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44話 呼ばれて飛び出て


「いやいや、イノチ殿のおっしゃる通りですな…まずはそちらの話が先でした。その『ダリア』が関係していたもので、ついついこちらの依頼を優先してしまい…本当に申し訳なかった。」


そう言うとアキルドは、深々と頭を下げた。それに合わせて隣のシャシイも頭を下げる。


顔を真っ赤にして、あたふたと動揺するイノチの後ろで、エレナとフレデリカがニヤニヤ笑っている。


くそっ!あいつら、教えろよな!!わかってて止めなかったな!!ぐぅぅぅ…


イノチが両手で顔を覆っていると、頭を上げたアキルドが再び話を始めた。



「リンから伺ったのですが、イノチ殿は相当な量の『ダリア』を採取されたようですな。依頼の時には申しませんでしたが、実はその『ダリア』にはある効果がありまして…」


「こっ…効果…ですか?」



イノチは両手を下ろして、アキルドの言葉に耳を傾ける。



「はい…その鉱石にはアクアドラゴンの加護が付与されているのです。」


「加護…アクアドラゴンの…」



アキルドの話を聞いて、確かにアクアドラゴンが加護について話していたことを思い出した。そして、もっと重要なことについても思い出す。



(やべっ…そういや、この首飾りってアクアドラゴンが眠ってるんだっけ……これってバレたら、けっこうめんどくさいんじゃないか…?)



タケルの話に落ち込んでいたから、すっかり忘れていた。アクアドラゴンに結果を報告した時、法外な報酬をもらっていたことに…


アクアドラゴンをテイムしたことについてだ。


イノチが無意識に首飾りに触れると、


チリンッ


装飾品の小さな鈴が音を奏でた。



「アクアドラゴンは生命と創造を司る竜種。『ダリア』とは、そのアクアドラゴンの涙と言われています。一般的に竜種から採取できる鉱石などの素材は、身につける者に加護が付与してくれるのです。」



アキルドの話を、イノチは無言で聞きいている。



「カルモウ家は、その『ダリア』を王家にも納品しています。ただし、採取できる量は限られているため、渡せるのは数年に一度、あくまで王家の記念行事への贈答用なのですが…」



アキルドがそこまで話すと、隣のシャシイを見る。それにシャシイは応じて口を開いた。



「先日の軍務会議で、ジパン国軍にも『ダリア』を使った装備品を緊急配備させることが決まりました…その理由のひとつは、国内での魔物や野盗の被害が増加の一途を辿っており、軍がその対応に追われていることが挙げられます。」



そこまで言うと、シャシイは目を閉じて悩ましげな表情を浮かべた。



「緊急…ということは何か問題があるわけね。」



エレナの言葉に、シャシイはため息をつくと再び話し出した。



「…はい、我が軍はすでに疲弊しきっているのです。確かに国内の問題の対処は、ジパン国軍の軍務であり、各都市にも兵を駐屯し、日々対応させております。しかしながら、近年、魔物の凶暴化に加え、野盗被害の増加が拍車をかけ、我がジパン国軍は負傷、死傷により人手不足に陥っているのです。」


「だから、ギルドに依頼に来ていたと言うわけですわね。」


「恥ずかしい限りです…」



フレデリカの指摘に、シャシイは悔しそうに拳を握った。



「でもさ…なんで『ダリア』を使った装備が欲しいんだ?その理由がよく見えないんだけど…」


「先ほども申したとおり、『ダリア』にはアクアドラゴンの加護があります。その効能は"治癒"でして…それを使用した装備品を国軍へ配備することで、兵の死傷率を下げたいのです。あなたは大量の『ダリア』を持っていると伺った。ですから今、あなたの前に参じた次第です。」


