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54話 神の戯れ


「あ〜あ…頑固なんだからなぁ。」



キリシメの姿を借りた神は小さくつぶやいた。

手をパンパンとはたくと、再びゲンサイへと向き直る。



「さて…次は君の番だね。」


「てめぇ…なんで…」


「ん…あぁ、神獣くんのことかい?仕方ないじゃん…やめなよって言ったのに頑固に君を庇うんだもの。」



肩を震わせ、絶望を滲ませた瞳で睨むゲンサイに、キリシメは肩をすくめて鼻を鳴らした。



「殺す必要はないだろ!あいつは何も関係なかったのに!プレイヤーを殺したのは俺なんだ!!神だからと言って何でもしていいのかよ!」


「していいんだよ…」


「…っ!」



その返答は冷徹さをまとっていた。


紫の双眸は、まるで虫けらを見るような目でゲンサイを見据えている。


その瞳はキリシメのそれではなかった。


蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事。

ゲンサイは体を動かすことができず、大量の汗だけが流れ落ちていく。



「…まぁ、勢い余って消しちゃったのはまずかったなぁ。"彼女"に何と言い訳をしようか…いや、先にズルしたのはあっちなんだし…どうとでもなるっちゃなるけど。」



そんなゲンサイをよそに、あごに手を置いてブツブツと独り言を言い始めたキリシメ。



「う〜ん…そういえばジパンにはイザナギたちもいるんだっけ。あいつら、ジジイたちと最近コソコソなんかやってるんだよねぇ。あっ…そうか!これを交換条件にすればなんか聞き出せる…かな?」


