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84話 戦い方


《グギャァァァァ!!》



八岐大蛇が叫び声をあげた。

苦しみを含んだその声を聞けば、その理由は誰しもがわかるだろう。


ゲンサイが放った剣技は八岐大蛇の腹部に大きな傷を残した。


痛みに苦しむ八岐大蛇。

少し離れた位置でその様子を見て、笑いながら剣を回しているゲンサイ。



《きっ…貴様ぁぁぁ…》



八岐大蛇はよろめきつつ、残った右目でゲンサイを睨みつけた。


しかし…



「どうだ?初めて受けるスキルの味は…ククク。」


《ぬう…》



笑うゲンサイに対して、八岐大蛇は後退りする。


それは彼の意思ではなく、無意識の中で起こったこと。

本人でも気づかないほど深い潜在意識下で、八岐大蛇はゲンサイに恐怖したのである。


ゲンサイがゆっくりと踏み出した。

それを見て強張る自分の体に気づいた時、八岐大蛇はそこで初めて自分に起こった異変に気づいた。



《(この俺が…恐怖しているのか…まさか…)》



生まれて初めて相手を怖いと感じた。

目の前にいる小さなプレイヤー、否、人間がとてつもなく大きく見える。



《(こんなの…御方々を前にした時以来だぜ…)》



そう感じながら、近づいてくるゲンサイを前にして数歩ほど後退りした八岐大蛇だったが、あるところでその足を止めた。


それに気づいたゲンサイは感心したように口笛を鳴らすと、同じように足を止める。



「ほう…大した勇気じゃないか。確かに他のユニークたちとは違うようだな。」


《当たり前だ…俺は八岐大蛇だぜ。これを言うのは不本意だがな、最強と呼ばれてやがるアクアドラゴンと並ぶ力を持つんだ。てめぇなんかにびびってたまるか!》


「……」



一緒、ゲンサイが顔色が微妙に変わる。

しかし、すぐさま表情を元に戻して口を開く。



「それはそれは…だが、それでもこんなもんだ。所詮、お前らじゃ俺には勝てないのさ!さぁ、そろそろ終わりにするぜ!?」



ゲンサイはそう告げると、回していた剣を止めて握り直すと、切っ先を八岐大蛇へと向けた。


見栄を張ったものの、焦りは拭えない。

八岐大蛇は再び気圧されて後退りをしたその時だった。



《…ガッ…グッ…ギギギ…》



八岐大蛇の中で何かが弾けた。

それを機に、突然訪れた苦しさに胸を押さえてその場に倒れ込んだ。



「…なんだ?」



目の前で苦しみ悶える八岐大蛇の様子に、ゲンサイは拍子抜けしたように小さくこぼす。



「ゲンサイ!!」



後ろから聞き知った声がかけられる。

振り向けば、黒き竜と少女の姿…そして、一人は見知らぬ男が立っていた。


ゲンサイは八岐大蛇へ向き直りつつ、ゼンたちに問いかける。



「なんだお前らか…そいつは誰だ?」


「彼はイノチくんのフレンド『タケル』くんだよ!」


「ほう…あんたが…」


「初めましてだね。君がゲンサイくんかい?」


「あぁ…」



ニコリと笑いかけながら聞き返すタケルの言葉に、ゲンサイは振り向くことなく小さくこぼした。


タケルはその態度に頭をかきながら苦笑いする。



「ゲンサイよ、ジプトでの作戦はどうしたのだ?」



ゼンが再び疑問を投げかける。



「ジプト…か。そこでの作戦は終わったぜ。」


「そうか…それは良かった。しかし、お主はなぜここに…」


「ここに来たのは、お前らを助けろとイノチから指示があったからだ。お前らのボスの命令だよ。そして、ここまでの移動は"例の奴ら"が手を貸してくれたのさ。」



ゲンサイは淡々と言葉を綴った。

未だ、目の前では苦しみ続ける八岐大蛇の姿がある。



「なるほどな。ならば、ウォタはどうした?トウトにいるのか?」


「…っ」



その問いにゲンサイは言葉を詰まらせる。


前を向いているのでその表情はうかがえないが、ミコトには彼が少し戸惑っているのが感じられた。



(やっぱり…さっき八岐大蛇の口から出た言葉にも少なからず反応していたし、ゲンサイさんはウォタさんのことを引きずっているんだ。そして、多分だけど後悔と責任を感じている…ゼンちゃんはそのこと知らないから。)