「なるほど…軍もこの『ダリア』が欲しいと言うわけですね。」



イノチはそう言って、目の前の机に布袋を置いた。



「もちろん、アキルド殿への納品分は差し引きますし、買値もそちらの言い値で構いません。ぜひ、ご協力願いたい…」


「そんな…頭を上げてください。俺としては報酬がもらえればいいので、アキルドさんがよければ、全部差し上げます。買値についても相場で構いませんから。」


「そっ…相場で…いや、それでは軍の面目が立ちません!!せめて…」



シャシイは納得がいかないと立ち上がる。イノチはそんな彼を少し驚きつつ見つめていた。


面倒くさいのは嫌だったし、早く切り上げてランク上げに行きたい。

そう思っての発言で他意はない。しかし、彼は納得しないようだ。


組織って相変わらず面倒くさいなと、イノチは思う。


提供者がそれでいいと言っているのだから、素直にありがとうでいいのに。どうして組織ってのは、面目とか体裁とか気にするのかね。


大きくため息をつき、立ち上がったシャシイにイノチが声をかけようとしたその時、アキルドがシャシイへ話しかけた。



「シャシイ殿、イノチ殿はこういうお方なんです。私も弟の命を救ってもらったが、特に何かを求められたことはない。無理に交渉を推し進めても、双方に良いことはありませんよ。」



シャシイはそれを聞いて、少し悩んだが、うなずいて静かに腰を下ろす。そして、少しだけ目を閉じると、再び口を開いた。



「…わかりました。イノチ殿のおっしゃる通りにいたしましょう。」



イノチはそれを聞いてホッとした。

そして、アキルドへ讃美の視線を送った。


互いにwin winでいいのだ。それに軍に恩を売っておいて、今後悪いことはないだろうし。


そんなことをイノチが考えていると、突然触ってもいない首飾りの鈴がチリンッと鳴った。


そして、どこからともなく声が聞こえてきたのだ。



《ふぅ…呼ばれて起きてきてみれば、何やら面白い話をしておるのぉ。》


「だっ…だれだ!!」


「げっ!」



この声はシャシイにも聞こえているようだ。


突然、得体の知れない声が響いたことで、彼はすぐさま立ち上がり、剣に手を置いて構える。


それに対して、誰の声かすでにわかっているエレナとフレデリカは、特に何をするでもなく、リンからもらった紅茶をすすっている。


そして、アキルドはと言うと…



「こっ…この声はまさか…!!」



わかりやすい反応で、驚いた表情を浮かべていた。



《息災か…アキルドよ。》


「やはり…!ウォタさまでしたか。お久しゅうございます。ご無事でございましたか。」


《うむ、此度はこやつらに助けてもらってな…礼の代わりに一緒に行動することにしたのだ。なんとなくだが楽しそうだからのぉ…少し待て…今姿を現すでな。》



アクアドラゴンの声がそう楽しげに言うと、首飾りが蒼く光りを発し始め、そのまばゆさに部屋にいた全員が顔を背けた。


そして、一瞬強い光を発したかと思えば、そこには透き通った光沢のある水色の肌に、鱗がびっしりと張りついている蛇のように体の長い生き物が現れたのである。


顔は竜。

長い髭がゆらゆらと空中を漂っており、少し開いた口元からは鋭いキバが伺える。


が…


その体はうさぎ程度の大きさで、とても小さかった。



「あっ…れ?体、小さくない?」


「当たり前だ。そのままの姿で現れたら、いろいろ壊してしまうし、周りも驚くであろう。我なりの配慮だ。我ら竜種は至高の存在。人間以上に礼節を重んじるのだ。配慮などできて当然だ。」



フフンっと偉そうに話すアクアドラゴンだが、見た目が可愛すぎてギャップ萌え。


つい笑いが止まらなくなるイノチの後ろでは、エレナとフレデリカが目をキラキラ輝かせている。


しかし、そんなことはつゆ知らず、小さなアクアドラゴンはフヨフヨと飛んで、イノチの肩に着地する。



「お主…何を笑っておるのだ?」


「いや…ごめん…プププ…あまりにもギャップがあり過ぎて…」


「ふん…あいも変わらず礼儀に欠ける奴らだのぉ。まぁ良い…」



アクアドラゴンはそう言うと、アキルドたちへと向き直る。そして、その場にいた全員が予想していなかった言葉を告げたのだ。



「その野盗退治とやら…我々が引き受けようではないか。」


「へっ…?」



笑いを堪えていたイノチは、その突然の発言にポカンとなった。

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