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36話 君も…だよね


リュカオーンが片目を潰されて、叫び声を上げる。イノチはそれを見て、腰のあたりでガッツポーズした。



「いける!これならリュカオーンを倒せるぞ!!」



即席のパーティでありながら、4人の連携は見事なものだとイノチは感心していた。


まず、黒金の鎧男が何らかのスキルでリュカオーンの動きを封じて、それをサリーとエレナが物理的に攻撃をする。


最後にフレデリカが魔法をぶつけて、リュカオーンが怯んだところに、再び鎧男のスキルが発動するといった流れだ。


ほぼハメ技的な攻撃コンボで、リュカオーンを圧倒している4人を見て、もはや勝った気でいるイノチは、ふと、今日の一件で改めて感じた疑問について考える。



「しかしなぁ…この『ハンドコントローラー』は性能がチート過ぎやしないか?」



そう言って、イノチは自分の右手に視線を落とした。


この武器なのかどうかもよくわからない『ハンドコントローラー』という装備品。


この装備の明らかなオーバースペックさに、イノチの頭からは疑問が離れないのだ。


ソースコードのようなものを変換して戦う武器など、どんなRPGにも出てこないし、聞いたこともない。


確かに、この『アクセルオンライン』という世界は、その設定の多くが曖昧であることは否めないのだが、レアリティによるキャラや武器の性能に関して言えば、この『ハンドコントローラー』以外は、特におかしくないと考えている。



「確かに…敵に直接ふれないと使えないってのは、諸刃の剣ではあるけどさ…」



これはゲームであるのだから、その部分を差し引いても、お釣りがくるほどの性能だろう。


イノチは右手を顔の前に上げ、手の甲の部分にある『Z』という文字に目を向ける。


何にかの頭文字なのか、はたまた何かのロゴであるのか、見たことあるはずだけど思い出せないその文字を見ながら、考えに浸っていたイノチだったが…


突然、リュカオーンが大きな咆哮を上げたことに驚いた。



「なっ…なんだ!?どうした?!」



あたりを震わせるほどの咆哮。

洞窟全体が振動し、パラパラと小石が落ちてくる。


イノチが焦ってリュカオーンの方へと目を向けると、驚愕の事実が目に飛び込んできた。



「うそだろ…!?あいつ…こっちに向かってきてるし!」



何があったかはわからない。

しかし、リュカオーンは何かをきっかけに、ガージュのスキルの隙をついて包囲網を抜け出したのだ。


鋭く尖ったキバを光らせて、ギラついた紅い双眸を自分に向け、確実に殺すためだけに向かってきているリュカオーンに、イノチは足がすくんで動けない。



(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…!!どうする!?あれを…やつを止める方法は…)


