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47話 野盗の矜持


「ヒャッハッハッ!持ってるもの全部置いていきな!!」


「いっ…命だけは…助けて!!」



商人の男は尻餅をつき、命乞いの言葉を震えながら吐き出す。


目の前には肩に剣を担ぎ、ニヤニヤと笑みを浮かべた男が立っていた。


この男、明らかに野盗だとわかる姿をしている。


片目は傷を負っているのか、眼帯をつけており、腕や足にもたくさんの傷が見受けられる。


おそらく数々の修羅場をくぐってきたのだろう。服装もシミや汚れだらけで至るところが破けており、ボロボロだ。


そして、二人の周りを数人の野盗が囲っている。おそらく眼帯男の部下たちだろう…同じような服装をしているからだ。


ほかにも何人かの仲間がいて、彼らは馬車の周りに立っている。その足元には、馬が首から血を流して息絶えていた。


荷台には火矢が放たれており、一部がパチパチと音を立てて燃えている。


眼帯男が商人へ剣先を向けて話しかける。



「積荷はなんだ!?」


「こっ…この先の『イセ』の街に卸す香辛料と…たっ…宅配の品をいくつか…」


「香辛料だぁ…?他には!?」


「そっ…それだけですぅ!!ひぃぃぃ!」


「それだけぇ!?肉とか酒とか!ないのかよ!」


「ありません!すみません、すみません…命だけは助けて…」



商人の男はそう言って、膝をついて頭を抱え、うずくまってしまった。口からは小さく「助けて」とつぶやき続けている。



「ちっ…ハズレかよ…仕方ねぇ、お前ら!とりあえず積荷を奪え!」


「へい、お頭!!」



眼帯男の指示で、部下たちが積荷を降ろし始めた。


その作業を一瞥すると、眼帯男は商人に向き直り、ため息をつく。



「残念だが積荷はもらう…で、あんたの命なんだが…」



その言葉に商人の男が顔を上げた。

涙と鼻水で汚れたそのみすぼらしい顔を見て、眼帯男は鼻で笑う。



「顔を見られちまったからな…ここで死んでくれや。」


「そっ…そんな!嫌だ…助けて!!」


「だーめだ。俺も悲しいけどよ、さよならだ!」



そう言って肩に担いでいた剣を振り上げる。



「あばよ!ヒャハハハハハハ!!」



剣が商人に向け、振り下ろされたその時だ。



「ぐわっ!」

「がぁ…!」

「やめ…がっ!」



周りで部下たちが叫び声をあげて、倒れ始めたのだ。



「…!?どうした、お前ら!」


「BOSS…逃げて…ぎゃあ!!」



振り向いた先、こちらに向かって叫ぶ部下の背中から、突然、血飛沫が飛び散る。



「なっ…何が起きてやがる!?」



突然の理解不能な出来事に、眼帯男は唖然として立ち尽くしている。

すると、すぐ後ろから女の声が聞こえてきたのだ。



「あなたは…ちょっとだけ寝ててちょうだいね。」



その言葉の後に首に衝撃を受け、男の意識は一瞬で刈り取られた。





「…うぅ…」



俺は頭の痛みに目を覚ました。


首が痛む…さっき衝撃が走った部分だが…記憶はある。


体をうねらせて、手足を動かそうとするが、まったく動かない。


どうやら縛られているようだ。

視線を周りへと向ければ、茶髪と桜髪の女が立っているのが伺えた。


茶髪の女と目が合う。



「…ん?気がついたようね。」



女はそういうと近づいてきて、俺の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。


高い鼻立ちにきれいな二重。

こいつは上玉だ…その可愛らしい様相に、俺は思わず喉を鳴らし、舌舐めずりしちまった。


その瞬間、俺の顔面に硬い何かがめり込んだ。鼻から温かいものが流れていくのがわかる。



「がっ…痛えっ!!なにしやがる!!」


「…立場もわきまえずに欲情してる場合?あんたの部下は全員、取っ捕まえたわよ!!」


「なっ…なんだと!?」


「あんたたち、野盗の一味でしょ?そして、あんたがリーダーね。」


