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48話 イノチとトヌス


イノチたちはひとまず、野盗たちを一本の木の周りに集めて縛り上げ、商人から話を聞くことにした。


幸いにも彼に怪我はなく、荷馬車も一部は燃えてはいたが、すぐに消し止めたため、動かせる状態であった。


詳しく聞けば、『イセ』の街へ行く途中だったとのことで、イノチたちの馬を一頭貸して、ギルドへこの事を報告してもらうことにしたのだ。


商人を見送ったイノチたちは、野盗たちを縛り上げている木の下までやってくる。



「もう一度、聞きたいんだけど。本当にこの辺で悪事を働いたのは、今日が初めてなのか?」


「何度も言わせるな!そうだって言ってんだろ…ガハッ!」



イノチの問いかけに、偉そうに大声をあげる眼帯男に対して、エレナが蹴りを入れる。



「キーキーうるさいわね!少しは静かにしゃべれないの?!」


「痛てて…いっ…いちいち蹴るんじゃねぇ!この…!!」


「この…?なによ?」



笑顔で問いかけるエレナに、眼帯男はしゃべるのを止める。背中には冷や汗が伝っていく。



(こっ…この女!可愛い顔して中身は猛獣じゃねぇか!!)



野盗として数多の修羅場をくぐり抜けてきた男は、エレナの笑顔に体中が警告を発していることに気づいた。


今まで経験したことのない殺意を、エレナの底に感じて話し方を改めたのだった。



「すみません。俺らは『タカハ』の街の方からやってきました…この辺で悪さをしたのは、今日が初めてです…」


「わかれば良いのよ。…で、何で『タカハ』ってとこからここに来たわけ?」


「オレら、有名になり過ぎちゃって。」



唐突にテヘペロっとする男を見て、エレナのこめかみに青筋が立つ。



「わぁぁぁぁ!!ごめん!すみません!!ふざけました!!」



怖い笑顔でずしずしと向かってくるエレナに対して、身の危険を感じた男は泣き叫び命乞いをする。


それを見て、ふざけなきゃいいのにと思ったイノチがエレナを止めようとすると、部下の一人が見兼ねて口を開いた。



「おっ…俺ら、『タカハ』の街付近でチンピラまがいのことをして生計を立ててたんす。だけど、いきなり人殺しの容疑をかけられちまって…国軍から追われる羽目になったんで、この辺に逃げてきたんす。」


「人殺しの容疑…?」


「えぇ…『タカハ』の商人をお前らが殺したんだって、いきなり言われて…身に覚えなんてなかったけど、俺らの言い分なんか誰も信じちゃくれねぇもんで…」


「あんたたちがしてきたことを考えたら自業自得なんでしょうけど…誰かの恨みでも買ったんじゃない?」



エレナは肩をすくめる。



「確かにそうかもしれねぇ…人からもの奪ってんだからな。だかな、真っ当とは言えねぇ生き方だが、こいつらは好きでやってるわけじゃねぇ…仕方なくそうなったんだ。俺とは違ってな!まぁ…お前らには理解できないだろうがな。」



