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43話 システムハッカー


「いったいどういうことなんだ!!」



クロノスは納得がいかず、怒りを吐き出していた。アヌビスもよほど悔しいのだろう。その肩を震わせて、クロノスを睨みつけている。



「話が違うぞ…クロノス…」


「あぁ!?僕だってこんなの予想してない!」


「なぜ、あいつが生きているんだ…」


「あいつ…?あいつって…誰だよ!?」


「ちっ…僕もログアウト寸前に聞かされたんだが…」



訳もわからずにログアウトさせられたクロノスとは違い、アヌビスはログアウト寸前にヘルメスから理由を聞かされていた。


それをクロノスへ説明すると、彼は顔を歪ませて怒りを露わにする。



「生きていただって…!?あり得ないだろ!奴は竜種に胸を貫かれたんだぞ!?」


「僕に言われても、理由なんてわかる訳ないだろ!!だが、これはみんなあいつがしたことだ!」



アヌビスがそう告げた瞬間、今度はヘルメスがログアウトさせられて、飛ばされてきた。


それに気づいた二人は、ヘルメスに声を上げる。



「ヘルメス!説明しろ!いったいどうなってるんだ!」


「なんで奴が生きている!?確実に胸を貫かれたはずなのに!!」



ものすごい剣幕で詰め寄る二人の神に、ヘルメスは表情に残していた歓喜を消し、それに答えた。



「どうやら…我々は彼に出し抜かれたようです。」



冷静にそう告げるヘルメスの態度が気に食わず、クロノスがさらに問いかける。



「ちゃんと説明しろ!なんで奴は死んでいないのか…そして、どうやって僕らをログアウトさせられたのかを!!」


「もちろん…私も全ては把握しておりませんが、彼が何をしたのかは説明できますので…」





「見事にやってくれたのぉ…」



仰向けに横たわるイノチに向けて、ゼウスがそう告げる。

イノチはそれには答えずに空を眺めていた。


だが、そのうちに服をはたきながら起き上がるが、先ほどまで血で染まっていた服は綺麗さっぱり元通りになっている。



「まったく…勘弁してくれよ。なんであんたらみたいな奴らが、二人も出てくるんだ。しかも、ヘルメスさんも寝返っちゃうし…」


「そう言う割には冷静じゃな。しかも、あの二人を強制的にログアウトさせちゃうとは…まったく、君にはいつも感服させられる。」



イノチは、そう告げるゼウスに冷ややかな視線を送る。



「よく言うよ…この『ハッカーの極意』を使ってなかったら、俺は今頃あの世じゃないか。はぁ…船の中でいろいろと調べておいて準備しておいてよかったよ。しかし…このアイテムってやばくない?システムのどこにでも入れて、なんでも書き換えれるんですけど…」



イノチはそう言って、右手に装備したハンドコントローラーを掲げた。すると装備ステータスが表示され、そのオプション欄に『ハッカーの極意』というアイテムが備え付けられているのがうかがえる。


ゼウスは、そんなイノチの様子にニンマリと笑った。



「じゃろ?活用してもらえて何よりじゃ!デュアルレイジーじゃったかのぉ!フォッフォッフォッ!」



その言葉にイノチは悪態をつく。



「ちぇっ…なんかバカにされてるみたいだな。だけど、その言い草だと、あんたが仕組んだように聞こえるんだが…」


「その通りじゃもん。」



その返事に大きくため息をつくイノチ。

それから、ゼウスに視線を向けて問いかける。



「…ということは、推測だけどヘルメスさんは…」


「うん、わしがあっち側につくように指示した。」


「理由は…?」


「聞いとったと思うが、奴ら…いや、クロノスの目的は、この世界を利用して地球の人間を殲滅することじゃ。ならば、まずこの世界を手に入れるためにはしなければならないことがある。」



