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70話 酒の肴


八岐大蛇の初撃はブレスだった。


ゆらゆらと動く八つの首のうちの一つが大きく息を吸う。

そして次の瞬間、炎をまとったブレスが目の前にいるタケル、ソウタ、カヅチへと目掛けて放たれた。



「カヅチ!!」


「あいよ!!」



タケルの指示に、カヅチは長い槍を持ったまま恐れることなくブレスへと飛び込んでいく。



「えっ!?カヅチさんが…!」



後ろで驚くミコトに、オサノが安心させようと声をかける。



「大丈夫ですよ。あれはカヅチの得意技。彼女の職業は『炎舞師』と言って、炎を体や武器にまとって戦うことを得意としているんです。」


「そ…そうなんですね…」



ホッと胸を撫で下ろすミコト。

その視線の先ではブレスに飛び込んだカヅチが、その炎を体にまとい、八岐大蛇へ一撃を加えるところであった。



「おっらぁぁぁぁ!!」



炎をまとわせた槍は、ブレスを吐いた頭の左隣にいた別の頭の眉間へと振り下ろされる。


が…


キィィィンッ!!


乾いた音が響き、槍は見えない障壁に阻まれる。



「チィィィッ!!タケル!やっぱりこいつ!何かで守られてるぞ!!」


《ガハハハハハハ!無駄だ無駄!!この障壁はお前らにゃ崩せねぇよ!!》



八つの頭を揺らしながら、大きく笑う八岐大蛇。

そして、今度は八つの頭で一斉に襲いかかってきた。



「みんな!気をつけて!」



タケルの声が大きく響くと、頭の一つが剣を構えるソウタへと襲いかかる。


大きく開かれた口と鋭い牙を剣で防ぐソウタだが、その体格差に体ごと持っていかれてしまう。



「やっぱり重いな…!」



宙に浮いたまま、閉じようとしてくる口に必死で剣を立てて堪えるソウタだが、八岐大蛇はそんなことはお構いなしに近くにあった岩へ頭ごと突っ込んだ。



「ソウタァァァァ!!」



タケルがソウタを気にかけていると、違う頭がミコトたちに襲いかかるが、オサノがその前に立って刀を構えた。



「させぬっ!スキル『さざなみ』!」



ソウタの時と同じように、その頭も口を大きく開いて襲いかかってきたが、オサノはそれをスキルを使って綺麗にいなす。



「シェリー!!」


「任せてぇぇぇちょうだい!!うおりゃあ"!!」



オサノの声に合わせて後ろから飛び出したシェリー。

パリィされて隙だらけになったあごに目掛けてアッパーを繰り出す。



「ぐぅぅぅ…」


「ふんっ!」



怯む八岐大蛇の頭に向かって、腕をまくって筋肉を強調しているシェリーに、ミコトはポカンとしていた。


それに気づいたシェリーは、急に恥ずかしそうにクネクネと動き出した。



「オサノったら、ミコトちゃんの前で何やらせるのよ!」


「何って…いつもの連携をだな…」


「もう!デリカシーがないわね!」


「あだっ!」



あきれてオサノの頭をスパンっとはたいたシェリーは、ミコトに声をかける。



「ミコトちゃん!早くあれ、お願いね!」


「あっ…!は…はい!!」



ミコトはハッとして、手に持っていた『エターナル・サンライズ』に魔力を込め始めた。


そして、静かに詠唱する。



「大地を照らす聖なる光よ。災厄に立ち向かう勇敢なる者に、光の加護を与えたまえ。ウォール!!」



その瞬間、そこにいるプレイヤー全員に聖なる光の加護が付与される。


かけられたプレイヤーたち自身も驚いている。



「さすがミコト殿です!この人数にこれほどの防御バフをかけるとは!」


「でも、私が怯まずにすぐに魔法をかけていればソウタさんも…」



オサノが喜ぶ中、ミコトの表情は少し暗い。

しかし、そんなミコトに向かってシェリーは笑う。



「ソウタ?あぁ、あいつなら大丈夫よ!あれくらいじゃどうってことないでしょ。あたしたちも前回よりは強くなってるからね。ほら…」



シェリーが指差す方に目を向ければ、砕かれた岩山の中からゆっくりと立ち上がるソウタの姿が見えた。



「タケル、あれ…キレてないか?」



その姿を近くで見ていたカヅチがタケルにそう告げる。



