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53話 エッ…イノチ!略すと…


「メイさん!ただいまぁ!」


「皆さま、おかえりなさいませ…あら?」



イノチたち一行は、ギルドへの報告を終えて自分たちの館へ帰還した。



「今日は友達を連れてきたんだ!部屋ってまだ空いてるよね?」


「はっ…はい!いくつか空いておりますが…」


「よかった!こちら、ミコトさんって言うんだけど、まだこの街に来たばかりでさ!とりあえず当分の間、この館で過ごしてもらおうと思うんだ!」


「そっ…そうでございますか…」



イノチの後ろで会釈する少女に、メイも返すように会釈をする。



「とりあえず、館の中を案内するね!」



そういうと、イノチはミコトを連れて行ってしまった。


その後ろ姿を見つめるメイに、エレナが声をかける。



「メイ…突然のことでごめんなさいね。彼女、野盗に襲われていたところを助けたのよ。」


「なるほど…理解しました。では、ご夕飯の数を増やさないといけませんね…少し買い出しに行って参ります。」


「よろしく頼むわ。お風呂掃除とかやっとくから!」


「あっ…もう終わってますよ。皆さまはお部屋か、リビングでごゆっくりされててください。」



メイはそういうと、会釈をして館から出ていった。



「あっ…あいかわらず仕事が早いわね。」



肩をすくめるフレデリカとともに、エレナはメイの後ろ姿を見つめてつぶやいた。


少しだけメイの雰囲気に違和感を感じて。



カポーンッ


ししおどしの音が心地よい。


ミコトは広い湯船の中で、大きく背伸びをする。



「ふわぁぁぁ…まさかゲームの中でこんなに気持ちのいいお風呂に入れるなんて…」



モニュメントの獅子の口からは、溢れるほどのお湯が流れ出ている。ミスト状の湯気も濃く、深呼吸をすると温泉と同じような香りが、胸を満たしていく。



「イノチさんか…最初の友達があの人でよかった…」



リアルで友達はあまりいなかったミコト。ゲームなら出来るかもといろんなソフトを探していた矢先、このゲームが自宅に届けられたのだ。


ミコトにとって、フルダイブ型のゲームをするのはもちろん初めてだ。


友達を作るつもりでログインしたものの、今までずっと不安で仕方なかった。



お湯を手ですくい、顔を洗い流す。

温度もちょうどいい…このお風呂を準備した人はとてもすごいと思う。


現実の銭湯でも温泉でも、こんなにいい気分になったことはない。ましてや、ここはゲームの中のお風呂。



「さっきのメイドさんかなぁ…」



そう首を傾げていると、ガラガラっとドアが開く音がする。


誰だろうと目を向けると…



「ひゃう…!?」


「あら…?ミコトじゃない!」


「湯加減はいかがかしら、ですわ?」



メッ…メロンだ…メロンが二つ…あとスイカ…大きなスイカが二つも…


二人は腕を組んで立ち、その腕の上に果物を二つずつ載せているのだ。


ミコトが放心状態で見つめていると、エレナたちは湯船へと足を進める。



「ん…大丈夫?横…いいかしら!」



エレナとフレデリカは近づいてくると、ミコトを挟むように座った。



「はぁぁぁぁ…やっぱりお風呂はいいわねぇ!」


「ですわね…ほわぁぁぁぁ…Best of お風呂…」



二人は左右で背伸びをして、お風呂の快感をフルで味わっているようだ。


ミコトは少し恥ずかしそうに体を縮める。


それに気づいたエレナが、ミコトに声をかけた。



「そんなにかしこまらなくてもいいわよ!」


「そう!お風呂では皆、生まれたままの姿なのです。"対等"なのですわ!」


「で…ですけど…私は部外者ですし…」



それを聞いてエレナたちは顔を見合わせ、そして笑った。



「BOSSがあなたを招き入れたんだから!そんなの気にしなくていいの!」


「そうそう!BOSSが客人を招いたのですから、この後はメイ特製のディナーですわ!!」


