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50話 うちのBOSSは神様です。


(小娘が…戯言を抜かしおって…!)



苛立ちながら、フレデリカに対して一瞬で間合いを詰めたクリスは、右手に持っていた双剣の片方を彼女の頭目掛けて振り下ろした。


先ほどよりも速く、そして鋭い太刀筋振り抜く剣は吸い込まれるようにフレデリカの脳天へと向かう。


ーーーこれで終いだ…


そう思い、少々時間をかけ過ぎたと反省するクリス。


しかし、フレデリカは双剣が当たる寸前で体を半身にし、その一太刀を紙一重でかわしたのだ。


これにはクリスも驚いた。

今まで以上のスピードで繰り出した一撃だ。劣勢だったフレデリカに避けられる道理などないはず…


だが、そんなことを考えているクリスに向けて、フレデリカは半身の状態から蹴りを繰り出した。



「むぅっ!」



予想していなかったフレデリカの動きに驚き、とっさに左手だけでそれをガードする。だが、その勢いを殺せずに、足で地面を削りながら数メートルほど吹き飛ばされてしまった。


悔しげな視線をフレデリカへ向けたクリスは、ふと彼女に異様な違和感を感じる。



(こいつ…どこか雰囲気が変わった…か?)



だが、具体的に何がどう変わったのかは、クリスもわからなかった。一つあるとすれば、さっきの一太刀を見切られたこと。今までの動きから考えて、避けられるはずのない一撃を避けることができるほどに、彼女の何かが変わったということだ。


ーーー警戒せねば…



そう直感したクリス。

だが、慎重に分析していたクリス反して、楽しげな声が聞こえてくる。



「フレデリカさん♪BOSSのクッキングが終わったみたいだよ♪」


「アレックス…BOSSは料理などしていませんわ。クッキングではなく、"ハッキング"です…」


「あれれぇ♪そうだっけ♪へへへ♪」



アレックスの言葉に呆れたように笑うフレデリカは、ゆっくりとクリスへ視線を向けた。だが、その視線を受けたクリスは驚愕していた。



(ど…どういうことだ…?なんだ…この殺気は…あり得ん…これはまるで…)



突然放たれた強烈な殺気。

クリスは、紅く染まったフレデリカの瞳にある存在を重ねていたのだ。


ーーーこれは…竜種…だと…!?


無意識に後ずさるクリス。

ここにいるはずのない最強の神獣…竜種と同じ瞳を宿した目の前の女性に対し、クリスは初めて恐怖を感じてしまう。


そんなクリスを前にして、フレデリカは余裕の表情を浮かべていた。



「しかしながら…」



フレデリカは、何かを考えるように自分の手を見てそうつぶやく。



「これが…本来のわたくしの力…」


「僕もすごいよぉ〜♪力がたくさん溢れてくるもん♪♪」



アレックスもその横で楽しげに盾を振るっているが、クリスはその少女の変化にも驚いていた。明らかに強さの質が変わっているのだ。うまくは言えないが、確実にさっきよりも強くなっている…



(あの盾娘の雰囲気も…格段に変わった。対処できないわけではないが…それよりも、問題はあちらの桃色髪の女の方だ。いったい、こいつに何が起きたというのだ。)



クリスは動揺を隠せず、フレデリカへと問いかけた。



「い…いったい、お前たちはなんなんだ…」




その言葉を聞いて、フレデリカは不敵に笑う。



「淑女に対して、それは失礼ではありませんか?クリス=ランドールさま…」


「淑女だと…?笑わせてくれる…。化け物の間違いではないか?そんな強大な力を持つ人間など…私はこれまで見たことも会ったこともないぞ。」



フレデリカはクリスの言葉に呆れるも、その顔に笑みを浮かべたままこう告げる。



「まぁ、わたくしたちが化け物ならば、うちのBOSSはなんでしょうかね?ねぇ、アレックス。」


「そうだね♪うちのBOSSは…う〜ん、神さまなんじゃない♪」


「か…神…だと?」



クリスの顔があからさまに曇った。



(なぜ、この者たちからその言葉が出るのだ…もしや、我が一族の秘密を?いや…そんなわけはない。この事は誰にも知る術はないはずなのだ。)



