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57話 恋の種 撒かれて暫く 上の空


イノチたちはミコトを連れて、ギルド総館を訪れていた。

前回のウォタの件を心配してか、イノチはミコトの首飾りに向かって話しかける。



「さっきも言ったけど、ゼンさん…絶対に出てこないでね。ここのギルマス…竜種のことには、けっこううるさいんだよ。」


「承知した。寝ておくから心配するな。」



ゼンは声だけで反応する。


実は前回、ウォタの件でアキルドからなぜかとても怒られた。


竜種を従えるなどあってはいけないと…


そんなこと言われたって、好きでやったわけではないのにとイノチは思ったが、そこにアキンドが仲裁に入ってくれたのだ。


イノチさまにとって、それくらい簡単なことだ。


そう言って…


もし、ゼンのことが知られると、厄介なことになるのは目に見えている。


ミコトとゼンには事情を説明したところ、本人たちもバレたくないのでと快く承諾してくれた。


そうして、ゼンに再度確認しているところに、リンがやってきた。



「あら?イノチさん、さっそくありがとうございます!ギルマスとのお約束ですよね!」


「リンさん!少し早く着いちゃったけど大丈夫ですか?」


「問題ありませんよ。ギルマス、今日は予定入ってませんから!」



リンはそう言うと、ギルマスの部屋に案内してくれた。途中で、タラクがイノチに気づき、会釈をしてきたのでそれを返す。



「ギルマス、失礼します。」


「どうぞぉ。」



リンがドアをノックすると、中からアキルドの声が聞こえてくる。


そのままリンがドアを開けると、窓際にあるデスクにアキルドが座っているのがうかがえた。



「毎回、ご足労おかけします。」


「いえいえ…あれ?今日はシャシイさんはいないんですね。」


「彼は昨晩、国都へ戻りました。王への報告と、イノチ殿への報酬も手配せねばなりませんから。」



イノチは「なるほど」とうなずきつつ、アキルドに促されるまま、ソファへ腰を下ろした。

ミコトがその横に座り、エレナとフレデリカはソファの後ろに立つ。



「さっそくですが、昨日の話から冒険者ギルドが少し調査をしましてな。まず、みなさんが初めに捕らえたという野盗たちは、確かに『タカハ』で指名手配になっております。手配書もこの通り。」


「あいつの顔、そのまんまね。罪状はなんなの?」


「『タカハ』で有名な豪族の商人を殺害した、とありますな。懸賞金が10万ゴールドとはかなり高い…」



それを聞いたフレデリカが舌打ちをしたのが聞こえた。イノチはそれには触れず、気不味そうにアキルドへ問いかける。



「ほっ…本当に彼らがやったんですか?」


「真相はわかりません。『タカハ』のギルドの調書にも、トヌスとその一味がやったとしか書かれてませんから…」



イノチは顎に手をおいて考える。

トヌスたちは濡れ衣を着せられたと話していた。それが本当なら黒幕は別にいる?


何かが頭の中に引っかかるのだが、それが何かはわからない。なにせ情報が少な過ぎるのだ。



「もう一つの奴らは?」


「それなんですが…こいつらは『ポマード盗賊団』と呼ばれていて、最近この辺りで目撃されている野盗の一味ですね。『タカハ』でも、その前には『トウト』の街でも悪事を働いていて、どの街でも手配書が出てます。」