「…ったく、あんたは食べることしか興味ないわけ?」


「いいじゃないですの、食ほど人の探求心をくすぐるものはないですわ!」



エレナとフレデリカが急に言い合いを始めたことに、ミコトはクスッと笑ってしまった。


それを見たエレナたちも、言い合いはやめて笑い合う。



「…ここはとても楽しそうです。みんなが笑ってるから…」


「まぁ…退屈はしてないわね!」


「特に、メイの料理は最高ですわよ!」


「私も楽しみです。メイさんって玄関でお迎えしてくれた人ですよね?」


「うん、そうね!」


「すごいですね…拠点もあるし、メイドの方まで雇っていて。このゲームをプレイしてどれくらいなんですか?」


「この世界に来てってこと?え〜とそうね、あたしは初めからBOSSと一緒だから…もうかれこれ2週間くらいかしら?」


「えっ…?!2週間ですか?」



ミコトはエレナの言葉に驚いた。


確かに、リアルとこの世界の時間軸は違うと聞いているから、1日でもある程度のことは進められると思っている。


しかし、ゲームのことは詳しくないミコトにも、イノチの進行度は際立って見えた。



「2週間で、こんな大きな館とメイドさんを手に入れられるものなんですかね…」


「さぁ…あたしもフレデリカも、BOSSに召喚された身だからね。そういう難しいことは全部BOSSに任せてるの。」


「えっ…!?お二人はキャラクターってこと?」


「あなたたちの言葉で言うと、そうみたいですわね。」



フレデリカが、お湯で手遊びしながら答える。



(最近のゲームってすごいんだ…ゼンちゃんもそうだけど、この二人も本物の人間だもの…)



口には出さず、まじまじと二人を見つめながら、ミコトがそんなことを考えていると、ガラガラッと再びドアが開く音が聞こえてきた。



「…誰かしら?メイ…?」



三人は湯煙の中、ドアの方を注視する。

すると、人影がこちらに近づいてきた。



「ふわぁ…少し寝ちまったな。風呂入って目を覚そう…」



眠たそうに大きなあくびをして、歩いてくるイノチ。



「BOSS……なんでここにいるわけ…」


「えっ!?エレナ?なんで!あれ?こっちは男湯…えぇっ!!」



イノチの視線の先には、湯船に浸かる三人の美少女たち。


もちろんタオルなどない…



「え…え…え…」



ミコトは何が起こったのか理解できていない様子だ。



「BOSSも凝りませんこと…お好きですわね。」


「ちがっ…これは…違うんだ!!外の…外の看板が…」


「なにが違うって…ん?」



湯船に浸かったまま肩をすくめて、あきれたようにため息をつくフレデリカとは対照に、湯船から立ち上がり、青筋をたてて拳をパキパキと鳴らしているエレナ。



「まっ…待て、エレナ!話し合おう!平和的に解決しようじゃないか!」


「そうね…だけど、それはミコトに聞いてみることにするわ!」



エレナの言葉に、三人はミコトに視線を向ける。


彼女は未だに状況が理解できておらず、顔を真っ赤にしたまま、口をパクパクさせている。



「ミッ…ミコト…さん。こっ…これには理由がですね…」



イノチはなんとか弁解しようと、ミコトに声をかけたが、これは悪手であった。



「イッ…イッ…イッ…」


「あれ…ミコト…さん?」


「イッ…イノッ…イノッ…イノチッ…」



ミコトの後ろに黒いオーラと「ゴゴゴゴゴ」という文字が見える気がする。


イノチはごくりと唾を飲み込む。


その瞬間、ミコトは大きな叫び声をあげ、それは夜空に轟いていく。



「イノチさん…!!!エッ…エッ…エッチですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」



空ではきれいな星が瞬き、流れ星が流れていった。

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