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79話 因縁の…


「う…うぅ…」



タケルはすぐに意識を取り戻した。

倒れたまま自分の手に目を向ければ、体が少し光っているのがわかる。



(これは…ミコトのバフ魔法…)



おそらく、吹き飛ばされた瞬間にミコトがとっさにかけてくれたのだろう。


自分も吹き飛ばされている最中だと言うのに何という胆力かと感心しながら、タケルは当のミコトの姿を探した。


必死に体を起こし、座り込んだ状態で辺りを見回していく。

そして、霞む視界に突然映し出された映像にタケルは驚いた。


大きな焦りに胃が縮こまる感覚。



(だめだ…!やめろぉ!)



見れば倒れるミコトの前に八岐大蛇が立ち、大きく鋭い爪を振り上げていたのだ。


ミコトは気を失っているのか、ピクリとも動かない。



「やめ…ろ…やめて…くれ…」



痛みでなかなか上がらない腕を必死に震わせて、小さな声で訴えた言葉は八岐大蛇には届かない。



ーーーだめだ!ミコトを殺さないでくれ…



必死に訴えかけるタケルはそのままバランスを崩し、うつ伏せに倒れ込んでしまった。


しかし、諦めることなく動かない体に鞭を打ち、タケルは必死に声を上げようとする。


満身創痍の体からは小さくも儚い叫びしか発せられない。

その目からは大粒の涙が流れ落ちていく。



「…もう…失いたくない…」



地面を這いずり、必死に二人の元へと向かうタケル。

しかし、彼の目の前で無情にもその爪は振り下ろされた。


目をつむり、必死に願うタケル。



ーーーやめてくれぇぇぇぇぇ!!!



しかし、その時であった。


まぶた越しに強い眩しさを感じ取ったタケルは、すぐに顔を上げて目を開く。


当然、襲いくる眩しさに目を細めながらも必死に視線を向け、タケルはその光の中心を注視する。



「こ…これ…は…この…光は…」



鋭くも暖かさのある輝きにタケルは安堵を覚えた。



「ゼンさん…ゼンさんなのか…?」



見れば八岐大蛇もその光に動揺したのか、振り下ろした爪はミコトに当たる寸前で止まっている。


そんな八岐大蛇に対して、光の中からある声が向けられた。



「我が娘には手出しはさせんぞ!オロチ!」


《な…!そっ…その声は…!?》



その瞬間、タケルは光の中から現れた拳が八岐大蛇の顔面に吸い込まれていくのを見た。



《ぐわぁっ!》



予想していなかった攻撃を受け、八岐大蛇はよろけ後退りする。



《なぜ…なぜお前が…》



頬をさすりながら光を睨みつける八岐大蛇。

それに応えるように、輝きの中からゆっくりと黒き竜が姿を現した。



「オロチよ、久しいな。」


《ゼン…やっぱりてめぇか…なんでそんなとこにいやがんだ。》



ゼンはちらりとミコトに視線を向ける。

ミコトはどうやら気を失っているだけのようだ。


小さく呼吸するミコトに内心でホッとしたゼンは、再び八岐大蛇へと鋭い視線を向けた。



「相変わらず好き勝手やっているな。」


《あぁ?そりゃ、お前らと違って俺はいつでも外には出てこれないからなぁ!こんな時くらい好きにしたって良いじゃねぇか。それより俺の質問に答えな…お前とその小娘はどういう関係だ。》



訝しげに問いかけてくる八岐大蛇に対して、ゼンは小さく息をつくと口を開いた。



「この娘はわたしの主人さ。」



その瞬間、八岐大蛇は馬鹿にするように大きく笑い声をあげた。



《ガハハハハハハ!!主人だと?!人間に仕えるなんざてめぇもヤキが回ったもんだ!しかし、お前にはそれがお似合いか…》



いやらしい笑みを向ける八岐大蛇の言葉に対して、ゼンは静かに答える。



「お前とて、人に呼び起こされねば姿すら現すことはできんだろ…自由に動けないのだから、私とあまり変わらぬと思うが。むしろ、私より自由がない分…」


《ケッ!うるせぇ!!俺だってなぁ、自由にしてぇさ!しかし、あの方たちに逆らうことはできねぇだろ?分かりきったことを言うんじゃねぇよ!!》


「それについては同意はしよう。」



ゼンの態度を見て、八岐大蛇は不服そうに鼻を鳴らした。

しかし、まんざらでもないといったように笑みを浮かべて話を続ける。



《だかよぉ、制約があるからこそ、こんなに強い力を与えてもらえてんだよなぁ。今回は予想外なこともあったが、こうして思い切り暴れることもできる。俺としては楽しませてもらってるぜ。》


