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41話 心配かけてごめん


イノチの自室には、メイの他にエレナとフレデリカも集まって来ていた。


皆、メイと同様にイノチの声を聞いて駆けつけてくれたのだ。



「…で、そんな夢を見たというわけ?BOSSも意外とお子ちゃまね!」


「うるせぇなぁ…」



イノチに声をかけたエレナは、就寝中であったこともあり、パジャマ姿であった。


エレナの言葉に、余計なお世話だというように顔を背けるイノチであるが、理由はそれだけではない。


上はピンクのストライプ柄のTシャツに、下はショートパンツを着ているエレナの姿に対し、目のやり場に困ったことも理由に含まれている。



「まぁ、落ち込んだ時に悪夢を見ることは珍しくありませんわ…ふわぁぁぁ」



腕を組んで立ち、あくびをするフレデリカ。こちらはお姫さまのようにフリルをふんだんに使った寝巻きで、かなりゴージャスだ。


イノチはこれで寝られるのかと不思議に感じつつ、メイから受け取ったコップの水を一気に喉へと流し込んだ。



「ふぅ…タケルの話をを聞いてから、ずっといろんなことを考えてたんだけど、それがよくなかったんだろうね。」



空になったコップに、メイが水を注いでくれた。イノチが小さくお礼を言うと、メイが口を開く。



「イッ…イノチさま…苦しいのであればここで…話してしまうのもよいのでは…ないでしょうか。」



その言葉にイノチは少しだけ目を閉じ、そして、静かに口を開いた。



「全くを持って、かっこいい話じゃないけどさ…聞いてくれるかな?」





イノチが通っていた秀最しゅうさい高校は全国でも有数の進学校であった。


中学校から成績が良かったイノチは、高校で特進クラスに入ることとなる。


秀最高校には各地の中学校から成績優秀な生徒が集まる。そんな高校の特進クラスには、頭脳明晰な生徒がそろい、一年次から一流大学を目指して勉学に励むのが一般的であった。


イノチは努力家だった。

周りに負けまいと必死に努力し、常に学内試験では1位2位を争っていた。全国模試でも上位に位置するほど頑張っていたのだが…


イノチはイジメのターゲットになった。


きっかけは些細なことに過ぎない。

1年次の最後にある全国模試で一番をとったイノチのことを妬む奴がいたのだ。


同学年の"赤西たつや"だった。

彼は小学校から神童と呼ばれ、もてはやされてきた。だから、もちろん秀最高校でも学業、スポーツともに常に1番をとっていたのだ。


そんな彼にとって、イノチは単なる邪魔な存在でしかなかったことはいうまでもない。


そこから、イノチの地獄の高校生活が始まったのだった。


青山と黄田も加わり、無視、盗難、良からぬうわさ、強要、暴力など、おおよそ想像できることは何でも行われた。


その行為はクラス、そして学校中に伝播する。


つるんでいた仲間はひとり…またひとりと消えていった。いや、その表現は正しくない。みんなイノチをイジメる側になったのだ。


人間とは残酷なものだとイノチは思った。


2年次はなんとか乗り切ったイノチも、3年次の春に起きた出来事で不登校になった。


イノチはそこまで話すと間を置くようにため息をついた。



「何があったの…?」



そこまで話を聞いたエレナたちは、固唾を呑んで話を聞いている。


イノチはそんな三人に、小さくも寂しげな笑みを浮かべると、吐き出すように答える。



「屋上からさ…飛び降りさせられたんだ。」


「はぁ…?!建物の屋上からってこと!?」


「あぁ…そうだ。」



メイはショックを受け、口を抑えている。



「俺がそうせざるを得ない状況を作り出したのさ…やつらの頭ならそんなこと簡単にできるし、周りもそれに同調してたからね。」


「よく無事だったわね…」


「ハハ…本当だよな。幸い下に木があってクッションになったから、命は助かったんだけど…さすがに恐怖でさ…そこから学校に行けなくなったんだ…」


「そいつら…許せないですわ!私がもっとも嫌いな人種ですわね!!」



フレデリカが珍しく怒りを露わにした表情を浮かべていて、イノチはそれが何だか嬉しかった。


エレナもメイもだけど、自分のために怒ってくれている人がいると思えば、過去のことなどどうでもよく感じたのだ。



「俺はさ…ひきこもりになっちゃったけど、そのあと頑張ってシステムエンジニアを目指したんだ。親も支えてくれたし、秀最高校のやつが目指さないような職業を考えてね。そして、なんとか大手の会社に入社できた…」