「…もどせ」



ゲンサイが小さくつぶやく。

それに気づいたキリシメが視線を向ける。



「ん…?何か言ったかい?」


「…ウォタを元に戻せ!」


「何を言い出すかと思えば…するわけないだろぉ?今消したばかりなんだ。」


「俺を…俺の命をやる…だから…」



その言葉にキリシメは鼻を鳴らす。



「何を言い出すかと思えば…お前なんかの命と彼の魂が釣り合うとでも思ってるの?思い上がりも甚だしいよ。この世界のプレイヤー全員の命でも足りないのに。」


「くっ…なら!」


「なら、僕を倒すかい?君にできるのかな?」


「うっ…」


「あははは!いいね、威勢があって!どちらにせよ、君は今から僕と戦うんだから…はぁ、ちょっと喋りすぎたかな。君にやる気が出たところでそろそろ始めようか!」



そう言いながら、キリシメは背伸びをして大きく欠伸をした。


目に浮かんだ涙を指でぬぐうと、ゲンサイへと視線を向けて口を開いた。



「命乞いはしなくていいのか?」


「…うっ!」



その瞬間、目の前に突如として現れるキリシメ。

ゲンサイがそれを認識した瞬間にみぞうちに衝撃が走った。



「がっ…はっ…」



視界の中の風景がゆっくりと動いていく。

目の前に立つキリシメの姿…悍ましいほどの笑みが浮かぶその顔がゆっくりと離れていく。


そのまま、今度は背中に大きな衝撃が訪れて砂飛沫が舞い散った。


その衝撃に息が詰まる。

呼吸ができない…頭が揺さぶられて視界がチカチカする。


息ができない苦しさの中、今度は込み上げてくる温かい何かが口から飛び出した。


紅い液体が目の前で舞い散る。

鉄臭さが鼻をつく中で、体の力が抜け落ちたように手や頭が重力に引っ張られ、ゲンサイは砂原へ顔を打ちつけた。



「いい感じに入っちゃったね…」



ゆっくりと近づいてくるキリシメは、倒れたゲンサイの前に立つと頭を鷲掴みにして軽々とゲンサイを持ち上げる。



「戦うって言っても一方的だったけど…しゃべれるかな?」


「が…ふ……お…俺…げ…元…気いっ………ぜ…」


「お〜今のを食らっても意識有りか!君のランクは…」



キリシメは持ち上げた方とは別の手をゲンサイの胸にに当てる。


すると、小さな画面が現れた。



「えっ!君、ランクこんなに高いの?!見たことないよ、こんなの!すげぇ〜どうやったらこんなに上げることができるんだろう!なんだか僕、君に興味出てきたよ!」



画面を覗くその顔には驚きが浮かんでいる。

何度もゲンサイの顔と画面を見返して、最後にはゲンサイを見てニヤリと笑った。



「よぉし!決めた!君はここで僕の眷属になってもらおう!」


「…っ?!!」


「どう?嬉しいだろ?神の眷属だ…もっと強くなれるよ!」



そう言いながら、キリシメは頭を掴む手に魔力を流し込んでいく。



「がっ…か…かか…ぐぅ…く…そっ…!」


「おっ?生意気にも抗うのか!ますます気になるなぁ!アハハハハ!」



注ぐ魔力を強め、月夜を仰いて笑うキリシメ。

ゲンサイは必死に抵抗するが、段々と意識が薄れていくのを感じた。



(いっ…意識が…頭に何か混ざられているのか…!?なんだ…これ…)



紫色が頭を支配していく感覚。

感じたことのない気持ちの悪さがどろどろと頭を埋め尽くしていく。



ーーー身を委ねていいんだよ



知らない声…いや、これは…



ーーー抗うなよ…楽にいこう



キリシメの中の…神の声…か…



ーーー僕といけばもっと…気持ちよくなれるよ!アハハハハハハハハハハハハ!!!



笑い声に意識が溶けていく。

渦巻く紫が頭の中でグルグルと回って、抗おうとしていた意識を絡みとっていく。



ダメだ…全て…………



ゲンサイが諦めかけたその時だった。



「僕のゲンサイに悪戯しないでくれる?」



薄れる意識を切り裂くように、悪戯な笑い声が頭の中に響き渡る。



「ロキ…!?なんでお前がいるんだ!?」


「なんでって…彼は僕のだもん。」



ゲンサイの頭から手を離して距離をとるキリシメ…いや、アヌビスにロキは笑いかけた。



「ゲンサイ…君も君だよ。ダメだよ、アヌビスなんかに堕ちちゃ〜」



ロキが指を回すと、倒れ込んでいたゲンサイの体が浮かび上がる。



「あらら…だいぶ侵食されちゃって…アヌビス!やめろよなぁ〜!」


「お前たちが人の国で好き勝手やってるのが悪いんだろ〜」



肩をすくめて笑うロキに、アヌビスはキリシメの顔を歪ませた。



「僕たちは何にもしてないさ。彼らが自分で考えてやったこと…それにタイミングがタイミングだろ?ランク戦が始まるんだし、プレイヤーの動きが活発になってもおかしくない。」


「そうかもしれないが…お前らが何か吹き込んだんじゃないのか?」


「そんなことはしないよ!この世界でのルールは不可侵!僕らはプレイヤーの手助けはしちゃだめ!これは最初に決めたことじゃないか!君も知ってるだろ?」



アヌビスは鼻を鳴らす。



「そんなの…神の世界ではただの戯言だ。みんな表ではそう言ってるけど、隠れてコソコソやっている。」


「ハハハハ…なら君もそうしたらいいじゃないか。」


「君たちと違って、僕にはきちんとした仕事があるんだ。そんな暇じゃないんだよ。…だけど、自分の持ち物を荒らされるのは好きじゃない…」



睨むアヌビスに対して、ロキは相変わらずはぐらかすように笑っている。



「まぁ…今回はプレイヤーが勝手にやったことという事で…それにアマちゃんの神獣を殺しちゃったんだよね?君はそっちを心配した方がいいんじゃない?」


「だから、それもお前たちが仕組んだんだろ?僕の知ったことじゃないよ。アマテラスに言っておけ!僕は関係ないとね!」



アヌビスはそう言うと、キリシメの体から抜け出して横に降り立つ。生きているかわからないがキリシメの体はその場に崩れ落ちた。



「今回はおあいこだ…まぁ、僕はそれでいいけど他の神が黙ってないかもね。ランク戦も近いのに、だいぶプレイヤーを殺されちゃったからな…それじゃ僕は仕事に戻るから。」



そう言って黒い霧状のゲートを発生させると、アヌビスはその中に消えていった。


それを見送ったロキは小さくつぶやいてニヤリと笑う。



「…心配ないよ。ジプトはもう不参加決定だもん。」

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