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22話 ガチャ魂


「おっ…おかえりなさいま…せ…!イノチ様!?大丈夫ですか!?」



拠点に帰り着くと、メイが出迎えてくれた。しかし、イノチの姿を見て、メイは驚きの声を上げた。


顔や耳を血でにじませ、鼻は大きく腫れ上がっているイノチを見れば、誰でもそう言うだろう。



「あたしはポーション使いなさいって言ったんだけどね。」


「うるへ〜もったいなくて使えるかよ…イテテッ」



力なく虚勢をはるイノチを見かねて、メイがとっさに声をかけた。



「あっ…あの!私…治癒魔法を使えま…す…が…」


「へっ…?」



突然のメイの言葉に、イノチはキョトンとしてしまう。



「あっ…あっ…でっ…ですぎた真似を…すみません…」



イノチに見つめられて、恥ずかしさからメイは小さくなっていく。



「メイさん…魔法使えるの?」


「はっ…はい…多少なりは…」


「しかも治癒魔法…!?」


「治癒は…あまり得意ではないので…おおきな傷は治せませんが…その程度でしたら…」


「マジで…?!」


「はっ…はい…」



質問を重ねる度に小さくなっていくメイ。それに対して、イノチは魔法という言葉に痛みを忘れて、興奮してメイへと質問を続ける。



「治癒魔法って言ったら光とか聖属性なの?!他には何が使えるの?!」


「えっ…あの…」


「やっぱり属性ってあるの!?火とか水とか…雷とかもあるのかな!?」


「あ…あ…あ…」


「どうやったら使えるの?!俺でも使えるかな!?あっ…ガチャ魔法は使えるよな…ってことは俺にも使えるかも!!メイさん、使い方教え…ぐぁ!!」


「メイが困ってるじゃない!!やめなさい、BOSS!!」



一気にしゃべり出したイノチを見かねて、エレナの拳がイノチの頭を打ち抜いた。

あまりにしつこい質問攻めに、メイも怯えきってしまっている。



「…ぐぐぐぐぐ…痛ってぇなぁ!!殴るなよ、殴るな!ケガ人には優しくしろ!!」


「何がケガ人よ!!痛みも忘れて、聞きまくってたじゃない!!メイを怖がらせないで!!」


「…うっ…それは…ごめんなさい。」


「いっ…いえ、私の方こそ…すみません。まっ…まずは治癒をしますね。」



正気を取り戻したイノチを見て、気を取り直したメイは、そう言ってイノチの顔に両手を近づけた。


すると、そこからエメラルド色の光が発せられ、顔や耳、そして痛々しかった鼻の傷がたちどころに消えてしまったのだ。



「うぉ〜!元通りになったぞ!!痛みもなくなった!!」



顔や鼻をペタペタ触り、元の感触を確認したイノチは、メイに向き直ると頭を下げてお礼をする。



「メイさん!本当にありがとうございます!」


「いっ…いえ…ご無事で何よりです。それよりもお風呂とお食事、どちらも準備できておりますが…」


「何から何まで…ほんとにメイさんには感謝しないと!なっ、エレナ…あれ?あいつ、どこ行った?」



いつの間にか姿を消したエレナを探すように、イノチがあたりを見回していると、メイが声をかける。



「エレナ様でしたら、目にも止まらぬ早さで、今しがた館の中へと走って行かれましたよ…」


「…またかよ。」



イノチはあきれたように額に手を当てて、天を仰ぐのであった。





食事とお風呂を終えて、イノチは自室で休んでいた。



「はぁ〜今日は疲れたな…色んなことがありすぎて…しかし、一度情報を整理しとかないと…」



そう言って、横になっていたベッドから起き上がると、携帯を取り出した。



「まずは、疑問点を洗い出そう…」



そもそもこのゲーム、設定が曖昧な部分が多い気がするのだ。


イノチはそれらを携帯のメモアプリに打ち込んでいく。



【疑問点】

・プレイヤー、キャラにステータスがない

・キャラやモンスターにレベルがない

 ※ダンジョン内のモンスターにはある

・プレイヤーにはレベルがある

・装備の性能が不明

・ポーションや強化薬の効果が不明

・HPやMPなどの数値もわからない

・敵味方が受けるダメージが不明




「そういえば、スキルについてもわかんないな…これは後でエレナに聞くとして…」



イノチはメモに書いた内容を改めて見直してみる。



「ん〜なんというか、改めて不明な点を挙げてみると、ゲームなのに数値設定がないんだよなぁ…プレイヤーレベルって言っても強くなってんのかわかんないし…より現実に近い設定なんだろうか…」