エレナもフレデリカもメイも、イノチの話に耳を傾けている。



「でも…やっぱり人とは話せなかった。何がきっかけでイジメられるかわからないから。そんな中で唯一、心が安らぐものがソシャゲだったんだよ。ゲームのキャラは裏切らない…ガチャもシステムも、全部俺に本音で話してくれたんだ…」


「人とは話せないって…あたしたちとは話せてるじゃない。」



うつむくイノチにエレナがそう告げる。



「確かにそうなんだ…最初は、この世界はゲームの中で、エレナたちはシステム内のキャラだと心のどこかで思っていたからこそ、話せていたはずなんだ。でも、いつのまにか、エレナもフレデリカもメイさんも、完全に一人の人間だと俺の中で思えているんだ。みんなには、変なこと言ってるように聞こえるかもしれないけど…これ真面目な話ね…」



イノチは顔を上げて恥ずかしそうに笑って話す。すると、そこまで聞いたフレデリカが口を開いた。



「まぁ、BOSSが言っている"ゲーム"とか"システム"とかよくわからないですけど、わたくしたちはBOSSの為に存在し、BOSSとともに生きるのですわ!」



ビシッと指をさして、はっきりと告げるフレデリカに、イノチはポカンとなってしまう。


そこに、今度はエレナが重ねて口を開く。



「確かにそうね!BOSSが言ってることはよくわかんないけど、タケルの言葉とかどうでもいいのよね!主人死なせて自分たちだけ生き残るなんてそんな甘いこと、あたしたちは考えてないもの! BOSSが死んだら、あたしたちも死ぬ!それだけよ!!」



フレデリカと同じように、指をさしてビシッと告げるエレナを見て、イノチはさらにポカンとなった。



「わっ…私も…!私も…イノチさまのためなら、がっ…頑張ります!!」



突然、メイが大きな声で叫んだ。

イノチもエレナもフレデリカも、驚いてメイを見る。



「あっ…すみません!!つ…つい、皆さんにつられてしまって…」



メイは恥ずかしさに真っ赤になった顔を両手で覆った。それを見たイノチは、おかしくなって笑ってしまう。



「くっ…くくく…はははははは!」


「イッ…イノチさま…?!」

「BOSS…?!」



イノチの態度に、メイもエレナも少し心配したように見つめていたが、イノチは少し落ち着つくと口を開いた。



「ハハ…ごめんごめん、なんか嬉しくってさ。」



小さくそうこぼしたイノチは、目に浮かんだ涙を手で拭うと、三人に改めて向き直った。


そして、謝罪の言葉を伝えたのだ。



「エレナもフレデリカもごめんな。俺、タケルの話が相当ショックでさ…もしかしたら今頃死んでたかもって考えたら、本当に怖くて…心配かけて本当にごめん。」



エレナとフレデリカは無言で話を聞いている。イノチはメイにも向き直る。



「メイさんもごめんね。帰ってきてすぐ、あんな態度をとってしまって…せっかくご飯とかお風呂とか準備してくれていたのに…本当にすいませんでした。」


「…イッ…イノチさまがお元気ならば…わっ…私はそれで構いません…」



突然、イノチに頭を下げられ、メイはタジタジになってしまったが、それを見たエレナとフレデリカはクスクスと笑い始めたのだ。



「なっ…なんだよ。二人とも…急に笑い出して!」


「ふふふ…安心したのよ!もし、BOSSがずっと落ち込んだままで、メイにも謝らなかったら、あたしとフレデリカで一度気合を入れ直してやろうって話してたから。」



イノチはそれを聞いてゾッとした。


しかし、横で笑っているメイを見たら、イノチも再び笑いが込み上げてきた。


四人はそれから、朝まで話し、笑い合った。

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