《小僧ぉぉぉ!死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!》



怨嗟の言葉を並べて、走ってくるリュカオーン。


しかし、この時のイノチには少しだけ…少しだけ冷静さが残っていた。


右手の『ハンドコントローラー』に魔力を通すと、何となく無意識に地面に触れる。


すると、先ほどと同様に、画面とキーボード、そしてソースコードのようなものが現れたのだ。



「やっ…やっぱり思った通りだ!!これは触れたものになら使えるんだ!!」



イノチは急いで地面のデータを読み取っていく。



「ネーム…グランド… 『Strength(強度)』じゃなくて…『Soil quality(土質)』も違う!えっと…どこだどこだどこだ!!」


《何をしている!悪あがきかぁぁぁ!!》



リュカオーンがすぐ近くに迫る中、必死に地面に触れながら画面を確認していくイノチの目にある文字が映った。



「あった!!『location information(位置情報)』、これだ!!あとはこれをこうして…最後に『Uplift(隆起)』!!」



そうして、イノチが右手でタッーンと確定する仕草をした瞬間、リュカオーンの足元の地面が盛り上がり始めたのである。



《なっ…なにぃ!?ガアァァァッ!!》



突然の隆起に足をとられ、リュカオーンはバランスを崩してその場に倒れ込んだ。



「何が起きたの…!?」


「わかりませんが、これは好機ですわ!エレナ、一気にたたみ込みますわよ!!」



後を追っていたエレナとフレデリカも、状況が把握できずに驚いたが、すぐに切り替えてリュカオーンへ攻撃を加えていく。



「サリー!君も続け!!」


「YES Sir…」



タケルの指示に無表情でうなずいたサリーも、エレナたちに後に続けてリュカオーンの体を切り裂いていく。



《グァぁぁ!ガッ…ガハッ…やめろぉぉぉ!やめてくれぇぇぇぇぇ!!》



リュカオーンの悲痛な叫びがこだます中、その頭上にいつのまにかタケルが飛び上がっており、トドメの言葉を告げる。



「これでようやく…死ね!リュカオーン!!」



どこから取り出したのか、タケルは手にも持った光り輝く長剣を逆手に向け、リュカオーンの眉間めがけて突き刺した。



《…ガァ…》



小さな咆哮のあとで、紅い双眸に灯っていた光は消え、イノチの前にパタリと大きな尻尾が倒れ込む。



「やっ…やったのか…?」


「どうやら…そのようだね。」


「ふわぁ〜よかった…マジで怖かった…」



そばまで来て剣を振り下ろし、血糊を飛ばしながら答えるタケルの言葉に安堵したイノチは、ヘナヘナとその場に座り込んだ。




「BOSSっ…!無事?!」


「見る限り、大丈夫なようですわ!」



エレナとフレデリカが、座り込んだイノチの元にやってきて声をかけた。



「ガハハハハ!けっこう危なかったなぁ、坊主!!」



あとから遅れてやってきたのは、大きな盾を持ったガージュだ。

ガチャガチャと鎧をこすらせながら、大笑いしている。


その後ろには、サリーが静かに目をつむって佇んでいた。



「ほんとだよ…とりあえず倒せてよかった…しかし、リュカオーンがこっちに来た時はマジで死ぬかと思ったわ…」


「まったくよ…どこかの誰かさんのせいで、あたしたちも肝を冷やしたわ。」


「そうですわ…どこかの誰かがスキルを解くんですもの。」


「ぐ…てめぇら…言いたい放題いいやがるな…ガハハハハ!」



ミスをいじってくるエレナとフレデリカに、ぐうの音も出ないが笑っているガージュ。


皆、共闘したこともあり、すこし気を許した雰囲気で話す中で、タケルだけは真剣な表情を浮かべていた。



「イノチ…くんだっけ?君も"プレイヤー"だよね…」


「そっ…そうだけど、"君も"って事はそっちも…」


「あぁ…僕はタケル、こっちがガージュで、君を助けたのがサリーだよ。二人とも僕がガチャで獲得したキャラクターだ。」



ガージュはにかっと笑い、サリーは無駄な動きなく頭を下げる。



「おぉ!初めて他のプレイヤーに会えた!俺は…て、もう知ってるか…えぇと、こっちがエレナで、そっちがフレデリカ…ってお前ら、ちゃんとあいさつしろよな!!」



イノチが二人を紹介するが、エレナもフレデリカも腕を組んで、鼻を高く偉そうに立っている。


そんな二人の態度に愚痴をこぼしつつ、イノチはタケルに質問を投げかけた。



「ったく…はぁ…なんかごめんね。ところで、君たちはこの『アクセルオンライン』を始めてどれくらいなの?俺はゲーム内の時間軸だと一週間くらいなんだけど…」


「え…?一週間…だって!?」


「う…うん、そうだね…」

(やべっ…なんかまずいこと言ったかな…)



タケルの表情がより真剣さを増したことに気づいて、イノチは少し引き気味に答える。



「君たちは、たった一週間でリュカオーンの討伐クエストまでたどり着いたの?!」


「そっ…そうみたいだね…」



そこまで聞くと、タケルは顎に手を置いて何かを考えるように黙り込んだ。


イノチはその様子を見て、生唾を飲み込むとタケルに声をかける。



「あの…俺、なんか変なこと…言ったかな…」



するとタケルは、少しだけ間を空けて口を開いた。



「う〜ん、君にはちゃんと話しておこうかな。僕らにとって、とても大事な話を…」


「大事…な話…?」



イノチは首を傾げて、問い返すのであった。

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