「それがお前の役割なら仕方がない。御方々に貰い受けた生だからな。使命を全うすることは必須。しかし、だからと言って私の仲間に手を出すことは許さんぞ。」



強い眼差しを向けてそう告げるゼンに対して、八岐大蛇は声を上げて大きく笑う。



《ガハハハハハハ!えらく強気じゃねぇか、ゼン!いったいいつからそんな偉そうな口をきけるようになったんだぁ?》


「……」


《俺より弱いお前が、俺に指図するんじゃねぇ。文句があるなら俺を倒してから言え!それが竜種のルールだぜ!まぁ…お前にゃ無理だろうがなぁ。》



笑い続ける八岐大蛇の言葉に対して、ゼンは無言のままだ。



《どうした、ゼン。ビビったかぁ?!ケケケケ…ヨワヨワゼンちゃんはお家に帰って寝てろよなぁ!ウォタの野郎にも勝てないお前は、おうちでシクシクしてんのがお似合いだ!ハハハハハ!》


「…確かに、今までの私ならお前には勝てなかっただろうな。」


《ハハハハハ…あん?》



ゼンの言葉を聞いた八岐大蛇は笑うのを止め、紫色の瞳をギロリと向ける。



《なんだぁ?まるで、今回は俺に勝てるとでも言いたげだなぁ。今までの結果を覚えてねぇとは言わせねぇぞ。》



八岐大蛇の言うとおりだった。

実は二人は過去に何度もやり合っているのだが、ゼンは八岐大蛇に一度も勝ったことはない。


八岐大蛇はウォタと互角の力を持つ竜種。

ウォタに勝てないゼンは、八岐大蛇にも勝てないことは道理なのである。


しかし、ゼンはどこか自信に満ちた声色で言葉を綴る。



「今までの私はウォタの幻影に…理想の強さを追うことに取り憑かれ、大切な事を忘れていた。強くなることだけを考え、ひたすらに迷走していたんだ。だが、彼女といるうちに大事な事に気づいた…」


《大事な事だぁ…?》



八岐大蛇は気に食わなさそうにゼンを睨みつけた。

しかし、対するゼンはというと、後ろを振り向いて倒れているミコトを見ながら小さく笑っている。



「まぁ、お前にそれを伝えたところで理解はできまい。破壊を楽しむことしか能がないお前にはな…」


《言わせておけば…。戯言は俺に勝ってから言え。さっきも言ったが、竜種にとっては強さだけが正義だ。忘れたわけじゃねぇだろ。》



ゆっくりと八岐大蛇に向き直るゼン。



「もとよりそのつもりだ。」



その二つの双眸は自信に満ち溢れ、真っ直ぐと八岐大蛇を見据えていた。



《楽しくなりそうだぜ。俺に勝ち、そいつらを守り通してみろ。そしたら、お前のその言葉も信じられるからな!グハハハハハ!!》



八岐大蛇はそう大きく笑うと、今まで以上の咆哮をあげた。

大気は震え、周りの草木が怯えるように音を立てる。



「相変わらず下品な叫びだな。」



ゼンはそれに対抗するように大きな咆哮を返した。


竜種VS竜種。


最大級の戦いの火蓋が切って落とされた。





真夜中の街を静かに駆け抜ける人影。

すでに街の明かりはほとんど消えており、あたりは暗闇が支配している。


暗い路地裏を足早に駆け抜けるイノチは、小さな袋小路に出ると懐から端末を取り出した。



「ここで間違いない…か…」



端末の情報と目の前の建物を見比べ、イノチは入り口の前まで移動するとドアを小さくノックする。


反応はない…


しかし、少し待つと突然、キィッと小さな音をたててそのドアが開いた。


特に誰かが迎え出てくる様子もない。

イノチは唾を飲み込み、ドアノブに手をかけるとゆっくりとそのドアを押して中へと入った。


静かにドアを閉め、今度は部屋の中に目を向ける。

中は暗くてよく見えなかったが、静かに目を凝らせば次第に暗闇に慣れ始めてくる。


食堂だろうか…長い間使われていないのだろう。

テーブルに椅子が逆さまに積み上げられ、一面埃だらけな様子がうかがえた。



「よう来たのぉ…」



聞き覚えのある声が聞こえる。

そちらに目を向ければ、フードを被った大男が立っていた。


相変わらずフードから飛び出た白いひげが、一際、存在感を放っている。


彼を見たイノチはすぐさま口を開く。



「約束どおり、話を聞かせてくれ…」



男はその言葉にニカッと笑う。

フードの中から、白い歯だけを見せつけるように。

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