イノチは携帯のプレイヤー画面を開いた。


自分が装備しているアイテム『魔導のローブ(N)』と『ハンドコントローラー(SR)』が表示されている。



「『ハンドコントローラー』…いったいどんな装備なんだよ…未だに使い方がわかんないし…」



それ以外に目を向ければ、プレイヤーネーム、基本職、IDのような番号とプレイヤーレベル…



「あっ…!そういや、プレイヤーレベル『10』になってんじゃん!ゴブリンを倒しただけなのに7から10に…ダンジョンの恩恵はすげぇんだなぁ…」



携帯の画面をホームに戻すと、『フレンド』など、今まで使えなかった機能が解放されていることに気づく。



「おっ!『フレンド』か…よく考えたら、まだ他のプレイヤーに会ったことすらないな…このゲーム、どれくらいの人がプレイしてんだろ…街の中にもそれらしき人は見当たらなかったもんな。」



しかし、今まで見れなかった機能を確認しようとしたその時、イノチの目に一つのテロップが映り込んだ。



『プレミアムガチャでの高レアリティ排出率アップ中!しかも黄金石の使用数が半分で回せます!※本日0時まで※』



「…っ!!!!」



イノチは突然、キョロキョロとあたりを見回し出した。自室にいるので、人目を気にする必要はないはずなのだが…


ピーンッ


イノチは何かを感じて急に立ち上がると、なぜかベッドの下に潜り込んだ。


するとタイミングを合わせたように部屋のドアが唐突に開かれる。



「BOSSっ…てあれ?いないわ…おかしいわね…ガチャの気配を感じたんだけど…」



エレナは部屋の中を見渡すと、イノチがいないことに首を傾げた。



「先ほど、お風呂から上がられたところは確認したのですが…どこへ行かれたのでしょう…」


「いないなら仕方ないわね…メイ、いいこと?BOSSに"ガチャ"の気配を感じたら、あたしにすぐ知らせなさい!」


「…はい…"ガチャ"というものが何かは存じませんが、イノチさまを良くない方へと導くもののような気がします。細心の注意を払いましょう…」



二人はそう言いながらドアを閉めた。


二人の気配がなくなったのを確認すると、ベッドの下からイノチが顔を出す。



「あっぶねぇ…!ただならぬ殺気を感じて隠れてみたら…エレナのやつ、変な嗅覚まで発達させやがって…しかし、なぜメイさんまで…」



勘弁してくれと言わんばかりの表情で、イノチは言葉をこぼしながら、モゾモゾとベッドの上に戻ると、携帯を再び取り出した。



「まぁ危機は去ったわけだし、『黄金石』は今日の狩りでけっこう手に入れてるからな…」



ニヤニヤしながらアイテムボックスの『黄金石×23』を眺めるイノチ。


しかし、ひとつだけ問題があるとすれば…


ガチャをするには魔法を使わなければならないということだ。使えば二人に絶対にバレてしまうことは確実である。


どうしたもんかと思案するイノチ。


しかし…



「《ガチャは時を選ばず》…だったな!」



イノチは今までどんな時でも、常にガチャを最優先に考えてきたのだ。ガチャ中毒者の彼にとって、この程度の状況は朝飯前なのである。



「そうと決まれば、善は急げだ!!」



良い案が浮かんだのか、イノチはさっそく行動に移す。


静かに窓を開け、外に誰もいないことを確認すると、そのまま夜の暗闇に消えていったのだった。

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