表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/290

86話 一途な想い


「ゲンサイッッッ!!」



隙を突かれ、吹き飛ばされるゲンサイを見てタケルが叫ぶ。

ミコトもその横で口を押さえて彼の行方を驚きながらみていた。


しかし、一方でゼンは違うことを考えていた。



(ま…待て…八岐大蛇は今…なんと?)



撃ち合いをやめ、一度向き合った二人の会話が思い出される。



『……俺は負けるわけにはいかねぇ。』


『ほう…なんで負けられないんだ?興味があるな。』


『なぜかって?そんなの決まっている。今は俺が最強の竜種だからさ。ウォタの野郎が死んだらしいからな!ガハハハハ!!』



ゼンには八岐大蛇の言葉が理解できなかった。

あり得ないことをしゃべる同種の言葉に怒りすら覚えている。



(あのウォタが…死ぬ?なにを馬鹿な…この世界で最強の竜種だぞ?誰に遅れをとることがあろうか…)



しかし、内心ではそれを信じてしまう自分がいることにも、ゼンは気づいていた。


八岐大蛇がそんなくだらない嘘をつかないことは、ゼン自身がよく知っているからだ。


嫌な奴ではあるが、自分と同様にウォタを追い抜くことを志していた竜種である八岐大蛇が、そんな無意味な嘘をつくはずがないのである。


その葛藤はゼンを苦しめる。



(くそっ!くそっ!いったい何なのだ!)



そう狼狽するゼンに気づいたミコトだったが、彼女はゼンにどう声をかけていいかわからなかった。


八岐大蛇に吹き飛ばされたゲンサイの安否も気になる。

しかし、ゼンのことも放っては置けない。


そうして悩むゼンとミコトにタケルが声をかけた。



「二人とも、何を考えているかはわからないけど全部あとでにしようか…お客さまが戻ってきたよ。」



その言葉に、ゼンもミコトもタケルが見ている方へと顔を向けた。


そして、そこに立つ男を見てハッとする。



「よう…待たせたな。」



ニヤリと笑って立つ男。

小さく吹き抜ける風に黒く長い髪を揺らし、こちらを見る八岐大蛇の姿がそこにはあった。



「ゲンサイは…どうした…」


「ん…?あいつか?あいつならあっちで寝てるぜ…ククク」


「こっ…殺したのか?」


「安心しろよ…殺してない。だが、起きたら次は殺す。」



タケルもミコトも、その言葉を聞いて複雑な表情を浮かべる。


しかし、その横で突然、ゼンが声を荒げたことには二人も驚いた。



「オロチ!!さっきのは…どういうことだ!?」


「あん…?さっきの?何のことだ?」


「貴様が言ったのであろう!あれは本当なのか!」


「ゼ…ゼンちゃん…」



ミコトが声をかけるが、ゼンは八岐大蛇を睨みつけたまま動かない。


問われている八岐大蛇も初めは首を傾げていたが、ゼンの言葉の意味を悟って笑う。



「あぁ…水竜…ウォタの野郎のことか。本当だぜ…俺も聞かされた時は驚いたがな。」


「…くっ…なぜだ。原因は…いったい誰が!」


「それはここでは言えねぇ。そう言えばお前も理解できるだろう。」



そう八岐大蛇に告げられて悔しげな表情を浮かべたゼンは、タケルとミコトに目を向けた。


確かに二人の前で、この真相は今語ることはできない。


ウォタを殺した者が誰なのか…今の八岐大蛇の言葉でゼンは確証を得ていた。


が、それを口にするのは御法度…特にプレイヤーの前では言ってはならぬことなのである。



(どなたかは知らぬが…なぜ…)