イノチは少し考える素振りを見せる。

そして、思いついたように口を開いた。



「特権アカウントか…ヘルメスさんは、それが使えるんだな。」


「ご名答じゃ。」



ゼウスは再びニカッと笑うが、イノチはそれを無視しつつ、少し考えに耽る。


ジパンからノルデンへの渡航中に、『ハッカーの極意』を利用し、イノチはこの世界について調べていた。


そこでわかったこと。

それは、この世界はサーバーのような場所に神の手で様々なシステムを組み込むことで創られた仮想の世界で、それをオンラインゲームのように仕立てていること。


クライアントサーバー型の接続方式で非同期型、つまりMMO RPGやFPSなどのオンラインゲームに採用されている仕組みを取り入れ、それを神々が遊べるように調整した世界。


それがこのバシレイアという世界であるということ。

大まかに言えば、こういうことだ。


そして、ゼウスの話によれば、この世界のシステムを統括する運営であるヘルメスは、全ての権限を扱える『特権』と呼ばれるIDを持っていて、彼女はこの世界のシステムを自由自在に書き換えることができる唯一の人物ということになる。


だから、クロノスたちは彼女を仲間に引き入れたかった。それを知っていたゼウスは、ヘルメスを寝返ったように見せかけて、彼らの懐に入り込ませたと…そういうことらしい。


だが、イノチが最も重要だと感じていることは、そんな事ではない。自分やミコト、タケルたち人間が、この世界にいる意味…それが重要なのだ。


『ハッカーの極意』によってこの世界を調べていくにつれて、あることがわかった。


それは、この『アクセルオンライン』というゲームを遊んでいる自分達は、本当はプレイヤーなどではなく、地球からこの世界に誘い込まれ、神の意のままに動かされるキャラクター、つまり自分達は神の駒であるということだ。


本当の意味で、『プレイヤー』とは神々のこと。この『アクセルオンライン』というゲームを"プレイ"する神々のことを指すのだ。


細かな関係性はわからないが、この世界の裏にある構図はこれでほぼ間違いないだろう。


そう考えた時、イノチの中で改めて怒りが芽生えてくる。

なぜ自分たちが、神たちの戯れに巻き込まれなければならないのか。彼らの都合で、なぜこんなサバイバルのようなことをさせられなければならないのか。


そう考えたら許せなかったのだ。


しかし、今回の件で、イノチの中で新たな懸念が生まれてしまったのもまた事実だ。


クロノスが言っていた「この世界でプレイヤーを増やす」ということが意味するのは、地球からこの世界へ更に人間を送り込み、特殊な能力を持たせた兵隊を量産しようとしているという事だと推測される。


そして、奴らはその兵隊を地球に送り込み、人間を殲滅しようとしているのだ。


神様というものはやはり理不尽な存在だと、イノチは心の中で強く感じていた。


しかし、ゼウスはそれを読み取ったように口を開く。



「君が考える通り、我らはそういう存在なのじゃ。」


「それで済まされても困る。こんな世界を創ったのも、人間を簡単に滅ぼそうとするのも、ちょっと悪趣味過ぎやしないか?」



ゼウスは、ひげをさすりながらイノチへ顔を向ける。



「神とは完全であり、不完全な存在。良くも悪くも…な。」


「哲学的な回答だな。俺には理解できないが…親子喧嘩なら、他所でやってくれよ。」



イノチが鼻を鳴らして皮肉っぽく告げると、二人の間に少しだけ沈黙が訪れた。


だが、ゼウスはすぐに笑みをこぼして、イノチヘと問いかける。



「まぁ、良いではないか。わしと君の利害は一致しとるんだし、君に望むことも、もうわかっとるんじゃろ?」


「はいはい…あいつらを止めたらいいんだろ?」


「その通りじゃ。しかし…いつになく素直じゃのぉ。」



その言葉に、イノチは大きくため息をつく。そして、あきれたようにゼウスへと視線を向けてこう告げたのだ。



「どうせ、あんたの手のひらの上で踊らされるんだ。この際だから好き勝手やってやるよ!」

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