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52話 ゲンサイ


森の中で、大きなため息が聞こえてくる。



「はぁ…まさかこんなハメになるなんてよぉ…」


「ほんとっすねぇ…」



イノチたちが去った後、オールバックの男とその部下たちは、木に縛られたままの状態で目を覚ましていたようだ。



「しかし、おめぇら…なんて様だよ。女にやられるなんて…」


「頭だって…落ちてきた男のヒップドロップで、失神してたじゃないですか!」


「しっ…しかたねぇだろ?!意識外からやられたら誰だってトブだろうが!」



言い訳じみた言葉を吐き出す男に対して、部下たちはコソコソっと小さく囁いた。



「…たく、いつも自分のことは棚にあげるんだから…」


「ほんとほんと…」


「ああん!?てめぇら、なんか文句でもあんのか!?」


「「いえ、ないです!」」



三人がそんなやりとりをしていると、どこからともなく声が聞こえてくる。



「お前ら…なんだその無様な姿は…」


「…ん?ゲンサイのだんなか?!いいとこに来てくれたぜ!早く…この縄を解いてくれよ!」



オールバックの男はキョロキョロと辺りを見回す。


すると、自分たちが縛られている木の上から、音を立てることなく黒いフードをまとった男が降りてきた。



「帰りが遅いと思って来てみれば…使えない奴らだな…」


「へっ…へへへ、申し訳ねぇ…おっ!」



男が苦笑いで誤魔化そうとしていると、いつのまにか縄が解けていることに気づく。



「誰にやられた…」


「へへへ…やっと自由だぜ…」



フードの男が問いかけるも、オールバックの男はヘラヘラと立ち上がり、体の状態を確かめている。



「おい…答えろ…」


「おっ…お頭…聞かれてますぜ!」


「ん…あぁ、俺らをやった奴らのことか?わかんねぇよ!」


「なんだと…?」


「お頭って…ちゃんと答えないと…」


「うるせぇなぁ。わかんねぇもんは、わかんねぇんだよ!だいたい、なんでてめぇに従わなきゃなんねぇ!最初の約束じゃ、お互いの利益のためにってことだっただろ!?対等のはずじゃねぇのか!?」


「対等…ね…」



不満を露わにするオールバックの男に対して、フードの男は少し考えるように顎に手を置いた。


そして、静かに笑い始めた。



「てめぇ…何がおかしい?」


「ククク…いや、お前らが俺と対等…ククク…なんの冗談かと思ってな…ククク…」


「冗談だぁ?言わせておけば!!」


「おっと…それ以外は動くなよ…死にたくなきゃな。」



フードの男は、左手をオールバックの男の前に差し出して静止する。



「おっ…お頭!知ってることは…話しときましょうぜ!」


「そうですよ…!」


「…ちっ!女だ!女二人にやられた…」



不穏を感じた部下たちになだめられて、オールバックの男はしぶしぶと情報を差し出した。



「お前ら…女にやられたのか?」


「あぁ…?!いちいち癪に触る野郎だな!」


「そいつら、人数は?あと外見…」


「けっ…!お前ら!」


「はい…女は二人。一人は茶髪と、もう一人はここらじゃ珍しい桜色でした。茶髪の方のエモノは短剣です。二人とも、むちゃくちゃ強かった。」


「ふん…部下の方が利口だな。他には?」


「男が一人…そいつがいきなり最初に空から降ってきて、お頭を踏み潰したんです。」


「空から…?男か…そいつはどんな格好だ?」


「研究員みたいなローブに、蒼い首飾りをつけてたよな?」


「あぁ…」



そこまで聞くとフードの男は、再び考えるように顎に手を置いた。


そして、口元でニヤリと笑みを浮かべて口を開く。



「さっきの小娘を捕まえるより、ある意味大きな収穫かもな…」


「…ボソボソ何言ってやがる。」


「お前らでも役に立つことはあるんだな…ククク。」


「てめぇ…!」


「お頭ってぇ…もう、突っかかるのはやめましょうよ…」


「…くそっ!」



部下の言葉に、オールバックの男は仕方なく言葉を飲み込んだ。



「…よし。お前らはもう一度、街道で『イズモ』から来るやつらを襲え。」


「ゲンサイさんは…どうするんでぇ?」


「俺は少し調べ物をしに行く…何かあったらまた報告しろ。」



そこまで言うと、フードの男は木の枝に飛び移る。



「それと…お前ら、あまり調子に乗るなよ。俺がその気になれば…肝に銘じておけ。」



そう言い残して、そのまま姿を消してしまった。


あとには再び三人だけが残される。



「くそ!気にいらねぇ野郎だ!!…ぐお!」



怒りにまかせて木の幹を殴ったオールバックの男は、その硬さに手を痛める。



「お頭…八つ当たりはよしやしょう…」


「だぁぁぁぁ!!ちくしょう!!お前ら…行くぞ!」


「へい。」

「へいです。」



部下たちを従え、怒りを草木にぶつけるオールバックの男は、そのまま森の暗闇へと消えていったのだった。





「ゲンサイ…?!」



モニタールームでイノチたちの動向を確認していた女性は、驚きの表情を浮かべていた。


野盗のリーダーが口にした名前。



「どういうことかしら…彼は…ゲンサイはとうの昔に…いや、たまたま同じプレイヤーネームということも…」



そのままモニターを注視していると、黒いフードの男が現れる。


野盗たちと何かを話しているようだが、フードに隠れていて、顔は確認できない。



「これだけの情報じゃ、今はなんとも言えないか…」



そうつぶやいて、目の前にあるキーボードに手を走らせる。


しかし…



「unknown…私でも調べられない権限?!」



再び、カタカタとキーボードを叩いていく。



「ダメね…基本情報やプレイヤー情報、全部にロックがかかってるわ…」



女性は椅子に背を預けながら、そうつぶやいた。



(ゲンサイ…彼がいつからログインしていて、どんなプレイヤーかもわからない。私の権限が及ばない、誰かの息もかかっている…これはきな臭いわね…)



映像では、野盗たちが誰にやられたのかを報告しているようだ。


フードの男は、イノチの話を聞いて興味を持ったようである。


そのまま野盗に指示を出し、再び森の中へと消えていく。


それを見て、女性はキーボードを叩くが…



「追跡も不可…まぁそりゃそうよね。」



画面に出た『That operation is not possible(操作不可)』の表示を見て、大きくため息を吐き出した。


(たまたま彼らの追尾カメラをオフにしてたら、思わぬ収穫が舞い込んできたわね…『ゲンサイ』がもし本物だとするならば…彼はどうするのかしら…)



デスクに置いていたマグカップを手に取り、モニターを見ながら口へと運ぶ。


甘くフルーティな香りが、鼻腔の奥を優しく撫でながら通り過ぎていった。



「プレイヤーネーム『イノチ』か…そろそろ彼には、本当の試練が訪れそうね。頑張って乗り越えてほしいのだけれど…」



女性はそういうと、マグカップをデスクに置いた。


そして、再びキーボードに手を走らせていくのであった。

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