表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/290

49話 欲しがりさん


(なんだ…あのドラゴンは…!?)



魔獣使いの男は目の前の光景を疑った。

隷属させたモンスターたちが次々と殺られていくその光景を…


飛びかかってくるモンスターを流れるよう美しく、時に力強く、時に柔らかく、まるで演舞を舞っているかのように屠っていく。


その姿を見て、男の口からは感嘆の言葉がこぼれ落ちた。



「…すげぇ、ますます欲しいぜ…」



この男、名をキリシメと言い、ジプト法国で活動する最大のクラン『Dark brave(闇の勇気)』のメンバーだ。

ちなみに『Dark brave(闇の勇気)』は、ジパンで暗躍していたキンシャのクランでもある。


彼の職業は『魔獣使い』であり、その名の通りモンスターを隷属して操ることを得意としている。


『魔獣使い』は最大で"10体"のモンスターが隷属可能だ。

そこに制限はなく、ただ隷属魔法を相手にかけるだけ。


しかし、一度かけた魔法はそのモンスターが死なない限り解けることはなく、新たなモンスターも隷属はできない。


ではなぜ、彼がこの数のモンスターを操ることができているのか。


それは彼のスキルにあった。

スキル『幻操』…隷属したモンスターのコピーを作り出す能力。


砂や水など、周りにあるもので自分が所有するモンスターを作り出すことができる…その数は990体にも及ぶ。


これがキリシメの能力の正体である。



とはいえ、そんなことは今のウォタたちには関係ないことだ。



「ゲンサイ、まずお主に足りないのは柔軟さだ。お前は全てを力任せにやっておる。要は力が入り過ぎなのだ。まずはこのように基本的に体の力を抜いて動けるようになれ!」



ウォタはゲンサイに向かって叫びながら、全方向から襲いくるモンスターの爪や牙を軽々とかわしている。


攻撃はせず完全に脱力し、モンスターの攻撃の隙間をきれいに避けていくその姿を、ゲンサイは悔しそうに眺めていた。



(確かに…あの動きは今の俺にはできない…)



そんなゲンサイに向けて、ウォタが再び叫ぶ。



「次に足りないのは流麗さだな。例えば…」



ウォタはそう告げると、目の前から来るモンスターの攻撃を流れに逆らうのではなく、その流れに乗るよう受け止めて他のモンスターへぶつけたのである。


攻撃を受けたモンスターは小さな断末魔の後、粒子になって消えていく。



「わかるか?戦いの中で相手の動きの流れを読むこと。これは無駄のない動きにつながる。こうやって相手の力を利用することもできる。大きく言えば、お前に足りないものはこの二つであるな!」



ウォタはそう言うとニヤリと笑い、言葉を続けた。



「"剛"と"柔"と"流"…この3つを体得できて初めて物理的な本当の強さが完成するのだ!!はぁっ!」



そう叫んだウォタが再び流れるように動き回り、一瞬で数十体ものモンスターを屠ると、モンスターたちとの間に半径数メートルに渡る空間が出来上がる。


その中心にまっすぐと立つウォタ。



(柔軟に…流れるように…か。癪だが奴の言うとおりだな。)



彼の背中を見ながら、ゲンサイは誰に知られることもなくウォタに感謝した。


まだ自分が強くなれること。

スキルに頼らなくても、十分にその可能性があることをウォタは暗に教えてくれているのだ。



「おいおい…まじかよ。」



一方で、キリシメは驚きと嬉しさで胸がいっぱいだった。


それもそのはず。

これまでに出会ったモンスターの中で、群を抜いた強さを誇る個体が目の前に現れたのだ。


魔獣使いとしての興味がウォタに注がれていた。


ゲンサイへの怒りはどこへやらというほどに、彼はウォタへ熱い視線を送っていたのである。



「お主…気色が悪いな。」



その視線に気づいていたのか、ウォタがキリシメに声をかける。



「ククク…悪いな。お前みたいな強いモンスターを見たことがないもんでな…ていうか、お前はいったいなんなんだ?しゃべるモンスターなんて見たことも聞いたこともないぜ。」


