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50話 約束



「…ハァハァ…おい、ウォタ…てめぇ…」



膝をつき、肩で息をするゲンサイの目の前には青き竜が立っていた。


月の光に照らされた鱗は蒼く美しい輝きを放ち、ゲンサイを見下ろす瞳は紫に輝いている。



「神獣強ぇぇぇ!!霧雨の悪魔が赤子扱いじゃねぇか!カハハハ!」



その後ろで笑うキリシメを、ゲンサイは睨みつけた。



「てめぇは絶対に許さねぇ…ハァハァ…俺が…ぶっ殺してやる…からな…ハァハァ…」


「おうおう、やってみてくれよ。まぁ、こいつをどうにかしないとどのみち無理だろう!」



その瞬間、ウォタのしっぽが再びゲンサイを襲う。


鈍い打撃音とうめき声が夜の砂原に小さく響く。

吹き飛ばされたゲンサイは、痛む体に鞭を打ってなんとか受け身を取った。


笑みを浮かべるキリシメに対して、怒りに満ちた視線を送るゲンサイだが、本調子でないことに加えてダメージを受け過ぎているため、体が思うように動かせない。


そんな苦しむ様子のゲンサイを見て、キリシメは笑みを深めるとその口を開いた。



「成功してほんとよかったぜ。こいつを手に入れられなかったら隷属モンスターを全て注ぎ込んだ意味がないからな。」


「ど…どういう意味だ…ハァハァ…」


「ククク…冥土の土産だ。教えてやるよ。」



キリシメは楽しげに話し始める。



「職業『魔獣使い』はモンスタースロットを10個持ってるんだ。それは俺が隷属できるモンスターが10体までということを意味する。要は10体を超えて隷属することは絶対にできないんだよ。」


「…しかし、てめぇはさっき自分は特別だと…あの量のモンスターは…」


「もちろん特別さ。さっきの大量のモンスターは俺がスキルでコピーして作り出したものだからな。あの量を作り出すにはかなりの魔力が必要だ。だから俺は特別なのさ。」


「…」


「こいつを手に入れるには一度隷属しているモンスターを0にリセットする必要があった。モンスターの強さによってはスロットを複数使うことがあるからな。"神獣"を隷属するんなら最大数を確保しとくべきだろ?」



悔しげな表情を浮かべるゲンサイを見て、キリシメはニヤリと笑う。



「あの大量のモンスターはお前を殺すための切り札だったが、こいつを手に入れられることができればそれも簡単に成せると気づいたんだ。だから、俺はそのために力を使ったというわけだ。どうだ、理解できたか?」



