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40話 ナイトメア オブ

今日から再開します!

引き続き、ご愛読をお願いします!


目を開けると、イノチは森の中を一人で歩いていた。


前も後ろも、どこを見ても木しか見えない薄暗い森の中で、なんの目的もなく歩いている。



「…ここは、どこだ?」



キョロキョロと辺りを見回しながら、歩いていたイノチに突然声がかけられ、その声にドキッとする。



「よう…勝屋!俺とランクマッチしようぜ!!」



赤黒のツートンカラーの髪を揺らし、犬歯の目立つ笑みを浮かべたプレイヤーが、ニヤニヤとイノチに声をかけてきたのだ。



「あっ…赤西くん…?」



その後ろには、腕を組んで立つ青みがかった髪の長身の男と、肩に大きな剣を担いだ金髪ピアスの小太りが同じように笑っているプレイヤーが二人いる。


三人とも剣や鎧などを身につけている。



「青山くん…黄田くんも…なっ…なんでここに…っ?!」


「なんでって…そりゃあ決まってんだろ?お前とランクマッチしに来たんだよ!ハッハハハッ!」



赤西と呼ばれた男が、ベロを出していやらしい笑みを浮かべて笑うと、後ろの二人もそれに同調して大きく笑う。


携帯端末が鳴ったことに気づき、取り出して画面見ると、そこには申請受領と『受けますか?YES/NO』の表示が出ている。



「さぁ勝屋…申請を受けろよ!」



赤西が剣を向けてランクマッチを受けるように促すが、イノチはそれを強く拒んだ。


しかし、その表情には動揺と焦りが見える。



「いっ…嫌だ!!」


「受けろよ、勝屋…また痛い目にあいてぇのか?」


「今度はどこがいい?腹か?また顔いっとくかぁ?」



凄む赤西の後ろで、イノチを脅すように声を荒げる青山と黄田。



「ぜっ…絶対、受けるもんか!!」


「そうか…なら仕方ねぇ…」



赤西はそう言うと後ろを向いて、どこからともなくひとりの女の子を引きずり出してきた。


それを見たイノチは愕然とする。



「スイキ!?」



赤西の腕の中には、イノチの妹が捕まっていて、悲しげな表情でイノチを見ているのだ。



「お兄ちゃん…!」


「妹がどうなってもいいなら、別に受けなくてもいいんだぜ…へへへ」


「…ぐっ…くそ…」



涙目でこちらを見る妹の首筋には、短剣が突きつけられている。


イノチは携帯端末に目を向けると、『YES/NO』の表示が目に入った。


震える指を『YES』へとゆっくり伸ばす。



(くそっ…くそっ…くそっ…なんでだ!なんなんだ…!どうしてこいつらが…!スイキ!!くそぉ!!!)



焦りと動揺が、頭の中をグルグルと回っている。


そして、イノチの指が『YES』に触れ、ランクマッチ申請が了承された瞬間、赤西がとった行動にイノチは愕然とした。


彼はイノチの妹の首を、持っていた短剣で斬りつけたのだ。



「スイキィィィィィ!!!!」



血飛沫を上げ、赤西の足元に倒れ込む妹に、イノチは涙目で駆け寄った。



「死ぬな!スイキ…!!」



妹の体を抱き上げて、その顔を自分に向けてイノチは驚く。



「え…メイ…さん?」



そこにあったのは妹の顔ではなく、メイの顔だった。首から血を流して絶命したメイがそこにはいたのだ。



「なんで…メイさんが……ガフッ…!?」



突然、背中に温かいものを感じた。

口からこぼれたものをぬぐうと、手の甲が真っ赤に染まっている。


体の力が抜けて、イノチはメイとともにその場に倒れ込んだ。


その背中にはロングソードが突き刺っていて、赤西たちがニヤニヤと笑っている。


動揺で動けなくなったイノチの背中に、赤西がロングソード突き刺したのだ。



「くそっ…なんで…メ…イ…さん…」



背中を掻きむしりたくなるほどの熱が体中を支配し始める。咳き込むと、口からは命の塊が吐き出されていく。


真っ赤に染まる地面の上で、イノチはなんとか拳を握ると、そばに倒れるメイに手を伸ばした。


灼けるように熱かった背中は、ロングソードが刺された場所から血とともに熱が失われていく。


いつの間にか寒気がするほど冷たくなった背中と霞んでいく視界の中で、自分の手とメイの顔が見えた。



(メ…………イ………さ………ん……)



イノチの意識はそこで途絶える。

後には赤西たちの笑い声が響き渡っていた。





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



イノチは大声とともにベッドから飛び起きた。激しい動悸に加えて、額には大量の汗がびっしょりとついている。



「…ハァハァ、なんだよ今の夢…!」



大きくため息をついて、目を閉じる。


赤西に刺された背中の感触と、べっとりと手にこびりついた大量の血と土。


それらの生々しい感覚が、体中に残っているのだ。


イノチは両手を顔を当てた。



(なんでスイキが…それにメイさんも…)



なぜ妹とメイさんが殺されるような夢を見たのか。その事実が頭の中をグルグルと回って離れない。



(赤西…こんな時まで俺にまとわりつきやがって…)



その怒りの矛先は、もちろん自分をいじめていた相手に向けられる。


彼は高校の時、イノチを自殺の一歩手前まで追い込んだ男だ。そして、未だに人とうまく話せない後遺症をイノチに残した元凶となる男でもある。



(タケルの話を聞いたから…死を近くに感じて思い出したのかな…くそっ!)



そう思い、イノチは横にあった枕を殴りつけた。


一度、心を落ち着かせようと大きく深呼吸した時、部屋のドアがノックされた。



「イノチさま…だっ…大丈夫でしょうか…叫び声が聞こえましたが…」



声の主はメイだった。

イノチの声を聞いて、駆けつけてくれたらしい。少し考え、気持ちを落ち着かせるとメイに声をかける。



「…メイさん、すみませんが水を持ってきてもらえますか?」


「かっ…かしこまりました!少しお待ちください!」



イノチの依頼に応えると、トトトッと廊下をかけていく音が聞こえた。


メイの優しさがくすぐったく感じる。

元の世界では、自分を心配してくれる人など、親以外ではいなかったから。


イノチはふと、窓の外に視線を向けた。


あいつらがこの世界に来るなど、考えただけで身の毛もよだつ。


しかし、タケルの話からすれば、誰がこの世界に来てもおかしくはないのかもしれない。


もし…もしもあいつらが来てしまったら…



(嫌な感じだ…)



イノチはそう直感的に思った。

あいつらには絶対に来てほしくない。


勝てる自信はない…


窓の外では、白く大きく光り輝く月が、夜を見守るように佇んでいた。

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