



エレナはそっと右眼に触れた。

右眼に残る大きな傷跡は隠しきれず、手の間からから見えている。


エレナはそのまま、ウォタと男の戦いに目を向けた。



「あいつ…マジでやばいわね。アクアドラゴンと単騎で互角にやり合うなんて…」



エレナはどこか悔しげにその闘いを見つめていた。


エレナと同じ方に目を向ければ、ウォタの連撃をかわしている男の姿が見える。

未だ闘いは続いており、その激しさは増している。


そこから右の方へと目を向けると、ミコトとフレデリカの姿も確認できた。


フレデリカも無事なようで、イノチはホッと胸を撫で下ろす。



「ウォタの方が押してるよな…」


「そうね…ウォタは本気出してないみたいだし…」



再び闘いに目を向けたイノチは、エレナへと問いかけ、エレナは静かにそれに答える。



「でも、奴の方も本気じゃないみたいね…」


「マッ…マジかよ…最強種を前にして力を温存するとか…あれ、人間か?」


「わかんないわよ…でも、BOSSと同じ『プレイヤー』なんでしょ?」


「そうなんだけどさ…人間離れし過ぎてやしないかと思って…」


「…BOSSのスキル、鑑定…だっけ?あいつに使ってみたら?」


「あっ…忘れてた!」



イノチは思い出して、目に魔力を集中させる。



「プッ…プレイヤーランクが…『120』…!?」



現れた男の情報画面には、驚くべき事実が映し出されていたのだった。

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