「じゃあ、商人を狙った事件はこの『ポマード盗賊団』が犯人ということですか?」


「おそらくは…」



アキルドは何か言いにくそうに、悩ましげな表情を浮かべている。


それを見てイノチは察した。


おそらくだが、イノチたちの対応についてアキルドは言及したいのだ。


特に『ポマード盗賊団』をその場に放置したことについてだろう。


トヌスたちを逃すと決めたのは自分だ。だから何を言われても甘んじて受けるつもりだ。


しかし、その『ポマード盗賊団』はギルドまで連れて帰るべきだった。


プレイヤーであるミコトと出会い、少し舞い上がっていたなとイノチは反省する。



「その『ポマード盗賊団』を連れ帰らなかったのは俺らの…」



アキルドの気持ちを察して、イノチがそこまで言いかけた時、突然、部屋のドアが開かれる。


そこには、アキンドの姿があった。



「アキンド!?」

「アキンドさん!?」



一同が驚く中、アキンドは部屋の中まで入ってきて、口を開いた。



「兄者…冒険者ギルドには話をつけてきた。今回のイノチさまの行いは、奴らを牽制するためだと…」


「どっ…どういうことだ…?」


「わからんか?そもそも、奴らの数人だけ捕まえても意味はない。アジトなどの情報をしっかり調べた上でなければ、一網打尽にはできん。」


「それらを知るために、一人でも捕らえて情報を吐き出させるのではないか!」



兄の言葉に、アキンドは首を横に振った。



「一人捕まれば、奴らはすぐに姿を消すぞ。たとえ、捕らえた奴からアジトを聞き出しても、そこに行く頃には誰も居なくなっとるはずだ。奴らは用心深いからな。」


「だっ…だからと言って…」


「商人ギルドのメンバーには、金がかかっても護衛を必ずつけるように周知した。今狙われているのは『イズモ』から『イセ』にくる荷馬車だ。もし、野盗に襲われたら、これを使うように指示も出しとる。」



アキンドは懐から笛のようなものを出した。口につまむ程度の大きさで、少しトゲトゲした形。



「それは、恐笛か…」


「さよう。これで野盗どもをひるませることが可能だ。逃げる…もしくは応戦する機会は作れる。それと、当分は必ず2組以上の商団隊を組むことも義務付けた。」


「ぬっ…ぬう…しかしだな、アキンドよ…」


「兄者よ…一族の恩人に責任は押し付けれんだろう?これは我々の問題だ。」



アキンドはそう言って兄を見つめる。

その眼差しを見たアキルドは、ため息をつくとソファに背をもたれかかった。



「わかった…わかった。お前がそこまで言うなら今回は不問にする。イノチ殿もすまなかった。」


「いえ…頭を上げてください。事の重大さを理解していなかった俺も悪いんですから。野盗たちについては、俺らも引き続き追いかけますよ。」


「そう言っていただけるとありがたい。」



アキルドは頭を上げると、申し訳なさそうに笑みをこぼした。



ギルド総館からの帰路。

エレナが突然笑い出し、フレデリカもそれに続く。



「なっ…どうした、急に?」


「アハハハハ…だって…同じ顔が真剣な表情して向かい合ってるのよ!?…クククク…おもしろすぎでしょ…プククク…」


「そうですわ!…ホホホホ…おんなじ顔したオジサンががキラキラした瞳で向かい合うのは…ウフフフフ…はっ…反則ですわ!!」


「お前らなぁ…真面目な話しだったんだから、少しは自重しろよ…」



イノチはため息をつき、肩を落とした。

そんなイノチへ、ミコトが話しかける。



「アキンドさんってすごい人だね。昨日の今日であれだけ対策しちゃうなんて…」


「あの人たち、一代で平民から大商人になった人たちでさ…そこらの豪族よりも権威があるらしいんだ。受付のリンさんが教えてくれた。」


「そんな人と知り合いっていう君もすごいよ…!」


「ハハッ…ログインした日にたまたまモンスターに襲われているところを助けたんだ。それからずぅーっと助けてもらってばかりだけど…」



目をきらめかせて自分を見てくるミコトに、少し顔を赤くしつつ、イノチは笑って答えた。



「ハァーッ…おかしかった!それよりBOSS!!これからどうするわけ?」


「…本当にマイペースな奴だな。今まで大笑いしてたのに…」



笑い終えて、仕切り直すといったようにエレナが問いかけてくる。


対してイノチは、考えながら口を開く。



「タケルの話のこともあるし、プレイヤーランクを上げることが優先かなって思ってる。野盗討伐はその合間にもできそうだし…ミコトのランクも上げないと。」



それを聞いたエレナとフレデリカは、ニンマリと笑顔になる。


イノチは顔を引き攣らせつつ、ミコトにたずねる。



「ミッ…ミコトはどっ…どうかな。プレイヤーランクが、ゼンの強化にも繋がるらしいんだ。強くなっていて損はないと思うんだけど…」


「私は…まだ始めたばかりだからよくわかんない。だから、イノチくんと一緒にいれたら、とても嬉しい…かな。」


ボンッ!


その瞬間、イノチは真っ赤にした顔から白い煙を吹き出し、鼻から鼻血を出して、背中から倒れ込んだのだ。



「ボッ…BOSS!?」


「えっ…え…え?」


「ミコトもなかなか…」



エレナがとっさに駆け寄る。

ミコトは何が起きたか理解できず、フレデリカは後ろで鼻を鳴らして笑っている。



「一緒にいれたら…嬉しい」



上の空のままでイノチが連呼する言葉が、きれいに澄んだ青空へと舞っていった。

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