キリシメはそう言うと大きな笑い声をあげる。



「ほんとに助かったぜ。さっきの咆哮を最初から使われてたら、俺の作戦はパァだったからな!こいつがお前に戦いの指南を始めた時はしめたと思ったよ。」


「くっ…そ…!ハァハァ、ウォタ…!!てめぇ!悔しくねぇのか!」



キリシメの言葉を聞いてゲンサイはイラ立ちを覚える。

目の前に静かに佇むウォタへ声を荒げるが、ウォタ自身それに反応することはない。



「無駄だ無駄!こうなっちまえば、こいつが死なない限り解放はできないからな!!このドラゴンは死ぬまで俺の奴隷ってことだ!!」


「おい!ウォタ!!こんなことであの野郎に顔を合わせられんのか!?このままじゃ…ハァハァ…お前はそんなもんなのかよ!!」



キリシメの挑発を無視して、ゲンサイはウォタへ想いの丈をぶつける。



「何が神獣だ!何が最強の竜だ!ダンジョンの事といい、この現状と言い、お前はまったく良いところがないじゃねぇか!」


「…おい、無駄だと言ってんだろ?今のこいつには言葉なんか届かねぇよ。」



自分のことを無視してウォタへと話しかけるゲンサイを見て、キリシメも少々イラ立っているようだ。



「あのクソ女やイノチの奴に言ってやるからな!てめぇは使い物にならなかったとな!!戻ったら絶対にチクってやる!!ざまぁねぇぜ!」


「…お前、逃げられるつもりでいんのか?はぁ〜ったく、頭ん中お花畑かよ。この状況でどうやって逃げ…」


「お前が黙れ!俺はこのアホ竜に話しかけてんだ!!」


「てっ…てめぇぇぇっ!」



言葉を遮られた上に罵られ、キリシメは驚きつつも湧き上がるイラ立ちをゲンサイに吐き捨てるようにぶつけた。



「よくわかった!お前は絶望して死ね!そもそもお前は仲間の仇だ。逃すわけねぇだろうが!スキル「幻操」!!」



キリシメがそう唱えると、砂の粒子が集まり出してウォタとまったく同じ姿をした竜が現れる。



「なっ…!?ウォタが…2体!?」


「これが俺のスキルだ。隷属したモンスターをコピーする能力。力も技も全て同じだ…てめぇは今からこの2体に遊ばれて死ね!!」



驚くゲンサイに向けて、指を差して怒りの中に笑みを浮かべるキリシメ。


ゲンサイはなおもウォタへと言葉をぶつける。



「ウォタァァァァ!!てめぇ、目を覚ましやがれ!!この超絶アホ竜がぁぁぁぁぁ!!」


「黙れ、この人殺し野郎!!お前たち、こいつを殺れ!存分に苦しめてなぁ!!」



そう命じるキリシメの瞳が紫に輝く。


そして、2体のウォタは無言のまま、同じように紫に光る2組の双眸をゲンサイへ向けたのだった。





とても眠たい…

微睡の中にいるような感覚だ…


我は何をしている…?

何をしていた…?


思い出せない…

意識が朦朧としていて、考えようとしても頭が回らない…


心に重たい枷をはめられているようだ…


ダメだ…眠い…

もう…目を瞑ろう…




ーーー起きなさい。




誰だ…我に声をかけるのは…




ーーー目を覚ましなさい…ウォタよ…。




我は眠たいのだ…放っておいてくれ…




ーーーダメです。あなたにはやるべき事がある。寝ているいとまはないのです。




関係ない…我は最強の竜種だ…指図される謂れはない…




ーーーあなたには守るべき約束があるでしょう。それを蔑ろにするのですか?




約…束…?




ーーーそうです。誰との約束か、思い出しなさい。そうすれば目は覚める。




約束…誰とした…我が…我は何の約束を…




ーーー忘れてはならない。忘れるはずのない古の約束。あなたはそれを守らなければならない。そして、約束を交わした者もまたそれを望んでいるのです。前を見なさい。




その言葉に従い、ぼやけた視界を前に向ける。

そこには、こちらを睨んで叫ぶ男の姿が映っていた。




ーーー彼を守るのでは?このままでは、あなたは守るべきだったはずの者に手をかけることになりますよ。




そうだ、我はこやつを守らねばならない…誰かに頼まれた…こと…誰に…誰にだ…




ーーーそうです。思い出しなさい、ウォタ。あなたには守るべき約束があるはずです。誰に…誰と約束を交わしたのかを。何を守るべきなのかを…思い出しなさい。




守るべきもの…守るべき約束…




ーーー目を覚ますのです、ウォタ。




その瞬間、微睡んでいた頭の中が晴れ渡る感覚を覚える。

もやもやしていたものが一気に消え去っていく。


そして、声が聞こえてきた。



『おい!ウォタ!!こんなことであの野郎に顔を合わせられんのか!?お前はそんなもんなのかよ!!』



偉そうに…何なのだ。あの野郎…とは、誰のことだ…?



『何が神獣だ!何が最強の竜だ!ダンジョンの事といい、この現状と言い、お前はまったく良いところがないじゃねぇか!』



良いところがない…?うるさい…我は最強の竜種だぞ…他人にどうこう言われる筋合いなどない…


いったい何なのだ。好き勝手言いおって…誰だ…誰が…



『あのクソ女やイノチの奴に言ってやるからな!てめぇは使い物にならなかったとな!!戻ったら絶対にチクってやる!!ざまぁねぇぜ!」



イノチ…?イノチ…とは…




そうだ!思い出した。

我はイノチと約束したのだ。目の前のこいつを守ると…


それは守らねばならぬ。

その約束は破れない。


古の約束まで破ることになってしまう。


それは…ダメだ!ダメだダメだダメだダメだ!!


我は起きなければならぬ!!


目を覚ますのだ、ウォタ!!

ーーー目を覚ますのです、ウォタ!!



その瞬間、ウォタは今までにないほどの大きな咆哮を上げたのである。

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