3話 始まりを告げる音
『200年…初代レオパル王がリシア帝国を建国して以来、200年という長い月日が経った。』
レオパルの声が街中に響き渡る。
「BOSS、始まりましたですわ。」
西門の近くで様子を伺っていたフレデリカが、イノチのもとへと戻ってきた。
「みたいだね。西門の前はどんな感じだった?」
イノチの問いかけに、フレデリカはイスに腰掛けながら答える。
「想定通り、この時間帯はガラガラですわ。皆、正門へ集まっているようですわね。」
「なら、エレナたちがいる東門も同じだろうな。ここまでは予定通りだ。しっかし…この国王の声、俺は好きになれないわ。」
「わたくしもです。なんか胡散臭いというか…」
「だよな!自分に陶酔してる感が丸出しだし…」
イノチとフレデリカはレオパルの声を聞きながら、苦虫を噛み潰したような顔をする。
一方で、ディスられていることなどに気づくことなく、国王の演説は続いていく。
『我がリシアは覇道への足を止めぬ!我がリシアは他国を凌駕し、このバシレイアにおいて、唯一無二の存在へと生まれ変わるのだ!』
「改めて聞くと、ファンタジーなんだよなぁ。覇道とかいう言葉、元の世界で言ってる奴がいたら笑者だよ。」
「そうなのです?この世界では割と当たり前ですわ。歴史の中で、これまでにもそういった君主はたくさんいましたし…」
「そうなんだな…。しかし、ほんと薄っぺらい演説だな。」
「その言葉、レオパルが聞いたらどう感じるでしょう、ですわ。」
その言葉にイノチは苦笑いした。
『帝国民の諸君!我が覇道の礎となるのだ!我は約束しよう!このリシアに…この国に生きるすべての者に栄光を与えることを!約束しよう!!リシア帝国こそが、もっとも崇高なる存在であると証明することを!!』
レオパルの声が熱を浴び始めた。
そのことに気づいたフレデリカは、再びイノチに声をかける。
「BOSS、そろそろ演説が終わりますですわ。」
「そっか…なら、そろそろこれの出番だな。」
そう言いながらイノチが取り出したのは、野球ボールほどの石。
それを見たフレデリカは小さくため息をつく。
「ほんと、うちのBOSSは規格外ですわ。石を爆発物に作り替えるなんて、錬金術でもやらないですわね。」
「それは褒められたととっておこう。じゃあ、フレデリカ…よろしくね。」
差し出された石を受け取ったフレデリカは、ゆっくりとイスから腰を上げてつぶやいた。
「それでは、準備に入りますですわ。」
イノチはその言葉に静かにうなずいた。
◆
一方、西門付近で準備を行うエレナとアレックス。
「演説、もうすぐ終わりそうだね♪」
「おーへー!!」
アレックスの言葉に、スイーツを頬張り、モグモグと口を動かしながらエレナは返した。
「エレナさん、一体どれだけのスイーツを買ったのぉ♪」
「んぐんぐ…っくん。はぁぁぁ…とりあえず、ショーウィンドウに並んで出たやつは全部かしらね。」
「そんなにぃ♪さすがだねぇ♪」
「アレックスはもう要らないの?」
「…うん♪僕はもう…いいかなぁ♪」
ニコニコと遠慮するアレックスに対し、エレナはもったいないと言わんばかりの表情を浮かべながら、再び袋からケーキを取り出して食べ始める。
「ところでさ、BOSSから渡されたコレ…そんなにすごいのぉ♪?普通の石にしか見えないけど…♪」
アレックスが懐から取り出した"石"に、エレナは視線だけ向けて口を開く。
「アレックスはBOSSのスキル、見たことないんだっけ?」
「うん♪あんまりないねぇ♪」
「なら、驚くわよ!騙されたと思ってやってみたらいいわ!」
「エレナさんがそう言うなら♪でも、僕が投げていいの♪?」
エレナはスイーツを食べながらうなずいた。
『帝国民の諸君!我が覇道の礎となるのだ!我は約束しよう!このリシアに…この国に生きるすべての者に栄光を与えることを!約束しよう!!リシア帝国こそが、もっとも崇高なる存在であると証明することを!!』
レオパルの声が力強く熱を浴び始める。
遠くから、その声に呼応する民衆の声が聞こえてきた。
「そろそろね。」
エレナが両手をはたきながら、ゆっくりと立ち上がり、アレックスに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「このおじさんの話が終わったら、あの門に向かってコレを投げるんだね♪」
「えぇ!思いっきりぶつけちゃっていいわ!」
◆
「約束しよう!!リシア帝国こそが、もっとも崇高なる存在であると証明することを!!」
レオパルの眼下に広がる民衆たち。
彼らはその言葉に感嘆の声を大きく上げる。
レオパルはそれを満足そうに見ていたが、彼がスッと手を上げれば、その歓声も次第に静まっていった。
再びレオパルが演説を再開し、最後の言葉を大きく叫んだ。
「今日の生誕祭は、我らリシアが新たな覇道を歩み始める歴史的な一歩となるであろう!!帝国民諸君!!!今こそ声を上げろ!!リシア帝国に栄光あれ!!」
その瞬間、再び大きな歓声が沸き起こる。
正門前に集まる中流階級の貴族たちは、歓喜に満ち溢れ、自らの王へと讃美を贈るのだ。
「「「レオパル王、万歳!!」」」
「「「我らがリシア、万歳!!」」」
「「「最強の帝国、万歳!!」」」
それら熱を帯びた声の塊は、多くの民衆から湧き上がって街中へと広がっていった。
声を合わせ、拳を上げる民衆を一望し、レオパルは満足気に笑う。
そして、同じように拳を上げ、彼らに背を向けて王宮内に戻ろうとしたその時であった。
ドォォォォォォォォンッ!!!
少し離れた位置で大きな爆発音が響いた。
レオパルはそれを配下が準備した祝砲と勘違いしたらしい。
「ふん…私に内緒で祝砲とは、なかなか気が利く…」
鼻を鳴らして、小さく讃美を送るが…
「へっ…陛下!!陛下を御守りせよ!!」
宰相の叫び声とともに、自分の身を庇うように押し寄せた護衛の兵士たちに、レオパルは驚きを隠せない。
「なっ…なんだ!?」
ドォォォォォォォォンッ!!!
状況を把握できず、兵士に囲われたままレオパルが辺りを見回していると、今度は先ほどとは反対の方から同じような爆発音が響き渡り、さらには民衆の叫び声まで聞こえてきた。
「陛下!!早く王宮の中へ!!」
「何が起きておるのだ!!」
「てっ…敵襲でございます!!早く…安全な場所へ!!」
「なっ…!敵襲だとぉっ!?」
そこまで叫んだレオパルは兵士たちに引っ張られ、王宮の中へと消えていく。
部屋の中に引きずられてきたレオパルを、焦ることなく静かに眺めていたロノスに、アカニシが声をあげた。
「団長っ!これは絶対。レジスタンスの野郎どもだ!!」
「あぁ…そうだろうな。」
「そうだなって…だ…団長!!」
ロノスの態度を訝しんだアカニシが、再び声をかけようとしたが、それより早くレオパル本人が声を上げる。
「ロッ…ロノスよ!!ボケっとしとらんで…は…早く騒ぎを収めて…レジスタンスの奴らの首を獲ってこい!」
それを聞いたロノスは、ゆっくりとレオパルへ顔を向けてこう告げたのだった。
「そうだな…ショータイムの始まりだ。」




