表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/290

59話 地を這うあいつの名は…


3階層へ足を踏み入れたイノチたち。


そこは、1階層、2階層とは少し感じが違っていた。階段が終わると、少し整った石畳が通路に敷き詰められている。


壁や天井はきれいに整った石造りだが、ダンジョンらしく、ところどころに植物の蔓が伸びている。


壁に等間隔に並ぶ松明も、青ではなく黄色に変わっている。


青ときて、黄色ならば…

階層の難易度は、これで計るということだろうとイノチは思った。


真っ直ぐ伸びる通路は今までと一緒。

この先に広間があるのだろう。


イノチが一歩を踏み出そうとしたその時、エレナが手を出して制止する。



「…BOSS、ここからは通路でも気を抜けないみたいよ。」


「…てことは…」


「えぇ…いるわ。」



エレナは鼻をクンクンと動かして、敵の位置を把握しようとしている。



「…生くさい臭い…少しずつ近づいてきてる。」



イノチはミコトの前に立ち、腰にかけた鞘から剣を抜き放つ。


その場の全員に、緊張感が広がっていく。



「来たわ!!」



エレナが声を上げる。


すると、石造りの壁の隙間から、地を這う虫型のモンスターが姿を現したのだ。



「げぇぇぇ!!!」


「ひゃうっ!!!」


「げぇ…ですわ…」


「ぎゃあっっっ!!!!!!」



その姿に、四人は声を上げて後退りする。


そう…

そのモンスターは、人ならば誰もが恐れおののく『G』と同じ姿だったのだ。


想像してもらえれば、そのおぞましさは伝わるだろう。『G』の姿で中型犬ほどの大きさのモンスターが地を這う姿を…


ミコトはイノチの後ろで震え、フレデリカですら青い顔を浮かべている。


そういえば虫嫌いのエレナは…

心配に思い、イノチはあたりを見渡すがどこにもいない。


すると上の方から大きな声が聞こえてくる。



「ぎゃあぁぁぁぁ!!ぎゃあぁぁぁ、来るな来るな!!!虫ぃぃぃ嫌ぁぁぁ!!!」



この一瞬で、どうやってあそこまで登ったのだろう。


天井からぶら下がった太い蔓にしがみつき、ダガーを振りわまして泣き叫んでいるエレナの姿があった。


その間にもモンスターたちは、カサカサと警戒しながらも、イノチたちに近づいてくる。


その数も少しずつ増えてきているようだ。



「やっ…やべぇな…こいつら、数がどんどん増えてきてる…エレナはあんな状態だし…どうしよう…」


「BOSS…わたくしも嫌ですわよ。こいつら触るのは…」


「えっ…!お前もかよ…」



フレデリカも、珍しく嫌そうな顔を浮かべている。


キチチチチッと羽を鳴らし、威嚇してくる虫型モンスターたち。


どうしようかとイノチが迷っていると、ミコトの首飾りからゼンが顔を出した。



「何を騒いでいるのかと思えば、コックローチじゃないか…君らはこんなものが怖いのか?」


「ゼッ…ゼンちゃん!」


「仕方ないな…ほれ。」



その瞬間、ゼンの口からゴウッと炎が放たれ、一番前にいたコックローチに当たった。


苦しみ、のたうち回る仲間の姿に、他のコックローチたちは後ずさりする。



「失せろ…ザコが…」



最後にゼンがそう言って睨みつけると、コックローチたちはそそくさと壁の隙間に逃げて行く。


目の前に残っていた、焼け焦げたコックローチの死骸をゼンが踏みつけると、それは光の粒子となり消えていった。



「ゼッ…ゼンさん、ありがとう!」


「大したことじゃない…しかし、先ほどもそうだったが、たかが虫ごときで…」



イノチがお礼を言うが、ゼンは少し不満気だ。ため息を小さくついて、みんなを見ている。



「ゼンよ…仕方なかろう。」


「…何が仕方ないのだ?」



イノチの首飾りから姿を現したウォタが、ゼンに声をかける。



「こやつらは人間だ…我らとは違う。竜種の常識で考えてはいかんぞ。」


「君にしては珍しいな…唯我独尊の塊だったような君が…」


「我も学んだのよ。人間は確かに弱いが侮ることはできん…その弱さを強さに変えるのが、こやつら人間の凄さだからな。」



ゼンは言っていることがわからないといった表情を浮かべている。



「まぁ、そのうちわかる。それにお主こそ、人間であるミコトに召喚され、従っておるではないか。」


「……」



ゼンはミコトを見ると、「確かに…」と小さく笑う。


彼女といるとどこか落ち着く自分がいる。

彼女は、自分にとって守るべき存在であることは間違いない。



「あっ…あの…ウォタ…?」


「おう…イノチ、すまぬな。竜種はプライドが高くての…特にこのゼンはな。そのプライド故に、我らは自分の物差しで測りすぎるところがあるから、理解できないことがあるとよく苛立つ…」


「理解できないことって…」


「今回で言えば、お主らがコックローチ相手にとった態度だな!お主らの言葉で言うと…ビビり過ぎだろってことだ!」


「まぁ…それは確かにそうなんだが…」



イノチは申し訳なさそうに頭をかく。そんなイノチにウォタは近寄り、小さく話しかける。



「ミコトにはいつ話すんだ?」


「何をだよ…」


「タケルとかいう小僧に聞いた話だ。」


「……」



イノチはその言葉に、無言のままだ。



「早めが良いぞ…遅くなればそれだけショックも大きい。」


「…うん、わかってる。」


「エレナたちも理解しておるからこそ、慎重に動いとる。なにせ、お主が死ねば自分たちも消えるのだからな。」


「わかってるよ…ゼンはそれを知らないからって事だろ?」



ウォタはコクリとうなずくと、首飾りに戻っていく。そして、最後に顔を出し、一言告げる。



「伝え方には気をつけろ。ゼンは竜種で最強だが、まだ若い。プライドも高く、まだまだ頭が固いからな。」



ウォタはそう言って消えていった。





パタンッとドアが閉まる。

モニタールームに戻った女性は、イスに座ると大きなため息をついた。



「ふぅぅぅ…まさかあの方までいらっしゃるなんて…久々に疲れたわ。」



モニターには、ダンジョン攻略を進めるイノチたちの姿が映し出されている。



「リュカオーンのことはなんとか誤魔化せたからいいけど…まさか"アレ"を始めようだなんて…上の方たちも暇を持て余しすぎてるわ…」



デスクに置いてある冷めたコーヒーを口にしながら、女性はイノチを見つめている。



「少し早いけど、一度会っておいた方がいいわね…さて、それならまずは…」



女性はそう言って、キーボードに指を走らせる。




〈!up world〉

〈Authority;code zeus〉

 〈Special Athy code = ※※※※〉

〈exceed one's competence = "※※※"〉



女性の瞳には、大量のソースコードのようなものが映し出されていく。

それらを目でなぞりながら、キーボードをたたいていく。



〈contact is made ="inochi"〉

  〈A place is designated = "ise"〉

 〈The form = ……〉




最後に音を鳴らしてエンターキーを叩くと、女性はイスにもたれかかった。



「これでいいわ…バレたら死ぬわね…フフフ」



コックローチにビビりまくっているイノチたちの姿を見て、女性は笑みをこぼすとイスから立ち上がった。


そして、そのまま無言で部屋を後にする。


女性が出ていった後、部屋のドアが閉まると、イノチたちを映していたモニターたちがひとつずつ消えていく。


最後に中央のモニターだけが残る。


そこには、イノチだけが大きく映し出されていた。



プツンッ…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