「うん…キレちゃってるね…」



二人の言葉をよそに、ゆらりと立ち上がったソウタの顔には笑顔が浮かんでいる。



《優男のくせになかなかタフじゃねぇか!》


「……」



立ち上がったソウタに対して、八岐大蛇の頭の一つが醜悪な笑みを向けた。


しかし、八岐大蛇の言葉を気にすることもなく、にこやかな笑みを浮かべたまま、ソウタはゆらゆらと近づいていく。


その姿は今までの彼とは違う雰囲気をまとっていた。



《おいおい…頭でもぶつけておかしくなっちまったのか?簡単に間合いに入りやがって…よ!》



八岐大蛇がそう笑い、ソウタに攻撃を仕掛ける。


が…


ガキンッ!


笑顔のままのソウタは、寸前で八岐大蛇の頭を鞘に入れたままの剣で打ち上げたのだ。



《なっ…!?》



障壁で防がれたためダメージはないが、思った以上の力強さと素早さに八岐大蛇は驚きを隠せない。



《(なんだぁ?こいつは…)》



異変を感じて、八岐大蛇は他の頭をソウタへと向けた。

そして、八つの頭はソウタへと一斉に襲いかかる。



「……」



笑顔のまま、ソウタは剣を鞘から抜いた。


横から襲いくる頭を軽く飛んでかわす。

そのままその頭を足で踏み落とし、続いて反対側から来た頭に回し蹴りを撃ち込むと、今度は別の頭に向かって突進し始めた。



《さっきと動きが全然ちがうじゃねぇか!》



残りの六つの頭がソウタへ飛びかかる。


しかし、ソウタはとてつもない速さで全ての頭を頭を剣で撃ち抜いっていった。



「ソ…ソウタさんって、とても強いんですね。」


「強いんだけどなぁ。あいつ、キレると怖いんだよ。」


「そうそう、優しそうに見えて意外と短気なのよね。」



ミコトが驚いている横で、オサノとシェリーは苦笑いしながらソウタの戦う様子を見ていた。



「ガハハハハハハ!!ソウタがキレたぞ!!こりゃ傑作だ!!」


「むう…お主のクランの副リーダーはなかなかの強さよな。」



楽しげに笑うガージュの横では、フクオウが気難しい表情を浮かべている。


その間にもソウタは追い討ちを仕掛けようとスキルを発動した。



「スキル…『闇縫』」



ソウタがそうこぼすと、持っていた剣に黒いオーラが発現する。



《ガハハハハハハ!無駄だって言ってんだろ!てめぇらの攻撃は俺には効かねぇって!!》



「…そうやって笑っていればいいさ。」



笑顔のままのソウタは八岐大蛇の懐に飛び込むと、胴体の部分にいくつもの剣戟を撃ち込んだ。


障壁と剣がぶつかり合う度に、乾いた金属音が響き渡る。



《痛くも痒くもねぇなぁ!グハハハハハ!》


「ちっ…!」



スキルによる斬撃もむなしく、八岐大蛇の体には傷一つつけることはできない。


悔しげな表情を浮かべ、間合いを取り直すソウタに対して、八岐大蛇は大きく不敵に笑い、口を開いた。



《しかし、前よりも強くなったってのは本当らしいな!前回はピーピー言いながらただ逃げるだけだったから、全然楽しめなかったんだ。今回は本当に楽しめそうだぜ。》


「たいそう余裕なんだな。」



すでに顔から笑顔が消えたソウタが皮肉を告げる。



《当たりめぇじゃねぇか!今までのは準備運動みたいなもんだからな。そろそろ…少し本気を出すぜ。》



その瞬間、その場にいた全員が計り知れないほどの殺気を感じた。


その場の空気が凍りついていくような感覚。

目の前の八岐大蛇の体が、今までより数倍も大きく見える。


そして…



「ぎゃっ…!!」


「ぐわぁ…!」



突然響き渡るいくつかの叫び声。

タケルたちがそちらに目を向ければ、後方に構えていたフクオウの仲間たちが、目に見えない何者かに斬り伏せられていく。



「なっ…何が起きて…」



驚きを隠せないタケルたち。

フクオウも何が起きているのかわからないようで、メンバーたちの間では混乱が起きているようだ。


そんな様子を見ていた八岐大蛇がニヤついた顔でつぶやいた。



《これは殺戮ショーなんてくだらねぇもんじゃねぇ。単なる俺の酒の肴になってもらうぜ。》

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