「ふん!我をその辺のモンスターと一緒にするな。我はモンスターではなく神獣だぞ!?」



それを聞いた瞬間、キリシメの顔にいやらしい笑みが大きく浮かぶ。



「やっぱりか!そうなんじゃないかと思ってたんだ!!」



嬉しそうに笑うキリシメを見て、不満げにウォタが口を開く。



「なんだか舐められとるようだな。我…」


「そんなことねぇよ!俺は嬉しいんだ!一度でいいから神獣に会ってみたかったからな。」


「一度でって…この国にもおるだろ…スフィンクスの奴が。」


「いるいる!確かにそんな名前だったな。だが、そいつはダンジョンの奥底で寝ていて全然会えないんだよ。そこまで行くのに労力がかかりすぎるし、未だに辿り着いたやつはいねぇんだ…」


「奴め…相変わらずだな。」



ウォタは小さくこぼした。

キリシメはそれを気にすることなく話を続ける。



「マジで感動だぜ!会いたかった神獣さまが目の前にいるなんて…あんた、名前とかあんのか?」


「…」


「いいじゃねぇか!教えてくれよ!」


「おい!そいつと話している暇なんかねぇぞ!」


「…わかっとる。」



キリシメがニヤニヤと尋ねてくる中、ゲンサイの言葉にウォタは小さくため息をついた。


そして、キリシメに向き直る。



「我は竜種…名乗る名前はない。」


「…竜種…か。その偉そうな感じといい、ますます興味が湧いたぜ!やっぱりお前は俺がもらう!」



キリシメはそう言うと、さらに笑みを深めて瞳の紋様を再び輝かせた。


その瞬間、全てのモンスターが一斉にウォタへと襲いかかってくる。


しかし、その様子を見たウォタはやれやれとない肩をすくめた。



「だから言ったであろう。アリはいくら集まってもアリであると!グォォォォォォォォォォォォォ!!」



ウォタは口元で牙を光らせ、ニヤリと笑みをこぼして大きく咆哮を上げる。


その咆哮は強力な衝撃波を生み出した。

それは波状に広がり、全てのモンスターを吹き飛ばしていく。


爆風がウォタを中心として波状に大きく広がり、砂ほこりを巻き上げていく。



「くっ…最初から本気でやりゃ簡単じゃねぇか!」



強風が吹き荒れる中、ゲンサイは目を細めてつぶやいた。



「クハハハハ!!ちょっと本気を出せばこんなもんである!さすが、我!!」



ゲンサイの愚痴など聞こえるはずもなく、自慢げに大笑いしていたウォタであるが一つだけある違和感に気づた。



「ん…?奴はどこへ行った?一緒に吹き飛ばしてしまったか?」



キョロキョロと辺りを見回すウォタ。

キリシメの姿がどこにも見当たらないのだ。



「おい、ゲンサイ。奴を見たか?」


「…いや、わからない。」


「モンスターも全部吹き飛ばしてしまったようだし…まぁ良いか。先を急ぐぞ。」



そう言ってウォタがゲンサイへと振り返った瞬間だった。



「捕まえたぁぁぁぁ!!」



砂の中から手が飛び出してウォタのしっぽを掴む。

そして、不気味なほどの笑みを浮かべたキリシメの顔が砂の中から現れたのである。



「きっ…貴様!」



さすがにウォタもそれは予想していなかった。

驚きのあまり一瞬反応が遅れてしまう。


キリシメはその隙を見逃さない。

しっぽを掴んだその手で隷属魔法を発動させる。



「神獣さまぁ!俺のしもべになってもらうぜぇ!!」


「くっ…まさかこんな…我が…隷属魔法などに…!こんなもの!」



必死に足掻くウォタだが、少しずつ体の自由を奪われていく感覚に顔を歪めた。


キリシメの手から紫に耀くラインがウォタの体を縛り付けていく。



「貴様…もしや最初からそのつもりであったか…」


「あん…?何言ってんだ。俺は最初から言ってただろ?あんたが欲しいって!」



苦悶の顔で睨みつけるウォタに対して、相変わらずいやらしい笑みを浮かべるキリシメ。



「てめぇ!」



ゲンサイがウォタを助けようと間合いをつめたが…



「もう遅ぇよ!!なぁ、神獣さま!!」



飛びかかるゲンサイに対して、しっぽを撃ち抜いたのはウォタだった。



「ぐあぁぁ!!」


「ゲッ…ゲンサイ!!」



吹き飛ばされるゲンサイ。

苦痛な顔でそれを見つめるウォタ。


キリシメの笑い声が、星降る夜空に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