最初はどこぞやのプレイヤーにやられたのかとも考えた。

ゲンサイのような力を持つプレイヤーが現れ、不覚にもウォタはそいつに遅れをとったのではないかと。


しかし、そんなプレイヤーが現れたなどという話は聞いてもいなければ聞かされてもいない。


現時点でゼンが知っているのは、イノチがそれに近いということだけだった。


そして、彼がそんなことをするはずはないことも知っている…イノチにとってウォタは大切な仲間なのだから。


ならば、自ずと答えは出てくるのだ。

ウォタを殺したのは…



「そんなこと…今はどうでもいいじゃねぇか。」



八岐大蛇がそう笑みを深めた。

それにはゼンが反論する。



「お前にはよくとも、私には良くないことだ!これまで奴を超えるために努力を重ねてきたのだぞ!」


「…ったく、てめぇはいつもそうだな。ウォタ、ウォタ、ウォタ、ウォタ…」



ゼンの言葉に八岐大蛇の表情がくもる。

そして、右の手のひらを自分の顔へと貼りつける。



「マジでうるせぇ…俺には関係ないだぁ?あるに決まってんだろ!俺だってあいつを超えるために努力してきたんだ!お前だけじゃねぇ!!」


「なら、なぜウォタが死んで喜べる!自分の手で乗り越えてこその"最強"であろう!!」


「うるっせぇんだよ!!そんなことはわかってる!だがな…どうしようもないことだってあるんだ!あいつはもういない!!その事実は変わらねぇ!!いつまでもピーピー言ってんじゃねぇよ!!」



ゼンとの会話でイラ立ちを募らせた八岐大蛇はそう叫び、顔においていた手のひらを振り下ろすと、突然ゼンの目の前まで間合いを詰めたのだ。


ミコトたちは一瞬のこと過ぎて気づいていない。



「やっぱりお前からだ…ゼン!」


「くそっ!」



ゼンがとっさに身構える中、怒りの混ざる醜悪な笑みを浮かべ、ゼンへと拳を放つ八岐大蛇。


受け止めようと反応するも虚しく、その拳はゼンの頬へと吸い込まれていった。



「グハァッ!!」



鈍い音とともに吹き飛ばされるゼン。

ものすごい勢いで木々を薙ぎ倒していく。



「ゼンちゃんっ!」



ゼンが吹き飛ばされたことでようやく状況を理解し、驚いて声を上げるミコトに対し、八岐大蛇は笑みをさらに深めてこう告げた。



「お前らは後でだ…」


「…!」


「ミコトっ!」



その言葉に気圧されて、その場に座り込んでしまったミコトの元へタケルが駆け寄って抱き止める。


その様子を見てニヤリと笑うと、八岐大蛇はゼンの後を追った。





「おっ…おい、あれ…」



オサノが指差す方にソウタたちが目を向けると、タケルのスキル『カンヤライ』の障壁を隔てた先に、黒い竜と対峙する黒髪の男の姿が見えた。



「なんだぁ?あいつらは…」



カヅチが訝しげにそうつぶやく。



「わからないな…竜の方は八岐大蛇?いや、違うな…それにあの男はいったい…」



ソウタが何やら考えに耽っていると、シェリーが我慢できずに声を上げる。



「何でもいいわ!とりあえず、早くタケルたちの元へ行かないと!」


「そうなんだが、それにはこの障壁を消さないことには…」


「わかってるわよ、そんなこと!で、どうやったらこの障壁を超えられるわけ?」



シェリーの言葉にオサノは首を振る。



「俺が知るわけないだろう。タケルのスキルなんだ。奴に聞かないことには…」


「ったく!使えないわね、あんたって奴は!一番タケルと長くいるんでしょ!?それくらい知ってなさいよ!」



その言葉にカヅチも腕を組んでうなずいている。



「無茶を言うな。皆、スキルについては隠している者が多いんだ。戦いを有利に進めるためにな。それは暗黙の了解だとお前たちも知っているだろう。」


「わかってるけど…じゃあ、どうすんのよ!ここまで来たのに、指を咥えて待ってろっていうわけ?!」


「う〜ん…」



オサノは腕を組んで考え込んでしまう。

しかし、そんなシェリーたちの懸念も杞憂に終わる。


なぜなら、突然目の前にあった障壁がガラスのようにひび割れて砕け散ったのだ。



「なっ!?」


「これは…!?あたしの…あたしの愛が届いたのねぇ!」


「何言ってんだ、このおかまゴリラ!」


「あ"ぁ"!?今なんて言ったぁ?」



驚くオサノをよそに、相変わらずの掛け合いをするシェリーとカヅチだが、そんな二人を止めるようにソウタが告げる。



「いい加減にするんだ、二人とも。今はそんなことをしている暇はないだろ!これは好機なんだ。早くタケルの元へいそごう。」


「そうよ!あんたなんかに構ってられないの!」


「それはこっちのセリフだ、マタノスケ!」


「てぇんめぇ…!!」



プルプルと拳を握り、青筋を立てるシェリーとそれに張り合うカヅチ。


睨み合う二人を見て、ため息をついたソウタは仕切り直すように声を荒げた。



「さぁ!タケルたちを助けにいくよ!!」



しかし、戦況を理解していない彼らには、この後に起こる悲劇について知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