「なっ…なんのことだ?」



しらばっくれようと視線をそらしたが、そんな俺に、茶髪の女は再び拳を振り上げやがった。



「わっ…!!ちょっと待て!!そうだ、俺が頭だ!!認めるから殴るな!!」


「最初からそう言えばいいのよ…あんたの部下たちがみんなしゃべってるんだから。」


「なに!?あいつらめ〜帰ったら覚えてろよぉ〜!!」


「あんた…この状況で帰れると思ってんの?すっごい性格してるわね。」



女は立ち上がると、俺をみてあきれたように乾いた笑いを浮かべる。


すると、今度は男がやってきやがった。

ちっ…コブ付きかよ…



「ふぅ…こっちはあらかた尋問は終わったぞ。ポーションで治療もしたから死人はいない。」


「あら、BOSS。意外と早かったわね!」


「尋問はフレデリカが手伝ってくれたからね。」


「あんな輩ども、大したことないですわ。ちょっと踏みつけてやれば、簡単に全部吐きましたわ。」



桜髪の女だ…って、おぉ〜!!

近くでみりゃ極上じゃねぇか!桜髪に巨乳たぁ、そそるねぇ!グヘヘへへッ…

って、治療だと?どういうことだ?



その瞬間、俺の腹に何かが突き刺さった。一瞬息が詰まって、咳が止まらなくなる。



「ぐぼっ!!ゲッホ…ゲホッゲホッ…」


「その人…大丈夫か?」


「ああ、こいつ?心配する必要なんかないわ…こんな状況でも欲情できるなんて、神経が図太いったりゃありゃしないわ!」


「フフフ…いいじゃありませんか。尋問のしがいがあるというもの…」



咳き込みながらも、俺は桜髪女の言葉を聞いて、無意識に唾を飲み込んじまった。

しかし、ビビってばかりじゃ、頭としての威厳が保てねぇ。



「おっ…俺は屈しねぇぜ!野盗の矜持ってもんが…あっ…あるからな!!」



そうは言ったが、女に痛ぶられるのは嫌いじゃねぇ。ついつい、顔がニヤけちまった。



「おい…頭の顔、見ろよ。」


「あ〜…また悪い癖が出てんな。」


「相変わらずだよなぁ…」



離れたところで、まとめて縛り上げられている部下たちは、口々にそう話す。


そして、声を合わせて大きなため息をついたのだった。





「まったく…一時はどうなるかと思いましたが…なんとか順調のようでなにより… しばらく見守っていて正解でしたね。」



モニタールームにいた女性は、小さくため息をつくと、デスクに置いてあったマグカップを取り上げた。


香ばしい香りと口にしたときに感じる仄かな酸味が、疲れた心を温めてくれるようだ。



「やはり、この"コーヒー"は美味しいわね。取り寄せてよかった…」



目を閉じ、頬に手を当てて、ふぅと息を吐く。



「しかし、彼にそんな過去があったとは…せっかく良い逸材を見つけたのに、危うく壊れてしまうところでしたわ…御方たちも、好き勝手に人材を探すのはいいのだけれど、少しは彼らの背景にも目を向けてほしいものね…」



女性はマグカップをデスクに置いた。

モニターには、小さなアクアドラゴンとギャーギャー言い合いをするイノチの姿が映っている。



「しかし…アクアドラゴンを従えるとはね。偶然だとしても、これほど面白いことはないわね。」



ニヤリと笑う口元は、今までの淑やかさとは程遠い、歪んだ笑みが浮かび上がる。


が…



「おっと…いけません。」



女性はモニターには薄らと映る自分の表情に気づいて、すぐに元の顔に戻った。


ピピピピッと何かのアラームが鳴り響く。



「あら…?また呼び出しかしら…面倒だけれど、仕方ないわね。」



女性はイスからゆっくりと立ち上がり、モニタールームの出口へと歩いていく。


そして、ドアノブに手をかけたところで、モニターへ再度振り向くと、口元に笑みを浮かべた。


なにを考えているのかわからないが、暗がりと相まって、恐ろしく感じられる笑みを…


彼女が出て行った後には、薄暗い部屋につけっぱなしになったモニターの明かりが煌々と影を作り出していた。

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