そう疑念を浮かべたクリスの顔を、フレデリカは楽しげに見つめている。


そして、イノチの言葉を思い出していた。



ランドール家の屋敷に来る前、イノチはフレデリカとアレックスにある提案をしていた。



「フレデリカとアレックス…二人に話があるんだけど。」



二人は静かにうなずいて、イノチへ顔を向ける。それを確認したイノチは、静かに話し始めた。



「二人を俺のガチャ魔法の呪縛から、解放しようと思ってるんだけど…」


「それは…どういう意味です?」



フレデリカはイノチの言葉がよくわからず、訝しげな顔を向けた。アレックスも頭にハテナを浮かべている。


そんな二人を見て、イノチはクスリと笑って話を続ける。



「ガチャ魔法は召喚魔法であって、二人は…まぁ、エレナも含めてなんだけど、俺と契約を結んでる状態なわけだよな。その契約を解除して、みんなを自由にしようと思ってる。」


「契約を…そんなことが本当に可能なのですか?召喚魔法の契約のルールは、古代より神が決めたとされていて、人間には絶対に解除できないことで有名なのですが…」


「ふ〜ん、そうなんだな。でも、神が決めたことなら逆に俺には解除できると思うよ。」



イノチは少しだけ自信げにそう告げた。そんなイノチの様子に、フレデリカはなんとなくだが納得していた。



(BOSSがそう言うなら、本当にできるのでしょうね…)



ーーー確信はないが、信頼はできる。


フレデリカはそう考えたが、そもそもの疑問が浮かび上がる。



「でもBOSS…それに何かメリットがあるのですか?別にわたくしは、今のままでも全く問題ないのですが…」


「僕もだよぉ♪」



横でうなずいているアレックスにほっこりしつつ、イノチは説明を続けていった。



「俺の予想が正しければ…大いにメリットはあるぞ。召喚魔法ってさ、俺が知ってるものだと、だいたい何かしらの制約が付いてるんだよ。例えば、召喚後の行動時間の制限とか…あとは力をの一部は使えないとか…」



その言葉にハッとするフレデリカ。



「力の…?もしかして、BOSSが考えてるのは…」



フレデリカの閃きに、イノチは「たぶん正解。」とつぶやいて、ニヤリと笑った。



「俺が召喚した三人…エレナ、フレデリカ、アレックス。みんな、俺のランクが上がるごとに強くなる。それは知ってるよな。」



フレデリカもアレックスもそれにうなずく。



「と言うことは…逆にいえば、勝手には強くなれない訳だ。まさに制約だ。んでその原因は、そうだなぁ…例えば成長速度に制限をかけている…とかかなぁ。」


「成長速度に制限…?」



深刻な顔を浮かべるフレデリカに、イノチは大きくうなずいた。



「そう、制限…もしくは抑止されてるとか。いずれにしても、何かの制約が付けられているのは絶対に間違いないと思うよ。そして、これを解除すれば、今までの経験値を一気に得ることになり、みんなの力が格段に向上するんじゃないかとも考えてる。」



イノチの言葉に、フレデリカは内心で歓喜していた。


ここ最近の戦いでは、負けてばかりの自分に嫌気が差していた。ロノスやアルス…皆、格上の存在だったかもしれないが、だからと言って、負けることを是としている訳ではない。


常に勝つつもりでやって来たものの、イノチのランクもなかなか上がらず、もどかしさを感じていたところであったのだ。


フレデリカは、イノチへ強い眼差しを向けるとこう告げる。



「それが本当なら、解除してもらいたいですわ。」


「え…♪フレデリカさん、仲間じゃなくなっちゃうの…♪」



動揺するアレックスに「そうではないですわ。」と諭すように小さく告げて、イノチヘ懇願した。



「例え契約がなくなっても、わたくしはBOSSの部下!それは絶対に変わりません。そしてこれは、エレナも…アレックスも同じですわ!」



それを聞いたアレックスの顔が、パァァァっと明るくなる。イノチも頭を掻きながら、小さく苦笑みを浮かべ、その言葉に大きくうなずいた。



「わかった。なら、これから俺が作ったハッキングシステムを使うからな。ちょっと時間がかかるけど、終わった時には格段に強くなってるはず…あくまで推測だからな。」


「大丈夫ですわ。わたくしたちは常にBOSSを信じてますので…」



フレデリカのその言葉に、イノチは苦笑いを返した。

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