突然、眼帯男が真面目な顔をして話し出したことに、イノチは驚いた。



「仕方なく…ていうのはどういう事なんだ?」


「あん…?言葉の通りさ!孤児になったり、借金の肩代わりに売られたり…こいつらはそんな奴らばっかりさ!それに比べて、オレ様は根っからの悪…グハッ!!」


「あんた、それが言いたいだけだけじゃない!!」


「だからよぉ…!いきなり蹴るなって!!」



エレナと眼帯男が言い合っている横で、イノチは考えるように顎に手を置く。



「本当に…この辺ではまだ悪事を働いてないんだね?」


「ハァハァ…あぁ、それに関しちゃ、嘘はねぇ。オレの命に誓ってな!」



男の言葉を聞いて、イノチはうなずいた。



「よし…わかった。今回は君らを見逃すよ。」


「…へ?」

「なっ…BOSS!?」



眼帯男はキョトンとなり、逆にエレナはあり得ないと驚きの表情を浮かべた。



「まだ未遂で被害も出ていないし…」


「でも、こいつらはあたしたちの目の前で人を襲ってたのよ!!」


「そうだな…だけど、未然に防げたし、そもそも俺らの目的は、この辺で商人を襲った野盗たちだ。初めて襲おうとしてた奴じゃない。」



イノチのまっすぐな瞳に、エレナはそれ以上言うことをやめた。代わりにため息をつくと、フンッと鼻を鳴らしてイノチに応える。



「言ってることはよくわかんないけど、言いたいことはわかった!BOSSがそう言うならそれでいいわ…でも、あの商人はギルドに報告しちゃうわよ?」


「うん…その事なんだけど、俺らのミスで逃げられたことにしてもいいかな?」


「…なんか不本意よね。」


「BOSSならそう言うと思ってましたわ!わたくしはそれで構いません!」



申し訳なさそうに言うイノチ。

対してエレナは少し渋ったが、フレデリカが腕を組んで高らかに笑ったことに呆れ、承諾したのだった。



「本当にオレらを逃していいのか…?」


「あぁ…でもひとつだけ条件がある。」



ロープをほどきながらイノチは言う。



「人は殺さないこと…それは守れよ。」


「けっ…!オレらは不殺がモットーよ!!」


「よく言うわよ!さっきの商人を殺そうとしてたじゃない!」


「これはよ、ナマクラさ。何も切れやしねぇのさ!さっきのも峰打ち狙いってやつだ!」


「峰打ちね…そんな太刀筋じゃなかったけど…どちらかと言うと素人丸出し、ただ振り下ろしただけでしょ。」


「うっ…うるせぇ!見栄くらい張らせやがれ!!」



鼻で笑うエレナに吠える眼帯男だったが、イノチの方へ向き直ると、真面目な顔で口を開いた。



「オレの名はトヌス、だんなの名は?」


「俺の名前?…イノチだ。」


「イノチか…良い名だ。イノチのだんな…今日のは借りだ…いずれ返すぜ!」



そう言うと、トヌスは森の中に消えて行く。部下たちはその後を追うが、森に入る前にこちらを向いて一礼すると、再び森の中へと消えて行った。



「なんか、変な奴らだったわね。」


「あぁ…」


「BOSS…なんだか嬉しそうじゃない?」


「そうかな…なんとなく、憎めない人だなぁって思ったんだよ…」



すでに誰もいなくなった森の先を見つめるイノチ。その横顔を見て、エレナも小さく笑みをこぼした。


イノチはトヌスに、誰かの面影を感じたのだろうか。エレナにはそんな表情に見えたのだ。



「BOSSの言うとおり、彼らを捕まえても誰得ですわ。襲い方も素人同然でしたし…」


「そうだな。あいつらは悪さはするが、善悪の区別はつく奴らだ。お主もなかなか見る目がある。」



後ろでフレデリカがそう言うと、イノチの懐からウォタが顔を出す。


四人は少しだけ森を見つめると、仕切り直して馬車に戻るのだった。





「お頭…助かりましたね。ぶった斬られた時は、あぁ死んだと思ったけど、あいつらのポーション、すげぇ効果でしたね!」


「ん…あぁ、そうだな。」



ホッと胸を撫でおろす部下に、トヌスは歯切れ悪く答える。



「…どうしたんです、頭…?」


「いや…なんでもねぇ。とりあえずアジトに戻るぞ!」



心配する部下たちをよそに、トヌスは前だけを見て駆けていく。



(イノチ…か。なんとなくどこかで…)



トヌスもまた、イノチに対して違和感を感じていたのだ。



(わからねぇ…わからねぇが、借りは返さなきゃなんねぇ!)



どことなく心地よい感覚が、心を包んでいる。よくわからない気分だが、悪くはない。


目を閉じると、イノチの顔がまぶたに浮かぶ。その後にフレデリカの巨乳も…



(((あっ…頭、今エロいこと考えてるな…)))



部下たちは全員同じことを思っていた。


こんなアホなトヌスとの出会い。

イノチの物語にとって、重要なピースになることを、今は誰も知る由はない。

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