ゲンサイの背中を見つめていたミコトは、切り出すように口を開く。



「みんな、話はこれくらいにしよ!今は目の前の八岐大蛇を倒さなくちゃいけない!」


「む…そうだな。しかし、奴はなぜ苦しんでいるんだ?」



ゼンの言葉にタケルは首を傾げた。



「さっぱりだね。ゲンサイくんの攻撃をモロに受けても倒れなかったのに…ゲンサイくんは何か知らない?八岐大蛇と何か話していたみたいだったし…」


「……」



タケルのその言葉に、何の反応もしないゲンサイ。

タケルは気まずそうに再び苦笑いを浮かべ、ミコトやゼンに顔を向けた。



「…こいつ、初めからこの姿だったのか?」



と、突然ゲンサイが問いかけてくる。



「え…?あ…いや…初めは頭8本あって名前の通り"八岐大蛇"だった…ね。」



予想していなかった問いかけに、珍しくタケルが言葉に詰まりながら答えると、ゲンサイは顔だけ振り向いて視線を皆に向けた。



「そうか…なら、この姿にはどうしてなった?何がきっかけだ…」


「きっかけ…」



タケルが記憶を辿る中、見方が思い出したように声を上げる。



「そうだ!光の粒!突然降ってきた光の粒が、八岐大蛇の体に吸い込まれたんだよ!」


「確かに…その後に突然苦しみ出したと思ったらこの姿に変わったんだ!せっかくミコトの魔法がこいつに通用することがわかって、反撃しようとしたのに…」


「ん?魔法が…通ったのか?」



ゲンサイは光の粒子についてより、ミコトの攻撃が八岐大蛇に通ったことに興味があるようだ。


少し驚いた顔をして、ミコトに視線を向けた。



「う…うん、理由はわからないけど、フレデリカさんに教えてもらった魔法が八岐大蛇へ通じたんだ。」


「…本来、ユニークモンスターには『絶対防御』という障壁があんだよ。普通のプレイヤーは、それを超えることはできない。要は攻撃は通じねぇんだ。」



再び八岐大蛇へ視線を戻すゲンサイに、タケルが問いかける。



「なら、何でミコトの魔法が通じたんだい?」


「考えられるのは…ゼン、てめえだ。」



ミコトもタケルも驚いてゼンを見た。

しかし、一番驚き、疑問を浮かべていたのはゼン本人だった。



「私か…?私は何もしていないが…」



珍しく驚いた表情を浮かべるゼンに対して、ゲンサイは話を続ける。



「お前ら、いつも一緒にいるだろ?おそらくだが、ゼンの力の干渉を受け、お前の魔法にその力が乗っかったんじゃねぇか?勘違いしてる奴も多いが、絶対防御は対プレイヤーのためのものであって、この世界に元からいる生物同士には、なんの効果もないからな。ゼンの攻撃はこいつに通ってただろ?」


「なるほど…それならば辻褄は合うね。ミコトの炎魔法の威力が強かったのも、ゼンさんが炎竜であるからと言われれば納得できるし…」


「しかし、なぜ私の力がミコトヘ…」



ゲンサイはその言葉に少し無言になる。

そして、頭をかきながら、小さくため息をつくと顔だけ振り返って恥ずかしげにこう答えた。



「俺もこの世界には長くいる方だからな。お前みたいにガチャ魔法で神獣を引き当てた奴に会ったことがあるんだ。そいつは神獣の力を自分のスキルに乗せてたぜ。それ以外、細かい事は知らねぇよ。」



ゲンサイはそう言うと八岐大蛇へと視線を戻す。


ミコトもタケルも彼の言葉に納得していたようだが、ゼンだけは違うことを考えていた。



(私の力をミコトに…そうか、そういう戦い方もあるのだな。)



ゼンは何かに気づき、一人喜びを感じていたのだ。



しかし、束の間のひと時は、八岐大蛇の大きな咆哮で終わりを告げた。



「ちっ…話し過ぎたな…お前ら、気をつけろよ。こいつは"ヤバい"。」



そう告げるゲンサイの言葉を消し去るほど、大きな咆哮が辺りを揺らす。


そして、八岐大蛇は四人の前で咆哮とともにその姿形を変え始めるのであった。

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